破れたカボチャの馬車(仮題   作:猫毛布

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背骨


過去

 私という人間はそこそこドン臭い人間だった。

 何をしても上手くいかず、何をしても失敗した。だから、幼いながら両親が私を見放した事を理解した。最初の内は、ソレでも見てほしくて沢山努力をした。努力をした結果が失敗なのだけれど。

 そんな失敗を繰り返している内に、自分は出来損ないである事を感じた。一般的に察しが悪いと言われていた私がじんわりと思い始めたのだから、極々普通である両親は私を初期から見放していたんだと思う。

 

 そんな私にも転機が訪れる。

 アーサー王のように選定の剣を抜いた訳でもないし、竹取の翁のように光る竹を見つけた訳でもない。

 ただ一人の男が私の目の前に立ち、手を伸ばした。それだけなのだ。

 私はその手を取った。そこから私は『上津メイ』へとなったのだ。

 

 ドン臭いと薄々自覚していた私にとって、彼はまるで魔法使いみたいな人だった。そんな事を彼に言えば、彼はキョトンとして笑いならが「じゃあ君はお姫様かな」なんて冗談のように言うのだ。

 そんな魔法使い――……私のプロデューサーはとにかく凄い人だった。今でも彼の事は凄いと思える。

 まず彼がしたのは私の努力方法の修正だった。魔法使いはどうやら私がドン臭い事なんて最初からわかっていたようで、私は彼の努力方法によってドン臭いという称号を捨てる事が出来た。残念ながら彼からも「察しが悪い」と何度か言われていたので、その称号は捨てきれなかったらしい。

 

 魔法使いは私を完璧なお姫様にする為に力を尽くした。

 そして私は魔法使いの理想を体現してみせた。

 アイドル、高津メイの完成である。

 

 私のアイドル活動なんてモノは特筆すべき事などはない。

 なんせ、私は彼の理想の体現であり、彼から与えられた恩を返す為にお姫様であったのだ。

 だから、私は私の評価なんてモノに興味はなかった。誰に何を言われようが、私には彼がいた。それだけで私の世界は完結していたと言ってもいい。

 そんな私に変化を齎したのは、商売敵とも言える別のプロダクション――765プロのアイドル達だった。

 私の所属していたプロダクションと浅からぬ因縁があったらしい765プロ。別に私には関係の無い話だ。同期、という訳ではない。業界に入った年数で言えば私は新米もいい所なので彼女達と比べる意味も無いし、興味もない。

 

 ともあれ、そんな商売敵である765プロのアイドル達にとってどうやら高津メイというアイドルは恐ろしい敵のようだったらしい。唐突に現れた敵は一年も必要とせずに自分達の土俵に立った。更に言えば私の所属したいたプロダクションも悪かったのだろう。

 私へと感情をぶつけた所で、私は興味も何もなかった。何度も言うようだけれど、私の世界は彼を中心にして、私を踊らせている――そんな世界なのだから、衛星である私に何をした所で私の何かはそれほどの変化は無かった。更に言えばアイドルより前の私の経験で強く何かを言われる事は慣れていた。

 

 だから私は彼女の敵であっても、彼女らは私の敵ではなかった。彼曰く、踏み台であったらしい。

 

 アイドルとしての最初の一年は大体そんな感じだった。この時点でCDデビューも果たしていたし、メディアにも相応に顔を出していた。

 二年目になれば一年目の大半を費やしていた『上津メイ』を構成すべきレッスンが減り、その分だけ仕事が増えた。尤も、レッスンの時間が減っただけであって、減った分だけ密度が増えただけだ。

 舞台であったり、映画であったり、ライブであったり、ラジオであったり、とにかく二年目の私の生活に恐らくプライベートという文字は無い。

 必要がなかった、という事だ。私は自分の為に費やす時間の全てを『上津メイ』へと費やした。知識であり、演劇であり、歌唱であり、自分で伸ばせる所は努力をし続けた。

 だからこそ、『上津メイ』は彼の理想であり続けた。

 夢を与え続ける存在。そんな彼の理想に私は少しでも近付きたくて努力をし続けた。

 

 そんな二年目である私は、系統がよく似ていると世間的に言われていたらしい四条貴音とよく一緒に仕事をする事が増えた。銀色のお姫様である貴音とは対比のように黒色のお姫様であった私が話題になったからだろう。

 ミステリアスで全てを受容してくれそうな貴音と全てを拒絶して孤高である私。

 受容してくれそうな、という言い方は語弊がある。彼女は大凡の事を許してくれた。食べ物の事になると凄まじく厳しかったけれど。

 そんな形で私は貴音とよく話をするようになった。日常会話であったり、持ってきたお菓子の話だったり、取り留めのない話だ。貴音と仲良くなると必然と、どういう訳か、何の因果か765プロのアイドル達との接点が増えた。

 接点が増えると自然と会話をするようになったのはきっと私の中で何かが変化したからなのだろう。

 

 三年目。

 途中までは二年目とそれほど変化の無い私にとって平凡なアイドル生活だった。この頃になると私はアイドルという職業に何かを抱き、自分の意思で誰かに夢を見せるようになっていた。

 そうあるべき、という意思もあったけれど、それでも私の中に変化があったことは確かだ。

 全ては彼の為だった。それがいつの間にか、誰かの為にもなっていた。それだけの話だけど、私からすればその変化は劇的だったと言える。

 ソレが少しだけ怖くて。私はその事を魔法使いではなくて一番の友人である貴音に話した。当然、怖い、という所も含めて。

 そう言えば彼女は私の頭を撫でて微笑むだけで何かを言うことはなかった。それだけで私が満足する事も知っていたのだろう。

 

 三年目の途中。私は倒れた。

 倒れた、と言っても入院をした訳ではなく高熱を出してしまった。病院で言われたことは疲労の限界だったようで、幾日かの絶対安静を言い渡された。

 絶対安静、ということは当然アイドル活動が出来なくなる訳であり、ドコか糸が切れたように私は自分の家で泥に埋もれるように眠った。

 コレが私の夢の終わりで、そして全てが終わった瞬間で、全ての原因だ。

 

 

 

 

 

 魔法使いは私を理想の体現にした。

 私は彼の理想を体現している。その自負がある。

 だからこそ、私は立ち止まるべきではなかった。

 

 目が覚めた私を待っていたのはカメラとライトだった。

 ライトの光に目を細め、周りを確認した。撮影の準備である事はなんとなく分かった。

 何かの撮影中に眠ってしまった。微睡んで、熱で茹だった思考はそう判断してしまった。

 

 ようやく魔法使いである彼を見つけて、私はようやく目が覚めた。

 どうして私の家で撮影が始まるのだ。メイクも何もしていない。着替えすらもしていない。

 だから、私は彼に声を掛けた。掛けてしまった。

 彼の瞳はよく知っているモノだった。それは理想を体現している存在に対してのソレではなくて、『ドン臭い私』の時に体験し尽くした相手を見下し、切り捨てるような目だ。

 察しの悪い私でも、彼が私を捨てた事はよくわかった。でも、それだけしかわからなかった。原因なんて分からない。

 彼はそんな私に「やっぱり察しが悪い」と言い、私が倒れてしまった事による不利益を語り出した。

 私には一切見せなかった苛立ちを孕んだ声で私にソレを叩きつけ、同時にソレが私の責任であることを突きつけた。

 この時点で私の頭は真っ白で、彼の言葉だけが私を支配していた。

 だから、彼が周りに目配せした事に気付かなかった。

 

 私に迫る男の腕。何本も伸びたそれが私の腕を掴み、服を破り、肌を露出させた。

 彼が全てだった。

 彼さえ居れば、私の世界は完結していた。

 恒星から突き放された衛星。デブリ(ゴミ)になった私。

 いっそ、そのまま襲われて全てを捨ててもよかった。そうしなかったのは、私が『上津メイ』だったからだ。

 アイドルとしての何かが、ゴミになってしまった私の何かを繋ぎ止めていた。

 前に居た存在の顎を蹴飛ばし、腕を掴んでいた存在を振り解いた。行き過ぎた演劇指導の賜物である。同時にソレは魔法使いが私に掛けていた魔法に他ならない。

 私は泣きそうになる気持ちを押しつぶして、逃げ出した。全部から逃げ出した。

 

 

 

 裸足で街を幽霊のように歩いた。

 誰も信じられなかった。他人も、何もかもが怖かった。

 全てに怯えながら、私が到着したのは765プロだった。茹だった頭は何をどう判断したのか、そんなモノはわからなかった。

 私を見つけて、驚いた声を出したのは頭にリボンを着けた彼女だった。ソレを確認した私は意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 目を覚ませば、見知らぬ天井だった。硬いソファである事はスグに分かったし、自分に掛けられたタオルケットが落ちて、目に見えた雑誌やホワイトボードでココが765プロダクションである事が分かった。

 どうして私は765プロにいるのだろうか。茹だる頭は熱の所為であることはわかったけれど。

 ぼんやりとしていれば、扉が開いた。ソチラを見て私は思わず小さく悲鳴を上げてしまった。

 彼が悪いという訳ではない。そんな事はわかっている。それでも私は怯えずにはいられなかった。

 迫る腕。魔法使いの冷たい視線。声。カメラ。ライト。

 全てがリフレインして、私は身を抱きしめて縮こまる。幾つかの声がして、私を抱きしめてくれたのは私の一番の友人であった。

 なだめるように抱きしめて、私の震えを解いていく。ようやく私は泣くことが出来た。

 

 

 

 何日か、私は765プロにお世話になった。

 この時の記憶はちぐはぐだけれど、プロデューサーである温和そうな男に多大な迷惑を掛けてしまった事はよく覚えている。

 ともあれ、その温和そうな……赤羽根さんはどうやら慣れているようで私に対して素晴らしい位置取りをしていた。友人達が信頼しているから、という事で怯えながら話もして、私の心はアッサリと彼への警戒を解いた。一定距離まで近づかれると怯えてしまう事から彼もその距離までは絶対に近付かなかった事も幸いしたのだろう。

 私に何があったのか、という事は私が喋った。私以外に当事者も居ないので当然といえば当然だろう。

 けれど、アレは仕方ない事だったのだ。私が彼の理想を裏切ったのが全ての原因だ。倒れていなければよかった。

 だから、私はあの場で襲われてしまえばよかったのかもしれない。そう出来なかったのは……。

 

 所属していたプロダクションの社長が私の前に現れた。どうやら765プロの社長と旧知らしい。

 現れた社長は私に土下座を決めた。完璧な土下座だったと言える。

 まずは謝罪だった。同時に魔法使いを解雇した事。私は魔法使いを解雇したことに顔を顰めてしまった。どうして彼を解雇する必要があるのだ。

 そんな事を口にすれば何とも言えない顔をされた。その場にいた全員にだ。

 世間体もあり彼が解雇されたのは仕方ない事である。という説明を受けて私は納得した。

 次に私がどうしたいか、という事だ。

 少なくとも、私が765で過ごした日々を考えれば、社会に復帰する事は当分無理という事はわかっていた。そんな事は察しの悪い私だってわかる。

 だから、私は一つの部屋を受け取った。

 彼から逃げ出し、夢から逃げ出し、同時にもう誰かに夢を与える事も出来ない私の為に部屋を受け取った。

 

 

 

 私は泥のように理想にまだへばり着いている。ソレは私がまだ完全に諦めきれていないからだろう。

 それでも私は誰かに夢を与える事は出来ない。その資格はもう無い。夢を持たない私が夢など与えれる訳がない。

 だから、けれど……私は未練がましく、まだこの業界に立っていた。




チラ裏だから情報開示。普段だと物語が終わった辺りですっかり忘れてたりするモノです(震え声。
途中で書くと、ご都合で過去を変えれないからな!(暴露

上津メイのバックボーン、です。
(765プロの皆さんの時系列はそれほど考えて)ないです。

上津メイの時系列
上津メイとしての活動開始→
一年で話題のアイドル扱い→
二年目で映画などで話題に。演劇の為に知識と実践を繰り返す。お姫ちんと仲良くなる→
三年目疲労からの発熱で休暇。理想と離れたと判断されアッチなビデオに出演を強制されるも逃走。軽度人間恐怖症と重度男性恐怖症を併発させながら765プロに到着→
何日か後に所属事務所の社長に土下座される。一年間引き篭もりに→
引き篭もりながら社会復帰を目指して346プロを紹介されて所属(アシスタント)。


事情が事情なので、業界に復帰している事を知っているのは少ない。ある程度の著名な人だと知っているけれど事情がアレなのでメイ自身が復帰するの待ち。
346プロのアイドル達は事情を知らない。メイも言ってない。

たぶんこんな感じです。

人間不信と男性不信に関しては結構適当です。なので世間的にソレを患っている方々の事なんてそれほど考えてないです。ご了承下さい。
そもそも「察しが悪い」上津さんは変に考えないので自然体に受け入れたり拒絶したりします。赤羽根さんを受け入れたのは貴音様とか春閣下や「あふぅ」の力です。



>>重度の疲労困憊による発熱
 限界ギリギリまで走る。というのが『上津メイ』です。アイドルであった頃のスケジュールは「働き過ぎ」の言葉を超える程度の働きです。
「休暇? 移動中に寝れるから大丈夫だな」


>>魔法使い
サイコパス。という扱いをするのが一番はやいかも知れません。当初はこの設定でも「普通だな!」とか思っていましたが、色々と続きを考えたりしているとサイコパスっぽい事が分かりました。
理想を上津さんに与えた張本人。理想だった上津さんが倒れて、理想が崩れたので切り捨てた感じです。
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