騎士よ、音より早く追え -仮面ライダードライブ異伝・マッハ×チェイサーVS仮面ライダーW- 作:たんぺい
…遠慮、するな
スカルドーパントは、剛に向けて、言う。
…『俺』、否…『俺たち』は、娘しかいなかったから、これはこれで幸せだった
まるで、遺言のように、言う。
…娘を取った憎いあいつか、翔太郎にまかせるべきことだが…
絞り出すように、言う。
…今だけは…『俺たち』の自慢の…息子に頼みたい…やってくれ、頼む
それを受けて、剛…仮面ライダーマッハデッドヒートは、拳を下ろした。
その視線の先には、スカルドーパントの急所にて、その本体である…スカルメモリが、剛の瞳に映っていた。
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2日後、久留間市、警察署。
「…俺は、俺たちは、そのロイミュードを倒した…報告は以上だ、霧子…俺は帰る」
チェイスは、そう、ドライブピットの面々に一言だけ告げて、去っていった。
周りの人間は口々に、チェイスの無愛想さをとがめている。
霧子ですら、チェイスへと難しい顔をしていた。
だが、その場に居た、剛だけは…優しい顔をしていた。
…あいつにも、ちょっとは思うところが有ったのか、と。
そこに、不意に、剛は進ノ介に声をかけられた。
「なんか、お前…大きくなった気がするよ」
まるで、弟の成長を喜ぶ、兄貴のようだった。
それを受けて、剛は小さく笑うと…こう、返した。
「俺は、俺が絶対たどり着けない相手を、乗り越えた気がする…お祝いに、缶コーヒーかカルアミルクでもおごってよ」
…カルアミルクは、日本ならちょっとダメかもな
進ノ介は、笑って、なにも聞かず、剛と喫茶店に出かけた。
進ノ介、お前まだ勤務時間中だろ!と言うツッコミがドライブピット内に響き渡った。
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同時刻、鳴海探偵事務所
「…元気ないな、翔太郎」
あの偽鳴海荘吉事件から2日、翔太郎はまるで元気がなかった。
その姿を、フィリップは心配そうに見つめている。
…何故なら、翔太郎が元気のない直接の理由は、きっと僕にある。
内心で、あの時…『己の罪を数えた時』、フィリップは自責の念に苛まれていた。
フィリップが悪い訳ではないが、言い方が直接的過ぎた事は事実だったから。
そんなフィリップの心配に答えるかのように、翔太郎は呟いた。
「…足りねえ」
ふむ、何が足りないのだろうか…フィリップは思案した。
何か、スカルドーパント…自分達のもう1人の先達に対する、思い入れなのか後悔なのか…
「50万ぽっちじゃ…俺たちの生活費が……まだ足りねえぇぇぇぇぇぇ!」
…やれ、ファング!
そう、無表情にフィリップが呟くと、自身の守護者たるガイアメモリ…ファングメモリを自律稼動させて
翔太郎をそれはそれはボコボコにした、とか。
だが、同時に…フィリップは、安堵していた。
ああ、このハーフボイルドは、僕の思った以上に強かったな…と。
「フィリップゥゥゥゥゥ!ファングメモリを止めてくれぇぇぇぇ!」
まあ、彼と…鳴海荘吉と比べたら、だいぶ駄目な相棒だが、と付け加えながら。
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同時刻、照井家、アパート
「忘れモノない?竜くん?」
「心配するな、そして…俺に質問するな」
新婚夫婦らしい、照井家の朝の日常。
竜のネクタイをきれいに亜樹子が直しながら、夫の出勤を見送る。
そして、2人は玄関に向かって、語りかけた。
「行ってきます……お義父さん……!」
「私も、もうちょっとしたら事務所に向かうよ、お父さん……」
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…時は、決着のあの日あの瞬間にまた話を戻し、裏路地
剛がスカルドーパントに向けた拳は…スカルメモリではなくて、帽子に向かっていた。
そして、その拳が帽子をぐにゃりと潰すと…その帽子は、『X』の形へと、変化した。
実は、あのフィリップの長い独白…スカルドーパントの正体の解説の際、亜樹子やチェイスたちが剛や翔太郎と合流した際に、フィリップは言ったのだ。
…あのスカルドーパントのスカルメモリをメモリブレイクすれば、それこそ、飛び道具で腰を狙えば、直ぐにあの『鳴海荘吉』は殺せるぞ、と。
だが…誰も、そんな勇気はなかった。
あの、もう1人の『仮面ライダースカル』を、手に掛けたく、なかった。
ましてや、飛び道具で一方的に撃ち抜くなどという、卑劣な手では。
「…ならば、ふむ…彼、スカルドーパントをある一定以上ダメージを与えて、帽子を狙うと良い、そうすれば…Xはコアとして、たまらず飛び出すだろう…何故なら、偶発的に生まれたせいで完全に一体化出来てない、言うなればロイミュードとドーパントの『半分こ怪人』であるスカルドーパントのロイミュードとしてのコアは、そこなのだから」
それだ!と言う全員の意見の一致で、仮面ライダー達は一斉に喜んだ。
…そして、戦いが決着した今。
今まで静観していたチェイスがいきなり動いた。
イッテイーヨ!
シンゴウアックスの一閃により、Xのコアは真っ二つに切断されたのだ。
そして、コアがなくなったスカルドーパント…『仮面ライダースカル』は死に…
後には、スカルメモリだけが残されたのだ。
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そして、再び現在、照井家
その、鳴海荘吉の遺品にて魂の片割れのガイアメモリ…スカルメモリは、今は、照井家の玄関に飾られていた。
亜樹子がどうしても、と貰いたがったからだ。
…全ての仮面ライダー達にも、異論は、なかった。
きっと、スカルメモリ、そのものからも。
そして、照井家ではスカルメモリを、『お父さん』と呼んでいる。
だって、誰よりも…強く、優しく、美しい…そんな、風の街を愛した男の魂を宿した、紛れもない『仮面ライダースカル』なのだから。
照井家の2人には、紛れもなく、『お父さん』だった。
そして、亜樹子は竜を見送って、慌てて着替えて自分を待つ探偵事務所へ向かう。
…俺に似合わず、騒がしい、娘だ
ふいに、亜樹子はそんな声を聞いた気がする。
だが、そこには…爽やかなそよ風が、風都を撫でるだけだった…
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ー完ー