警報が鳴り響いた。
「今度はなんすか⁉︎」
「行くぞチャーリー」
カフェテリアで一息ついていたチャーリーとセルダは飲みかけのコーヒーを置いてハンガーへ走った。
パイロットである彼らにとっては当然の行動だったが、今回はそれが正しいことではないというのは、知る由もなかった。
「さすが行動が早いわねセルダ」
「ルーシア、状況は」
「ブリッジからの指示はないわ。問い合わせてみたけど応答はない、ただのスクランブルとは思えないわね」
比較的フランクな話し口調のルーシアだったが、彼女の推測は冷静でキレのあるものだった。
確かに、ブリッジからの指示もなく警報のみが鳴り響くというのは不可解なことだ。
「スクランブルじゃない……?」
「あらミランダ、いつの間に」
「………………………………まさか⁉︎」
駆け足で入ってきたミランダはルーシアの話の断片を聞き、嫌な可能性思い付いた。
沈黙するブリッジと鳴り響くサイレン。
何か起きたとすれば、それはブリッジに答えがある、そう結論付けるには十分だった。
ミランダは走り出した。
「ミランダ? 待てってどこ行く!」
遅れ気味で現れたブレイブローアは勢いよくすれ違った彼女に驚き、後を追った。
「ミランダ大尉のことはブレイブローア大尉に任せよう。俺たちは念のため発進準備をしておくぞ」
「了解っす中尉!」
「おいミランダ、どうしたんだよブリッジなんかに…」
「構えてローア。今は危険なところよ」
「危険なって……おい!」
ミランダは銃を取り出し、勢いよくブリッジに突入した。
彼女の考えをいまいちつかめていないブレイブローアは念のため警戒して、壁に背中をつけながらそっと中の様子を伺った。
すると、銃声が聞こえてきた。
慌てて彼も突入すると、右腕を撃ち抜かれて血を流すミランダの姿が目に入った。
撃ったのは、艦長であるアイギス・ノリー中佐だった。
「艦長…⁉︎」
「下がってローア。やっぱり艦長が正気を失ってる」
痛みに汗を流しながらそう言うミランダ。
確かにアイギスの目には光がなく、正気を保っているとはまるで思えなかった。
「私の声が届いているなら聞いてください。一度だけ言います、銃を降ろしてください」
返事はなかった。
ただユラユラとそこに立ち塞がっていた。
「……悲しいけど、あなたも…」
ミランダは引金を引こうとした。
が、大きく艦が傾いたことでバランスを崩し、それを阻害した。
逸れた銃弾がメインモニターにヒビを入れる。
「クッ…何が……」
「艦体が傾いてやがる、この角度と高度、墜ちるぞ!」
そう、艦体の高度がみるみる下がっていた。
自動航行がオフにされていたのだ。
その犯人は、状況から言うまでもないだろう。
「仕方ないね…」
「あぁ、急ごう」
ミランダは制服の襟をつまみ、パイロット用の通信回線を開いた。
「こちらミランダ。私たちは現時刻を以って現管理下から離脱、艦を放棄します」
『ってことはやっぱり、そーいうことなのね』
返ってきたルーシアの声は想像よりも冷静だった。
いつも拍子抜けするほど調子が変わらない彼女のことだ、別段不思議なことではなかったが。
「パイロット各員に通達。速やかに艦から脱出せよ!」
『『『了解』』』
それから5機のバルキリーが脱出したのはさほど時も経たずしてだった。
さすが、と言える素早さだった。
隊長であるミランダの判断も賢明で、かつ決断力もあった。
彼女は隊員の生命および戦闘力を最も確実に確保できる選択をしたのだ。
「ふぅ…29にやられたのが脚でよかったぜ」
ブレイブローアがそう言うのは、VF-22系の特徴的な可変機構が、脚部をエンジンブロックとせずにファイターでは機体下面に格納する方式を取っている、という理由に基づいている。
通常、可変戦闘機はバトロイドおよびガウォークにおける脚部をファイターでのエンジンブロックにあてている。
対してVF-22系はそれから外れているため、たとえ脚部を破損および紛失しても飛行するには問題がないのだ。
「艦が………」
ふとチャーリーがそう悲しげに呟いた。
視線の先には、地面に向かって進んでいく母艦の姿が。
その中には逃げる術もなく恐怖に怯えるクルーたちがいることだろう。
いや、考えたくはないが、もしかしたら既に多くの犠牲者が出ているかもしれない。
そんなことを思えば、胸が痛くなる。
「ミランダ大尉」
「わかってる。私は隊長よ。自分の判断に、後悔なんてしないし、後ろを振り向いたりしない」
口数の少ないセルダにしては珍しい、ミランダを心配するような言葉に、彼女はまっすぐ前を見ながら答えた。
一見本当に迷いは無いように聞こえた。
しかし、ハイスクール時代からの親しい仲であるブレイブローアにはわかった。
彼女は無理をしている、と。
「でも、せめて……」
ブレイブローアが彼女の心中を察したすぐ後。
ミランダは呟くと機体をバトロイドへと変形させ、振り返った。
それに続き、他のメンバーも同じ行動を取る。
「各員、敬礼!」
そして
見つめる先で、彼らの母艦が閃光となった。
夜が訪れた。
惑星ソーディアに来て最初の夜だ。
ミランダ以下隊員たちは、もちろん寝付けるはずもなかった。
現在彼らは、名も知らぬジャングルにいる。
「ルーシア、フォールド通信は?」
「ダメっぽいね。次元断層の影響をモロに受けて何もできないよ。どうする隊長ちゃん?」
外部との連絡を試みるルーシアだったがやはり期待はできなかった。
ミランダもわかってはいたが、何をすればいいのか、明確には見出せていなかったのだ。
「大尉。データベースからソーディアの地図を調べてみたのですが」
そう言ってセルダが小型のヴァーチャルディスプレイを引き出し、地図を広げた。
「我々が目的地としていたのはここ、トゥペル平原の中央に位置する中央基地。そしておそらく現在地はそこから南西へ下ったここ、クローバー大湿地です。イリス川沿いにここから東へ行った先にトパーズ大湖群があります。まずはそこへ向かってはどうかと」
「なるほど…無難だね。じゃあまずとりあえずの目的地はトパーズ大湖群のジラソール・シティね」
現在彼らがいるクローバー大湿地には現在では使われていない新統合軍の研究施設があり、さらには南にバンデッドが多く潜むオーキッド樹林がある。
このまま長く留まっているのは危険と判断したのだ。
「よし、そうと決まれば行動だ!不味いレーションにはもう飽きたしな」
「でも、大尉のシュトゥルムフォーゲルは万全の状態じゃないじゃないっスか」
チャーリーが言うように、ブレイブローアのVF-22は両脚を失っていた。
万全と言うには程遠い状態である。
「大丈夫大丈夫。こいつなら脚が無くても平気だし、むしろ身軽だ。一応ガウォークでの活動もできるし」
彼が一番損傷が酷かったが、それでも常に明るく振舞っていた。
それが素なのか、それとも場を和ませようとしているのか、それはわからないが、確かにムードメーカーとして一役買っていた。
「でもまずは休息だよ。夜間の移動は極力避けて、明るい内にジラソール・シティに向かおう」
「了解です、大尉」
「そうだな、ひとまず休んでいくか」
幸い、彼らには"可変戦闘機"という宿があった。
寝心地がいいとは言い難いが、キャノピーによる雨避け、風除けが期待できる。
室温および湿度調節機能も備わっており、下手なテントよりかは快適と言える。
「それじゃあみんな、明日の夜明けと共に行動開始ね。それまで十分に休息とること」
「了解」
「了解っス!」
「おっけ、おやすみ〜」
そして彼女らは、それぞれ眠りについた。
夜も更け、隊員たちが眠りに就いたころ。
大小2つの
パイロットスーツは脱ぎ、薄手のタンクトップとショートパンツという、普段は隊員にあまり見せないラフな格好だった。
「不安…か………」
ミランダはコックピットから夜空を見上げてそう呟いた。
「もっと自分の力に自信を持っていいんだぞ、ミランダ」
突然の声にはっとしてコックピットから身を乗り出すと、そこにはブレイブローアの姿があった。
「ローア…起きてたんだ」
「不安そうな夜風だったからな」
不思議な表現をする男である。
「やっぱり不安か?」
「うん、軍に復帰してこの部隊の隊長に就任して最初の任務でこんなことになっちゃって……強がってるだけで精一杯だよ…」
膝を抱えて俯くミランダ。
今の彼女は、隊長としての顔をしていなかった。
「ごめんね、こんな隊長で…」
「いや、お前はよくやってるよ。新統合軍第727独立部隊レイヴンズ第7分隊…実質もう第7分隊は壊滅しちまったが、そのクロス小隊隊長なんていう重い役割を、お前はきちんとこなしてる」
「そうかな……」
第7分隊。
レイヴンズといえば、テロや暴動、反乱への対処を目的とした特務部隊である。
特に最近設立されたこの第7分隊というのは、まだ治安が不安定な銀河辺境を担当する隊である。
そのため新統合軍での位置付け及び重要性は高めであり、新設部隊ということもあって期待も大きかった。
故にプレッシャーもそれ相応のものがあるのも事実だ。
「もっと自信を持っていい」
「ありがと…………」
彼女の表情は晴れない。
そんな様子を見かねたブレイブローアは、コックピットへ飛び込んだ。
ミランダと向き合うような形で、狭いコックピット内に入った。
「大丈夫だ、俺がついてる。苦しいことや不安は俺にぶつけろ。辛い時は、支え合おう」
彼女の両肩に手を乗せ、ブレイブローアは言った。
その言葉にはどこか、力強さや安心感があった。
少なくともミランダには、そう感じられた。
「……うん、ありがとねほんと」
ようやくミランダの顔に笑顔が現れた。
それを見たブレイブローアも笑顔をこぼす。
2人の間には、ハイスクール時代から築かれた強い信頼関係、絆があった。
少しの沈黙。
「ねぇローア」
「ん?」
唐突にミランダが口を開いた。
「近い」
「あっ、すまん」
わざとらしくむすっとしたような顔をしてミランダが言うと、ブレイブローアは手を離す。
そうして今度は子どものように笑い合った。
しばしの間だったが、2人の間にハイスクール時代に戻ったかのような時間が流れた。
不安が拭えたわけではない。
だが少なくとも、彼女の心は明るくなった。
月明かりの下、ミランダは新たに、前を向く勇気を持ったのだった。
どうも星々です!
いやぁほんとに時間が空いてしまった!
忙しいんです許してください!
それはそうと、マクロスΔ個人的には歴代屈指の名作になる予感してるのは自分だけですかね…?