諸君らは「高性能かわいこレーダー」を知っているだろうか。
かの有名な矢澤にこの持つツインテールに備わる機能の一つである。
このレーダーは矢澤にこの自己観念で「かわいい」と思った女の子を探し当てる、近未来的な機能なのだ。
しかし悲しいかな、あくまで矢澤にこの観念によって選別されるため、万人受けとは言い難い。
確かに一般人一人がかわいいと思った人は、大抵の一般人がかわいいと感じることだろう。
しかしレーダーを有するのは矢澤にこ。一般人ではないのだ。
そう、アイドル。
矢澤にこの観念に当てはまる「かわいい」は、前置詞に「アイドル的」に準ずるような言葉が入る。
何故なら、彼女はアイドルを目指しているからだ。
そしてアイドル的かわいさというのは、万人向けではない。少し作られた感があり、少し一般人から逸脱しており、少し万人的なかわいいの上をいく。
そんな「かわいい」を探し当てる、高性能かわいこレーダー。
■
「断る」
唐突に教室へと乗り込んできた矢澤にこは、図々しくも私を引っ張りアイドル部の部室へと連れ込んだ。
そして、その場にいた七人から「入部してください!」と言われた。
無論断ったが。
「えー!? なんで!?」
「なんで、じゃないでしょう先輩。貴方方は私にいきなりアイドルになれ、と言ってるんですよ? そら断りもします」
「理由としてなんか弱くない?」
煩いぞ東條希。
せっかく原作から離れたというのに、何故わざわざ似た流れに戻そうというのか。
断固拒否。徹底抗戦である。
私はアイドルにならんぞ。
「西木野さんかわいいし、アイドルに向いてると思うよ?」
「私が愛らしい容姿をしているのは万人が万人口を揃えて言う程度には当然でしょうが、アイドル的かというと違うでしょう」
部室の全員がポカーンとした表情になった。
開き直った昨晩、私は自分の姿を今一度じっくり見直していた。
結果、自分でも惚ける程には愛らしかった。
もう自信持って「私ってばかわいい」を言えるね。
「で、もう要件はありませんか? ありませんね。では失礼」
「ちょちょちょちょ! 待つにこ!」
「……なんですかねぇ、矢澤先輩」
露骨に嫌な顔をしてみせるも、そんなことお構いなしというように肩を掴まれる。
「マッキー、一緒にアイドルやろ!」
「だぁからお断りします」
「なんでにこ!」
「面倒」
矢澤にこの勧誘を切って捨てる。
私は言うことはもうない、と暗に含めて部室を出た。
「……これで諦めてくれればいいんだが」
なるべくキツイ言い方をしたはずだが、高坂穂乃果の諦めの悪さはよく知っている。
漫画版とはいえ、アニメ版同様それは健在だ。
ならば、また勧誘はあるだろう。
「……面倒なことをしてくれたな、矢澤にこ」
可愛いは正義、そんなものは創作物に限られるんだよ。
□
放課後。私は一つ思った。
西木野真姫の経験が全て受け継がれているのら、もしくはピアノや作曲も可能なのでは?
一度考えてしまってはもう確かめずにはいられない。残念なことに家にピアノがないので、学校のものを使うしかない。
担任の教師に音楽室の使用許可を屁理屈と虚言、私の成績によって半ば強引にもぎ取り(今後も他行事優先だが一応の許可も共に)、さっそく音楽室へ向かう。
この学校は無用心なのかなんなのか知らんが、放課後で利用者はいないというのに音楽室の鍵もかけておらず、ただドアノブを捻るだけで中に入れた。
当学院のセキュリティについて小一時間ほど問い詰めたいところだが、まあピアノが弾けりゃいいので無視する。
ドア正面のステージ上に鎮座する綺麗に掃除されたピアノを開け、椅子を調節し、座る。
(……しっくりくる)
なんとなく、ピアノを見た時からなんとなく感じていたが。
ピアノに座すとしっくりと、自分の居場所のように感じる。
まるでここが本来居るべき場所のような。
「…………」
なんとなしにドの鍵盤を叩く。
ポーン、と間抜けな音が響いた。
(……あぁーー)
耳に響く、弦の音が心地好い。
これを求めていた。そう思わずにはいられない。
欲求のままに、何かの曲ですらない単なる音を響かせていく。
耳の奥、胸の底で波打つ音は私を落ち着かせていく。
そしてそれ以上に、私を湧かせ掻き立てていく。
もっと聴きたい。
もっと弾きたい。
いつしか私は、どこかで見たようなシーンの中、どこかで聴いたようなフレーズの曲を弾いていた。
ここまでUA1000超、お気に入り登録が26と私の身に余るほどの評価を貰っている気がします。恐縮です。
感想も頂けるとやる気に繋がるのよ?(ちらちら
最後のシーン、どんな場面か分かりますよね?
タグを見ていただければご理解くださるかと……