須賀京太郎は回顧する。
ーーーーーーーー血濡れの八索
ーーーー閃光
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー青い炎
ーーーーーーーーーーーー蛍返し
ーーーーーーーーーーーーーーーー『竜』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー哭き
ーーーーーーーーー託されたもの
ーーーーーーーーーーーー焔薙
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーースサノオ
ーーーーーーーーーーーー面前主義
ーーーーーーーー国士無双十三面待ち
ーーーーーーーーーーーーーーーー緑一色
ーーーーーーーーーーーー「一つ晒せば―――――――」
ーーーーー「――――己がなおも哭きたがる」
ーーーーーーーー「見える見える、墜ちる様」
ーーーーーーーー「あンた、背中が煤けてるぜ」
ーーーーーーーー「…………あり……がとぅ……京太郎」
きれいだ……。
須賀京太郎は清澄高校麻雀部に所属する高校一年生である。麻雀部に所属しているのは彼を含めて六人、一、二年前までは人数不足が原因で廃部寸前であった。
京太郎が麻雀部に入ることにしたのは、有り体に言えばなんとなくであった。中学では、ハンドボール部で県決勝まで行った事もある京太郎だが、ハンドボールにそこまで未練が在るわけでもなく、高校からは、また別のことでもしようかと考えていた。どうせなら経験がある競技にするかと思い立った京太郎は、麻雀部に入ることにしたのである。変に期待されたくもないため、初心者と偽って。
京太郎にとって、麻雀というのは因縁浅からぬ競技だった。彼の人生観を大きく変えたといっても過言ではない。
伯父から託された青い炎は、今も京太郎の中で静かに燃えている。同時に奴が、『竜』が残した閃光の影も。
「……ゃ……きょぅ…ちゃ……」
「(もう、十年も前か)」
「ねぇ、ねぇってば!」
「うぉっ!?……何だよ咲」
物思いに耽っていたらしい京太郎は、ズズイと顔を寄せてきた中学時代からの友人である宮永咲に対する反応が遅れた。
「さっきから何考えてるの?正直似合ってないよ京ちゃん」
「うるせーやい、本当に考え事してたんだっての」
「うっそだー。どうせまた和ちゃんの胸のことでも考えてたんでしょ?」
「違うわッ!ったく、人が真面目に考えてんのにこのポンコツときたら……」
「あっ、いまポンコツって言ったでしょー!」
「言ってない」
「言った!」
結局何故話しかけてきたのか分からないまま、そんなやりとりを三回ほど繰り返し、ようやく一段落ついたのか、咲は再び部室の雀卓に向かった。卓には咲の他に三人の人物がついている。
「犬と何話してたんだじぇ?咲ちゃん」
「優希、こういうことを聞くのは失礼ですよ?」
「うぐっ、ごめんなさいだじょ咲ちゃん」
「だ、大丈夫だよ優希ちゃん。京ちゃんがデリカシー無いのが悪いんだから」
「まあまあ、そこまでにしときんしゃい。練習時間も有限じゃからの」
片岡優希、原村和、染谷まこの三人である。麻雀の練習を再開する仲間の様子を見つつ、京太郎は再び考え事をし始める。
そんな京太郎に近づく人影が一つ。
「わっ!!」
「のわっ!?……止めて下さいよ部長、心臓に悪いじゃないですか、まったく」
清澄高校麻雀部部長、竹井久である。清澄高校の学生議会長を兼任しており、多忙な日々を送る彼女は、今年が最初で最後の大会を心待ちにしている。
というのも、前述した通り清澄高校麻雀部は昨年度まで人数不足で廃部寸前であった。そのため、インターハイ団体戦の予選に出場出来なかったのである。個人戦だけの出場というのも出来るのだが、それをしなかったのにはそれ相応の理由があるのであろう。
「別に良いじゃない。こんなのを気にするなんて器が小さいわよ、須賀君」
「勘弁してください……」
「それにしても珍しいじゃない、須賀君が真面目に考え事なんて。珍しい」
「二回も繰り返さないで下さいよ。部長が俺にどういう印象を持っているのかよく分かりました」
「ごめんごめん、そんな拗ねないでよ。ストレス溜めるのは体に悪いぞ☆」
「キャラ崩壊しないで下さい。似合わないですし」
あーん、須賀君が冷たーいなどと冗談めかして言う姿に、京太郎は心が軽くなるような感じがした。そこまで深く考え込むことでもないのかもしれないと。
託されたモノは確かに重い。だが、それに縛られて視界を狭めることこそ愚かな事ではないのか。最近になって京太郎はそう思うようになった。
京太郎は部内では踏み台に徹していた。パッとしない打ち筋、多めの振り込み。不自然さが出ないよう、京太郎は麻雀を打っていた。
清澄高校麻雀部唯一の男である彼は、大会の個人戦に出るつもりはなかったのだ。
だが、京太郎は今の自分を試してみたくなった。伯父から受け継いだ麻雀を試してみたくなった。最近になるまで気がつかなかった欲求。それは自覚した瞬間膨れ上がった。
『竜』に一回だけ
麻雀部に入った当初、京太郎は少し打てれば満足だった。
暫しの時を経て咲が入部する。咲が入部する切っ掛けとなった対局で、その強運を見た京太郎は、仄かに『竜』を思い出した。その頃だろうか、心の奥が疼くように感じ始めたのは。
女子がインターハイの団体予選に出られるようになると、初心者の自分が邪魔をしたくないからと言って雑用を多くするようになった。しかし、部長の久は地区予選には出るべきとして、京太郎を諭した。
長野県予選、京太郎は全力で打つか迷っていた。
悩んだ末、本気で打つことにした。
「部長、嘘ついてた事があるんです」
「へぇ、どういう嘘かしら?」
「本当は、初心者じゃないんです」
「…………それで?」
「県予選、本気で打つことにしました」
「あら嬉しい。…………皆で一緒に、優勝しましょ?」
「それは……、頑張らないといけませんね」
「ええ、だから練習でも本気でやってね。当然、皆に嘘ついてた事も謝ること。良い?」
「分かりました」
「ねぇ、今の須賀君……良い顔してるわよ」
言ったきり、久は雀卓に向かって歩き出した。
「こりゃ、初心者じゃないのバレてたかな」
京太郎は頭を掻き、ため息をはいた。