※告知事項※
・いつもと比べると少し長めです。
・少々グロテスクなシーンが多数あります。ご注意を。
・他、何かあれば書きます。
episode 5
DIAVOLO
あるところに、とても仲の良い姉妹がいた。
二人は幼い頃にりょうしんをなくしたが、互いで互いを助け合い、今まで生きてきた。
姉の名はレピナー。手先が器用で足が速く、行動力に優れた少女。何かをするときにそれを提案するのは、いつも彼女である。
妹の名はウチーダ。料理の天才であり、元の材料がどんなものであれ、絶品の料理に作り変えてしまう。
二人はいつでもどこでも一緒だった。昔は仲良し姉妹と呼ばれていたが、今は誰も彼女たちを見ていない。否、見ているのかもしれないが、彼女達は、その人々を見ていない。二人の世界は二人だけの世界――完全に閉じられた世界なのだ。
二人の住む屋敷は非常に広大なもの。彼女達でさえ、未だにその全容を把握しきれていない。亡くなった両親が遺してくれた家であるが、どうやってこの屋敷を手に入れたのか、二人は知らない。
困窮した生活に苦しんでいた時期もあったが、今は食料調達方法も増え、昔ほどの辛さは無かった。
これは、そんなある日の出来事である。
その日はとても日差しの強い日であった。二人が日光を嫌うのは昔と変わっておらず、屋敷の中で戯れていた。
「お姉様、本日は何をして過ごしましょうか」
「そうねぇ。つみきは? 昨日のがまだ余ってるわ」
「流石お姉様! 私も同じことを考えていたのですわ! ああ、やはり私とお姉様は赤い糸か何かで結ばれているのでしょう……ふふふ!」
「赤い糸も何も姉妹なんだけどね」
「では、今日の晩御飯も決まりましたわね」
「決まったわね」
ウチーダは冷蔵庫の中から、先日捕らえた男の破片が入った袋を取り出し、殺菌済みのマットの上に並べた。彼女達が『つみき』と呼ぶそれは、『バラバラになった死体を元の形に組み立てる』という遊びなのだ。
これが非常に難しく、始めてから12年程経つ今でも、このつみきを完成させたことは一度もない。
「今日こそは完成させるわよ」
「はい! お姉様の仰すままに!」
「いつもそれ言ってるけど、一回も完成したことないわよねえ」
「こ、今回は完成させますもの! さあ、始めましょう!」
「そうね」
などと意気込んではみたものの、意気込みだけでどうにかなるような問題でもなく、結局3時のおやつの時間にまでもつれ込んだ。
「はい、これマカロン」
「まあ! 流石お姉様! ありがとうございますわ!」
「貴女このまえ美味しいって言ってたでしょう? もう、探すのに苦労したんだから。中々売ってなくてねー」
「私の為に……っ! お、お姉様? か、代わりと言ってはなんですが、私の血を……」
「要らない」
「ですわよねー」
二人は働いている訳ではないので、金はない。ではどうやってこういった物品を手に入れているかといえば、レピナーが盗んでいるのである。手際の良いレピナーの行為は決してバレることはなく、犯行を繰り返してきた。
二人がまだ幼く、深く物事を考えられなかった時代は、物品一つとるのにも狩りを要していたが、今はそこまで過激なことはしない。必要なときに必要な分だけ、二人は狩猟する。
肉のブロックの隣に広げられたお菓子を食べる二人。彼女達にとって、それはいつも通りの日常である。
日常だった。
その時である。
ドン。
ドン。
ドン。
ドン。
「「!!」」
屋敷のドアをノックする音が聞こえた。二人は顔を見合わせると、すぐさま遊戯跡を片付け、ウチーダは厨房へ、レピナーは身なりを整えた。
レピナーはドアに空いた小さな穴から外の様子を伺う――見ると、そこに居たのは沢山の男達。この暑いのに皆マントを羽織り、羽根のついた帽子を被っていた。
――駄目だ。
レピナーは本能的にそう感じた――こいつらを家に入れてはならない。もしも入れてしまえば、私達の日常が、終わってしまうかもしれない――!
「少しお待ちくださいまし!」
レピナーはそう叫ぶと、慌てて厨房へ向かった。
「ウチーダ!」
厨房ではウチーダが多種多様な包丁を研いでいる最中であった。凄い剣幕で飛び込んできたレピナーに驚き、ウチーダは包丁を取り落とした。
「ど、どうしましたのお姉様?」
「ウチーダ、作戦変更よ。ありったけの刃物を持ってきて。あと鋼線も」
「何があったのかは存じ上げませんが、了解ですわ! お姉様の仰せの通りに!」
二人は厨房にある刃物という刃物をすぐに集め、持って行った。刃物は包丁からピーラーまで、多岐に渡る。
レピナーとウチーダは急いでドアの周囲に鋼線を張り巡らせた。ドアが叩かれてから既に5分が経過している。急がねば!
全てを終え、二人は鋼線の後ろにある階段の上に立った。その周囲には刃物の山。後手に隠した両手にもそれぞれ、牛刀とクレーバーが握られている。
レピナーが叫ぶ。
「申し訳ございません! 少々出られない状況で……ドアを開けて入ってくださいまし!!」
レピナーの声が屋敷に響く――一瞬の沈黙の後、ドアがゆっくりと開かれた。
入って来たのは黒マントの男達であった。羽根つき帽子を被り、目付きは鋭い。
「申し訳ございません。お構い出来ませんで――どうぞ、お入りくださいまし」
「ああ」
先頭の男は短く言うと、歩き出した。その後ろからもぞろぞろと入ってくる。レピナーは瞬時に数を数える――25――いや30人か。二人は武器を強く握った。
張り巡らされた鋼線は、極限にまで磨き上げられ、糸よりも細くなった特別なもの。それを視認することは出来ず、出来たとしても、張り巡らされた鋼線に触れずに動くのは至難の技である。
触れただけで対象を切り裂く程鋭利なそれは、余りの鋭さゆえに、斬られた者は斬られたことに決して気付かない。痛みもない。何が起こったのか分からぬまま、自分が死んだことにも気付かぬまま、死ぬ。
そしてそれはマントを着込んだくらいで防御できる代物ではなかった。
「う、うわああああああ!!?」
「ふ、副隊長ぉぉぉおおお!!?」
先頭を進む男とて、それは例外ではなかった。斬り裂かれたことにも気付かず、死んだことにも気付かないまま――死んだ。
二つの鋼線に触れた体は三つに裂かれ、腰から上は地面に溢れた。三つの破片からはどくどくと血が流れ、床を紅色に染め上げた。
「ようこそ」
「私達の屋敷へ」
「どうぞ」
「ごゆるりと」
「「お過ごし下さいませ」」
姉妹はスカートの端を持ち上げ、膝を折り、一礼をした。
「貴様らァァァァァ!!!」
「待て! 早まるんじゃない!」
「ひ、ひぃぃぃっ!」
「お、おい待てよ! 逃げるな!」
「落ち着け! 落ち着くんだ!」
「嫌だ! 死にたくない!」
「なんで副隊長が死んだんだよ!? なんで!?」
男達を混乱が支配する。副隊長の無惨な死によって植え付けられた恐怖はすぐさま育ち、男達に錯乱を齎した。錯乱し、逆上した男の何人かが姉妹に向かって走り出したが、その全員が、一人の例外もなく、肉のブロックと化した。
次々と泣き喚く黒マント達。仲間の死を覚悟していなかった訳ではない。だが、いきなり仲間が連続死するなど、果たして誰が予想できようか? 混乱が伝染し、狂気が満ちる。最早誰一人まともな思考を持つ者は居ない――と思われた。
だがしかし、この男だけは違った。
「落ち着くのだ皆の者!! これは唯の鋼線よ! 剣で断ち切れば、何の問題も無し!! 惑わされるな!!」
黒マント達の隊長――ソルダートである。ソルダートは落ち着き払い、前方に立ち、マントの下から取り出した剣で眼前を斬った。
傍目からは何も見えないが、しかし確かに何かを斬った感覚があった。そう、鋼線が切断されたのだ。
「っ…………!」
レピナーは苦虫を噛み潰したような顔をした。
ソルダートは勇ましく剣を頭上に掲げ、再び叫んだ。
「我等、王国特殊精鋭部隊《ヴェンデッタ》である! 殺人鬼レピナー並びにウチーダ! これより王家法に則り、『一族残滅の刑』に処す!!」
私に続け!!
ソルダートは猛り、剣を振るう。慎重な足取りではあるが、しかし確かにトラップは次々と破られていく。それを見て奮った黒マント達は、次々とそれに続く!
「っ……何よそれ……!!」
レピナーは絞り出すような声で言った。手に持つ包丁がカチカチと音を立てる。ウチーダは一切心動かされることは無く、ただ者共を睨むのみ。
ウチーダの本領はそこにある。一切惑うことのない、狩猟センス――狩猟の際にはレピナーはサポートに回り、手を下すのはウチーダだ。その役割分担は、12年前から一切変わること無く今に至る。
「うおーっ!!」
剣を掲げ、雄叫びを上げ、近付いて来る男達。張り巡らされた鋼線は全て切断された。ついにソルダートが階段に足を掛ける。だが――
「……食らえっ!!」
「なっ――」
レピナーとウチーダは何かの山を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたそれは空中に飛散し、階段を登らんとする男達を襲う!
「ぎゃぁぁああああああっ!!?」
「い、痛え!!」
「目が、目がぁぁぁっ!!」
「くっ、姑息な!!」
蹴り飛ばされたのは刃物の山。キッチンナイフ、包丁、果物ナイフ、テーブルナイフ、カッターナイフ、ペーパーナイフ、ペンナイフ、バタフライナイフ、ジャグリングナイフ、マルチツールナイフ、アンカライトナイフ、フィレナイフ、ピーラー、各種鋏――空から降る刃物の雨は一切の慈悲を持たず、男達の命を切り取っていく。目に刺さり、腕に刺さり、胸に刺さり、腹に刺さり、足に刺さる――それでもなお向かってくる数名の男達。
「くっ――」
レピナーとウチーダは両手を前に出した。その手に握られているのは、牛刀とクレーバー。殺傷力の高いものを選んだのだ。
レピナーは数を数える。1、2、3、4、5、6、7――大分減った――これなら!
「やぁーっ!!」
刃を鳴らし、レピナーとウチーダは上がってきた男達に飛び掛る! 男達も剣を抜き、応戦しようとするが、方やマントという動き辛い枷を着けた者共、方やドレスとは言え、比較的動きやすい格好をした姉妹――機動力の差は言うまでもなかった。
剣を振るう男達。だが、姉妹はそれを悉く避け、手に持つナイフで確実な致命傷を負わせてくる。
「ぎゃあっ!!」
一人が足を押さえ、倒れた。それにつられ、後ろの二人も押し倒される。腱を切り裂かれたのだ。
「…………」
ウチーダは淡々と、倒れこんだ三人の喉笛と左胸に包丁を突き刺す。空いた穴からは血が噴き出し、床と彼女を染め上げた。
「っ……!!」
ソルダートも負けじと剣を振るうが、狙いには当たらない。ソルダートが狙うはレピナー。だが、機動力の差と共に、元々足の速い彼女である、差はウチーダ以上に歴然!
「やぁっ!!」
包丁をソルダートの脇腹に向けて突く。しかしソルダートは間一髪で横に避けて回避。レピナーは舌打ちしながらも、そのままもう片方の包丁で、隙をついて斬ろうとした男達の腹を搔っ捌く! 男は悲鳴をあげた。腹からは鮮血とともに内臓も零れ落ち、男自身もまた、階段から転げ落ち、そして動かなくなった。これで残るは三人!
「死ねぇ!! 殺人鬼め!!」
男がウチーダに向けて剣を振り下ろす――が、ウチーダは即座に前転回避。振り下ろされた剣は仲間の遺体を斬り裂いた。
ウチーダは両手の包丁を構え、懐に潜り込み、左右から挟み込むようにして、両脇腹を刺した。
「ひぃやぁぁあああっがばっがああっ!!?」
「五月蝿いですわね」
「ごぼっ!?」
痛みに耐え兼ね、苦痛の悲鳴を上げる男。崩れ落ちたその瞬間、クレーバーがその首を斬り落とす。首は落ち、元あった場所は赤い噴水と化していた。
――しかし、それは果たして偶然だったのだろうか? それとも男の執念がそうさせたのだろうか? 男の遺体はウチーダの方へと倒れ込んだ。吹き出す赤い水がウチーダの目に降りかかる。
「きゃっ!?」
「ウチーダ!!?」
レピナーは思わずウチーダの方を向いた――向いてしまった。
その一瞬の隙を逃す程、ソルダートともう一人の男は愚かではない。ソルダートは一瞬で姿勢を立て直し、レピナーの脚を薙いだ。
「――え?」
そんな間抜けな声を出しながら、レピナーは倒れこんだ。見開いた目で己の脚を見る――膝下より先が、そこには無かった。取り残された脚の代わりにどくどくと血が流れ、じわじわと痛みがレピナーを蝕んでゆく。
「そ――そんな――」
「お、お姉様!? どうしたのです! お姉様――」
ウチーダは慌てて服で血を拭う――が、背後に回ったもう一人の男がウチーダの腹を突き刺した。
「ごふっ――っ!?」
驚いたように、自分の腹から突き出した赤い刃を見た――その瞬間、ウチーダは背後に向けて包丁を二本とも投げ飛ばした。
「ぎゃあっ!?」
包丁は二本とも、男の額にクリーンヒット。男は剣から手を離し、ゆらゆらと動いてから、倒れ込んだ。
残ったのはただ一人――ソルダート。
「あ――あ――い、痛いっ――痛いっ、痛い、痛い、痛い――っ!!」
脚を斬られた激痛の波がレピナーを襲う。芋虫のようにのたうち回るレピナー、その両手首を、ソルダートは斬り落とした。これ以上抵抗させないためである。
息を切らしながら、ソルダートはレピナーを踏み付け、ウチーダの元へと向かう。
「がっ……ごぼっ、ごっ、がぐぉっ……あ……おっ……おぐぇっ、げっ……」
口と腹から血を流すウチーダ。最早まともな言葉さえも紡げない。ソルダートは貫いた剣を引き抜いた。開いた大穴から、大量の血が流れ出る。
「はぁっ……はぁっ……もう、こいつはこれで終わりだな」
ソルダートは呟いた。
実際、その通りである。剣という支えを失ったウチーダは、己れが作り出した血の海に倒れ込み、小さく痙攣した。ゴポゴポと流れる血は決して止まることなく流れ続け、ウチーダの命は、風前の灯火となった。
「っ――――!! 痛い――ウチーダぁ……!! ウチーダ、ウチーダ、ウチーダ――」
レピナーは、そんな妹に手を伸ばす。だが、彼女にはもう妹の手を握るための、妹に触れるための手は存在しない。手首は血を垂れ流すホースとなり、ウチーダに触れようにも触れられない。ただ流れ出る血が、床を濡らすだけ。
「ごっ――おごっ――ぬ、ぐげっ、が――ごぁっ――」
"お姉様"。そう呼ぼうとしても、ウチーダの喉はそれを許さない。出てくるのはガボガボという奇音だけ。その目は虚ろで、お姉様の姿は見えやしない。流れ出る涙が視界をさらに不明瞭にし、ウチーダを孤独へと叩き込む。
「……処刑、執行」
ソルダートはそう呟いた。しかし、その声は瀕死の二人には聞こえない。必死に身体をくねらせて妹に近づこうと足掻くレピナー、痙攣しながらも手で身体を引っ張り姉の元へ向かおうと足掻くウチーダ。最期まで二人で居ようとする素敵な姉妹には、邪魔者の声は聞こえない。二人だけの世界が、そこにはあった。
「ウチーダぁっ――!」
「おっ、ぐぇっ、が――まぁっ――!」
後少しで、手首が届く。
後少しで、手が届く。
後少し――だったのに。
ザクリ。
「っ――――!!!!」
レピナーは、目が零れんばかりに目を見開いた。目尻が裂けるほど、目を見開いた。
剥き出しになった目に、鮮血がふりかかる。
視界が、赤く染まる。
レピナーは深い絶望に包まれた――彼女が最後に視認したのは、首が斬り落とされ、その断面を晒した、
無慈悲に振り下ろされた剣は再び掲げ挙げられた。次に狙うは、姉の首。
「――嫌だ」
「…………」
「嫌だ……嫌だ……やだよ、やだ、やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
半狂乱になって叫ぶレピナー。その姿を冷たい目で、ソルダートは見下ろす。
レピナーは叫んだ。
「何でよ!! 何でっ!! なんで私たちがこんな目にあわなきゃならないの!!? なんでよっ!!? 私たち――私たち――なんにも、なんにもしてないのに……っ!!!」
「何もしてないだと!?」
「ぎゃあっ!!」
ソルダートはレピナーの顔を蹴った。レピナーは血を吐き出す。
「今まで何人の命を奪ってきたと思ってるんだ!! 言うに事欠いて、何もやっていないだと!? 白々しい!!」
「だって――ほ、本当にっ、何にも、やってない――やってないじゃないっ!!」
「喧しい!!」
「うぎゃあっ!!」
再びソルダートはレピナーの顔を蹴った。レピナーは血を吐き出す。
「ではあのゴミ袋に入っていたものはどう説明する? 我々は知っているのだ! 今更シラを切っても、無駄だ!」
「あ――あれは、し、仕方なく……あ、あの人がっ、お、襲ってきたからっ……!!」
「そうかそうか、ではそれ以前は? この屋敷に近付いた人間は悉く行方不明になっている。お前たちの仕業だろう! 知っているぞ!」
「そ、そうだけど――でも、そんな――私達はただ、生きる為にっ!!」
「生きる為に人殺しをしたのか? 馬鹿馬鹿しい! そんなものはただの言い訳だ! そんなもので正当化出来ると思うな!!」
「あなたたちだって他の生き物のお肉を食べてるじゃないっ!! それは罰せられずに、どうして私たちが罰せられるの!? 同じよ!! どこが違うっていうのよぉ!!」
「っ…………!」
――狂っている。ソルダートは思った。
「ひくっ……ひぐっ……ひとなんてころしてないのにっ……ただっ……狩りをしてただけなのにっ……ひぐっ……なんで私たちだけ……ひぐっ……っ!!」
「…………」
ソルダートは剣を構えた。もうこれ以上の対話は不要だと判断したのだ。
そもそも、話が通じる訳がないのだ。こんな狂人に何を言っても、聞き入れる訳がない。
「……処刑、執行」
「私たち――」
剣が、振り下ろされた。
「何も悪いことなんて――してないのにっ!!!!」
ザクリ。
床に突き刺さった剣に、吹き出た血がぶつかる。その衝撃は刃を伝わり、ソルダートにも届いた。
ゴロリと――レピナーの首が、床を転がった。
「執行――完了、だ」
ソルダートは軽く剣を振って血を払い、鞘に収めた。肩で息をする――想像以上の相手だった。一歩間違えれば、こうなっていたのは自分だったのだろう。ソルダートは一瞬身震いした。
転がる姉の首は、同じく転がっていた妹の首にぶつかる――寸前で、ソルダートは姉妹の首を取り上げた。
「さて――と」
ソルダートは振り返り、階段を降りる。ここからがまた大変だ。事件の後始末――そして、刑の最終段階。まだまだやることが山のようにある。ソルダートは深い溜息を吐いた。
「取り敢えず今は――警備班に連絡するのが先だな」
ソルダートは開きっぱなしだった扉から外に出た。酸鼻極まる殺戮現場から抜け出したソルダートは、改めて、生の実感を噛み締めたのであった。
30対2の戦い――31人が死に、1人だけが生き残ったこの事件は、ソルダートが請け負った事件の中で最も惨たらしいものとなったのである。
その後のことに軽く触れておこう。
まずは《ヴェンデッタ》についてである。この事件で殉職したのは29名。精鋭の中の精鋭であった彼等の代わりとなる者は殆ど居らず、最終的に《ヴェンデッタ》は解体された。解体されたと言っても、生き残りはソルダートしか居なかったのだが。
ソルダートはこの事件の後、昇進し、王家カステロに仕える王宮騎士の1人となった。数々の戦果をあげ、王家に勝利を齎すことを期待されたが、任命されてから僅か2日後、彼は自宅で何者かに殺された。その遺体は見るに堪えないほどぐちゃぐちゃにされており、首、指、腿、心臓、局部など、幾多ものパーツに分解されていたという。
『一族残滅の刑』を受けたレピナーとウチーダは、死後、その遺体と首を町の広場に大々的に晒された。死後辱めを受けるまでが、この刑罰である。町に不幸を齎した殺人鬼二人の死体を人々が放っておく訳がなく、体の一部を切り取ったり、石を投げたり、落書きをしたりと、その怒りは、死体が腐り果て、朽ち果てるまで収まることはなかった。しかし不思議なことに、そういった行為をした人々は1人の例外もなく、何者かによって惨殺された。それが何者なのか、人々は知る由もない。
ある者は言った。殺人鬼が悪霊となり、再び罪を犯しているのだ、と――。
嘗て酸鼻を極める惨劇の舞台となった、忌まわしき屋敷――そこにはもう誰も住んでいない。所有者も居ない。完全なる廃墟と化していた。
廃墟とはいうものの、しかし不思議なことに、決して朽ちる気配がなかった。一切手入れもされていないのに、まるでその屋敷周囲だけ、時間が止まったかのように、"あの日"のままであった。
「――ふうん」
そんな屋敷に、1人の女が訪れた。
曰く付きな屋敷の所為か、肝試しに訪れる愚か者は後を絶たない。しかし何故か、ここを訪れた者は必ずと言っていい程、その行方が知れなくなる。少ないが、生還したものもいる。しかしそんな者も発狂している場合が常であり、何が起こっているのか、全く手掛かりを掴めなかった。
この女もまた例外ではない。噂を聞きつけやって来た、愚か者の1人である。
「中々良いところじゃない。広いし、屋敷も綺麗」
女は扉を開けた。
その内部もまた、荘厳なものであった。本当に誰も手入れしていないのか、と疑う程に、光り輝く屋敷。
女は一歩踏み出した――その瞬間。
バタン!!
「っ!?」
突如、扉が音を立てて閉まったではないか。慌てて扉を開けようとするも、何故かびくともしない。
「ど、どういう――」
女は後ずさる――すると、何やら首元に焼け付くような痛みが走った。
「痛っ! ……え?」
首元に手を当てる――すると、如何なることか? 手のひらには、べっとりと血が付着していた。
「っ――――!!」
女は戦慄した。
「だ、出して、出して、出してっ、だ、出してぇっ!!」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。
扉を何度も揺らすが、しかしまるで開く気配がない。女は青ざめた。
絶望が女を呑み込んでいく――死の気配が、屋敷の中に渦巻いた。
「あはははは」
「うふふふふ」
「っ!!?!?」
ビクリと身を震わせ、へたり込む女。今の笑い声は何だ?
へたり込んだ女は前方を見た。そこには階段があり、階段を上った先にある二階の廊下――そこに、2人の少女が立っていた。
「きゃぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
女は喉が枯れるかと思う程悲鳴をあげた――それもその筈、そこに居たのは――。
「ようこそいらっしゃいました。私達の屋敷へ」
腹から血をドクドクと流す少女が言った。
「何もお構い出来ませんが、どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
手首と膝から下の無い少女が言った。
二人はスカートの端を少し持ち上げ、膝を曲げ、一礼した。そしてその瞬間――女の周囲を、大量の刃物が取り囲んだ。全ての刃先は、女に向いている。
「――――」
女の顔は、絶望に染まった。
最期まで、そしてこれからも、この姉妹は互いを愛し、寄り添い続けるだろう。素敵な姉妹愛に満ちた物語――素敵な姉妹のお話は、これを以て、幕を降ろす。
BAD END