忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第96話 支え

 俺は首を横に振った。

 迷う理由なんて殆ど無いに等しい提案だ……長年浅からぬ付き合いがあるから綱手の頼みは聞いて上げたいとは思うが、今回の頼み事は俺の許容できる範囲を超えている。

 

 

「残念だけど断るよ……俺には荷が重い」

「理由を聞こうじゃないか」

「そのままの意味なんだけど、敢えて言うのなら忍者でもない俺が火影の側近というのはおかしい」

「それは理由にならないな、暗部の中には平時において忍ではない者も少なからずいる」

「……機密書類を扱う所に民間人を入れてはいけないだろう?」

「機密書類に関しては暗号で書かれているからヨミトには読めないだろう。

 そもそも機密書類は暗号解析部に回され、直接火影である私に回される。

 故にそれも大した問題ではない」

 

 

 俺の挙げる問題点に間髪入れず答える綱手に若干ウンザリする。

 別に俺でなくても良いはずだ、綱手に心酔している女の忍者(くのいち)は未だこの里に多く居るし、綱手の同世代の忍達も戦争でかなり数が減っているが居ないわけではない。

 嫌がる俺をそのポストに置かなくても、そこに相応しい能力と人格を持った人材は居る。

 それなのに何故其処まで俺をそのポジションに置こうとする?

 

 

「はぁ……こうなったら言うけど、俺は君たちに隠し事がある。

 それもかなり大きな隠し事だ……今まで付き合ってきた関係すらぶち壊しかねない程のね。

 そんな相手を身近に置く事は推奨しないよ」

「隠し事か……それなら問題無いな」

「は? それは一体どういう意味かな?」

「すぐに分かるさ……口寄せの術」

 

 

 突然呼び出されたカツユは、木の実のような物を咥えているところから見るに食事中だったらしい。

 慌ててそれを飲み込むとコホンと一つ咳をして綱手の方を向いた……少し空気が和んだ気がする。

 まぁそれも一時的なものに過ぎなかったが。

 

 

「ヨミト……お前が隠していたという秘密はカツユから聞いている。

 体質、能力、それらの所為で大蛇丸に狙われている事もだ」

「……どういう事かなカツユ?」

「………聞かれたら答えても良いと言っておられましたので」

 

 

 確かに以前そう言ったのは事実だが、それは不老に関する事だけだ。

 その事をカツユも分かっているのだろう……此方を向かない上に汗代わりの粘液がダラダラと机に垂れている。

 普段であればこれだけ困っているのなら許すのだが、今回ばかりは事と次第によっては契約解除も念頭に入れなければならない。

 そう若干俺にとって悲壮な決意をしていると、この部屋に入ってから口を開かなかったシズネが言葉を紡ぐ。

 

 

「あまりカツユ様を責めないで上げてください。 最初はカツユ様もヨミトさんの体質の事以外話す気は無かったんです……ですがその時の綱手様は酷く酔っていらして、塩を片手に他に隠し事は無いのかと詰め寄って尋問紛いの事を……。

 一度隙を見て口寄せを解除して逃げたんですが、再度口寄せで呼び出され今度はガッチリとその身体を掴まれた上にチャクラまで乱され逃げ道を塞がれて、あげくあんな「シズネェ?」あひぃ!?」

「コホン、まぁ少し誇張された部分があったが、大凡シズネが言ったとおりだ。

 無理矢理聞き出したに近い事をした……責められるべきは私であってカツユじゃない。

 この事に関しては申し訳なく思っているが、コレで断る理由はないだろう?

 それに私の近くに居れば大蛇丸に狙われてもどうにかしてやる事ができるぞ?」

「色々と言いたい事はありますけど……」

 

 

 正直怒っていないわけじゃない。

 俺にとって秘匿しておきたい情報を話してしまったカツユも、酔っていたとはいえ無理矢理聞き出した綱手にも思うところはある……だが以前とは状況が違う。

 既に最も警戒していた大蛇丸に俺の情報は流れ、目を付けられてしまっているのだ。

 今まで通りの暮らしが出来ない事なんて分かっていた……その事への未練と憤りが今の怒りの元凶。

 彼女達に感じる怒りの念も実のところ、その八つ当たりに近いものに過ぎない。

 カツユだってもしコレが敵に尋問されたのだとしたら分体を犠牲にしてでも話さなかっただろうし、俺は綱手の酔った時がどれ程質が悪いかだって知っている。

 そもそも綱手は俺を身近に置く事で守ろうとしてくれているんだから、怒る気も失せるというもの。

 だからこそ今俺は怒り顔ではなく苦笑しているのだろう。

 

 

「まだ断る理由を挙げようと思えば幾つか思いつくけど、それに対して綱手が何て言うかも大凡見当が付くよ」

「……引き受けてくれるのかヨミト?」

「シズネちゃんの雑用位ならね……でも敵地潜入とか誰かの護衛任務とかは勘弁してくれるかい?」

「元からそういうのはヨミトに期待していない。

 あくまで手伝いの感覚で良い……ただ此処で働く時は変化を解け。

 此処には日向一族もよく来るからな、面倒な事になる」

「それもそうだね……でその手に持っている面は何かな?」

 

 

 綱手が執務机から取り出したのは微妙に大きさの違う何枚かの面。

 どれも簡素な作りをしており、何かの動物を摸しているように見える……というか暗部が着けている面だった。

 

 

「お前が着ける面だ……取りあえず変化を解け。

 丁度良いのを渡す」

「俺は暗部という扱いになるのかい?」

「私直属のな……ただし他の暗部と仕事を共にする事はないから暗部もどきと言うところだろう。

 ほら分かったならサッサと変化を解け」

「そうですよ、早くヨミトさんがどれだけ逆に鯖を読んでいたのか確かめさせてください!」

 

 

 何故か少し苛立っている綱手と、興味津々のシズネに急かされて初めて人前(カツユは除く)で自分から変化を解いた。

 白煙と共に俺の変化が解け、老齢から一気に二十代前半の見た目へと戻り、歳に合わせて縮めた身長から元の身長に戻ったために視線が高くなる。

 

 

「不老とは聞いていたが……私と初めて会った時と変わらないじゃないか」

「わ、若いですね。 下手すると今の私より若々しいんじゃ……」

「いやそこまでじゃないよ、それにシズネちゃんは十代後半でも通じる位若々しいじゃないか」

「そ、そうですか!? えへへ……なんかその姿のヨミトさんにそう言われると少し気恥ずかしいです。

 なんか照れちゃいますね綱手様!」

「アァン? 今私に話を振っているのかい?」

 

 

 額に青筋を浮かべ、シズネを睨み付けるその表情は正に悪鬼羅刹のごとき修羅の形相。

 それを正面から見たシズネは顔を真っ青に染めながら、小さく「あひぃ」と言ってブルリと震えた。

 コレは不味いと空気で感じた俺はこの状況を打開するべく言葉を紡ぐ。

 

 

「綱手も三十年前から変わらず、若々しいまま……俺の様な体質を持っている人は意外と多いのかもしれないね」

「ハッ……お世辞を言われたって嬉しかないよ。

 ほらこの面が丁度合うだろう。 今度此処に来る時はそれを着けて来な」

 

 

 そう言うとクルリと椅子を半回転させ、背中を向けて用は済んだとばかりに手を振る。

 声や台詞はぶっきらぼうに感じられるが、綱手の頬は微かに紅く染まり、それを見た俺とシズネは目を見合わせて自然と笑顔が浮かんだ。

 


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