皆様、こんばんわ。
今回の第05話でストック分はちょうど半分になります。
今回のエピソードは……原作の学園都市のような”箱庭”ではなく、葛藤の余地もないくらい簡単に命を奪い奪われるガチの戦場で『武器や能力を思うままに破壊と殺戮に使ったら』どれほど残酷なことができるのか?
例えばそんな『怖さ』が少しでも描けたらと思ってます。
CE71年1月25日は、開戦以来屈指の流血を強いた日として人々の記憶に残ることになる。
連合の将兵のみならず、オーブ人にもまた【自分達もまた宇宙時代の戦乱の世に生きる民】であることを強く自覚する日となったのだった……
「えっ? 新人さん(GAT-Xテスト・パイロット)達と通信途絶……?」
「うん。最後に確認されたのは”X105”以外のGAT-Xシリーズのハンガーへ向かう通路だから……振動センサーの解析だとその付近で大型対人地雷規模の爆発が確認されてる」
頷いたのはまだ見た目どおりなら十代と思わしき、どこか名巧が丹精こめて仕上げた日本人形を思わせる絹のような長い黒髪の少女……無論、ここに居る以上は彼女とて民間人というわけではなくレーダー士官として乗り込んでいた連合少尉【姫神秋沙(アイサ・ヒメガミ)】だった。
「姫神ちゃんの推論だと、ブービートラップか他の手段かはわかりませんが……結論から言えば爆発物により壊滅もしくは全滅した……でいいんですか?」
こくんと、どこかぼんやりした瞳で頷く姫神であった。
神秘的と言うか虚ろと表現するか意見の分かれるその漆黒の瞳には、人の死とはどう見えてるのだろうか?
少なくとも、彼女には相応の理由があって小萌の保護観察下にあるようだが……
「……こうなれば、”最悪の中の最善”をとるしかないみたいですねえ」
小萌はわずかに死んだ、あるいは今すぐ助けに向かえば助かったかもしれないパイロット達に心の中で謝罪と黙祷をすると感情を押さえつけて思考を切り替える。
「姫神ちゃん、AIM拡散力場の反応はありますか?」
「肯定。AIMパッシブ・センサーに感あり。本艦を囲んでいる不明勢力は全員が【能力者(コーディネイター)】で間違いない。力場強度から考えて推定レベルは1~2が大半。レベル3は少数でレベル4以上は確認できない。多分レベル3が隊長格」
小萌は不敵な表情を作ると見掛けに似合わぬ凛とした雰囲気でで告げる。
「【キャパシティ・ダウン】を緊急起動ですぅ! ヘルメットの遮音装置じゃ相殺しきれない出力で!!」
***
【キャパシティ・ダウン】とは、対能力者(カウンター・スキル)用の非殺傷音響兵器で、難しい理屈を抜きに言うなら……レベル1以上の能力者のみに作用する特殊音波を発生させて激しい頭痛に似た症状を引き起こし、能力者が能力を使用するときに必須となる脳内演算を大幅に阻害する装置だ。
元々能力者相手(コーディネイター)に対立……端的に言うなら武力衝突を想定していた連合は、以前より【カウンター・スキル・ウエポン(対能力者兵器)】の開発は積極的に行っており、キャパシティ・ダウンもその成果物の一つであった。
ただ、兵器においては万能というものはすべからず存在しない。
キャパシティ・ダウンも例外ではなく、まず機材自体が大型に大規模になることと、音波を媒介とする以上は真空では無意味な兵器であり、敵の通信に割り込ませて流すことは理論上は可能だが敵の通信網を掌握するにはまったく別の技術が必要であり、その手の通信/電子技術はむしろ学園都市(プラント)の方が上回っているために現実的ではない。
だから確実に作用させるには、原始的だが大音響スピーカーで流して直接耳に届かせる方法が最も効果的だった。
そしてアークエンジェルには警備システムの一環として、巨大な容積と出力を生かした艦載型キャパシティ・ダウンが試験的に装備されていたのだった。
これはアーク・エンジェルがただ従来の航宙戦艦を上回るの火力と柔軟なMS運用能力を兼ね備える『汎用戦闘機動兵器母艦』としてだけ建造計画が立てられたわけでないことを意味している。
即ちアーク・エンジェルは、堅牢な装甲と巨大な火力を前面に押し立ててジャガーノートのようにコーディネイターの巣窟と化してるだろう敵の軍事的拠点を強襲する『空間強襲揚陸艦』としての役割も期待されて設計されていた。
だからこそ、この手の装備の実験を行うのに最適な特性を持っていたのだ。
本来なら、今まさに襲撃を受けている基地全てのスピーカーにリンクして流せば効果は絶大なのだろうが、残念ながら基地のネットワークは警備システムを中心にズタズタ……下手をすれば敵に掌握されてるかもしれない。
であるが故にアークエンジェルは、基地とのリンクを切断していた。
認めたくないが、クラッキングやハッキングを含めたおおよそ広義な意味での電子戦は、プラント側に軍配があがっているのが現状だった。
「”クレイジー・ライヴ”の開幕なのですぅ! 姫神ちゃん、システム・エンゲージ!」
「アイ・ショーティ(了解)」
***
”~♪ ~~♪♪ ♪~”
苦肉の策に近いが、基地のスピーカーも使えずかといって敵の音声通信網にメロディを乗せられないアークエンジェルは船外スピーカーでその能力者にとってデス・メロディを、銃声と爆発音や様々な怨嗟の声で紡がれる”戦場音楽”に加える新たな音色として奏で始めた。
さすが学園都市の技術力に裏打ちされたザフト軍だけあり、ヘルメットにも同じ音を発生させ位相をずらしてぶつけ相殺するタイプの外音遮蔽装置が内蔵されていたが、音とは本来は空気の振動であり、所詮はヘルメットに内蔵できる程度の簡易システムキャンセラーでは自ずと限界がある。
それにキャパシティ・ダウンは未だ試作という言葉が頭に付く、日々完成を目指して改良が続けられてる未完成のウエポン・システムだ。
故にまだ実験や試験運用ばかりで実戦での使用実績はなく、ザフトでも情報不足で満足な対策が取れてないのも道理だった。
実際、今アークエンジェルが行ったのもとにかく大音量でキャパシティ・ダウンを流し、敵の簡易遮蔽装置を音響工学的にオーバーフローさせるという原始的な手段であるが、単純なだけに逆に現状の装備では対処も難しい。
範囲はアークエンジェル周辺に限られるとはいえ、効果は覿面だった。
今も一人、頭を抱えたザフト兵の一人が遮蔽物からのたうつように転がり出て、その瞬間を失わず警備兵がフルオートで放った6.8mm×43(6.8mmSPC)弾の高速炸裂徹甲弾による多重奏が、ザフト自慢の防弾装備をあっさり食い破り、その中身を速やかに細切れに変える。
「今です! 【警備隊(アンチスキル)】の皆さんは逆撃を開始! 一気に殲滅してくださいですぅ!!」
形勢逆転!
船に押し込まれていた防衛側が攻勢に転じ、更に一方的有利に逆襲できるというのだから、思わず喚起の声が上がったのも無理はないだろう。
警備隊……特に対能力者戦術を磨き上げた憲兵で構成された部隊は、その特性から”アンチスキル(コーディネイターに対する抗体)”と呼ばれる彼らは、まさにコーディネイターと戦うために己を鍛えてきたのだから。
***
程なく流石に己の不利を悟ったザフト兵達は、素早く退却を始める。
当然、ガードロボを前面に押したて追撃する警備部隊員。
古来より撤退時が最も被害を出すのが常である以上、一人でも多くの敵兵を打ち倒せる機会は有効に使うべきだった。
実際、完全武装の強力なレベル3以上の能力者(コーディネイター)を一方的に狩れるチャンスなど、滅多にないのだから。
そして向けられる武器は、何も自動小銃だけではない。
半自動式の狙撃銃に対物ライフル、軽機関銃に相当する分隊支援火器や連発式のオートローディング・グラネードランチャー、対軽装甲用のライトウエイト・ロケットランチャーなどなど凡そ艦内警備を主に担当する部隊が装備しているとは思えない……まるで市街戦を想定したような強力な個人携行火器が一斉に浴びせられたのだ。
「深追いはするなじゃんっ!!」
能力者に痛撃を加えられる千載一遇の機会とばかりに勇み足気味の部下達に、厳しく釘をさす黄泉川だった。
(チッ! キャパシティ・ダウンの効力圏外に出れば、相変わらず強力な敵だってことを忘れてるヤツが多すぎるじゃんよ……それにしても、)
「個人戦闘能力は高いことは認めるけど、集団になった途端がこれか」
(所詮、規模が大きくや兵器は優れていても組織工学的に見ればザフトも所詮は民兵組織や武装集団に毛が生えたようなものってことか)
黄泉川がそう思ったのは彼らの撤退した時の無秩序さだ。
キャパシティ・ダウンの影響があったとへいえ、撤退戦術や行軍がお粗末、まさに”壊走”と表現するのがふさわしかった。
何しろ背中を見せて一目散に逃走する兵がいたくらいだ。無論、そういう兵には真っ先に熱烈な火線の洗礼を受けた。
(要するに個人能力と勢いに任せた力攻めは得意でも、組織力が最重要視されるような状況になると途端に脆さを露呈するってわけじゃん)
個人スキルという意味では能力も練度も高いが、軍組織としてのそれが釣り合ってない……それがザフトに対する黄泉川の評価だった。
もっともその『個人の能力』こそが最も凶悪で厄介なのは黄泉川も忘れてはいなかった。
***************************************
時間はアンチスキルが襲撃者達を退けたときから少し遡る……
ヘリオポリス軍機区画
彼女達……御坂美琴(ミコト・ミサカ)率いる計四人が潜んでいたのは、連合がオーブより借り受けたヘリオポリスの隠蔽区画の中でも、有数の重要度を誇る一角だった。
もう少し詳しく言うならGAT-Xシリーズの5機中、GAT-X105を除く4機が集中開発されているハンガー・ブロックのすぐ近くだ。
「どうやら上手くネズミを炙り出せたみたいね?」
美琴は獰猛さを隠そうともせずに笑う。
そう陽動部隊がアークエンジェルを派手に襲撃、初春飾利の仕掛けたウイルスにより基地の警備システムが掌握/無効化されていた。
更には通信も各所で寸断された現状ともなれば、GAT-Xのテストパイロット(小萌曰く『新人さん』)達は、いち早く既に稼働可能状態まで仕上げられた機体の確保を最優先にするはず……その予想は見事に当たり、大変優れた電撃使い(Lv5のエレクトロン・マスター)である美琴が無意識でも使えるパッシブ/アクティブ両用の”生体レーダー”能力や、警備システムをのっとった初春のパソコンのモニターにも慌ててハンガーへと急ぐパイロットスーツの一団が捉えられていた。
「黒子!」
「お任せくださいませ、お姉様」
白井黒子が装備から取り出したのは、指向性散弾型対人地雷、現代では米軍などで使われる”クレイモア”と呼ばれるソレの子孫に当たる物であった。
もっとも大きさ的には二回りは大きく、むしろサイズ的には21世紀の日本自衛隊が装備する”FFV013”に近い。
”ヒュッ!”
そして、その物騒な代物が刹那の時で彼女の手から消え去り、
『なっ!?』
再び現れたのは……
その短い悲鳴じみた声が聞こえたのは、初春のパソコンのスピーカーからだった。
そう、声の主は認識したのだ。
その眼前に唐突に”転移”してきた物体が何なのか……それにより先頭を走る自分がすぐにも文字通り吹き飛ばされるということを。
その瞬間、美琴から指向性を持たされ飛ばされた電磁波は、人の生体活動になんら影響を及ぼさぬほどに微弱なものだった。
しかし、その微弱な電磁波は”起爆コード”という意味を持たされていたのだ!
白井黒子はLv4の転移能力者(テレポーター)である。
その能力は、質量130.7kgの物体を直線距離換算で最大81.5mまでテレポートさせるほどであるという。
であるならば、せいぜい20kg程度の対人地雷を10m少しテレポートさせることぐらい、どうということはないだろう。
***
”Zuuu----M!!”
閃光、爆発、扇状に超音速で撒き散らされる1200発のベアリング球……
その一撃は、予備を含め10名に満たないパイロットを殺傷するにふさわしい威力をみせつけた。
「これはオマケですの。遠慮なくとっておいてくださいまし」
まだ致命傷を負いながらもまだかすかにうめき声をあげる集団の真上に、黒子は両手に1発ずつ握った手榴弾を空間転移させた。
ほぼタイムラグなしに響く二つの爆発音は、さきほどのそれに比べるなら遥かに大人しいが、彼らの人生の幕引きをするには十分であろう。
「うっわぁ~……白井さん、相変わらず容赦ないですねぇ」
少々引き気味な佐天涙子だが黒子は何食わぬ顔で、
「【どうせ殺るなら徹底的に、敵が反撃する力を失うまで潰せ】が私のモットーですの。下手に手心加えて生き残られでもしたら、後でどんな災禍となって降りかかってくるかわかったものじゃありませんから」
「そりゃそうね。殺れる時は殺る……戦場では機会は二度と巡ってこない事が普通で、生き残った敵が後で自分や同胞を殺す。士官学校でそう習う以上、黒子の言ってる事は間違いじゃないわよ?」
美琴が同意するようにウンウンと頷くと、黒子は瞳をウルウルと潤ませながら、
「お姉さまぁ~~~っ!! 普段はどんなに邪険でも、やはり黒子を心の底から想っていただいてるのですのねぇ~~~っ!!」
いきなりルパンダイブ……服は着たままだから厳密には違うが、跳び方はまさにそれな感じで黒子は美琴に抱きつくと、駆けつけ三杯とばかりに【ぎゅぅ~~~っ! すりすり♪ クンカクンカ!】のトリプルコンボを極める。
その手際のよさはまさに熟練を感じるが……あまり誉める気にならないのは何故だろう?
「くぅ~ろぉ~こぉ~! 今は作戦中っ! 少しは自重しろってーのっ!!」
ガシッっとアイアンクローで報復に頭蓋を締め上げる美琴だった。
更に得意の電撃で追い討ちを加えようとする美琴だったが、
「わわっ、御坂さんタンマタンマ! 電撃は勘弁してくださいよ!? わたし達をダース単位で木っ端微塵にできる爆薬持ち歩いてるんですからっ!!」
「どうでもいいですが……なんとなく白井さんには、”ミンチメーカー(挽肉製造機)”とかって渾名も似合いそうですね?」
性格のエグさにも似合いそうなそれに”ぷぷっ!”と思わず噴出す美琴と佐天だが、黒子はジト目で、
「……初春、今何かおっしゃいまして?」
「邪魔者は始末しましたし、そろそろ仕上げにいきましょうかって言っただけですよ?」
命が失われたことになんら感慨が無い……まるで機器の電源を切った程度の調子で初春は微妙に毒のある台詞と共にノート・パソコンを畳み立ち上がり、
「まあ、時間もないしね」
軽く返した佐天は、特に引きずる事も無く右肩にスリングを下げた【トイ・ソルジャー(自動小銃)】の最終チェックを行う。
年端もいかない少女達が、敵とはいえ殺すことになんの躊躇いや戸惑いがない……古来より少年兵や若年兵は決して珍しくないが、ここが殺し殺されることが”日常”の戦場だということがまざまざと思い知らされる風景だった。
そう、わずか数十分前まで確かにヘリオポリスは戦争とは無縁の場所で、そして彼女達はその平和を無自覚に享受する一介の女学生……少なくとも傍目にはそう見えた。
だからこそ美琴たちは”平和な街の風景”の一つとして溶け込めたのだろう。
だが、
「さあ、いくわよ!」
今の彼女は、まったく違う横顔だ。
片手にトイ・ソルジャー、もう片手に美琴特有の装備、液体金属を詰め込んだメタルバトン【スラッシュ・リキッド(液化鋼刃鞭)】を握り、彼女達はハンガーへと歩き出す。
そう、更なる新たな哀れな獲物を狩り採る為に……
皆様、ご愛読ありがとうございました。
今回は”アンチスキル無双”な前半と”無慈悲な黒子”な後半でお送りしましたが、いかがだったでしょうか?
戦場でテレポーターが活躍するとそのまま”ボゾン砲(by ナデシコ)”になってしまうあたりが恐ろしい(^^
まだまだ二つの原作と比べるなら遥かに泥臭く、血腥い戦闘が続くと思いますが応援よろしくお願いします。
ご意見ご感想を聞かせていただけるととても励みになります。