アライアが走って行ったのは、ハンガーだった。
そこにはコックピットにパイロットを乗せたYF-29とYF-29Bが、それぞれ起動状態になっていた。
「待って!」
アライアは手を膝につき、赤と白のYF-29を呼び止めた。
キャノピーが開くと、パイロットであるダンシング・セラスがサングラスを外してアライアを見た。
「その機体、S.M.Sソーディア支社に、寄付してはいただけないでしょうか!」
意外な発言だった。
だがダンシング・セラスは、その答えに迷いはなかった。
「いいですよ。あの子を乗せるつもりなんですよね?」
「えぇ」
「では、この機体を寄付しましょう。ただし、あの子を死なせたら、承知しませんからね」
そう言うと、ダンシング・セラスはロッドのYF-29Bに飛び移った。
それ以上は何も言わず、笑顔で別れの合図を送ると、ロッドに発進の指示をした。
「ありがとうございます!」
アライアは深々を頭を下げた。
YF-29Bがカタパルトへ移動していく音を聞きながら、それが聞こえなくなるまでずっと。
場所は変わり、グラナダ山脈ラフレシア山。
その山頂には大きな火口が口を広げ、惑星の鼓動を外に剥き出している。
溶岩が跳ねるそこに、1機のバルキリーが降下していった。
すると、溶岩が道を開けるかのように割れ、そこにひとつの道ができた。
「こちらアルタイル1。偵察任務を終え、ラフレシア山本部基地に帰投した」
ここは、ANUNSが本部を構えるラフレシア基地。
火山が丸ごと基地になっている、いや、基地を火山に偽装しているとも言うべき基地だ。
グラナダ山脈に多数の支部を構えるANUNSであったが、このような凝った造りの基地はここが唯一だった。
そしてここが、最も強固な守りを有していることは、あえて言わずとも分かることである。
「やれやれ最近落ち着かないね。あの女が気になるのかい?」
機体から降りてヘルメットを脱いだサテルに、その背中から声をかけたのはアリエだった。
「あぁ、認めよう。お前の言っていた感情というやつだろう、今の俺の行動理念は」
「ずいぶんと人間臭くなってきたね、ここ最近で」
「人工血液は無臭だ」
「そういうとこは相変わらず、か」
2人並んでハンガーを後にする。
アリエは両手を上げてやれやれとジェスチャーするが、サテルはそれを意に介さぬまま歩く。
2人が向かったのは、とある部屋だ。
ベッド等の必要最低限の家具の揃った、生活するにはまず困らないであろう綺麗な部屋。
そこには2人の少女が生活、否、監禁されていた。
「出ろ」
サテルは扉を一方的に開け放ち、そう言った。
椅子に座って脚をぶらつかせ、窓の外の
ベッドの上に膝を抱えて座り込むミストレーヌ。
イオナはムッとした顔を向けたが、ミストレーヌは動かなかった。
「ノックぐらいしてって言ったでしょ! まったくもう! それに私はあくまで
「チルドレンには気を付けろと命令があったからな。さぁ行くぞ、アムドゥスキアスも」
サテルの口から出たのは、ミストレーヌの開発コード。
その単語に、ミストレーヌは涙を流した。
「あーもう、サイバーグラントってほんっとデリカシーないんだから!」
イオナがミストレーヌを慰めるように抱きしめながらそう言う。
「サテル、もうここでいいんじゃない? 聞くこと聞いて、そっとしておこうじゃない」
「甘さか、アリエ」
「いや、最善策だよ」
アリエは無理に部屋から出す必要もないと思った。
否、ミストレーヌの心理状況を考えれば、下手に刺激しない方がいいと判断したのだ。
「じゃあ要件だけ。あなたたちには、その歌エネルギーをサイコ・バードに充填してもらうわ。その後は好きにしな。ま、死ぬか協力するか、になるんでしょうけどね?」
この女も中々の下衆だ。
「歌うかどうかは自分で決めろ。作戦開始は明日の日の入りと同時だ」
扉は閉じられた。
急な静けさが部屋を包んだ。
「ねぇ」
ミストレーヌが口を開いた。
イオナはミストレーヌの顔を覗き込むようにして、次の言葉を待つ。
「イオナは、歌うの…? あの人たちのために」
「歌うよ。元々、統合軍の研究所に閉じ込められてて、そこから連れ出してくれたのがあのサテルだからね。ANUNSのやろうとしてることが、正しいこととは思えないけど……でも、恩返しはしたいなって」
イオナには迷いがなかった。
彼女の言っていることは、疑いもなく本心だ。
人としての心に、己の行動を従えたのだ。
「私は………歌いたくない」
「どうして?」
「私の歌であの人を…お姉さんを傷つけるなら………私…!」
肌がぶつかる音が響いた。
突然のことにミストレーヌは目を丸くする。
頬がヒリヒリしてきた。
イオナに平手打ちされたんだと気づくまで、少し間があった。
「『死んだ方がマシ』とでも言うつもりなの? だとすれば、それは間違ってるよ。あなたが死んで、その人は悲しまないの? あなたが死んで、その人の戦いが楽になるの? 私はそうは思わない」
イオナの目は真剣だった。
「生きるのよ。誰かを苦しめるからとか、そんなこと考えなくていい。生きるための道を選ぶの…! 少なくとも私は、そうする」
ミストレーヌはイオナの言葉に胸を打たれた。
確かに、そうであると思った。
「うん………」
ミストレーヌが頷くと、イオナは優しい笑顔を見せた。
彼女らには、歌うしかないのだ。
歌わなければ、ANUNSは確実に彼女らを殺すだろう。
事実、そういう事になっていた。
イオナはそれを悟っているかのように、ミストレーヌに訴えかけた。
そしてミストレーヌもまた、生きねば、と思った。
2人は、歌う。
「調子はどう? スグミ」
スグミは新しい機体、YF-29のコックピットに座っていた。
試乗を兼ねたテストフライトに出ていた。
その様子をグライフから見ていたアライアの通信に、スグミはコックピット内の計器類をいじりながら答えた。
「あぁ、かなり乗りやすい。他人から譲り受けた機体とは思えないな…」
スグミはこの機体の前の乗り手を知らない。
S.M.Sではアライア以外、誰も知らない。
ただ、「資金的な問題で知り合いから譲り受けた」とだけの説明があった。
こんな新鋭の試作機がそう簡単に手に入るとは、最初こそ皆疑問を抱いたものの、アライアの人脈の広さならあるいは可能かもしれないと思った。
「そりゃね……」
「どういう意味だ?」
危うく口を滑らせるところだった。
アライアはしまったと思ったが、それを隠すように通信の画面の外にフレームアウトして言った。
「私なりにスグミ好みにチューンしたってこと!」
デスクの端に置いてあったであろうキャンディーを持って画面内に戻ってきたアライア。
スグミはアライアの言葉を受け止め、素直に感謝した。
「ありがとう」
「あら、どういたしまして」
本当はアライアはYF-29本体を少しもいじっていない。
スグミから受け取った感謝の言葉は、そのまま前の持ち主に届けるつもりで、窓の外を見た。
「アライア、そろそろ新装備とやらを使わせてくれ」
「ん? あーあれね、グライフのカタパルトデッキに上げとくわ」
「了解」
スグミはYF-29を宙返りさせ、グライフのカタパルトデッキに上げられた新装備を取りに戻った。
ガウォークになってデッキに着いた頃にはすでにそれは用意されており、スグミはそれをすぐに手に取った。
「これは……?」
それはL字型をしており、ちょうど角の部分に銃口が見えた。
また、末端には刃と思しきものも。
「アイシャが設計した新型バルキリー"YF-301"のメインウェポン、"トンファーガンポッド"よ。まだ試作段階だし扱いは難しいと思うけど、スグミなら使いこなせると思ってね」
「ケイロンの……なるほどな。変形時にはどうすればいい?」
「ちょっと待ってね……よし、これであなたのYF-29はトンファーガンポッドを認識したから変形も問題ないわ」
試しに一度ファイターに変形してみた。
トンファーガンポッドは、重量子ビームガンポッドに新設されたアタッチメントにマウントされ、問題なく機体底部に懸架された。
「なるほどな…」
「やっぱり変形速度はコンマ1秒落ちちゃうから、いざとなったらパージしてちょうだい」
「いいのか? 貴重な試作兵器だぞ?」
「いいのいいの、戦いの邪魔になったら元も子もないからね」
「そうか、了解した」
スグミはその後も色々な姿勢で変形を繰り返し、あまりに特殊な武装の活用法を練っていた。
「アイシャのやつ、『5年後には必ず正式採用される!』って張り切ってたから、できれば結果を出して欲しいわね」
「それは問題ない、任せておけ」
「心強いわ」
スグミは少しずつこの機体、この武装に慣れてきた。
と同時に、ある種の心地よさを抱いていた。
勿論YF-29での激しい機動が身体的に心地よいわけがない。
ただ、包み込まれるような空気感や、AIの癖も、グリップの削れ方やシートの凹み方、その全てがスグミの身体を包み込むようだった。
「なぁアライア」
唐突にスグミが言った。
その目はどこか遠くを、ここじゃないどこか遠くを見ているようだった。
「もしもの話だ。もしも、私のお母さんが生きていたら……」
スグミは言葉を途切れさせると、YF-29を一気に加速させた。
そして、空中を滑るように、氷上を滑るように、飛んだ。
今まで以上に美しく、今まで以上に上品に。
どこか闘志や凶暴さが見え隠れしていたスグミの今までの飛び方と打って変わり、物静かで透き通るような、そんな機動だ。
そして一気に上昇したあと、重力に身を任せた。
「こんな風に、飛んだのかな………」
ほんの少しだが、少女の瞳が見えた。
表情を押し殺すようなスグミの、僅かな表情が溢れた。
「それは分からない。でも、あなたはあなたよ。あなたにはあなたのカタチがある。それで、いいじゃない…」
スグミは目を閉じた。
そうだ、私は私でいいんだ。
そう心で呟いた。
「そうだな……ありがとう」
今までありがとう。
「私は……」
もう背中を追うのはやめる。
「私だ………!」
風を斬り、聖剣が地に突き刺さる。
土煙の上がる中。
それが晴れたあとには、バトロイドで片膝と片手を着いた聖剣デュランダル。
心を新たに、
機体を新たに、
再び降り立った。
どうも星々です!
うわぁ最終決戦近づいてきてる
緊張します(どうでもいいですね)
とは言えです、まだ色々片付けなきゃいけないこともあるんで決戦はまだかな……?
さて、先日新たな情報が解禁されたマクロスΔ!
メインビジュアルや新機体にテンションがとても上がりましたね、ね?
今作"マクロス-Sword-"に、僭越ながら早速Δを意識した設定を盛り込んでみました
その辺も楽しみながら、どうぞ