カタカタ、カタカタ。
障子が揺れる音がする。
…妙に強い隙間風が身にしみる。
明日は雨になるかな、と思考が一つ浮かんで、また引きこれていく。
微睡んでいる時のように、夢か現か分からないような、そんな感覚にとらわれている。
ただただ胎児のように身体を縮めて、夢現の狭間を漂う。
…ふと、声が聞こえた。
慣れ親しんだ声。
愛しいひとの声。
私を呼ぶ声。
幼子を起こすような優しさを秘めた声に導かれて。
ゆめが、覚めた。
目を、開ける。
たったそれだけの事が、重労働のように感じる。
頭の中もぐちゃぐちゃで、何が何やら分からなくて。
まるで死人みたいね。
また、声が聞こえた。
気付けば目の前にすきまが開いていて、そこからしろい白いうでが伸びてきてわたしのあたまにふれて──
───おはよう。
スキマの中のダレカがそう、言った。
─おはよう、ゆかり。
口にできたか分からないその言葉は、確かにそのダレカに届いたみたいで。
腕に続いて肩が、頭が、身体が現れた。
わたしの大好きなひと。
さっきまでぐちゃぐちゃだった頭の中は、誰かに整理整頓されたようにスッキリしている。
─ね、霊夢、覚えている?
そう問い掛ける紫は、どこか緊張しているみたい。
─覚えているわ。
そう答えると、思わず息を零すくらいに。
覚えている、確かに覚えている。
私が誰かも、此処が何処かも、これから何をするのかも。
また、スキマが開く。
ころん、と中から零れ落ちてきたのは、指輪がふたつ。
それを握り締めた紫は、
─やっぱりこっちの方が、分かりやすいでしょう?
そう言って笑った。
そう、分かりやすさも重要だ。
これから行うのは一種の儀式だから。
ふたりの未来を束ねて、重ねて、ひとつにする。
わたしはあなたのもので、あなたはわたしのもの。
自然、左手を差し出す。
緊張した面持ちの紫は、ひとつ深呼吸をして、私の手を取った。
するり、と薬指に指輪を滑り込ませる。
たったそれだけの行為に、酷く集中していたようで、お互い止めていた息を吐く。
そして顔を見合わせ、少し笑って。
今度は私が、紫の左手を取った。
そして手渡される指輪のもう片方。
形は一緒だけどお互いの色の宝石を付けた、ふたりの為の契りの輪。
また、薬指に差し込む。
これで、お終い。
ではなく。
最後の誓い。
どちらともなく囁き出す。
─健やかなるときも、病めるときも。
喜びのときも、悲しみのときも。
富めるときも、貧しいときも。
貴女を愛し、貴女を敬い、貴女を慰め、貴女を助け。
その命ある限り、真心を尽くすことを誓います。
そして、ふたりの影が重なること暫し。
幻想の郷の外側で、ふたりぼっちの契りを交わした。