忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第94話 柔拳体験

 (あく)る日の演習場にて十数分の戦いを行った結果両腕を極められ、首筋にクナイを押しつけられた俺は素直に負けを認めた。

 それなりに長い間鍛えてきた俺を多少苦戦したとはいえ、まだ三十にも満たない歳の女性がこうも綺麗に無力化するなんて……やはりこの子も三忍の弟子だけはあるな。

 俺の降参の合図で拘束とクナイを外し、額に浮いた汗を拭いながら彼女は俺に手を差し伸べる。

 

 

「よいしょっと、やっぱり相手が居ると良い訓練になるわね! 影分身が直ぐに消えちゃうのが偶に傷だけど」

「俺はチャクラが多い方じゃないからね、影分身に送れるチャクラも限られるんだよ」

「分かってるって……とりあえず私の方は今の試合で気になった部分が幾つかあったから、それをどうにかするためにちょっと一人で訓練するわ。

 だからそっちの子との訓練に入って良いわよ?」

 

 

 そう言い残して、アンコは大した疲れを感じさせない歩調でスタスタと演習場にある森の中へ姿を消した。

 残されたのはあまりチャクラが残っていない俺と準備万端の日向ヒナタ。

 俺が先程の組み手でついた土埃などを払っていると、ヒナタが此方を不思議そうに見ていた。

 

 

変化(それ)……解かないんですか?」

「何時誰に見られるか分からないから、出来る限りの対処はしておかないとね。

 大丈夫、後一戦位なら全力に近い形で動き回れるよ」

「それを聞いて安心しました……では私も全力でいきます!」

 

 

 彼女の構えは白眼を持つ日向一族にしか真価を発揮できない柔拳のものなのだろう。

 少し膝を曲げ、片手を突き出すような構え。

 木の葉において体術と言えば木の葉流体術と呼ばれるものと、日向の柔拳が二分している。

 前者は秘伝などを除いた情報について調べようと思えばなんとでもなるのだが、後者は日向家の人間しか学ぶ事を許されず、尚かつ才能無き者には技が賜られる事が無いと聞く。

 俺が知っている柔拳の情報と言えば、柔拳を修めた者の打撃は相対した相手の経絡系を突く事でチャクラの流れを乱し、才有る者であれば相手のチャクラを完全に封ずる事すら可能ということ位だ。

 この子が今どの程度の腕前なのかは知らないが、極力攻撃は避ける方向でいった方が良いだろう。

 

 

 先手は彼女、殆ど我流に近い俺のにわか格闘技なんぞではカウンターを食らうのが関の山、ましてや今回の訓練は体術オンリー……いつものチャクラ糸を使えない今の俺にとって下手をすれば先程のアンコよりも厄介な相手かも知れない。

 上半身をあまり上下させない歩法はすり足という武道によく使われる物によく似ており、距離感が図りにくいのだが図れないわけではない。

 彼女の一撃目は前に出している左手指先での刺突。

 それを手首を叩くようにして狙いを外し、少し上半身がブレたところで右足を彼女の右膝の裏側へと持っていこうとしたが、逸らした手とは逆の手が俺の右肩の辺りを狙っているのが視界に映り、急遽足払いを取り止めて左手の掌底で追撃を弾く。

 このままだと一方的に攻撃され続けると思った俺は足払いの為に踏み出した足を更に一歩前に進めて、肩で体当たりをする事で彼女を吹き飛ばす。

 彼女は咄嗟に軽く後ろに跳んだのか想定以上の勢いで後方へ下がった。

 少し誘われている気がして警戒心が湧いたが、空中で制動がし難い今の状況であれば反撃は難しいだろうと思い、追撃を敢行する。

 

 

 未だ空中に居る彼女へ向かって俺も跳び、前方宙返りの要領で一回転してからその勢いのまま踵落としを放つ。

 自分でも中々の攻撃スピードだと思うその一撃が当たれば大きな怪我はしないまでも、それなりのダメージは負う。

 これで今回の訓練は一段落かなと捕らぬ狸の皮算用的な思考を持ちながら、あと少しで彼女に当たるであろう自らの脚を目で追っていると、その脚に彼女の手が伸びてきているのが目に入った。

 空中での制動が取りにくいのは俺も同じ、心持ち脚に込める力を増やしてスピードを上げるが、彼女は俺の蹴り脚を掴み、その勢いを利用して俺が跳んだ方向とは逆の方向へと飛んだ。

 流石にこの状況から追撃を行うのは厳しいと考え、一端樹に着地してから地面に下りると自分の身体に違和感がある事に気付いた。

 

 

「蹴り脚に力が入らない……まさか俺の足を掴んだ時に点穴を?」

「組み手が終わり次第治しますから……安心してください」

「これが柔拳か……これは思っていた以上に厄介だね。

 完全に動かせないわけじゃないが、大分動きにくい」

 

 

 膝から下の反応が明らかに鈍い、それに力を込めようとしても力がまるで風船から漏れ出る空気の様に抜けてしまう。

 片足が無事だから立っていられるが、戦闘で使えるかと聞かれれば難しいと答えざる得ない。

 これで一気に俺の方が不利になったわけだが、彼女は油断することなく再び構える。

 

 

「本瓜さんの戦闘能力は先程のアンコさんとの訓練で見ていました……だからこそ気は抜きません」

「ふぅ、俺としては慢心してくれた方が楽なんだけど……そうもいかないか。

 OK闘い方を変えるとしようか」

 

 

 俺は力の入りにくい脚を後ろに少し下げ、先程よりも重心を下に置き、両手の指先を軽く曲げた状態で構える。

 構えが大きく変わったわけではないが、先程よりは攻め寄りの構えに変わった事でヒナタは何か感じ取ったらしく、少しだけ眉を顰めた。

 しかし直ぐに気を取り直した彼女は俺の数メートル先で先程と同じ構えをとり、これまた先程と狙う部位以外同じ指での刺突。

 ただ俺の対応は先程とは違う……彼女の突きの速度は既に見ているのだ。

 確かに彼女の攻撃は早くて隙も少ないが、アポピスの化身の剣速に比べれば一段落ちる。

 俺は目を凝らしてタイミングを計ると、突きを放った左手首を右手で掴み自分の方へと引っ張って体勢を崩そうとした。

 だが彼女のバランス感覚は非常に優れており、体勢を崩すどころか俺の掴んでいる手目掛けて無事な右手で刺突を繰り出す。

 その手を先程と同じ要領で捕まえ、そのまま少し強引に背中に背負うと足下の地面に向けて投げつける。

 両腕を使えない状態故に受け身も取れず、背中から地面に落ちた彼女は強制的に肺の空気を吐き出す事になった。

 そして意趣返しとばかりに彼女の両手を片手で押さえ、空いた片手で首筋に手刀を添えて投了を告げる。

 

 

「コレで詰みかな?」

「参り……ケホッ……ました」

「ふぅ、ギリギリだったよ。 君の動きがもう少し速かったら負けていたのは俺の方だったかも知れない」

 

 

 組み手が終了したので彼女の両手から手を離し、上半身を起こして背中を擦ると一分もしない内に息が整ってくる。

 完全に呼吸が整うと彼女は俺の脚に触れて、数カ所に指を押し込み、その結果俺の脚の違和感はほぼ完全に消え去った。

 

 

「これで治った……と思います」

「ありがとう……うん大丈夫みたいだ。 さてと後はアンコちゃんが無茶しないように監視してから家に帰るだけなんだけど……ヒナタちゃんはどうする?」

「私ももう少し訓練していこうと思います」

「そっか、あんまり無茶な事はしないようにね。 それじゃあまた……」

「あの……今日はありがとうございました!」

 

 

 頭を下げる彼女に軽く手を振りながら、少し遠くから聞こえる打撃音を頼りにアンコの居場所を特定し、現場へ行くと現場は思いの外荒れており、明らかに自身が病み上がりである事を忘れきっている様なので、一度思い切り手を叩いて音を出す事で気を惹き、その隙にアンコが持っていたクナイを奪い取って強制的に訓練を中止させた。

 この後無茶したアンコにはもれなく俺とゴウマからのお説教があったのだが、それは此処で語る事でもないので省略する……罰としてゴウマに団子を没収されたアンコは中々に絶望感に溢れており、その顔を見て俺の中に嗜虐心が微かに湧いたのは俺だけの秘密。

 




前回の更新時に来た感想がカツユ一色で笑ったよ
原作でももっと彼女の出番が増えるといいなぁ
でもその反面評価下がってるって言う……ハハッもう笑うしかないな!

林檎雨由利が作中で出せそうもないから外伝書き始めた今日この頃……本編のプロット考えたくてもまだコミックで明かされてない部分が困る
其処さえどうにか出来れば最終回までの道程も何とかなりそう
あのトビの面つけた奴誰だ……カグヤの関係者なのか?

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