ゆかれいむ短編集   作:走る

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夏のある日のこと。

燦々と降り注ぐ日差し、蝉の鳴き声、風鈴の音。

大凡夏の定番と言って差し支えない物が耳や目に入ってくる縁側で。

私はといえば、

 

「・・・暑い」

 

夏の暑さに苦しんでいた。

いや私は、というよりは私達は、と言い換えたほうが良いだろう。その証拠に横を見ればほら。

 

「暑いわね~」

 

相も変わらず蒸し暑そうな格好をしたスキマ妖怪(八雲紫)がそこに佇んでいた。

要はいつも通りのドレスを来た紫が突然現れた訳であるが。私の返す返事といえば

 

「紫、お茶入れてもらえない?」

 

くらいのものであった。

まあ紫が突然現れるなどいつものことで、つまり慣れてしまっているのである。最近は勘で現れるのを察知できるようになったものの、知り合った当初はよく驚かされたものだ。なにせこいつは私をおちょくるのが大好きな様だから。

 

「あら、心外ね。私が大好きなのは霊夢を驚かすことじゃなくて霊夢の可愛い反応を見ることよ」

 

とまあ、心を見透かしたような発言もいつものことだ。

スキマから出てきたお茶とオマケとばかりの冷えた羊羹を受け取って、とりあえずはお茶にしよう。

 

「…ん、美味しい」

 

「ふふ、準備しておいたかいがあったわね」

 

「ついでにこの暑さも和らげば言うこと無しなんだけどねぇ」

 

「さすがにそれは無理ね。自然の摂理だと思って諦めなさい」

 

とはいっても、さすがにこの暑さには参ってしまう。倒れてしまうのは勘弁願いたいのだが。

 

「紫、ほんとになんとかならない?倒れちゃいそうだわ」

 

「あらあら、倒れられるのは困るわね」

 

そうね~、と悩むそぶりを見せて

 

「…こういうのはどうかしら?」

 

そう言って、徐に紫が抱きついてきた。

引き剥がそうとするが、紫の体がひんやりしているのに気がついた。

 

「…どう、気持ちいいでしょう」

 

「あー、そういえば紫ってそういうこと(体温調節)できたわね」

 

…とはいえこういうことをされると、私と紫の違いというものをまざまざと感じさせられて複雑な気分ではあるのだが。

そこらへんは割り切ったつもりでいたけれど、すこしばかり寂しい。幸いにして弱みを見せられる対象も側にいることだし、甘えることにしてみよう。

もぞもぞと動いて紫の膝の上に乗ってみると、ちょうどいい温度で気持ち良い。

 

「あら、今日は積極的なのね」

 

「いいでしょ、たまには」

 

「そうね。構わないけど両手が塞がっちゃったわ」

 

私の頭を撫でながらそんなことを嘯く紫。ちらりと顔を見れば、あーん、とでも言いそうに口を開けている。

一つため息をついて、口に運んでいた羊羹を紫の口に放り込んだ。

 

「ん~おいしい。いつもよりおいしいわね」

 

のども渇いたわねー、と緩んだ顔で此方を見てくるので、ため息をもう一つ。

湯のみを渡してもいいのだが、それではつまらない。余裕そうな表情が少し苛つくから驚かせてやろう。

紫の湯呑みを渡すふりをしてお茶を口に含む。紫は不満そうな顔をするが、すぐに胡散臭い笑みを浮かべた。おおかた間接キスだとか言って私を狼狽えさせるつもりだろう。

そのまま伸ばしてくる手を躱して、紫の顔を引き寄せる。面食らった顔をした紫に少し笑って、そのまま口づけた。膝立ちになって紫の口にお茶を流し込む。少しぬるくなっているかもしれないけど、そこは我慢してもらいたい。

 

「…どう、おいしい?」

 

「…ええ、とっても」

 

呆気にとられたような紫だったが、すぐにいつもの顔に戻った。というか、私を支えるための手がさりげなく胸に移動しているわけだが。咄嗟に両手で掴んで外したものの、危ない所だった。

 

「あら、ダメなのね。誘ってきたのは霊夢なのに」

 

「真っ昼間からってのはどうかと思うわ」

 

「昼間じゃなかったらいい、って言っているように聞こえるけど?」

 

「…今日だけ、だから」

 

そういうと紫は驚いた様子で目を瞬かせた。困惑しているようだが、私にだって人恋しい時くらいあるのだ。まあ紫は人では無いけれど。

抱き締めて肩に顔を埋めると、こちらの様子を察したようでゆっくりと頭を撫でてくる。そういう察しのいいところがいつも煩わしいけど、今だけはありがたい。

 

「ねえ霊夢、今日泊まってもいいかしら」

 

「…良いわよ」

 

「一緒にご飯食べて、お風呂入って、一緒に寝ましょう」

 

「…うん」

 

「今日は仕事お休みしましょう。今日だけは、私だけの霊夢で、あなただけの私よ」

 

「…わかった」

 

「だからほら、落ち込まないで。笑って頂戴」

 

「…ありがとう紫。」

 

嗚呼、本当に。そういう優しいところが大嫌いだ。

けれど私だけの紫、なんて言葉に私はどうしても笑顔を見せてしまうのだ。

 

「わがまま、聞いてよね」

 

「ええ、今日はなんでも聞いてあげるわ」

 

「ふふ、今日はいい日になりそうね」

 

そう言って紫に笑いかけると紫も笑い返してきた。

ひとしきり笑いあった後で空を見上げてみると、なんだかいつもより澄んでいる気がして。

紫の言葉でここまで良い気分になっている単純な自分が少し可笑しくて、くすりと笑ってしまう。

ただ、今日だけは。

 

 

 

「本当に、今日は最高の日になりそうだわ」

 

 

 

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