破れたカボチャの馬車(仮題   作:猫毛布

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三人称

そういえば上津さんの詳しい容姿を書いてなかった気がする。
どっかで書かなきゃ……ガンバラナイト。ガンバラナイト。


ざせつ5

輝かしい世界がそこにはあった。

私もその一部であった。

動きも、声も、姿も、全てを望まれるがままに。

全てを誰かの為に。

全てがあの人の為に。

私は輝いていた。輝いていただろうか?

 

誰かの目ではなく、あなたの瞳から見て。

私は、あなたに必要だっただろうか?

きっと必要ではなかったのだろう。

きっと私は夢を抱いていたのだ。

頑張れば評価される。頑張ればあなたが見てくれる。頑張ればあなたが誉めてくれる。

 

私を見て。私を認識して。私を意識して。

 

 

だから、全ては私の責任だ。

私がもっと頑張っていれば、あなたは私を捨てなかった。

私がもっと立てていれば。私がもっと踊れていれば。私がもっと演じれていれば。

私が、もっと、もっと、もっと……

 

 

 

◆◆

 

 

上津メイ。この名前を知らない人間は国内において少ない。ある程度の情報ソースを持っていれば一度は目にする、耳にする名前であったし、相応の話題にもなった。デビューも、活動も、そして唐突に表舞台から姿を消したことも。

噂が飛び回り、所属していた事務所からの発表は諸事情によるアイドル活動の休止と事務所を辞めたことだけ。

何か問題を起こしたという事もなく、ただ唐突にそうなったのだ。

誰しもが憧れて、誰からも求められた孤高の氷姫。

 

「改めまして、上津メイです。皆様の送迎、雑務を担当いたします。シンデレラプロジェクトに因みまして、カボチャの馬車として頑張りますので、気軽に声をかけてください」

 

そんな氷姫がまるで当然のように目の前にいた。輝かしい姿ではなくて、野暮ったいスーツを着て、そこにいるのだ。

夜を思わせた黒い髪はうなじで一纏めにされ、冷たい印象を持たれた顔は微笑みを浮かべている。冷たくなどない、雪解けを思わせる春先を感じさせる魅力的すぎる微笑み。

シンデレラプロジェクトに参加している十四名がその笑顔に少なからず惹かれてしまった。いいや、三人を除いた十一名は一度その微笑みを見ているからこそある程度の耐性ができてきた。アイドル……正しくは元アイドル上津メイがいることも知っていた。

問題は三人。島村卯月、渋谷凜、本田未央の三人は目をパチクリとさせ、驚きの声が口から漏れだしている。

 

「知っているかわかりませんが、これでも元アイドルなので皆様そういった悩みや相談事も承ります。不安、雑談、技術的な事、どんな事でも構いません。なんでも聞いてください」

 

いや、全員知ってるでしょ……。というのがシンデレラプロジェクトの総意だった。もっと言えばメイの後ろで首筋に手を当てているプロデューサーも同じ気持ちだった。

 

「こ、上津メイ……さん?」

「はい。どうかしましたか?本田未央さん」

「本物?」

「偽者さんは見たことありませんので……、きっと本物ですよ」

 

クスリと、まるで冗談でも聞いたように、メイは笑った。そんな冗談と言うにはほど遠い気持ちで辛うじて出てきた言葉を吐き出した本田未央は未だに目の前の存在を信じれないでいる。

当然、というべきかメイにしてみればメイがここにいることは自然の事であり、驚いている意味はさっぱりわかっていない。感覚で言うなれば石がそこらに転がっているのと同じなのだ。

尤も、他の誰かにとってその石がある程度の大きさをもった金剛石であるのだが……金剛石自身は自分の価値を知るよしもない。

 

「上津さん」

「ああ、宣材写真の撮影途中でしたか」

「あ、あの!コツとか、アドバイスとかってありますかっ?」

「そうですね……自然体でいることでしょうか」

 

緊張した面持ちの島村卯月の言葉に少しだけ迷い、困ったような顔で答えたメイ。彼女にしてみれば、何ら特殊な事もなく、心構えもなく、ただあるべき姿を、望まれるべき姿で写真を撮られていただけなのだ。

だからこそ少しだけ曖昧な表現と困ったような笑みが浮かんでしまった。

 

「上津さんが見本をみせればいいんじゃない?」

「城ヶ崎さん」

「お姉ちゃん!」

「ヤッホー。最近、私よりも上津さんの話ばっかりの妹に会いに来たよ★」

「お姉ちゃん!?」

「私の?」

「上津メイのファンだからね、私も莉嘉も」

「あ、あぁ、あ~!」

「……ああ、どおりで見たことがあると思いました」

「上津さん、今思い付いた事は冗談としてもダメだよ」

「私のCD発売の時に会いましたね。確か、七枚目でしたか。すいません、忘れてしまっていました」

 

すいません、と膝を曲げて視線を合わせて謝りながら小さな金色の頭を撫でるメイ。真っ赤になって覚えててくれたことを喜んでいる城ヶ崎莉嘉、その隣には羨ましそうに見ている赤城みりあ。それに気づいたメイはそちらにもにっこり微笑んで頭へと手を伸ばす。

純粋に喜んでいる少女たち以外は視線を城ヶ崎美嘉へと向けた。向けられた本人はと言えば驚いた表情を浮かべて、それを苦笑に変えて視線に頷いた。

アイドルとして求められている事を、望まれていることを体現する。上津メイというアイドルはそういう人物であった。

 

そんなメイが何故アイドル活動を休止……辞めてしまったのか。

見たところアイドルという職業に嫌気がさした訳ではない。むしろ想いがあると言ってもいい。

体に異常が有るわけでもなく、また損傷もない。

 

「上津さんはもうアイドルをしないんですか?」

「……」

 

赤城みりあの声にメイはピクリと反応して、顔をへにゃりと歪ませる。

プロデューサーが何かを口にする前に、上津メイは困ったような口振りで、けれど明確に、はっきりと言葉を出す。

 

「舞台に立つ資格が、私にはありませんから」

 

どこか寂しそうに、上津メイはそう言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「上津さん、上津さん」

「どうかしましたか?美嘉さん」

 

城ヶ崎美嘉は思考が停止した。パチクリと瞼を動かして、頭を捻り、指を一つ立てる。

 

「もう一回、もう一回言ってもらえますか?」

「どうかしましたか?」

「ああ、聞き間違いか」

「それで、美嘉さん。どうしたんですか?」

「聞き間違いじゃなかった!」

 

驚きを隠そうともせずに、けれど喜びは隠しながら……尤も顔は笑みに変わっているから隠しきれてないが…美嘉は声を出した。

そんな美嘉に対して心底疑問に満ちているのかさっぱりわかった様子のないメイ。

 

「どうしたんですか、本当に」

「だ、だって上津さんが急に名前で呼ぶから」

「ああ、すいません。城ヶ崎さんだと二人いるので」

「…………わかってましたよー」

「お気に障る様なら、苗字に戻しますが…」

「何も問題ありません!むしろ名前がいいです」

「そ、そうですか…」

 

顔を寄せてまで申し出を断った美嘉に驚いてしまう。

そこまで強く否定すること何だろうか。もしかして苗字がキライだったのだろうか。それなら自分は結構な嫌がらせをしていたのかも知れない。

と的外れな事を考え始めたメイ。

心の中ではあうあうと焦ってはいるが、表面上は随分と難しい顔のメイ。そんなメイを見ながら舞い上がっている城ヶ崎美嘉はこのチャンスを逃すべきかと一歩踏み出す。

 

「わ、私も名前で呼んで…いいですか?」

「?いいですよ」

「――っ、め、メイさん」

「はい。どうしました美嘉さん」

 

歓喜である。笑顔も添えられて自分の名前を呼ばれ、さらには自身もメイの名前を呼ぶ。呼ぶときに緊張しすぎて声が震えていた様な気もするがそんな事はどうでもいい。

嬉しさのあまり顔を少し赤らめて、震えている美嘉をかなり訝しげな表情で見ているメイ。自分が名前を呼んだあとにそうなったのだから自身に不足があったことは確かだろう。さっぱりわからないが。やっぱり笑顔か!笑顔がいけないのか!とさっぱり検討違いな思考をするメイ。不足があったどころか過ぎた結果なのだが……。

 

「それで、何か問題でも?」

「え、ああ、えっと…プロジェクトから三人借りようと思って」

「借りる?……ダンサーとしてですか」

「はい。それで上d…メイさんの意見も聴きたくて」

「ふむ…」

 

どうしてかえへへ、とだらしない顔をしている美嘉は放置してメイは顎に手をあてる。

 

「プロジェクトの補佐としての意見は是非お願いしたい。ですかね」

「メンバーを聞かなくてもいいの?」

「何かと律儀なアナタなので、妹さんは違うだろうと思いますし……それ以外なら別に誰を選んだところで変わりありませんから」

「……メイさんって意外と辛口?」

「楓さんに舐められたときは甘いって言われましたが……」

「舐めっ?!」

「酔ったときに少し。甘い臭いにつられて舌が伸びたそうです」

「そっかー……甘いんですか…」

「知りませんよ。酔っぱらいの戯れ言です」

 

その時の事でも思い出したのかため息を吐き出して頭を振るメイ。美嘉の頭ではミステリアス美女がワイングラスを片手に妖艶な笑みを浮かべ、どうしてか手を縛り上げられた幻想美女のメイへと舌を伸ばしてる。美嘉の顔は真っ赤である。

実際は酔っぱらった高垣楓の介抱に専念して膝枕をしていたメイ。その腹に抱きついて臭いを嗅ぎ、舌を伸ばしたのだが……どちらにせよ美嘉は真っ赤になりそうである。

 

「それで、補佐以外の意見もあるんですか?」

「おすすめしません」

「……そうなんですか?」

「未熟だから、という理由が一つ。それは努力でカバー出来ますし、私も出来る限りのフォローはします」

「メイさんと一緒にレッスンができるんですか?」

「三人は、ですよ。美嘉さんは自分のレッスンや仕事があるでしょう」

「そうですよねー……はぁ」

「もう一つ。その三人が勘違いするかも知れません」

「勘違い、ですか?」

「始めて立った舞台を覚えてますか?」

「あー、グダグダでしたけど……」

「それがもっと華やかな物だったら、トップアイドルと一緒に立ったなら?」

「それは……」

「自分だけ、もしくは新ユニットの仕事は必ずあります。箱を開けてみれば、という話です」

「あー……なるほど」

「実際、武内さんの仕事ぶりは素晴らしいので、私やアナタから見れば『初めてのライヴ』として素晴らしい場所を抑えると思います。けど、それは私たちが体験してるからこそ言える事なので」

「それで、勘違いするですか……どうしよ」

「三人をバックダンサーとして使うべきですかね」

「でも、勘違いするんじゃ」

「かもしれない、です。それ以上に経験している方がいい事もあります。目指すべき所が明確になりますし」

 

それに、とメイは言葉をつなげて、口を閉じた。美嘉は首を傾げて言葉を待ってみたけれど出てきたのは溜め息である。

ちらりと時計を見たメイはふむ、と一言唸ってから口を開く。

 

「時間も時間ですし。ご飯でも食べに行きますか?おいしいイタリアンのお店を見つけたので」

「!?お、お誘いですか!?」

「仰々しくもないでしょうに。お酒も飲みませんし、車を回すので送りますよ」

「ありがとうございます!」

 

満面と言ってもいい笑みで言われ、踵を返してキーを取りに行くメイはあんなに喜ぶ事なのだろうか、と疑問に感じつつ、今度からはもっと誘おうかな、と頭に刻んでいく。

そんな嬉しい事を知らない美嘉はメイの背中が見えなくなったのを確認して拳を握った。

 

「ッシャ!」

 

そんな彼女の喜びは通りすぎる社員さん達から非常に可愛そうな目で見られたそうな。




楓さんの膝枕でお腹に顔を埋めたい。埋めたくない?

書きづらかったので三人称です。ちなみに一人称のときは全く別の話で、上津さんが酔っぱらって「武内さんや新人の子に嫌われてるんだー、わーん」と言う内容でした。
上津さんはまだカッコいいポンコツでいてもらうので本格的なポンコツ化はまた今度で。

>>ハイスペック上津さん。
あれです……緑の恐竜みたいな物です。でっていうじゃないよ!

>>姉ヶ崎さん
妄想逞しい処女ヶ崎さんだか仕方ないね。

>>評価の辛口
出来る出来ないをはっきり認識しているだけ。上津さん個人からの評価だとすごく甘い。

>>上津メイ(甘口
甘い匂いがして舐めたら甘かった。体に良ければ香酢(コウズ)もビックリです。
って高垣様がいってました。
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