※告知事項※
・少し残酷な描写があります。
・他、何かあれば書きます。
【episode 3】
CRESCITA
あるところに、とても仲の良い姉妹がおりました。
二人は幼い頃にりょうしんをなくしましたが、力を合わせてなんとか生活してきました。
姉の名前はレピナー。手先が器用で足が速く、行動力に優れた少女。何かを提案するのはいつも彼女です。
妹の名前はウチーダ。彼女の料理の腕前は誰もが舌を巻くほど。元の材料がどんなものでも、彼女にかかれば忽ち極上の一品に早変わり。
二人はいつも仲良し。昔から今までも、二人でずっと一緒。
彼女達の住む屋敷はとても大きい。亡くなった両親の遺産で、敷地は広大、二人だけで住むには勿体無いくらいの広さです。
生活は苦しいですが、それでも二人は楽しく過ごしてきました。
これは、そんなある日の出来事。
それは、雪が降るとても寒い日の出来事でした。二人は寒いのは苦手ですが、雪は大好き。お揃いの黒いコートを着て、黒い耳当てと黒い手袋を着けて外で遊んでいました。
「うふふふふ!! お姉さま! 雪ですわ! 雪ですわよお姉さま!!」
「あんたは本当に雪が好きだねえ、ウチーダ」
「当たり前ですわお姉さま! 真っ白い雪は己の魂を映し出す極上の鏡――私たちの穢れなき真っ白な魂を表しているのです、敬意を表さぬ訳には参りませんわ!」
ウチーダは恍惚とした風に言う。
「へえ……」
レピナーはそれを聞きながら、しゃがんで何やらやっている。
「雪といえばお姉さま、この時期になるとお客様が増えますわね。なんででしょう」
「雪が降っていると旅人さんは迷いやすくなる。雨宿りならぬ雪宿りに丁度いい場所にあるんだろうね、私達の家」
「成る程、流石お姉さま! ありとあらゆる事を把握していらっしゃる!」
「ははは――ウチーダ」
「はい!? 何でしょうお姉さま!?」
レピナーは立ち上がった。闇色の手袋を着けたその手の中にはまん丸い雪玉。
「これでもくーらえー!!」
「きゃあっ!?」
レピナーは雪玉をウチーダに投げた。雪玉はウチーダの側頭部にクリーンヒットし、ウチーダは雪の中に倒れこんだ。
「お、お姉さまっ……い、いきなりなんてっ、激しすぎますわっ……はぁ……はぁ……」
「誤解を招く様な言い方止めい。ははは、雪合戦! やる?」
「ええっ、やりますわ!」
ウチーダは起き上がり、大の字に体を広げた。
「さあお姉さま!! 投げて投げて投げまくって下さいまし!!」
「雪合戦って言ってるでしょうが」
「でも、お姉さまの美しい顔に雪玉をぶつけるなんて、そんな恐れ多い……!」
「誰が顔面に当てろって言った……体でいいじゃん普通に」
「か、体でいいだなんて!? お、お姉さま大胆ですわ!!」
「どっか打ち所悪かった? さっきから発言がおかしいけど」
「打ち所は悪くありません……雪玉に篭ったお姉さまの愛が、私の脳細胞を刺激させたのですわー!!」
「じゃあ取り敢えず謝るから危険な発言は止めなさいはしたない」
「はっ、はしたない!? な、何て事でしょう!? 私ったら、どうかしていたのですわ……」
「うん、どうかしてたね」
「申し訳ありませんお姉さま……私は自分を律せませんでした……」
「分かってくれればいいよ、それで」
「なので、私に罰をお与え下さいましー!!」
「やかましいわマゾヒスト」
微笑ましい会話。ここは二人だけの銀世界。白い雪は降り続け、素敵な二人を隠し続けます。
ザクリ。
「「!!」」
その時です。二人だけの世界が、音を立てて崩れ落ちました。
ザクリ。
「お客様ですわ!」
「歓迎の準備が出来てないよ」
雪を踏む子気味いい音が聞こえてきます。
ザクリ。
「全くタイミングの悪いお客様。タイミングさえも測れない様では、私達が歓迎するにも値しませんわ」
「そうだね。愚か者は私達の城に入れる訳にはいかない」
ザクリ。
「だ、誰か……誰かいますか……」
苦しそうな声が聞こえてきました。吹き荒ぶ雪の音にも負けない様に、声を張り上げているのでしょう。
「……私達の庭に無許可で入る愚か者。それ相応の罰が必要ですわ」
「そうだね。じゃあ、やっちゃおうか」
「そうですわね。では、やりましょう」
ザクリ。
「誰か……寒い……」
苦しそうな声が聞こえてきます。
「……まあ、いったい何事ですの!?」
レピナーは叫ぶと、声が聞こえる場所まで走りました。
「……ああ……助けて下さい……この雪で、道に迷ってしまったのです……」
声の主は厚着をした男の人でした。レピナーに縋り付くように、男の人は倒れこみました。
「……まあ、それは大変ですこと! では、こちらへ! 屋敷の中へお入り下さい!」
「……あぁ……ありがとう……ございます……」
レピナーは男の人と共に屋敷へと歩き始めました。
「どうしてこの寒い日に迷い込んだのですか? 旅人さんですか?」
「はい…………今まで罰を償うため、王家の奴隷として働いていたのですが、漸く刑期が終わり、ここまで帰って来たのです」
「まあ。それはそれは」
二人は屋敷へと歩き続けます。
「……私には……妻と、二人の娘がいます。もうかれこれ十年近く会っておりません……早く、会いたいのです……早く……」
「この寒い中、よく頑張りましたわね。家族思いの旦那さんですこと。娘さん達は何歳なのですか?」
「……あの日は、私の娘達の、5歳の誕生日でした……上の子です……今頃、15歳になっていることでしょう……下の子も、14……歳に……」
「…………」
もうすぐだ。ウチーダの助けはいらないかもしれない。レピナーは思いました。
男の人は大変衰弱しておりました。段々と息も浅くなりつつあります。
「……ああ……早く……会いたい…………――ウ……チーダ……レピ……ナー……」
「…………っ!?」
レピナーは、突然自分の名前が呼ばれたことに驚きを隠せません。自分の名前だけでなく、ウチーダの名前まで。
レピナーは、足を止めました。
「――――お父さま?」
レピナーとウチーダは、幼い頃に両親をなくしました。父はどこかへ消えてしまい、母は――。
「…………早……く…………行……か……な……い…………と……」
「…………」
男の人は、うわ言のように呟きますが、もうそれも途切れ途切れ。今にも、逝ってしまいそうです。
「――――私の――可愛い――――ふたり――――…………」
「…………」
男の人は、ぐったりと力尽きてしまいました。逝ってしまったのです。
レピナーは、暫く死体を見つめ続けると、それを持ってウチーダの元へと向かいました。
「あら? お客様、もう逝ってしまったのですか?」
果物ナイフを手に持ち、木の陰に隠れていたウチーダが、出て来て言います。
「折角簡易的な歓迎準備をしましたのに」
「……うん」
「? どうしましたの、お姉さま?」
折角お肉が手に入ったのに、レピナーは浮かない顔。ウチーダは不思議に思いました。
「……ウチーダ」
「なんでしょう」
「お父さまの顔って、覚えてる?」
「お父さま?」
「……それ、貸して」
「お姉さま?」
レピナーはウチーダから果物ナイフを受け取ると、死体の首を切り落とし始めました。血が滴り落ち、白い雪に赤い色を塗っていきます。
「お姉さま、急にどう致しましたの? 何だか変ですわ」
「……ふふふ」
「?」
斬り続け、漸く首が落ちました。断面からは鮮血が吹き続けて、まるでトマトジュースの噴水のよう。
落ちた首を拾って、レピナーは不敵に笑います。
「――これでもくーらえー!」
「きゃあっ!?」
レピナーは、首をウチーダに投げました。首はウチーダの側頭部にクリーンヒット。ウチーダは雪の中に倒れこみました。
「お、お姉さま……い、いきなりだなんて、は、激しすぎますわ……っていうか痛いですわ……」
「あはは、ごめんごめん」
レピナーは、転がった首を拾い上げながら謝りました。
「ウチーダ、これ何だと思う?」
「? お客様のお首でしょう?」
「ふふふ、なんとこれ、お父さまなのです!」
「はい?」
ウチーダは、キョトンとした顔。
「お姉さま、それはジョークですの? お姉さまにしては上手くないジョークですわ」
「いやいやジョークじゃなく、本当に」
「え?」
ウチーダはレピナーが持つ首を見ました。
「え?」
呆気に取られ、困惑するウチーダ。ジョークだろうと思っても、レピナーの目は本気だと言っています。
「……それは――それは――な、なんという反応を返せば良いのでしょう――わ、分かりませんわ」
「ふふふ、お父さまが帰って来たんだよ! 私達の家に! やっと!」
「……お父さま、が」
「お父さまが遊んでくれるってさ――お父さまのお首で、キャッチネックをしましょう!」
「キャッチネック……ええ! とてもいい考えですわ! ああ、お父さま! お父さまが帰って来た! こんなにめでたいことはいつ以来でしょう――お母さまにも知らせないといけませんわっ!!」
ウチーダは屋敷の中へ駆け足で飛び込みました。暫くしてから、何かを持って出て来ました。
「ほら、お母さま! お父さまですわ! 帰って来て下さったのです!」
「お母さまも喜んでるね!」
「嬉しいですわ!」
ウチーダが持って来たのは女の人の首。まるで時の止まったようなその顔は、美貌を失っていません。
「ああ、なんと幸せな日なのでしょう! お母さま、そこでみてて下さいまし! お父さま! 私お父さまと遊ぶなんて何年ぶりか――感動ですわ!!」
「今日はお父さまが帰って来た記念日になるよ!! 一日中遊んでくれるって、お父さまが仰ってるわ!!」
「流石お父さま、サービス精神の塊ですわ!!」
「それじゃあ、早速始めよう、ウチーダ!!」
「ええ、始めましょう、お姉さま!!」
レピナーは首を投げました。ウチーダはそれをキャッチすると、再び投げ返します。まるでキャッチボールのような遊び。
「うふふふふ!!」
「あはははは!!」
「うふふふふ!!」
「あはははは!!」
ああ、何て嬉しそうな笑い声でしょうか! 二人は満面の笑みを浮かべて楽しそう。お母さまは雪の上で、お父さまと一緒にはしゃぐ二人をずっと見ていました。
そこからはもうずっとお祭り騒ぎ。ウチーダは腕によりを掛けた晩ご飯を作りました。パーティーに相応しく、お父さまをふんだんに使ったフルコースです。
二人は夜通し遊び続けました。気がついた頃には、もう太陽がその姿を見せていました。
「楽しかったね!」
「ええ、楽しかったですわ!」
二人は、冷蔵庫の中にお父さまとお母さまを仕舞い込みました。そして、二つの指輪も一緒に。
「これでもう、お母さまが寂しがることもないね」
「ええ、そうですわね」
二人は、お父さまとお母さまに笑いかけました。
「「再婚、おめでとうございます!!」」
二人は、冷蔵庫のドアを閉めました。
二人はいつも仲良し、素敵な姉妹。
その日から彼女達の笑い声は、より一層明るく、大きなものになったそうです。
おしまい。