暗殺教室 月陽の時間   作:霧咲桐乃

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うーん……オリジナルの展開を書くとどうにも表現やラストの終わらせ方が上手くいかない……。
言語力と表現力の限界を思い知った第8話でした。




集会の時間

 イリーナ・イェラビッチがE組の英語教師として正式に迎えられてはや数日が経ったある日の昼休み。

 E組の面々は山を降りるために旧校舎を出た。理由は、本日行われる全校集会にいち早く整列するためである。全校集会なんて全国の学校で行われている行事だし大したことはないなと思うかもしれないが、この椚ヶ丘中学では違う。全校集会とはE組にとっては名ばかりの、全校生徒・職員に()()()()馬鹿にされに行く忌まわしい行事である。しかも校舎が山奥のため昼休みを返上して山を下らなければならず、もし一秒でも遅れようものなら厳しいペナルティが課されるという非常にありがたくないオマケ付き。

 こうして説明するだけでも憂鬱になるくらいE組には忌み嫌われている行事なのであった。

 

「──てなワケで、オレはサボりまーす」

 

と、憂鬱になってしまった伊月は、皆が進んで行った方とは反対方向に歩き出す。

 

「い・つ・きー」

 

「げっ……」

 

が、そんな彼の前に立ち塞がったのは眉を逆『ハ』の字に吊り上げた陽菜乃だった。しまった、と伊月は心の中で呟いた。

 

「本校舎はそっちじゃないよ、どこに行くのかな?」

 

「い、いや〜、全校集会は面倒だから、オレもカルマに倣ってサボろうかな〜と……ってイテテテテッ!? ちょっ、ヒナ痛い! 痛いって!」

 

 幼馴染だからこそ分かること、それは彼女に嘘は通じないということ。だから伊月は正直にサボろうとしたことを白状したが、その瞬間、耳を引っ張られる羽目となった。

 

「まったく、今までサボりとかしたことのない人がいきなり何を言っちゃってるんだか」

 

「……仕方ないだろ。全校集会なんて出たくないんだから」

 

「そんなの皆そうだよ。だからって逃げちゃダメでしょ? 嫌だからって逃げるなんて、そんなの伊月らしくないよ」

 

 耳を引っ張りながら陽菜乃は言う。そんな彼女に、伊月も「むぅ……」と観念したように息を吐いた。

 

「……分かった、行くよ。そう言われちゃ行かないわけにはいかないしな」

 

「うん、それでこそ伊月!」

 

 満足そうに頷いて、陽菜乃はパッと耳を解放した。そうして鼻歌を歌いながら前を歩き始めた彼女を見て、伊月は赤く腫れた耳を摩りながらもう一度息を吐く。

 

「暗殺の訓練のおかげでだいぶ力強くなったな、ヒナ……」

 

 要するに、とても痛かった。

 

 

 山道を下って本校舎に到着し、誰もいない体育館に整列して待機するE組。しばらくすると本校舎の生徒たちがぞろぞろと集まり出し、彼らはE組を見てはクスクスと笑い声を上げていた。

 

「……ったく、ホント居心地の悪い学校だな」

 

 列の最後尾から二番目の位置に並ぶ伊月がそう呟けば、隣に並ぶ矢田は「あはは」と苦笑していた。

 全校生徒が揃ったところで全校集会が開会し、まず最初に校長が登壇しする。長々と聞きたくもない無駄話が続く中、校長は話の矛先を不意にE組に向けた。

 

『……要するに君たちは全国から選りすぐられたエリートなのです! この校長が保証します!……が、油断しているとどうしようもない誰かさんみたいになっちゃいますよ?」

 

 その瞬間、E組以外の全生徒の笑い声が体育館に響き渡った。校長は「言い過ぎました」と言いながらもその顔は緩んでいるので、明らかな確信犯である。しかし、ここは()()()()()なのだ。E組である伊月たちには反論する資格も権利もない。いかに悔しかろうと、この嘲笑の嵐に耐え続けなければならないのだ。

 校長の話がようやく終わり、次の生徒会からの発表の準備のために少しの間待機していると、突然体育館の扉が開き、烏間が入って来た。

 

「どうも、E組の担任の烏間です。別校舎なので、この場を借りてご挨拶をと」

 

 そう言って本校舎の教師陣に会釈をする烏間。暇を持て余していた本校舎の生徒たちは、そんな彼の姿を見てにわかにざわつき始めた。

 

「……誰だ、あの先生?」

 

「シュッとしててカッコいい〜……」

 

 やはりというかなんというか、クールな顔立ちをしている烏間は、ここでも女子の人気が高かった。挨拶を終えて教師列の端に並んだ烏間は、そこでデコレーションしたナイフケースの見せ合いをし、ついには「可愛いでしょ〜」と自分に見せてくる陽菜乃と中村の姿を見て、慌てて二人に駆け寄った。

 

「(可愛いのはいいがここでは出すな! 他のクラスには秘密なんだぞ、暗殺のことは!)」

 

「「(は、はーい……)」」

 

 そんな光景に羨望の眼差しを向ける本校舎女子生徒たち。それを気に食わなさそうに見ていた男子生徒たちだったが、また体育館の扉が開き、入って来たもう一人を見て驚愕に目を見開いた。

 

「ちょっ、なんだあの物凄い体の外国人は!?」

 

「あいつもE組の先生なのか……?」

 

 言わずもがなイリーナである。彼女は烏間の隣に並んだと思うとおもむろに渚の所に歩み寄り、

 

「渚、アンタあのタコの弱点、全部手帳に記してたらしいじゃない? ちょっとその手帳おねーさんに貸しなさいよ」

 

「え、い、いや……役立つ弱点はもう全部話したよ」

 

「そんなこと言って、肝心なトコ誤魔化すつもりでしょう?」

 

「いや、だから……」

 

 頑なに手帳を渡そうとしない渚に耐え切れず、イリーナは彼を抱き締めてその豊満な胸に顔を押し付けた。

 

「いーから出せってばこのガキ! 窒息させるわよ?」

 

「く、苦しッ……胸はやめてビッチ先生!」

 

 どう見てもセクハラにしか見えない二人のやり取りに、後ろで見ていた伊月は苦笑をこぼす。

 

「よくもまあ、公衆の面前で何の恥じらいもなくあんなことをできるな、あの人……」

 

「あはは……まあ、ビッチだから」

 

 ビッチという単語がこれほどまでに万能な言葉に聞こえてしまったことがかつてあったであろうか。

 

『……はい。今皆さんに配ったプリントが、生徒会行事の詳細です』

 

 醜態を晒すイリーナを烏間が連行し、ようやく周辺が落ち着いてきた頃、壇上の生徒会が準備を整え終えて生徒たちにプリントを配った。

 

「え、何? 俺たちのは……?」

 

 E組の分のプリントが配られないまま話が進行されたので慌てて岡島が前方の磯貝と岡野に尋ね、岡野はそんな彼に配られていないと指でバツ印のジェスチャーを送った。

 

「すいません、E組の分がまだなんですが……」

 

 磯貝が手を挙げて壇上の生徒会役員に尋ねると、役員は「ええ?」と驚いたように表情を変えた。

 

『無い? おかしーな』

 

 そう言ってポリポリと困った顔で頭を掻き、しかしすぐに彼はいやらしく笑い、

 

『ごめんなさーい、3ーEの分忘れたみたい。すいませんけど、全部記憶して帰ってくださーい』

 

 そして再び体育館に大笑いの声が響き渡った。学校によるE組の差別は徹底して行われていた。響き渡る嘲笑にE組の生徒たちはとうとう前を向くことも耐えられなくなり、拳を固く握りながら俯いた。

 そんな彼らの頰に突然一瞬の突風が吹き打ち、一枚の紙が叩きつけられたのは、そんな時だった。

 

「……これは?」

 

 ひらひらと舞い落ちるその紙を手に捕って見てみると、タイトルには『生徒会だより』と大きく記されていた。

 

「磯貝君、問題ないようですねぇ。()()()()コピーが全員分あるようですし」

 

 いきなり目にも留まらぬ速さで出現した『生徒会だより』に驚く彼らの耳に届いた聞き慣れた声。クルクルとボールペンを弄ぶ殺せんせーが、いつの間にか烏間の真横に佇んでいた。

 

「殺せんせー……はい! あ、プリントあるんで、続けてください」

 

『えっ!? う、ウソ、何で!? だ、誰だよ、笑いどころ潰した奴……あ、いや……ゴホン、続けます』

 

 『生徒会だより』を見せて言った磯貝に役員は今度こそ驚きの表情を作り、思わず本音が出てしまうほどに動揺したが、すぐに切り替えて本題に移った。

 

「……殺せんせー、寂しくなって来ちゃったみたいだね」

 

「みたいだな。ったく、揃いも揃ってウチの先生は」

 

 存在自体が国家機密である殺せんせーは、烏間から全校の場には顔を出すなと強く釘を刺されていたのだが、まさか変装してまで出てくるとは思わなかった。しかも、本人は自信満々な顔をしているが、変装のクオリティはすごく低い。黄色い体色は人間の肌色に変わり、触手もバレないように手袋をはめているので一見すれば“大柄な人”に見なくもないが、基本ウネウネしているので関節が曖昧だし、付け鼻もすぐに付け鼻と分かるしカツラもズレているから本校舎の生徒・職員には不審者にしか見えず怪訝な視線を殺せんせーに送っていた。

 しかし、殺せんせーの登場はE組にとってこれ以上なく心強く思えた。途中でイリーナがそっと近付き対先生ナイフを振るうが、殺せんせーに止められる前に烏間に腕を決められて退場させられ、それを見て伊月たちの顔にも自然と笑顔がこぼれた。

 こうして居心地が悪かった全校集会は、先生たちの活躍(?)によっていくらかマシな状態で終えることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、しっかしビッチ先生もしょうがねーなー。あそこで暗殺なんてしたら、烏間先生に追い出されんのは当たり前だって」

 

 閉会後、生徒たちがそれぞれのクラスへと戻っていく中で、伊月も旧校舎に戻るために友人たちと外へ出た。メンバーは伊月を含め陽菜乃、矢田、磯貝、前原、岡野の六人である。

 その道中、頭の後ろで手を組んだ前原が思い出したように笑った。

 

「確かに。でも、そのおかげで居心地の悪さはいくらか解消されたし、結果的には良かったんじゃない?」

 

 前原の言葉に岡野も賛同し、談笑しながらE組校舎へと続く山道に差し掛かろうとした時だった。

 

「──オイ、ちょっと止まれ」

 

 彼らの後ろから聞こえてきたドスの効いた低い声。振り返ると、五人ほどの男子生徒が立っていた。彼らを見て、伊月が真っ先に反応を示した。

 

「……加藤」

 

「よぉ、久しぶりだな横河クン! すっかりE組のバカ共と仲良くなっちまったみたいで」

 

「……ンだと?」

 

「えっと……伊月君、この人たち知り合い?」

 

 『加藤』と伊月に呼ばれた五人の中で一際体格の大きい男子の言葉に前原が反応し、矢田が尋ねる。伊月は彼女の言葉に小さく頷いて、前に出かけた前原を手で制した。

 

「こいつらは剣道部の部員だ。昔の部活仲間さ」

 

「剣道部の……」

 

「ああ、そうさ。だが間違ってるぞ横河。俺たちは今も昔もお前のことを仲間だなんて思ったことはねえ」

 

「………オレに一体何の用だ?」

 

 加藤の言葉に反応を示さずに、伊月は単刀直入に聞いた。すると加藤は「決まってんだろ」と呟いた。

 

「横河……お前、まさか“あの事”を俺たちが許したって思ってねえよなァ?」

 

「……………」

 

「い、伊月……」

 

 ピクリと伊月の眉が僅かにはねた。後ろで控えていた陽菜乃も、彼の言葉に反応して思わず伊月の名を呼んでしまう。

 

「……当たり前だろ。たかが頭を下げたくらいでお前たちに許してもらえたと自惚れるほど、オレはバカじゃない」

 

「そうだろうなァ。なんてったって、テメェのせいで俺たちまで酷い目にあったんだ。許すわけには行かねえもんなァ」

 

「……別にオレはお前たちに許してもらおうだなんて思っていない。恨まれても文句が言えないことをやってしまったのは事実だからな」

 

「だったら……」

 

「だが、これ以上お前たちに謝るつもりもない。オレはちゃんとお前たちに謝罪してけじめはつけた。それをお前たちがどう引き摺ろうが、オレの知ったことじゃない」

 

「テ、テメェ……上等だよ」

 

 伊月の言葉を聞いて、加藤は額に青筋を浮かべながら指を鳴らした。

 

「テメェがそういう態度を取るなら俺たちのやることは一つだ。テメェが本校舎にいた頃は問題になるから何もしなかったが、E組に落ちたんなら話は別だ……E組に何をしようと、こっちが正義になるんだからなァ……」

 

 そう言って加藤は取り巻きの部員から木刀を受け取った。

 

「こっちは木刀、お前は素手。全国優勝のヒーロー君も剣がなくちゃ流石に戦えないよなァ?」

 

「…………」

 

 勝ち誇ったような顔で木刀を構える加藤に後ろで控えていた前原と磯貝が身構えるが、伊月は再度彼らを手で制しポケットの中に手を入れ、対先生ブレードに触れた。

 

「(……使うか?)」

 

 そんな考えに至り、すぐにいやダメだと頭を振る。これを受け取った際、『人に対しては使わない』と烏間と約束したのだ。そして烏間は信じると言ってくれた。こんなことで彼の信頼を裏切るわけにはいかない。伊月はポケットからそっと手を出した。

 

「……へへ、どうやら抵抗が無駄だってことを理解したようだな。じゃあ、そろそろ覚悟してもらおうか?」

 

 抵抗の意思を見せることなくだらりと腕を下げた伊月を見て加藤が卑しく笑い、襲いかかろうと足を動かした。

 

「──やめなさい、あなたたち!」

 

 その時、そんな少女の声がその場にいる全員の耳を打った。即座に前原らE組のメンバーはその声のした方に目を向け、加藤たちは大きく肩を震わせた。

 

「ぶ、部長……!?」

 

「坂井……!」

 

 『坂井』と加藤たちに呼ばれたその少女は、双方の間に割って入り、伊月たちを一瞥するとすぐに彼らに向き直った。

 

「……あなたたち、一体何をしているの?」

 

「い、いや、これは……」

 

「俺たちは、何も……」

 

 少女の鋭い眼光にたじろぐ部員たち。しかし、加藤だけは違った。

 

「テメェには関係ねーだろ坂井! これは俺たち男子の問題だ。女子は口出しすんな!」

 

「……………」

 

 怒鳴る加藤に対し、坂井は臆することなく彼を睨みつけていた。そして、そのまま彼にゆっくりと近づいていきその顔を思い切り殴り飛ばした。

 

「い、痛え!?……な、何しやがる!」

 

「剣道と、剣道で磨いた技はとても神聖なものなのよ。それを人を傷つけるために使うだなんて……恥を知りなさい!」

 

「うぐっ……」

 

 坂井の鋭い眼光と怒気を含んだ言葉に圧倒され、加藤は大きく歯軋りして黙り込む。そして立ち上がり、恨みのこもった視線で伊月を睨みつけ、

 

「覚えてろよ、横河……いつか絶対お前を土下座させて、踏みつけてやる……!!」

 

 呪うように禍々しく呟いて、他の部員たちとその場を去っていった。彼らの背が校舎に入っていくのを見届けてから、ゆっくりと坂井も校舎に戻るために歩き始める。

 

「……待ってくれ、深央」

 

 そんな彼女の背中を、伊月は呼び止めた。

 

「………何かしら?」

 

「いや……助かったよ、ありがとう」

 

「……別に、あなたのために彼らを止めたわけじゃないわ」

 

 伊月の言葉に振り返り、先ほど加藤らに向けたような眼光で睨みつけて言う。

 

「ただ私は、E組()()()と問題を起こして、ただでさえ低くなった剣道部の評価をさらに下げたくなかっただけよ」

 

「深央……」

 

 冷たく言い放たれ、言葉に詰まる伊月。そんな彼から坂井は視線を外し、彼の後ろで佇む陽菜乃を睨みつけた。

 

「……相変わらず仲が宜しいようで」

 

 そう呟いて伊月たちに背を向け、再び歩き始める。

 

「ま、待って! ()()()()()!」

 

 と、そんな彼女を今まで黙り込んでいた陽菜乃が意を決したように呼んだ。

 

「その名で私を呼ぶなッ!!」

 

 しかしその瞬間、坂井の凄まじい怒声と怒気が陽菜乃の肩を大きく震わせた。その殺気にも似た怒気に気圧された陽菜乃はこれ以上何も言えなくなり、坂井もそんな彼女の話を聞くそぶりも見せずに一度も振り返ることなく本校舎の中へと消えていった。

 

「深央………」

 

「…………」

 

「……なーんか、可愛かったけどかなりキツイ娘だったな」

 

 坂井がいなくなり、気まずい沈黙が六人の間に流れる中、そんな雰囲気を変えようと前原が苦笑いしつつ口火を切った。

 

「坂井か……同じ剣道部だし、横河と知り合いなのは分かっていたけど……」

 

「倉橋さんとも知り合いだったんだね……でも彼女、倉橋さんのことを大分嫌ってたみたいだけど……」

 

「そ、それは……」

 

 坂井が陽菜乃に対して怒鳴った時、前原たちは彼女の顔を見ていた。まるでド怒りで真っ黒になった殺せんせーのように、射殺さんと言わんばかりの形相で陽菜乃を睨みつけていた。並々ならない事情が無ければあんな顔はできないだろう。

岡野の問いに陽菜乃は顔を俯かせた。

 

「ヒナは何も悪くない」

 

 と、躊躇いを見せる陽菜乃の肩にそっと手を置き、代わりに伊月が答えた。

 

「あいつは、オレがE組に落ちたのはヒナの所為だって思ってるんだよ」

 

「それって……伊月君が起こしたっていう暴力事件のこと?」

 

「ああ……」

 

 伊月が起こした暴力事件。磯貝たちが聞いた話では剣道大会での出来事だったらしいが、詳しいことまでは分からない。伊月も、矢田の言葉に頷くのみでこれ以上話そうとはしなかった。

 

「……でも、みーちゃんの言う通りだよ。実際、原因はわたしだったんだし……」

 

「ヒナ、その話はもうしただろ? ヒナは何も悪くない。だから責任を感じる必要はない。それに、オレはE組に来て良かったって思ってるんだ」

 

「え……?」

 

 陽菜乃は首を傾げた。伊月はそんな彼女の頭を優しく撫でながら、ニッと笑顔を見せる。

 

「だって、E組に来たおかげでヒナと一緒に過ごせるようになったからな」

 

「あ………」

 

 その瞬間、陽菜乃の顔が赤く染まった。咄嗟に視線を外し、伊月に顔が見えないように尽くす。

 

「あ…ありがとう……」

 

 視線を外しながらも何とか礼を言う。伊月はその言動に首を傾げつつも追求はせず、磯貝たちに目をやった。

 

「皆も悪いな。個人的な問題で余計な心配をかけた」

 

 謝ると、彼らは気にするなと笑みを向けた。

 

「こういうのはデリケートだろうからな、オレらからは何も聞かねえよ」

 

「うん、でも伊月君、伊月君もE組の仲間なんだから、何か辛いこととかあったら一人で抱えないで相談してね」

 

「矢田……ああ、ありがとな」

 

 やっぱりE組に来て良かった。伊月は改めてそう実感した。何かと不遇で冷遇されているE組だが、きっと良い一年になるに違いないと思った。

 

「さて、そろそろ旧校舎に帰ろう。それで殺せんせーを暗殺して、その後皆でどこか飯食いに行こうぜ?」

 

「おっ、いいねー!」

 

「私も賛成!」

 

 伊月の提案に全員が賛成して山道を登り始める。その時、伊月の手を陽菜乃が取った。

 

「ん? どうした、ヒナ?」

 

「えっと……特に理由はないんだけど、このまま手繋いでても、良いかな?」

 

「……ああ、良いよ」

 

 好きなだけ繋いでてやるよ。伊月は、陽菜乃の手を強く、しかし優しく握った。きっと、伊月はただ幼馴染としてやっているだけで何とも思っていないのだろう。()()()()()()()など全く知らずに、こうして優しくしてくれるのだ。

 

 でも、今はまだこれでいい。

 

 この小さな幸せで、今は充分だ。

 

 掌から伝わる温もりを胸いっぱいで感じながら、陽菜乃は伊月と共に山道を歩き続けた。




というわけで、今回登場したオリキャラ二人です。キャラ設定のところで『オリキャラ設定』として出すつもりですが、現状では1000時に届かないのでここに記載しておきます。本文には書けなかった設定がありますので、一読していただけるとありがたいです。



名前:坂井深央(さかい みお)

年齢:15

誕生日:5月7日

身長:162cm

体重:51kg

血液型:A型

好きな教科:国語

嫌いな教科:理科

趣味・特技:読書・剣道

所属部活:剣道部

好きな食べ物:水羊羹

イメージCV:櫻井浩美

備考
椚ヶ丘中学剣道部の主将で伊月、倉橋の幼馴染。祖父の道場で2歳の頃から剣道を学んでいるため、伊月同様全国大会で優勝するほどその実力は高い。また、勉強の成績も良いためA組に所属し、その中でも上位に入っている。伊月と倉橋とは親友と呼べるほど仲が良かったが、とある事件とそれによって二人がE組に落ちてからは疎遠になっており、またその関係で倉橋のことを激しく敵視するようになる。



名前:加藤

年齢:15

身長:187cm

体重:89kg

イメージCV:徳本英一郎

備考
椚ヶ丘中学の剣道部に所属する大柄な男子生徒。伊月が剣道部に所属していた頃は二番手として活躍していた。得意技はその大きな図体を活かした面と突進で、小学生の時はかなりの実力者だったが、椚ヶ丘に入学して伊月と対戦し惨敗。以降、伊月に憎悪にも似た対抗心を燃やしている。

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