忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第89話 教師の葛藤

 猪鹿蝶が双頭の大蛇を退治した後も時折音隠れの忍や大蛇が大通りに現れたが、店の方まで来ることは多くなかった。

 何故ならおかっぱ頭で緑タイツの男性が途轍もないスピードで相手を蹴り飛ばしたり、遠目から見ても美人な女性が手も触れずに大蛇を昏倒させたりと里の中を木の葉の凄腕達が警邏しているからだ。

 その網を抜けてきた者がいたとしても強い相手はその忍達が見逃さないので、来るのは下忍と中忍の境目以下の実力を持つ者位である。

 その程度の相手ならば俺でも余裕を持って倒すことが出来たが、倒した相手の数が合計で五人程になった時、音隠れと砂隠れの忍達が突然戦闘を切り上げて撤退を始めた。

 その引き際は中々のもので、十分も経つと里の中で戦闘音は殆ど聞こえなくなり、木の葉の上忍と思わしき幾つかの人影が火影邸へ向かって跳んでいく。

 

 

 それから暫くして三代目の訃報が里の中を駆け巡った。

 幾ら木の葉崩しという騒ぎが収まったとはいえ、その代償としては里にとって大きすぎる損失だ。

 四代目が亡くなった時は先代である三代目が存命だったために彼が里の混乱を抑えたが、今回は里に火影の変わりを出来る様な人は居ない。

 里に住む人々の不安たるや如何なるものか……それは後日行われた葬儀で明らかになった。

 今回の事で亡くなった人は三代目だけではなかったため、合同に近い形で行われた葬儀だったが、そこにいた人々の顔には悲しみだけではなく大きな不安が見て取れる。

 三忍が木の葉を出てから里の主柱となっていた三代目の死は、老人から子供まで例外なく大小の違いこそあれど不安を抱かざる得ないようだ。

 俺としてもそれなりに交友があった三代目が亡くなったことはショックであったし、火影不在の今、他国からの侵攻も有り得るので不安を感じている。

 しかし俺などよりもよっぽどショックを受けている人達が最前列にいた。

 そこにいたのは三代目の孫である木の葉丸、今回の一件で木の葉崩しの要の一つでもある砂隠れの人柱力を止めた功労者ナルト、その他にも三代目に目をかけられていた忍達は一様に沈んだ表情を浮かべている。

 葬儀が終わった後もその空気には全くと言っていい程変わりなく、三代目がどれほど大きな存在だったのかということを改めて実感した。

 葬儀場からの帰り道、いつもに比べて静かで暗い空気の中で同じように帰路につく喪服の集団と共に歩いていると、風に乗ってその話が聞こえてくる。

 

 

「それにしても三代目様を殺したのは一体誰なんだ? あの方は教授(プロフェッサー)と呼ばれる程数多くの術に精通していた方だぞ……並の忍じゃ怪我させることも出来ないだろうに」

「お前知らなかったのか……今回の一件は砂隠れが動いていた事から風影が主犯じゃないかと言っている奴もいたが、実際は違う」

「どういう事だ? 砂隠れの忍をあんな大規模で動かすなんて風影の許可無しには出来ないだろうが」

「その風影だが、どうやら今回の事件の前既に殺されていたらしい」

「は? じゃああの風影は誰だったって言うんだよ?」

「そこで出てくるのが三代目様を殺した犯人……大蛇丸だ」

「大蛇丸だと!?……だがそうか、奴ならやりかねないな。

 そして忍としての腕も木の葉の三忍と呼ばれる程の超一級か」

「そう言うことだ……だが三代目様もただやられるワケじゃなく、命と引き替えに奴の腕を潰したっていう噂だ」

「そりゃあ忍としては死んだも同然だな、流石は三代目様……本当に惜しい人を亡くした」

 

 

 今回の一件が大蛇丸主導のものであるということは分かっていたが、三代目だけでなく風影も殺していたということには内心驚いた。

 今代の風影といえば特殊な物を使い戦う殲滅戦にも優れた忍であると、他里の木の葉でも耳にする程の手練れ。

 そんな人を大きな怪我も無く殺せるという戦闘能力には寒気すら感じる。

 頭は切れるし、身体能力も高い上、特殊な術も多く使う奴に狙われている俺としてはより一層警戒しなければならないと思わずにはいられない情報だ。

 ただ現状奴の腕が使える状況にないのならば、奴が直接俺の身柄を確保しに来る可能性は低いだろう……それだけが救いだな。

 

 

「ヨミトさん」

「ん? あぁイルカ君か、どうかしたかい?」

「ナルトの事で少し話したいのですが、これから少しお時間頂けますか?」

 

 

 そう言った彼の顔には迷いと悲しみが見え隠れしており、俺の未来への不安を一端頭の隅へ追い遣る位には俺の気を引いた。

 俺は彼に了承の意を伝えると、彼を連れて二人でよく呑みに行く店へと足を運ぶ。

 既に店員にも顔を覚えられる程には通っていたためか、店員はイルカの顔を見て言葉少なに角のボックス席へと案内してくれた。

 暫く互いに黙りこくっていたが、少し酒をちびちびと飲むとイルカがその重い口を開く。

 

 

「ヨミトさんはナルトにとって三代目がどういう存在だったと思いますか?」

「俺はナルトじゃないから完全な正解は分からないけれど、父兼祖父というところじゃないかな?」

「そうですよね……ナルトにとって三代目は家族同然、でもあの子は葬儀の最中一滴も涙を零さなかったんです。

 まるで三代目の死を現実として受け容れられていないかの様に、ただ横で泣いていた木の葉丸をぼんやりと見ていました」

「それは……」

 

 

 幾つか理由を挙げようとすれば挙げられる。

 訃報を知った時点で既に涙が涸れる程に泣いたか、弟分である木の葉丸が泣いている分しっかりしようと我慢したか、それとも未だ事実を受け止めきれていないか……どれであろうとも真実はナルトの心の中にしかない。

 おそらくイルカはナルトが未だ三代目の死を受け止めきれずにいて、もしその悲しみの感情が一人でいる時に襲ってきた時の事を考えて心配なのだろう。

 

 

「君がナルト君の事をとても心配しているのは分かりました……しかしじゃあ何故今君は此処にいるんだい?

 そんなに心配ならこんな爺と酒を飲み交わすより、あの子の側にいて上げた方が良いんじゃないか?」

「俺も最初はそうしようと思いましたし、今日だけでもと考えてナルトを家に誘いもしました。

 ですがナルトは俺が心配していることを知って、無理に笑顔を作りながら大丈夫だと断られてしまったんです……俺はどうすれば良かったんでしょうか?」

「大丈夫と言った時の気持ちが強がりなのか、それとも別の何かなのかは分からないけれど、本人がそう言うのならば無理に側にいるのは良くないかも知れないね。

 それにあの子も一人の男、涙は出来る限り人に見せたくないでしょうし」

 

 

 俺の言葉を聞いて彼は少し考え込む仕草を見せた後、「わかりました……遠目から気に掛ける位にしておきます」と往生際の悪い妥協案を掲げ、相談料とばかりに俺の分の飲み代の支払いも済ませて、彼は足早に店を出ていった。

 恐らくそのまま暫く何時でもナルトの元に駆けつけられるように家の辺りでうろちょろするのだろう。

 彼は大分ナルトに対して過保護な部分があるからそれ位はしてもおかしくない。

 その光景を思い浮かべると自然と笑みが零れ、少しだけ陰鬱とした気分が晴れた気がした。

 


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