「あぁー……どうしろってんだよ……」
自室のベッドでうつ伏せで呻く。
自分が西木野真姫になったと自覚して早二時間。今は、もう午前の一時近い。
なんでこうなってしまったのやら。
無駄に軽い性格をしている自称神に会った覚えもないし、また西木野真姫と自覚する以前の記憶というものが曖昧すぎる。
かろうじて男であったこと、高校生であったこと、ラブライブのこと、また他のサブカルチャー的な作品のこと、友人や両親のことなどはなんとなくであるが思い出せる。
しかし自分がどんな人間であったか、自覚する直前に何があったか、どんな人生を歩んだか、などはまったく分からん。
いやまあサブカルチャー的な作品を知っている時点でどんな人間であったかは推して知るべしではあるが。
自分の前世(死んだかも分からんが仮称しておく)が分からない以上、現状をどうするかに重点を置く必要がある。
まず、生活。
今後私は西木野真姫として生きていかねばならん。ならば西木野真姫として、何が必要か?
ラブライブ内での西木野真姫はまず、総合病院を経営する両親を持つ。そして西木野真姫はその一人娘なわけで、つまりは将来病院を継ぐわけだ。
なので医学の知識が必要だ。それも勉学として、医大に入り卒業し、免許を取得する程度には。
無理に決まってんだろ。
医大ってお前、どれほど難関か理解してるのか? いやそれ以前に医学的知識の量といったら、人生一回分程度には相当しそうだ。
病のこと、またその対処法、原因、薬物、手術、検査、その他もろもろ、と。
病だけで幾つあると思ってる……。
そして次に、ピアノ。
西木野真姫は幼少の頃にピアノ教室に通っており、その実力はコンクールにおいて小学校低学年でありながら高学年を押して二位になるほど。
要は推して知るべし。
無理に決まってんだろ。
一概には言えないが、楽器というものはつまるところ慣れだ。
初めてやって出来るはずもなく、幾度となく練習を積み重ね、慣れ、また身に付け、やっと演奏となる。
残念ながら私はピアノなんぞ多少触った程度である。実力なんぞ、それこそコンクール出場すら不可能だ。
更に言えば、西木野真姫は作曲もできねばならん。
西木野真姫は作中において、作曲者としての活動もしていた。
ラブライブに出てくる楽曲もある程度覚えているが、それを譜面におこすなど私にはできん。なんとなくリズムと調、符を連ねること程度だ。
そして最後に、性格。
これは語るまでもない。
結論から言えば、無理だな。
私に、西木野真姫として生きるなぞ不可能である。
「マジでどうしろってんでよ……」
□
ーージリリリリリ!
やかましく鳴り響く時計の騒音に目が覚めた。とはいえ、いまだに睡魔が重い腰を上げようとしないが。
がちゃっと私の睡眠を邪魔する愚かなる時計を止め、ベッドから起き上がる。
ノロノロした速度で寝間着を脱ぎ、きちんと畳んで仕舞う。同時に制服を取り出し、やはりノロノロした速度で着ていく。
そして鞄を手に持ち愛しの自室からリビングへ。
「あら! あんな恥ずかしい格好でーー」
朝のニュース番組で組まれた特集を見た母の唐突なお小言的な言葉を華麗に受け流し、モソモソと朝食を口に運ぶ作業を続ける。
トマト美味い。やはり日本人はトマトだな。どんな日本人だよ。
モソモソ、モソモソ。これは今流行りの米で作ったパンだな? このモチモチ食感、ほんのり残る米粒、炭水化物特有の甘味。うむ、トマトに合う。
食べ終えてさっさと家を出る。母の謎の私わっしょいを華麗にスルーし、登校ルートに乗る。
………………
…………
……
「んぁ……?」
そして気付けば往来のど真ん中にいた。
え、なにこれ怖い。私何してたの?
えーちょっと待って。記憶掘り返すから。
なんだっけ、朝起きて飯食って家出て登校中。一行で終わった。
……なんでこんなスムーズなん?
私はここまで、ほぼ寝ぼけた無意識状態でやっていた。
無意識の行動というものは、得てして体に馴染んだ動きをするものだ。
つまるところ、体が覚えていたってことか?
やはり、この体は西木野真姫のものなんだな。
ならば、西木野真姫の意識はどこにある?
私が乗り移った、とでも言うような現在の西木野真姫の体。そして体は無意識の状態で、いつもの行動というものをとってくれた。ならば、この体は私が自覚するまではちゃんと『本来の西木野真姫』であったことの証明にもなる。
要は元から私がこの体ではなかった、途中から割り込んだ存在が私であるということ。
……本来の西木野真姫は、どうなってしまった?
「……あれは……」
考え事をしながら歩いていたせいか、いつの間にか学院の校門まで来ていた。
というかよくルート分かったな、私。やはり西木野真姫が覚えていたのだろうか。
そして視線の先には、五人の少女。
何やら音楽に合わせて踊っている。どこかで聴いた曲だな。あぁ、今朝のニュース番組で流れていた曲だ。
というか、何か既視感を感じる。デジャビュといったか。
いや、私は本当にこのシーンを知っているーーー?
あれおもっくそμ'sじゃねーか!
あぁ気付いたよ。そういや私は西木野真姫だったな。
それならμ'sの面々がいても不思議はない。
そして更に気付いたよ。これ、あれだろ。
漫画版だよ。
思えば伏線はあった。
そう、母のことだ。
漫画版での両親は西木野真姫をして『俗物』と呼ばれる程度には地位と名誉が好き……というか、優先するきらいがある。
そして今朝の母を思い出せば、やれ『アナタは試験の点がーー』だの『将来は病院のーー』と。
なるほど俗物だな。
そして目の前の光景もそうだ。
アニメ版では一年生組、『小泉花陽』『星空凛』『西木野真姫』は同時にμ'sへ加入する。
しかし漫画版では主人公である『高坂穂乃果』、その幼馴染である『南ことり』、また後輩であり小学校から面識ある『星空凛』『小泉花陽』がμ'sの初期メンバーであり、私こと『西木野真姫』は後々から加入するのだ。
ここでこのシーンを見る、ということはーー
「あ、UTXの最新シングルだ〜」
やはり現れたな、矢澤にこ……!
タグにもあるよう、設定は色々とごちゃまぜです。
正直アニメしか見てない人はこの漫画版ストーリーくっそ違和感しかないと思います。
しかし! 私は! 漫画版ニコちゃんが! 大好きだ!
漫画版のニコちゃん初めて見たときは「おいおいアニメのあのボケキャラどこいったよ?は?お?え?ん?」ってなりましたもん。漫画版そのまま出した方が良かったんじゃねえかね?