破れたカボチャの馬車(仮題   作:猫毛布

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投稿サボって、感覚が掴めません……
短いです。許して


第6話

 魔法使いは完璧なお姫様を描いていた。

 だから魔法をかけられたお姫様は完璧になった。

 

 ステップも綺麗に踏めた。

 歌だって綺麗に歌えた。

 楽器だって演奏できる。剣だって握れる。

 

 お姫様は完璧だった。

 そう――自負していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美嘉さんからの提案は意外にあっさりと武内さんに伝えられた。武内さんは検討してみる、と言っていたけれどプロデューサー視点の考えなら是非もないだろう。

 アイドル、城ヶ崎美嘉の舞台に立てる。当然、ソレはバックダンサーとしてだけれど、それでもその場所はきっとお姫様見習いである彼女達からすれば夢の様な場所で、そして魔法の様な体験になることだろう。

 甘くて、輝かしい体験は同時に苦さを強調することになるだろうけど、恐れていては何も得ることは――……いいや、この言葉を私が言うのは止めよう。ずっと怖がっている私が言える言葉ではない。

 

 先日、初々しい彼女達を見て、つい助力するといってしまったけれど、そもそも私なんかの助力が何になるというのだろうか。求められれば微力を尽くすけれど、それが希望溢れる彼女達のちからになるとは思えない。

 私は逃げた人間で、彼女達は先へと進む人達なのだから。

 

「だから、そのお願いは聞けません」

「ですよねー……すいません、忙しいのに」

「いえ、別に忙しい訳ではありませんが……」

 

 目に見えてションボリしている美嘉さんに少しだけ困ってしまう。本当に忙しい訳ではない。

 カボチャの馬車としての仕事はお姫様見習いが本格始動していないのであまりないし、武内さんは私に仕事をそれ程多く流してくれない。ちゃんと仕事は完遂しているつもりなのに。

 以前、職場に泊まったのがいけなかったのか。アレは締め切り間近なモノが急に雪崩れ込んで来たのだから仕方がない。確かにソレを定時に終わらせれなかった私が悪いけれど、普段の私は決して仕事を溜め込んだりしない。

 

「フォローしてくれるって言ったじゃないですかー」

「フォローはします。ただ、私があの三人に直接教えるとなると色々とダメになりそうなので」

「ダメになる……」

「どうして顔が赤くなるんですか?」

「ナンデモナイデス」

 

 どうしてか顔を赤くして私から視線を外した美嘉さん。はて? と首を傾げてから結局原因もわからずに話を進める。

 

「正直に言えば、私は教えるのが極端に下手らしいんです」

「そうなんですか? アドバイスとかはスゴく勉強になりますけど」

「細かい所は言えるのですが……全体を通して言うとなると」

「へぇー……」

「そんなに珍しい物を見るみたいに見ないで下さい。別に教えようと思えば教えられますよ? 本当ですよ?」

 

 コレは本当の事である。アイドルであった時代にも後輩は出来た訳だし、その後輩達……アイドルの卵達を教える事もあった。

 尤も、私が教えた事なんて数える程度だし、それ以上に結局バックダンサーがいなくなる事も何度かあった。そういった事が続き、愚痴の様にその頃のライバルとも言える人に吐露すればなんとも難しい顔になったのは今も覚えている。お姫様の様な彼女にあんな顔をされたのはアレが初めてだったかもしれない。

 

「とにかく、美嘉さんのフォローは何でもします」

「今何でもって言いました?」

「え、えぇ……でも、新人教育は出来ませんよ?」

「楓さんみたいに仕事への送り迎えとか、夕食を一緒にとか! 一緒に映画を行くとか! ダンスを見てくれるとか!」

「え、えぇ……構いませんが……」

 

 どうしてか前のめりで確認してきた美嘉さんに言い澱んでしまう。幾つか仕事とは関係無いような気もするが……。そもそも美嘉さんは自分がアイドルであるという自覚はあるのだろうか。

 どちらにせよ、私に念を押すように「絶対ですよ!」と言っている美嘉さんに何かを言える訳もなく、私は力なく眉尻を下げるしかない。

 

 足早に、どうしてか心を踊らせたように軽やかなステップを踏みながら部屋から出て行った美嘉さん。あれほど軽やかなステップを踏めるのなら「見てくれ」と頼まれているダンスもあまり言う事もないだろう。

 それでも向上心の高い美嘉さんの事だから、きっとアドバイスを頼まれるかもしれない。美嘉さんが踊る曲、歌う曲は聞いているし踊れるので問題はないだろうけれど……。

 

「大丈夫でしょうか……」

 

 教えるのが下手、と言われた私としては軽いアドバイスをする程度が丁度いいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかしましたか? 上津さん」

「何か?」

「いえ、何か様子が変だったので」

 

 余程様子がおかしかったのか、お茶を持ってきた千川さんが心配そうに私の顔を覗く。キーボードを打っていた手を止めて頬に手を当てる。ふにゅりと頬を歪めて慣れてしまった笑みを浮かべてみせた。

 

「そうやって無理しなくても大丈夫ですよ」

「……すいません」

 

 息を吐き出して笑みを潜ませる。どうにも上手く笑えてないらしい。

 少しだけ迷って、吐き出すように口を開く。

 

「少しだけ、不安――……とは違うと思います」

「あの子達のライブですか?」

「もちろん、三人がちゃんと出来るかは不安ですが……」

 

 それ以上の感情がある。黒くて、ドロドロしていて、胸を締め付ける様な感触。お姫様にも、お姫様見習いにもブツケてはいけないだろう想いだ。

 

「大丈夫ですよ、あの子たちなら」

「……そう、ですね……」

 

 瞼を下ろして、背凭れに体を預ける。ギシリと鳴った音を耳で拾い、細く息を吐き出す。

 へばり付いている私らしいと言えば、私らしい感情なのかもしれない。どうしようもなく、ファン達を裏切っている私が抱いてはいけない感情なのかもしれない。

 

「……少し外の空気を吸ってきます」

「はい。いってらっしゃい」

 

 席を立ち、部屋を出て、大きく息を吐き出す。口の中に溢れる苦味を噛みしめて、お手洗いへと急ぐ。何かを吐き出したい訳ではない。胃をひっくり返したい訳ではない。

 ただ、この苦味を少しでも和らげたいが為に。この苦味を誰にも知られたくないから。

 

 

 私は、まだ憧れを捨てきれない。

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