西暦2010年代の終盤、突如として全世界に対して侵攻を始めた未知の艦艇群……深海棲艦。
1920~1950年代の軍艦に見える、由来、規模、本拠、動機、全てが不明なこの艦艇群は、人種、国家、組織、武装の有無、敵対の意思、あらゆる種別を問わず全ての生命体を殺戮し始めた。
世界各国はこの事態に直ちに対処した。
最初の奇襲から立ち直った各国軍の反撃が始まったのだ。
当初は誰もが勝利を確信していた。
古臭い艦艇とは隔絶した性能の兵器群が、それを約束していた筈だった。
しかし、すぐに全世界は絶望することとなる。
深海棲艦に対して行われた攻撃のほとんどが効果を示さなかったのだ。
百発百中の対艦ミサイルも、絶大な威力の長魚雷も……核兵器すら深海棲艦には効果を示さなかった。
辛うじて効果を発揮した砲爆撃等無誘導兵器による攻撃も、戦艦や大型航空母艦を有し、膨大な物量で押し寄せる深海棲艦には蟷螂の斧でしかなかった。
更に2020年代になると、フラグシップクラスと分類される最大で身長50mに達する人型の深海棲艦が現れた。
これら人型深海棲艦が艦船型から進化したモノであるのは、最初に確認された個体が戦闘中に変異したモノだったこともありすぐに判明した。
現在人型に変異するのが確認されているのは戦艦や重巡洋艦、空母等の大型艦艇のみだが、近い将来それ以下の艦艇も変異すると予測されている。
問題は、これらフラグシップクラス深海棲艦は同種の艦船型を大きく陵駕する性能を手に入れていたことだ。
凄まじい火力、常識はずれの機動力、速度こそ大きく変わらないものの攻撃が効かないのをいいことに接近し格闘戦まで挑んで来るこれらの人型深海棲艦に対して人類は為す術が無かった。
何より、この形態になると人類唯一の牙である無誘導兵器すら一切の効果を発揮しなくなってしまう。
バリアのようなものに阻まれあらゆる兵器が命中しなくなるのだ。
唯一幸いな事は、何故かこの人型深海棲艦は陸地に上陸しないことだろう。
勿論、その後の戦況を考えれば何の救いにもならないのだが……。
フラグシップクラスまで現れた深海棲艦の圧倒的な戦闘力を前に人類は制海権の大部分を喪失。
2023年になる頃には車輌型や要塞型の深海棲艦までもが現れ、オーストラリアやアフリカ大陸、中国大陸やロシア、南米大陸の大半が制圧され欧州すらも戦場を陸上に移しつつあった。
戦いは最早、如何に人類を延命させるかという絶望的なものに変わっていた。
しかし、2025年。
日本でとある兵器が開発されたことにより戦況は一変する。
始まりは、2024年に深海棲艦によって滅ぼされた異世界から妖精と呼ばれる人々がこの世界に逃れてきたことによる。
彼らとの協力の元、オカルト要素すら含んだ新兵器開発が進められた。
そして、それは確かに実を結んだ。
艦艇を建造する材料……すなわち鋼材、木材、錫、ゴム等々を依代に、かつて海で散った艦艇を少女として召喚する超常兵器、[艦娘]である。
普段は普通の少女だが、いざ艤装を背負い海へと繰り出せば人型深海棲艦と同じく身長50mに達する巨人となり人型深海棲艦と同等かそれ以上の力を発揮する戦乙女へと変身するのだ。
こうして、通常の深海棲艦どころかフラグシップクラスとも戦える力を手に入れた人類は妖精や艦娘と共に反攻を開始した。
こうして、2025年の半ばにはある程度の制海権を取り戻し戦況を圧倒的不利から膠着状態にまで押し戻すことに成功するのだった。
艦娘が実用化される以前から、着弾する弾頭自体に高性能な誘導装置(半導体を始めとする各種電子装置等)を用いてさえいなければ現代技術を使った兵器でも深海棲艦に打撃を与えられることは判明していた。
即ち、ミサイル等の現代兵器でも、着弾時に電子機器を脱落させてただのロケットとなっていれば効果を発揮したのだ。
元々、無誘導兵器ならば深海棲艦に対してもある程度効果を発揮することは分かっていた。
それに加えミサイル兵器を大々的に復活させられれば、通常兵器、通常戦力でも深海棲艦と互角に渡り合えるかも知れない。
ほんの僅かにでも戦力不足を解消したい日本は藁にも縋る思いで研究を開始した。
これらを元に健造、改装された通常艦艇、それらによって再編された艦隊はフラグシップ相手にはともかく、艦船型深海棲艦と戦うなら十分な性能を発揮出来た。
特に海上護衛や哨戒に艦娘を割く必用が無くなったのは非常に大きな成果だろう。
同時に、正面作戦においても艦娘を支援、補助する分にも十分な戦力となった。
つまり、強力なレーダー、ソナーを備え無誘導式の対空/対潜装備で武装した艦で決戦海域まで艦娘部隊を護衛する……という戦法が想定されたのだ。
そんな中で第5艦隊は編成された。
戦艦や正規空母、イージス巡洋艦等の主力級艦艇を揃えた艦隊で、決戦時においても艦娘との連携を企図した艦隊だ。
とは言え想定された戦術からすれば傍流であることは変わらない。
はっきり言って、自衛隊上層部からはあまり期待された部隊ではなかった。
配備される艦の多くは深海棲艦出現以前の艦を改修した旧式艦、人員も艦娘開発以前に間に合わせで導入された数合わせ将兵達。
その光景をして心無い者に海軍の吹溜りとまで称した。
ともかく2026年初頭、第5艦隊は産声を上げた。
それは、数多の将兵、艦艇、艦娘達にとって更なる激戦の幕開けでもあった。