すてきな姉妹のおはなし   作:ルヴァンシュ

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 いつも楽しげなレピナーとウチーダ。しかし、今日のレピナーはなんだか浮かない顔で……。


※告知事項※

・何かあれば書きます。


TRAGEDIA

episode 4

  TRAGEDIA

 

 あるところに、とても仲の良い姉妹がおりました。

 姉のレピナーと妹のウチーダはいつも仲良し。二人一緒にいるときは楽しげな笑いが常に絶えません。その筈なのですが……。

 

「…………はぁ」

 

 二人の屋敷はとても大きな屋敷。嘗て王家から徴収されそうになった程の豪華さを誇っています。

 三階にある窓から街を眺めるのはレピナー。浮かない様子で溜息を吐いています。どうしたのでしょうか?

 

「お姉様、どうされたのです?」

 

 ウチーダが心配そうに尋ねました。

 

「最近いつも溜息ばかり。お姉様、どこかお体でも悪いのですか?」

「いえ、ウチーダ。そんなことないわ。私の心身は至って健全よ」

 

 レピナーは溜息を吐きました。

 

「では、どうなさったのです? お姉様。私心配でなりませんわ。笑顔でないお姉様なんて、私見たくはありません」

 

 ウチーダは今にも泣きそうな顔。ウチーダはお姉様の事が大好き。それは最早愛と呼んでも差し支えないほどに。

 

「ウチーダ……私のことをそんなに思ってくれるなんて、ありがとう」

 

 レピナーはウチーダに微笑みました。

 

「そうね……ええ、話すわ。心配かけてごめんなさいね」

「お姉様……」

 

 ウチーダは今にもレピナーに抱きつきたそうにうずうずしていますが、ぐっと我慢。ウチーダが語り始めました。

 

「実はね……私、好きな人が出来たの」

「殺しましょう」

「やめなさい」

 

 肉切り包丁を取り出したウチーダを嗜めるレピナー。ウチーダは混乱を隠せない様子。

 

「は? は? は? どういう事でしょうかお姉様? はぁ? どこの馬の骨でしょう? お姉様、今すぐそいつ殺す許可をくださいまし」

「やめなさい」

 

 レピナーは窓の外を見て微笑んだ。

 

「この前街に行った時に会ったの……ほら、あのパン屋さん……あの人、素敵じゃない?」

「素敵じゃないですわ」

「即答ね」

「はぁ? じゃあなんです? つまり一目惚れですの? 良ろしくありません良ろしくありません良ろしくありませんわお姉様!」

「わぁ」

 

 ウチーダはレピナーの肩を掴み、激しく揺らします。

 

「一目惚れで惚れた男とか、絶対ロクな人間じゃありませんわ!! どうせ不味い味の男!! お姉様、思い直しをっ!!」

「必死ねえ」

「必死にもなりますわ!!」

「わぁ」

 

 ウチーダはレピナーの肩を掴み、さらに激しく揺らします。レピナーの頭はぐらぐらと揺れ、目はグルグル回ってしまっています。

 

「あぁ、なんということ……なんたる……」

 

 ウチーダはレピナーの肩から手を離し、部屋の中をあっちへウロウロこっちへウロウロ。

 

「ウチーダ……貴女の気持ちはよく分かるわ。でも、早まらないでほしいの」

「それはこっちの台詞ですわ」

「私はまだあの人のことを何も知らない……ねえ、ウチーダ。あの人をこの館に招きたいの」

「歓迎し(殺し)ますわ」

「やめなさい」

 

 レピナーはウチーダの目をじっと見つめました。ウチーダはその目の輝きに思わず跪きます。

 

「ウチーダ。……お願い。貴女にも協力してほしいの」

 

 レピナーはウチーダの手を握りました。

 

「私は見極めたいの。あの人の性格とか……えっと……まあなんかそんなものを。でも私一人だけだとどうしても主観が混じってしまって……貴女なら、第三者である貴女なら、あの人を正しくジャッジ出来るでしょう」

「それ本気でお思いですか? 私も滅茶主観混じりますよ」

「それでも、私より信用できるわ」

 

 レピナーも同じく跪き、ウチーダと目線を同じにしました。

 

「貴女の反応を見て確信したわ。あの人が嫌いな貴女なら、きっと正しい判断を下すことができる――厳しい目を持つ貴女なら、正直者の貴女なら、間違いない」

「お、お姉様……」

「ウチーダ」

 

 レピナーはウチーダを見つめています。ウチーダもレピナーを見つめています。

 ウチーダが口を開きました。

 

「……分かりましたわ」

 

 ウチーダはレピナーの手を握り返しました。

 

「お任せ下さいお姉様――そこまで仰るのであれば。お姉様の忠実なる妹であるこのウチーダに、全てをお任せ下さい。必ずや正しき判決を下して差し上げましょう。嘘偽り無き判決を、お伝えして差し上げましょう」

 

 ウチーダは微笑みました。

 

「全てはお姉様のために」

 

 レピナーも微笑みました。

 

「ありがとう」

 

 

 遂にその日がやって来ました。

 

 今日はパン屋さんがやって来る日。勇気を出したレピナーは、館にパン屋さんを呼び込むことに成功したのです!

 

「ねえ、ウチーダ。どこかおかしいところはない?」

 

 レピナーは漆黒のドレスを着て、くるりと回りながらウチーダに尋ねます。

 

「一切ございません、お姉様。お姉様は常に完璧ですわ」

 

 ウチーダはレピナーを褒め称えます。「ありがとう」レピナーは笑顔。

 

「今日は一日、楽しんで下さいまし。お姉様のお邪魔にならない程度に、私はあの男を観察しますので」

「ええ、頼んだわ。ウチーダ」

「ふふふ、ふふ……」

 

 ウチーダは包丁を研ぎながら笑います。

 

「ああ……手が滑ったら申し訳ありません、お姉様。ですが、相応しくないと私が判断した場合、即座に殺っちまいますからね」

「まあ、ウチーダ。人殺しはよくないわ」

 

 レピナーは包丁の先っぽに触れます。指先から、赤い血が滴りました。ウチーダは即座に包丁を取り落とし、レピナーの指を舐めます。

 

「冗談でもそんなことを言うのは止めなさい。あの方は『ごはん』ではないのですから」

「はい。お姉様」

 

 暫くした後、血が止まり、ウチーダは指先から舌を離します。そして、包丁をドレスの中に仕舞いました。

 レピナーはあっちへ来たりこっちへ行ったり、そわそわ。

 ウチーダはそんな姉を見て、気が気ではありません。

 

(ああ、お姉様。そんなにあの方がお気に入りなのですね)

 

 ウチーダは小さく溜息を吐きました。

 

 コンコン。

 

「「!!」」

 

 二人は同じタイミングで振り返り、ドアを見つめました。

 

「ウ、ウチーダ。あ、あの方をお迎え、お迎えして」

「落ち着いて下さいましお姉様」

 

 ウチーダはドアへ手を掛けました。もう後戻りは出来ません。

 

(余計なことは考えない、余計なことは考えない、余計なことは考えない、余計なことは考えない、余計なことは考えない――)

 

 ウチーダはドアを開けました。

 

 

 入って来たのは、街へ行った時に必ずと言っていい程よく見る顔。

 まあ確かに、お姉様の言う通り、多少は美麗な顔をしている――歳もそれほど離れていないし、外見だけなら、外見だけならば、百歩どころか千歩譲れば、まあ、お姉様と釣り合うといえば釣り合うのだろう。

 外見はクリア――しかし、外見をクリアしたところで何なのだろうか。私が危惧しているのはその内面である。優男のように見えて、実際は粗暴な男なのでは――。

 

「ようこそいらっしゃいました。■■■■■様。さあ、どうぞこちらへ」

 

 パン屋さんを見とめるや否や、お姉様はドレススカートの両端を持ち上げ、右脚を折り曲げ、恭しく、そして優雅にお辞儀した。そしてパン屋さんがお辞儀を返すと、彼の手を黒い手袋をはめたすらりとした指で摘み、奥の居間へと案内した。

 私も後を追う。

 

 ――さて、ここから先は少々長いのでカットしよう。以下にパン屋さんの行動とジャッジを羅列していくので、ご参考までに。

 

・靴に泥が付いていた。マイナス100点。

 

・髪が跳ねていた。マイナス100点。

 

・手土産のパンが美味しかった。プラス1点。

 

・お姉様の美しさに見惚れてやがった。マイナス300点。

 

・お姉様の美しさを理解していた。プラス250点。

 

・笑顔は気持ちのいいものだった。プラス2点。

 

・紅茶が苦手らしい。マイナス250点。

 

・よく見ると服装がダサい。マイナス90点。

 

・カップを置くときの音が大きい。マイナス100点。

 

・喋り方がぎこちない。マイナス100点。

 

・緊張しているのだろうか。マイナス99点。

 

・ナイフの音が大きい。マイナス100点。

 

・フォークの音が大きい。マイナス100点。

 

・お昼ごはんを残さず完食。プラス100点。

 

・お肉が何のお肉かを訝しんでいた。マイナス250点。

 

・お姉様の部屋へ行きたがる。マイナス300点。

 

・単純にムカつく。マイナス1点。

 

・食い下がらない。マイナス300点。

 

・部屋へ案内されやがった。マイナス300点。

 

・一瞬鬱陶しそうな目で私を見た。マイナス5点。

 

・二人きりを所望した。マイナス300点。

 

・二人きりになりやがった。マイナス350点。

 

・部屋から出てこない。5分ごとにマイナス300点。

 

・お姉様の笑い声。プラス100点。

 

・お姉様の悲鳴。マイナス1000点。マイナス1000点。マイナス。マイナスマイナス。マイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナス。マイナス1000点。マイナスマイナスマイナス100010001000マイナス。マイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナス・暴れる音。マイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナス死マイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナス

 

 不合格。

 

 

「お姉様、あの方は失敗でしたわね」

「そうね」

 

 レピナーは紅茶を飲みました。ウチーダも紅茶を飲みました。

 

「怖かった……ウチーダが居なければどうなっていたことか――ありがとうねウチーダ」

「勿体無きお言葉ですわ」

 

 レピナーはサイコロステーキを口に運びました。噛むと肉汁と共に幸福感が溢れ出し、嫌な思い出を浄化してくれます。

 

「人は見掛けによらないものね。これからは気をつけるわね」

「はい。そうなさってください」

 

 ウチーダもサイコロステーキを口に運びました。ナイフとフォークの金属音を殆ど鳴らさず、静かに食べます。

 

「まあ、もしまたこんな事があろうとも、私の目が黒い限り、お姉様に危害を加える輩は一匹残らず消し去るのですけれど」

「ありがとう」

「ところで」

 

 ウチーダは横目でドアの前にあるゴミ袋を見ました。匂いが漏れ出さないよう、口はきつく縛られています。

 

「あれ、どうします?」

「そうねえ……生ゴミと一緒に棄てましょうか」

「そうですわね」

 

 それきり二人は、その袋を一切気にすることはありませんでした。そして、レピナーは、パン屋のお兄さんのことを綺麗さっぱり忘れたのでした。

 

 生ゴミは、次の日に棄てられました。

 

 

 おしまい。





「どういうことだ」

 豪華絢爛な金細工に彩られた城。この地一帯を支配する王家・カステロ。王であるカステロ四世の側近であるヴェチオは、部下であるソルダートから報告を受けていた。

 レピナーとウチーダが暮らすのは、王家カステロ城下町から少し離れた場所。ソルダートはそこを支配する知識人たちの一人だ。

「ですから、殺人ですよ」

 ソルダートは言った。

 ソルダートの役目は支配地の警備。何か変わったことがあれば王家に報告する役割を担っていたのだ。

 ――殺人事件。
 街のゴミ捨て場に捨てられていた一つのゴミ袋。半透明のその袋の中に入っていたのは、なんと人間の死体だった。首、腕、脚、局部、心臓などのパーツに分けられた死体――事件性がないとはお世辞にも言えないような代物であった。

「なんとまあ凄惨なことをする――犯人は特定できたのか?」
「はい。ゴミ袋には特に加工などもされていなかったため、すぐに当たりはつきました」

 ゴミ袋は各家庭に支給されるもので、その家庭ごとに番号が記入されており、何処から棄てられたゴミなのかがすぐに分かるようになっている。

「それが、驚くことに、あの屋敷なんです」
「ほう」

 ソルダートは声の調子を低くした。

「あの屋敷、というと……近くに立ち寄ったものが行方知れずになるという、あの屋敷か」
「はい」

 ソルダートは握った手を震わせた。今までに行方不明になるという現象は確認していたものの、それにあの屋敷が本当に関与しているのかどうかという決定的な証拠が掴めず、ソルダートはやきもきしていたのだ。
 だが、遂に尻尾を出した――それもこんなに分かりやすい形で。

「ヴェチオ様。あそこは一度大罪を犯した一族。故に、『一族残滅の刑』に処する許可を頂きたい」
「うむ……」

 ヴェチオは俯き思案する。

 ――『一家残滅の刑』とは、一度大罪を犯した一族が、再び大罪を犯した場合にのみ使用できる、数ある刑罰の中で最も恐ろしい刑。
 内容はその名の通り、一族残滅――大罪を犯した者が個人であろうと複数であろうと、その一族の人間を一人残らず殺戮するという、恐ろしい刑罰。この刑罰の存在は人々に恐怖を与え、犯罪の抑制に大きく貢献している。
 だが、この刑はソルダートの一存で決定する訳にはいかない。必ず王家の人間による許可が必要なのだ。

 ヴェチオは顔を上げた。

「……よかろう。許可する」
「ありがとうございます」

 ソルダートは、敬礼した。

 レピナーとウチーダの処刑が、この時、この瞬間を以て、決定した。
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