ゆかれいむ短編集   作:走る

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一富士 二鷹 三茄子

 

ごぉん、ごぉんと鐘の音が響いている。

それが後100回余り、正確には108回続くであろうことは想像に難くない。

 

108回衝かれる鐘、即ち除夜の鐘が行われている今は12月31日…大晦日だ。

この時ばかりは人里にも明かりが灯り、人々は思い思いの年越しを過ごしているようである。

無論夜中の事だから、人間が妖怪に襲われないようにとあちらこちらで慌ただしく動いている半妖やらもいるようだが、

 

「まあ、私には関係ないわね」

 

とお茶を啜りながら一人ごちる。

そもそも今更人里を襲おうとする妖怪は居ない。

警備を張り切ったところで取り越し苦労だろう。

そう思考を打ち切って、お茶のお代わりを注いだ。

 

人里の喧騒とは打って変わって、博麗神社にはお茶を啜る音が響くだけで参拝客もいない。

こんな夜更けにわざわざこの神社まで足を運ぶ物好きはいない、ということだ。

個人的には別に居なくてもゆっくりできて問題無いのだが、そういうところがまた巫女らしくないと馬鹿にされるのだった。

 

しかしまあなんで参拝客もいないのにこんな時間まで起きているのかと言われれば、一応巫女であるから神に詣でるため…ではなく。

 

紫のため、である。

別に紫になにかある訳ではないが、寝ている紫は年越しの瞬間を感じられないから代わりに見届けてやろう。

とそういう自己満足だ。

紫に話すわけでもないから本当になんの意味も無いが、習慣になってしまったから仕方無い。

 

「また一年が終わったのね…」

 

108回目の鐘が鳴ったのを聞いてそう呟く。

なんとなく感慨深いような、そうでないような妙な気分だ。

お茶の最後の一杯を飲み干して、片付けに掛かる。

いい加減寒くなってきた所だ。

さっさと洗い物を済ませ、湯たんぽを仕込んでおいた布団へ向かう。

寒い寒いと呟きながら布団に入ろうとして、なにやら封筒が置かれているのに気付いた。

表には綺麗な字で差出人の名前と宛名が書いてある。

…無論こんなことをする輩は決まっていて、差出人は紫だった。

 

「…紫の式も大変ね」

 

これを届けたであろう狐に少しばかり同情する。

忙しい時期に届け物までさせるとは、なかなか部下に厳しい上司である。

と、それはそれとして封筒の中身を確認した。

入っていたのはそこそこの額のお金と、

 

「…手紙?」

 

紫の文字で綴られたそれはどうやら、手紙らしかった。

二つ折りのそれをペラリと開いて読んでみる。

 

『霊夢へ

 

 

  突然こんなものを送ってごめんね。

  いつも年越しに立ち会えないから、代わりと

 言ってはなんだけど、こうして手紙を送る事に

 したわ。

  とりあえず新年の挨拶を。

  あけましておめでとう、今年もよろしくね。

  一緒に入ってるお金はお年玉です。

  ちゃんと考えて使うように。

  それと、正月だからってだらだらしちゃだめ

 よ。しっかりとした生活をすること、私との約

 束ね。

  

  本当はもっと書きたいけど、あまり長いのも

  あれだしこのあたりで。

  じゃあね、また春に。

  

                  

                  紫より』

 

「…あんたは母親か」

 

その内容にそんな声が漏れてしまう。

手紙をくれたのは素直に嬉しいけれど、内容はもっと考えて欲しかった。

溜息を零して、手紙を封筒にしまう。

そのまま枕元に置こうとして不意に思い付いた。

 

手紙をそっと枕の下に入れて、おやすみと呟く。

眠りに落ちていく中で、夢の中でぐらい会えたらいいな、とそう思ったのだった。




あけましておめでとうございます。
今年もゆかれいむしていきます。
よろしくお願いします。
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