須賀京太郎は高揚していた。
「(もう本気で打つ事は無いと思ってたんだけどな。やっぱり雀士ってことなのかね)よし、やるぞ!」
「(京ちゃん気合い入ってるなぁ)」
東家 久:25000
南家 和:25000
西家 京太郎:25000
北家 咲:25000
「あら、私が起家ね」
京太郎、久、和、咲の対局。東一局、ドラは{三}、親は久。
「(お手並み拝見といきましょうか)ふふっ」
「どうかしたんですか?部長」
「何でもないわ。気にしないでちょうだい」
久手牌
{二八八九④⑥⑦⑨23477}ツモ{西}
久 打:{⑨}
「(絶好の混一配牌、幸先が良いですね。序盤ですし、ここで和了って親で稼ぎたいところです)」
和手牌
{一一二三赤五六七③⑥1東南南}ツモ{5}
和 打:{1}
「さてと、……やるか」
学ランのポケットに手を突っ込んだ京太郎は、眼鏡を取り出し、掛ける。
「京ちゃん眼鏡何か掛けてたっけ?」
「気合い入れただけさ。伊達だし」
「格好つけたつもりか?正直あんまり似合ってないじょ」
「お前後で覚えてろよ……」
「さっさと打牌してください」
「ぬぐっ、……すまん」
京太郎手牌
{四六②③④⑦⑧47東西北白}ツモ{中}
京太郎 打:{北}
「(何か、いつもと印象変わるなぁ。優希ちゃんは似合ってないって言ってるけどこれはこれで有り、かな?)」
咲手牌
{三三九①②③⑤⑧⑧345發}ツモ{發}
咲 打:{九}
対局が動いたのは七順目。久の先制親リー。
「リーチ!さーて、和了れるかしらね」
久 河
{⑨234赤⑤西横東}
何だこれ。そう考えずにはいられない河である。わざわざ手出しで{234}の順子を捨て、赤ドラまで放り投げてのリーチ。普通に考えれば不合理そのもの。
「(随分と異質な河ですね。何かの決め打ちでしょうか?まだ序盤ですし、多少の放銃には目を瞑って攻めていきましょうか)……ポンです」
和手牌
{一一二三赤五六七⑥南南南}ポン{横東東東}
和 打:{⑥}
曲げられた東を鳴いて{一}・{四}待ちでテンパイ。理想的な二面待ち。
そして、それを静かに見つめる視線が一つ。京太郎である。
鳴かれた{東}を見た京太郎は、リラックスする様に卓の全体を見据える。
青い炎が卓を一嘗めし、眼鏡を掛けた京太郎の瞳に『何か』が宿る。
「(ひとつ晒せば……か。伯父さん、今じゃ一つで二つ分見えるようになったよ。あなたが知れば、褒めてくれるのかな)……部長、相変わらずの悪待ちですね」
「あら、もう私の待ちが読めたのかしら?困っちゃうわね」
「ええ、本当に。だから、この局は和了らせませんよ。全部止めて回避させてもらいます」
「………言うじゃないの。なら避けてみせなさいな、須賀君。尤も、私がツモればそれで良いんだけどね?」
「ツモらせもしませんよ。言ったでしょう?全部止めると」
「話すのは良いですが、さっさと打牌してください」
「……正直すまんかった」
「和はせっかちねぇ。コミュニケーションは人間として重要な事なのよ?」
「別にコミュニケーションする事を否定している訳ではありません。TPOを弁えて下さいと言っているんです」
話している間に、炎は消えていた。その場に残ったのモノは卓を嘗めた炎の熱のみ。
「(……牌が、熱い。異様だ。まるで、『全部見透かされてる』様な)っ……」
「咲?顔色が悪いわよ。調子が悪いなら対局はまこか優希に代わってもらって保健室に行った方が良いわ。あんまりアレなら付き添うしね」
「いえ、大丈夫です。やれます」
無理はするな、という久の言葉に咲は問題など無いと言わんばかりに無表情で返す。その表情から心なしか威圧感が出てきた様に感じられるのは果たして気のせいなのだろうか。
久の違和感が疑念へ至るのに時間は掛からなかった。ツモれない上に他家からも出てこないのである。その焦りが少しずつ、久の打牌を鈍らせつつあった。
15順目
久手牌
{二二八八九九④④⑥⑥⑦77}ツモ{中}
「(いつもならツモれるのに、これはどういう事かしらね。まさか、本当に須賀君が和了牌を抑え切ってる訳じゃないだろうし、他から出てもおかしくないんだけど)」
続く和もツモ切り。そして京太郎のツモ番。
「槓します」
京太郎手牌
?????????? 暗槓{裏四四裏}
京太郎の暗槓、新ドラは{三}。そして暗槓によって和の和了りが一つ消える。
「リーチ」
そのままツモ切りリーチ。満貫以上が確定。卓上に青い火の粉がちらつく。
「……京ちゃん。謝るっていうのはこういう事?」
咲が咎める様に言った。唐突な発言に、京太郎以外のメンバーは真意を読み取れず少し怪訝な表情を見せている。
「後で、これとは別にきちんと謝るさ」
そう言いながら、ツモを促す京太郎。咲は複雑そうな表情を浮かべた。
「うん、私も人のことは言えないからね。私からはお咎め無しってことにするけど、これからはちゃんとやってね」
「……おう」
そして咲はツモ切った。ツモった牌の確認すらしていない。まるでその必要すら無いと言わんばかりに。
16順目、久はツモれず。和も和了れなかった。京太郎のツモ番。気のせいか、京太郎の手が仄かに光を纏う。そして静かにツモった牌を晒した。
「ツモ」
右手を手牌の左端につけ、薙ぐ。ドミノ倒しの様に晒されたそれは、夜を彷徨う蛍の残光の如き儚さがあった。
部のメンバーがその手の光を視線で追い、晒された手牌を視認する。
京太郎手牌
{一一②③④⑦⑦⑦西西}暗槓{裏四四裏}ツモ{西}
「リーチ一発ツモ役牌三暗刻ドラ四。裏ドラ確認します」
そして、捲られた裏ドラは、{⑥}・{南}。
「裏六。8000・16000です」
数え役満。開幕の号砲に相応しい、豪快な一発。そしてその和了は、この卓でテンパイしていた者の手を完全に抑え切ってのモノ。
「……この和了を、謝罪とさせてもらいます」
何時もと違う、どこか透明な印象を受ける京太郎の声が部室に響いた。
東家 久:9000
南家 和:17000
西家 京太郎:57000
北家 咲:17000
斯くして、『竜』との対峙を終え、燻っていた青い炎は再び燃え上がった。『須賀』京太郎の物語は、ここで漸く幕を開ける。