暗殺教室 月陽の時間   作:霧咲桐乃

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第4話です。
戦闘メインの回……のはずなんですが、戦闘描写が苦手なものでだいぶあっさりした文になっちゃってるかも……。どうかこれで勘弁してください!





伊月の時間

 

 一ヶ月前、その絶大なパワーで月を爆破し、来年の3月には地球をも破壊すると予告した黄色いタコのような超破壊生物──通称“殺せんせー”。

そんな彼が何故か担任教師を務めている椚ヶ丘中学3年E組の朝は、

 

「それでは、これからHRを始めたいと思います。日直の人は号令を!」

 

 殺せんせー自身の元気な声と、

 

「──構え(きりつ)!」

 

 彼の暗殺という使命を帯びた生徒たちの暗殺から、幕を上げる。

 

狙え(きをつけ)!」

 

 日直の渚の号令と共に一斉に殺せんせーに向けられた26の銃口。対して殺せんせーは、この状況でも変わらず不敵な笑みを浮かべていた。

 誰かが固唾を飲む音が聞こえ、一瞬の静寂の後。

 

撃て(れい)!」

 

 一斉射撃が行われ、百を優に超す銃弾が殺せんせーに襲い掛かった。無論、彼らが持っているのは本物の銃ではないので、射出される銃弾も本物ではない。殺せんせーにだけ効く特殊物質を配合したBB弾である。この弾丸が命中した部位は例外なく弾け飛ぶ……らしいのだが、

 

「それではこのまま出席を取ります。発砲中は発砲音で声が掻き消されてしまうので、呼ばれた人は大きな声で返事をして下さい」

 

 とうの殺せんせーはこの弾幕をマッハ20で避けながら出欠を取っていた。結局、この出欠確認の間に一斉射撃で殺せんせーを殺すことは叶わなかった。

 

「……ハイ結構です! 今日も遅刻・欠席者無し! 皆さん元気で先生も嬉しいです!」

 

 教室一帯に対殺せんせーBB弾が散らばる中で、殺せんせーは顔いっぱいに赤い丸の模様を浮かべながら出席簿を閉じた。

 

「ちくしょー、今日もダメだったか……」

 

「ヌルフフフ! この前も言いましたが、数に頼る戦術は個々の思考をおろそかにするので成功率は格段に下がります。もっと工夫しましょう!」

 

 そう言って殺せんせーはつぶらで小さい目を更に細め、緑のシマシマ模様を顔に浮かべた。ナメている時はこの模様になるらしい。

 

「それでは、HRの続きをやる前に教室に散らばった弾と銃を片付けましょう!」

 

 いつの間にか触手に持った箒やちりとりなどの掃除用具を高々に掲げて号令すれば、E組の生徒たちはため息を吐きながらも手馴れた様子で掃除を始めた。この手際の良さと先ほどの会話の内容から察するに、もう何度もこの戦法を使っているらしい。そして(ことごと)く失敗している。

 

「いやー、想像以上にとんでもないな、このクラス……」

 

 一斉射撃には参加しなかったが掃除の手伝いをしながら、伊月は改めてこの教室の異常性を認識した。そして今日から自分もその一員となる。そう考えて、伊月は密かに口元を緩めた。異常だが、おかげで退屈しない一年になりそうだ、と。

 

「……さて、それではHRを再開しましょう!」

 

 5分後、掃除を終えたE組はその殺せんせーの一言でHRを再開した。

 

「皆さんもすでに知っていると思いますが、今日からこのE組に新しい仲間が一人やって来ました。早速自己紹介をしてもらいましょう!」

 

 殺せんせーがそう言うと、クラスの視線が一気に伊月に注がれる。

 

「……自己紹介とか苦手なんだけどなあ」

 

 そう愚痴りながら伊月はしぶしぶ立ち上がり、「あー……」と頰を掻きながら口を開いた。

 

「えーっと……横河伊月です。まだこの教室のやり方には慣れてないけど、皆と一緒に暗殺出来たらいいなーって思ってるんで、これからよろしくお願いします」

 

 カクンと頭を下げ、一拍置いて響き渡る拍手の音。頭を上げると、E組のほとんど全員が笑顔で伊月を歓迎していた。

 

「よろしくね、伊月〜!」

 

「一緒に殺せんせーを殺そうぜ!」

 

 陽菜乃と磯貝の温かい言葉を受けて(磯貝のはなんとなく微妙な気分にさせられるが)、無意識の内に張り詰めていた肩の荷が下りたような気がした。伊月はほっと息を吐く。

 

「ヌルフフフ! 先生からもよろしくお願いします、伊月君!」

 

「うおっ!?」

 

 と、殺せんせーがマッハで視界に入って来た。一瞬の出来事に驚いた伊月は危うく転倒しそうになるが、すんでのところで踏み止まる。

 

「……まだ慣れてないんだからマッハで視界に現れんの止めてくれる、殺せんせー?」

 

「安心しろ横河、オレたちも慣れてねえから」

 

 いや、だから安心できないって。既視感と共に前原の言葉にそうツッコミたい衝動に駆られたが、バカバカしいのでやめた。

 

「まあいいや……ところで殺せんせー、あんた、聞いてた通り大した怪物みたいだな。素人とはいえ、クラス全員の至近距離からの一斉射撃を全部避けるなんて」

 

「そりゃあそうです。世界中の軍隊でもダメだったのですから、ただの中学生の君たちでは先生には傷一つ付けることはできませんよ、ヌルフフフ!」

 

 緑のシマシマ模様になりながら殺せんせーは笑う。

 

「あれー? でも殺せんせー、この前俺に触手一本破壊されたよねぇ?」

 

「にゅや、カ、カルマ君!? 折角最強無敵の超生物を演じてたのにそういうこと言わないでください! 恥ずかしい!」

 

 カルマの一言で途端に顔を真っ赤にした殺せんせーがぴょんぴょんと飛び跳ねる。ちなみに、その情報は既に陽菜乃と矢田から聞かされていたので、伊月はとっくに嘘だと分かっていたりする。

 

「……要するに、殺せんせーは殺すのは難しいけど、決して殺せない相手ではない」

 

「そういうことになりますねぇ。しかし、殺されるつもりは微塵もありません」

 

 ヌルフフフと笑う殺せんせー。対して伊月は、「そりゃあ良かった」と獣のような笑みを浮かべていた。

 

「……なら、やっぱり試してみるのも良さそうだ」

 

「──っ!?」

 

 次の瞬間、殺せんせーは驚愕の表情で教壇に移動していた。そして、殺せんせーの顔と彼の視線の先を順に見ていったクラスメイトたちも、“それ”を見て驚愕に顔を染めた。

 

「ま、まさか!?」

 

「おいおい……嘘だろ……!?」

 

 殺せんせーの触手が、消えていた。

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「な、なんで……」

 

 E組の生徒たちは、一瞬何が起こったのか分からなかった。自己紹介を終えた伊月に殺せんせーが近付いて、ほんの少し話をしていたと思ったら、次の瞬間には殺せんせーは慌てて教壇に戻り、消えてしまった片方の触手を凝視していた。

 消えていた、というのは語弊があるかもしれない。正確には破壊されていたのだ。もっと正確に言えば、まるで刃物で切られたかのような切り口だった。

 

「──やっぱり速いな。確実に首を撥ねたと思ったんだけど、咄嗟に触手でガードしたのか」

 

 声。全員の視線がその声の主に注がれる。そこには、さっきまで無かったはずの刀を握る伊月の姿があった。

 

「い、伊月君……それは、一体……!?」

 

 冷や汗を浮かべながら殺せんせーが尋ねる。彼には、伊月の手からいきなり刀が出現したように見えた。

「これですか?」と指差された刀に目をやって、伊月は答える。

 

「烏間先生から貰った新しい武器ですよ。オレが頼んだんです」

 

 三日前、烏間ら防衛省が伊月の家に来て対殺せんせー用の武器を見せてもらった時、伊月はこれではダメだとすぐに悟った。理由は至極単純だ。自分は剣道部で長いこと竹刀や木刀などの長い得物を扱ってきたから、ナイフや銃は使いにくいだろうと思ったのだ。だから別れ際、伊月は烏間に頼んだ。刀と同じくらいのリーチがあり、かつ暗殺用に調整された武器を作って欲しいと。伊月の剣の実力を事前に知っていた烏間は、この頼みを快く承諾した。

 そうしてできたのが、この“対先生ブレード”である。初期状態はナイフよりも短い20センチ台の長方形の物体だが、これは全体の柄の部分にあたり、側面に付随しているボタンを押すと中に格納されている刀身が隠し刀のように飛び出すという仕組みになっている。伊月はこれを使って殺せんせーの死角から刃を出し、触手を切断したのだった。

 

「なるほど……君の実力を最大限に発揮でき、かつ隠密性にも優れた武器というわけですか。これは手強い」

 

 一通りの説明を受けてから殺せんせーは呟き、ズルリと斬られた触手を再生した。例え部位の破壊に成功しても、致命傷でない限りはすぐに再生してしまう。その事実も事前に聞いているので、伊月は大して驚きはしない。

 

「ですが、原理が分かってしまえばこっちのものです。同じ方法を二度も喰らうほど先生も馬鹿ではありませんよ?」

 

「そんなことは百も承知さ。殺せんせーがそこまで馬鹿だったらとっくに殺されてるだろうしね。でも、オレの暗殺はまだ終わらない。まだ、とっておきの技が残ってるんでね」

 

 そう言って伊月はゆったりとした足取りで愕然と座っているクラスメイトたちの間を縫い、殺せんせーの前に立つ。

 そして、彼の目の前でその構えを作った。

 

「その構えは……!?」

 

 腰を深く落として体は相手に対して半身に向け、ブレードは右手だけで持ち体のやや後ろに地面に水平となるように置き、自由になった左手は照準器のように前に突き出す。

これが、伊月の最も得意とする技──片手一本突きの形である。

 

「牙◯! その構えは牙◯ね!」

 

 伊月の構えを見て、ガタリと興奮気味に立ち上がった少女が役一名。不破優月である。伊月は彼女の発言を有意義に無視した。まあ、“あの技”をリスペクトしたことは確かなので、否定はしないが。

 今はそんなことどうでもいい。

 

「言っておくけど、この技を防いだり回避できた奴は一人もいない。果たしてこれが超生物の殺せんせーに効くかどうか、オレの剣が届くかどうか、試させてもらう!」

 

「……いいでしょう、受けて立ちます!」

 

 殺せんせーは逃げも隠れもしなかった。自分の命が懸かっているというのに、真正面から立ち向かっていた。

 なるほど、怪物だけどいい教師みたいだ。目の前の先生を見て、伊月は頰を緩ませた。しかし、すぐにそれを引き締める。

 

「行くぞ……!」

 

 呟き、体勢を整える。シンとした静寂が教室を支配した。全員がこの暗殺の結果を見守っていた。

 そして──

 

「(なっ──!!?)」

 

 次の瞬間には、殺せんせーの目の前に伊月のブレードの切っ先が迫ってきていた。その距離、わずか5ミリ。殺せんせーは慌ててその突きを避け、貫く的が無くなったブレードは吸い込まれるように黒板に突き刺さり、激しい衝突音を響かせてその刀身をヘシ折った。

 

「チッ、避けられたか……」

 

「……伊月君、今の突きはただの突きではありませんね……?」

 

 小さく舌打ちをこぼす伊月にそう尋ねた殺せんせーの頰には、一文字の切り傷が付いていた。溶けた殺せんせーの体液が血のように流れ出る。

 その光景に、E組の生徒たちはやはりただ愕然とするしかなかった。彼らには、伊月が独特の突きの構えをし、普通に殺せんせーを突いたようにしか見えなかった。しかし、殺せんせーだけは違った。殺せんせーには、伊月が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「君の実力だからこそできる、“動きを極端に制御した突き技”。確かに相手が先生か相当の手練れではない限りは、この技を防ぐことはおろか避けることも不可能でしょう」

 

「……ハハ、さすが。今の一発だけでもうそこまで見切ったのか」

 

 殺せんせーの説明が終わり、伊月は空気を抜くように肩から力を抜いて笑った。ついさっきまで浮かべていた獰猛な笑みではなく、磯貝たちに見せていたような無邪気な笑顔だった。

 

「まあとにかく、切り札も使ったし、対先生ブレードも壊れちゃったし、オレの暗殺はこれで終わりだよ。わざわざ付き合ってくれてありがとうな」

 

「おやぁ? もう終わりですか? 先生はまだまだ余裕なんですがねぇ」

 

 殺せんせーは緑のシマシマを浮かべた。殺したくなった。

 

「たく、何言ってんだよ殺せんせー。横河に触手一本破壊されて、挙げ句の果てには突き殺されかけて内心かなり焦ってるくせに」

 

「にゅやっ!? 前原君、先生の心を読まないでください!」

 

 前原のフォローで再び赤い顔で飛び跳ねる殺せんせー。気の利く友人に伊月はグッと親指を立てた。

 

「ま、今日は無理だったけど、オレの剣が殺せんせーにも届くってことは分かった。だからオレは、オレの技をもっと鋭く磨いて、卒業するまでに絶対に先生を殺してやるよ」

 

 ブレードは壊れて使えないので、ナイフを取り出してその切っ先を殺せんせーに向ける。

 

「殺せるといいですねぇ、卒業までに」

 

 そんな伊月に、殺せんせーはやはりヌルフフフと不敵に笑うのだった。

 

 





序盤って割と調子よく執筆できるんですよねぇ。怖いのが、その後にグダッてしまうことです。

共感してくれる人がいるといいなぁ……
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