破れたカボチャの馬車(仮題   作:猫毛布

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デレステのリセットマラソンをゆっくり開始しました。
文香さんが出るそうなので……猫毛布、ガンバリマス!


ざせつ4

眼を覚ました。気だるさと僅かな吐き気を感じはしたけれど、問題はない。

視線を巡らせれば自宅でもなく、仮眠室でもない。部署に設置されていたソファで眠っていたらしい。仮眠室行くことも出来たけれど、私はあそこで眠れそうにないのだ。辛うじて、という表現も変だけれど……ここでならば眠れた。

久しくアルコールの入っていない脳は冴えている訳でもなく、むしろアルコールを求めているように頭痛を起こしている。

 

ぼんやりと、ソファにちゃんと座って凭れる。ゆっくりと呼吸をして頭を正常に動かしていく。

今日の予定は何かあったっけか。締め切りの近い物はこの泊まりで全て終わらせた筈だ。

感覚で手を動かしてもそこに水があるわけもなく、イマイチ締まりのない脳内はぼんやりと思考しているだけだ。

机に無造作に置かれた腕時計を見れば、まだ誰も出社していないであろう時間。どこかで軽く顔を洗うか…、いやシャワー室でも使わしてもらおうか。さりとて重い体を持ち上げて、息を吐き出す。

部署の扉を開いて一歩踏み出す。

 

「わっぷ……」

 

鼻頭を押さえながら一歩下がり、見えたのは黒い壁だ。視線だけを上に向ければ変わらぬ仏頂面。

 

「ああ、武内さんでしたか。おはようございます」

「…………おはよう、ございます」

 

武内さん、どうして頭を抱えるんですかね?流石にメイクは落としているけれど、ノーメイクの女性を見てその反応は聊かいただけない。

眉間にシワを寄せていたら、彼がスーツを脱いで私の肩に掛けた。かなり大きなサイズの背広を被せられた私は何がなんだかさっぱりわからない。

 

「泊まりでお仕事ですか?」

「?はい。期限が迫っていた物もありましたし、終電を逃してしまったので」

「……」

「いけませんでしたか?」

「いえ、そういう訳では……」

 

ならば何故貴方はこちらを見ずにどこかを向いてるのだ。詰め寄るように一歩前に進めば、一歩後退り。

変わらず、というのもなんだけれど、困り顔の彼。

まあ考えたところで彼が私で無いように、私は彼でないから彼の考えなどさっぱりわからない。

 

「ところで少し退いていただけないでしょうか?」

「……どこかに行くんですか?」

「汗もかいたのでシャワーでも浴びようかと…なにか?」

「ああ、いえ……そういえば、玄関口が現在清掃中なので、裏手のルートならスムーズに行けると思います」

「そうですか。ではそっちから行きます」

 

武内さんの横を抜けて、のんびりとした足取りで進む。時間も時間であるし、玄関を避けるようなルートだったからか人に会うこともなく、私はシャワールームへと到着した。

鏡でみた私はやけに大きな背広と少しシワのついたシャツ。胸元から見える白いブラジャー。

 

「あー……」

 

思わず出てしまった声。鏡に写った私は眉を下げて申し訳なさそうな顔をしている。

気を使わせた事も、見苦しい物も見せてしまったことも……溜め息。頭を切り替えよう。こっちとしては減る物でも無いし、彼にとっては忘れたいものになるだろう。言わぬが花である。

乙女だったならば、もう少しかわいい下着でも着ていればよかった、なんて思うんだろうか?私にはわからないことだ。

服を脱ぎ、彼の背広は畳んで引っ掛けておく。さっさと浴びて仕事に戻ろう。

 

 

 

 

 

 

カフェでぼんやりとお茶を飲む。ティーカップから香る紅茶の匂いが私の鼻をくすぐった。

これでも一応仕事中の身であるけれど、部署から追い出された。追い出されたといえばいくらか乱暴に聞こえるけれど……実際は実にやんわりとカフェに行くことを勧められた。

話に聞けばどうやら武内さんが新しい三人を案内するらしい。あの強面に案内されることを考えるとその三人はずいぶん緊張するだろう。それこそ彼の僅かな感情の起伏など察することも出来ないだろうし、察することが出来たなら……その子達にとって素晴らしい日になるかもしれない。

私が部署から追い出されたのは、やっぱり私が怖いからなのだろうか。ソレほど怖い顔をしているつもりも無いけれど、やはり世間様の評価は総じて正しいと言えたのだろう。

 

「上津さん、お仕事中じゃないんですか?」

「……菜々さんでしたか。ウサミン星からのご出勤ご苦労様です」

「そこまで真顔で言われるとそれはそれで心にクるなぁ」

「はい?」

「なんでも無いですよ。それより上津さんはこんなところで何をしてるんですか?」

「紅茶を少し……」

「なるほどー、部署から追い出されたんですね」

「あぐっ」

「それで自分が怖いかとか悩んでたとか」

「……ウサミン星人はかわいくてエスパーなんですか?すごいです。全部当たりです」

「この子、口から出てたことに気づいてないですか……楓さんが『おっぱいのついたイケメン風ボケ娘』とか言ってた意味がよくわかりました」

 

首を傾げて見せれば円形のトレイで口許を隠して「なんでもないですよ」と菜々さん。何か間違ったことを言ってしまっただろうか。ウサミン星からきたアイドルはなんでも知っているのだ。年の功ではない。決して。

ウサミン星での年齢とコチラでの年齢表記が間違っているだけであり、菜々さんの年齢は永遠の17歳なんだ。そう酒の席で訴えるように言われたのだからそうだろう。

 

「そういえば、新しいプロジェクトの子達とは会ったんですか?」

「あ、はい。今日来ているはずの三人を除けば、全員と顔を会わせました」

「ほほぅ…それで反応は?」

「…………まともに会話した内容は挨拶だけです」

「あー、上津さんだからですね」

「そんなに怖い顔をしてます?」

 

むにむにと頬を触って表情を確かめてみる。満面の笑みとは言いがたいけれどソレほど怒った様子を出した覚えはない。むしろ笑顔に近い、それこそ相手にいい印象を与えれる程度の表情は作っていた筈だ。

 

「ちなみに、会ったときの表情って今できます?」

「はい」

「……あー、なるほどなるほど」

「ダメでしょうか?」

「いや、うん、良すぎたんですよ」

「はぁ……」

「いいですか、上津さん。上津さんは仮にもアイドルだったんです。もっと言えば売れっ子さんだったんです。クールでカッコいい美人な上津さんがスーツを着て微笑んでるんです。そりゃぁ絶句するでしょ」

「すいません、さっぱり意味がわかりません」

「……例えばですよ。私が可愛らしいドレスを着て上津さんに微笑んだとします」

「はぁ……」

「想像してください。そしてどうするかを言ってみてください」

 

菜々さんが可愛らしいドレスを着て、私に微笑んでる状況を想像してみろと言われても……。

 

「今日はパーティでしたか。エスコートは必要ですか」

「…………どうしてこの子は普段ボケてるのに変にキザでそれが形になるんですかね……」

「ボケてるつもりはないのですが……」

「わかりました。では例えを変えましょう。人気男性アイドルの方が素敵な格好をして微笑んでいたとしましょう」

「逃げます」

「あー、うん。すいません。この質問はなかったことにします」

 

ご理解いただけてありがたいです。例え話であっても、私は耐えれそうにない。男性恐怖症という訳ではない……筈だけれど。どうにも一歩二歩は下がってしまうだろう。

 

「まあとにかく。目の前にあの上津メイが居たら、そりゃぁ驚くし緊張もするでしょう」

「所詮私ですよ?楓さんみたいな綺麗な人とか、それこそ菜々さんみたいな可愛い人でもないんですよ」

「上津さんは世間での女性ファンの多さを理解すべきだと思います」

「……お客さんの顔はおおよそ覚えているつもりですけど、女性はソレほど多くないと思いますよ?」

「……今とんでもないことを聞いたような気がしますが……」

 

ライブの時に見える顔は大体覚えているつもりだ。それこそ私ごときを応援してくれている物好きなのだから、自然と顔ぶれも似たようなものになる訳で。

そんな中の女性客なんてものは本当に少なく、アイドルから逃げている時に調べたのは性別も年齢も名前すらもわからないインターネットだ。

 

「とにかく、です。上津さんはもっと自分がアイドルだったことを自覚してください」

「自覚はしてるつもりですが……」

「それと、今日は飲みに行くので幹事をお願いします」

「はい。以前日本酒が美味しいお店を見つけたので、そこでいいですか?」

「楓さん達と行ったんですか?」

「いえ、一人で」

「…………上津さん。お酒にお金をつぎ込みすぎじゃないですか?」

「貯金が減らないので」

「嫌味じゃないんですよね…嫌味じゃ」

「?」

「いえ。それでは適当に人を誘っておいてくださいね」

「わかりました」

 

どうしてか肩を落として歩いていった菜々さんを見送り、私は誘いのメールを打ち込んでいく。

やっぱり紅茶が美味しい。




無自覚エロ。
クール系美女(絶望)が寝起きでぽややん状態。武内さんの身長を考えるともろに肌色が見えた筈です。
気遣いの出来る大人、武内P。
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