「クラウンめ、大口叩いておいて大敗とはな」
ANUNS輸送船。
この一室でサテルは外の様子を見ていた。
トパーズ大湖群からようやく、クローバー大湿地へ入ろうとしていた時に届いた報せを受け、立ち上がる。
「この船に目をつけられるのも時間の問題……かといって、
サテルは羽織っていたコートを脱いだ。
露わになったのは、パイロットスーツ。
「ロボル司令はオルタンシア・シティでお降りになられた。少し派手に飛んでも問題ないだろう」
サテルは扉を抜け、ハンガーへその歩みを進めた。
「丁寧に船体にANUNSと書いてある。プロパガンダでもしているつもりか」
未確認の輸送船に接近するにつれ、その姿が良く見えてきた。
船体には大きな文字で"ANUNS"と書いてあり、偽装する気もないらしい。
サイズから判断して、バルキリーの積載可能数は2だろう。
スグミひとりでもなんとかなる数だった。
見たところ護衛のバルキリーは3機のVF-171。
深緑のカラーリングだ。
「こちらS.M.Sソーディア支社所属、スグミ・ドリム。輸送品と航行目的を問う」
ANUNSといえど、この輸送船はまだこちらに攻撃してきていない。
あくまで"未確認機"としての対処を試みる。
が、返ってきたのは迎撃行為だった。
「了解した。これより貴官らを撃墜する。通信終わり」
スグミは通信を切ると、一度高度を取った。
護衛の3機の内、1機がこちらを追ってくるが、スグミはバトロイドに変形して自由落下、いや、下方へ向けて
回転しながらガンポッドを避けつつ、追ってきたVF-171を踏みつける。
キャノピーを踏み砕き、コックピットを潰す。
「悪く思うな」
そのままVF-171を足場にして跳躍。
ムーンサルトの要領で回転しつつ、ガンポッドとミサイルを撒く。
ミサイルは敵2機をマルチロックし、覆い被さるように目標へ飛ぶ。
腰部、主翼付け根の半固定レーザーを放ちつつ自由落下。
高度を合わせたらガウォークへ変形した。
ミサイルを凌ぎきれずに直撃を喰った片方のVF-171を攻撃。
もはや的と化したVF-171は煙を上げ、ついに爆発した。
残るは1機。
その時だった。
「後退していく……どういうことだ?」
護衛のはずのVF-171が敵前逃亡とも取れる後退をする。
だがこれは、強敵出現の合図だった。
「なるほど、あの男か」
それは、白いVF-27γ。
そう、サテルである。
外の様子も見えない閉ざされた部屋で、ミストレーヌはどうすることもできずに、聞こえてくる爆音に体を震わせていた。
「おやおや、まだネチネチと拗ねてんのかい」
そんな彼女元に、ひとりの女がやってきた。
アリエ・セドトール、ANUNSの幹部である。
彼女はミストレーヌの顔を覗き込むと、何か思いついたように口角を上げる。
「じゃあこうしようか。黙って私たちに協力した方が身のためだとわかるように、私たちがどれだけ残酷で強力かを、その目に刻みつけてやろう」
ショーでも始めるこのように両手を広げると、ミストレーヌの目の前の壁が割れた。
左右にスライドしていくと、壁は窓となった。
外には、2機の可変戦闘機が見えた。
取っ組み合いをし、互いに一歩も譲らぬ戦いだった。
「あの黒と青のエクスカリバーの朽ちてく姿を、しっかりと見ておくんだな!」
「そんな手になんて…!」
「乗るさ。アンタの目がそう言ってんだ」
挑発的な視線を送り、戦闘を見るように彼女の頭を掴んで無理やり顔を向けさせる。
その時、ガウォークで掴み合う2機がこちらへ迫ってきた。
激突する寸前で再び硬直状態になったが、ミストレーヌは、あるものを目にしてしまった。
「お姉…さん…!」
ミストレーヌは目を丸くした。
確かに見えたのは、必死に戦う
キャノピー越しであったが、確かに見えた、スグミ・ドリムの顔を。
「なんだい知り合いかい。ならますます面白いじゃないか」
激しいマズルフラッシュに目を背ける。
それがおさまると、2機は再び離れて撃ち合いを始めた。
スグミはVF-27γに突撃した。
相手もそれに応え、互いにガウォークで取っ組み合いになった。
その時、スグミは見た。
輸送船の窓から見える、縛られた少女を。
(ミストレーヌ……‼︎)
「やはり貴様らだったか」
スグミはガンポッドを撃って相手を突き放す。
『あの娘のことか。貴様が一緒にいたというのは計算外だったがな』
サテル駆るVF-27γはファイターに変形し、一気にこちらへ向かってきた。
スグミは冷静に弾丸回避し、ファイターに変形して後ろを取る。
この時スグミは感じていた。
敵は、以前よりも確かに手強くなっているということを。
以前よりも積極的な攻めをするようになっていた。
だが、これでスグミの得意な間合いまでこちらから追いかける必要が薄くなったのも事実。
「ミストレーヌをどうするつもりだ」
『貴様に答える道理はない』
「ならば貴様を墜して彼女をさらっていくことにする」
『寝言を』
「忘れたか? お前は一度、私に負けている」
この言葉に、サテルは一瞬だけ、眉をひそめた。
理由のない、敵を墜とすことに対する意欲の向上が、彼の脳を支配した。
否、そもそも彼の思考に意欲は存在していない。
そのはずであった。
彼はこの時気付いていなかった。
これが、"感情"というものであると。
『いいだろう。今度は失敗しない』
大量のミサイルが放たれた。
VF-19ASはチャフを撒きながら急速上昇しそれを凌ぐと、ガウォークに変形してミサイルを撃ち返した。
VF-27γはやすやすとその弾幕を突破し、ドッグファイトに持ち込まれた。
ブレイクを繰り返すVF-19ASを逃すまいと追う。
VF-19ASのその運動性持ってしても、振り切るには苦労するしつこさだった。
「クッ……やるようになったか」
防戦一方になってしまったスグミは、何とかして攻めに転じる手を模索していた。
だが敵はそれを許す間もない弾幕で、背後を取り続けている。
『隙が多いぞ』
絶え間なく降り注ぐ弾幕を、躱し続ける。
ロールしてから急上昇、反転して反撃を試みるが、それもすぐに回避行動に移さざるを得なくたってしまった。
球切れを恐れないほどに大量に撃ちまくる敵。
ついにVF-19ASは、その一撃を受けてしまった。
「エンジンに被弾…出力低下、戦闘続行不可能…か……」
スグミは、ここまでか、と悟ったかのように目を閉じ、重力にその身を任せた。
今回はミストレーヌのことで不思議と冷静さを失っていた気がしたと、最後の最後に思った。
脱出する気は無かった。
最期まで愛機に添い遂げようと、そう決めていたからだ。
(ひとりで死ぬのは…私らしいかな…………お母さん…)
VF-19ASがVF-27γの猛攻を受ける様を、ミストレーヌはしっかりと見ていた。
ふさぎ込む自分を路地裏から連れ出してくれたその人が、敵に撃たれる姿を。
そしてついに、VF-19ASはエンジンから煙を上げ、失墜していく。
「ほらほら、あっという間だったね」
信じられない、というような表情で、瞳に涙を溜めるミストレーヌ。
(ダメ、このままじゃ……!)
ミストレーヌは縛られた手を強く握った。
瞼に力を込め、全身の血の巡りを感じてみる。
よし、確かに私は今生きている。
(もし、私にできることがあるなら………今はそれに賭けてみたい)
ミストレーヌは大きく深呼吸をした。
(この人たちに利用されちゃうかもだけど、今はあの人を…お姉さんを救いたい……!)
「届け、私の歌‼︎」
-- また、飛べますように ---
失墜していく。
その中、スグミは目をカッと開いた。
「聞こえた…聴こえたぞ」
スグミは操縦桿を強く握り直し、強く手前に引く。
態勢を立て直すためにできること、あれこれを試した。
『な、何が……』
サテルの驚きの声が聞こえた。
「届いたぞ、ミストレーヌ」
スグミはもう、諦めの意思を捨てた。
地面が迫る。
だがスグミは確信していた。
再び聖剣は、飛ぶ、と。
「届いたぞ、お前の歌!」
空間が震える。
歌声が響き渡った。
歌声は光となり、VF-19ASを包み込んだ。
それは尾を引き、再び空へ舞い上がった。
今度は一層力強く、美しく、凛々しかった。
「反撃開始だ」
推力を取り戻した、いや、推力を増したエンジンが咆える。
ジグザグな軌道を描きながら、背を向けるVF-27γに突貫する。
追い抜きざま、真横で横滑りしながらガンポッドを至近距離で撃ち込む。
それは転換装甲をもろともせずに装甲に突き刺さった。
『グッ……そうか、これが、歌の力か』
『データ収集はできた。サテル、おいとまするわよ』
通信のその向こうで交わされる通信が耳に入った。
しかしスグミは、それに構わず撃ち続ける。
機体腹部を撫でるように下に潜り込み、レーザーを撃ちながら交差する。
直撃を何発も受けたVF-27γは、とても戦える状態ではなくなった。
『……………撤退するッ…‼︎』
サテルの歯ぎしりが聞こえ、それを最後に通信は切られた。
VF-19ASはそのまま、輸送船に突っ込む。
ピンポイントバリアを張った左手で外壁を剥がし、ミストレーヌを捜す。
しかし、すでに彼女は別の場所に連れ去られていた。
「手遅れか…」
めり込んだ機体を輸送船から離れさせ、再びVF-27γの方へ向き直る。
しかし、そこに映るのは離れていくVF-27γ。
それも、今戦っていた白い機体と、輸送船から出てきたエメラルドグリーンの機体の2機だ。
おそらくミストレーヌはあおのエメラルドグリーンの機体に乗せられているのだろう。
それを追おうと、轟沈する船を足場にし、一気にそれを蹴る。
しかし、包まれていた光は次第に暖かさを失い、その輝きが消えてしまった。
それすなわち、VF-19ASが再び戦闘不能状態に陥ることを意味する。
「また、連れて行かれたか」
スグミは遠ざかっていく2機に手を伸ばす。
「必ず、助けに行く……」
空が、橙色に染まる。
沈んでいく輸送船と夕陽を背にするVF-27γ。
そのパイロット、サテルの表情は穏やかではなかった。
それが気になり、もう1機のパイロット、アリエが話しかけてきた。
「どうした? どこかエラーでも出たのかい」
サテルは自らの右の拳を膝に打った。
「何だ、この落ち着かなさは…! エラーコードが識別できない…ッ」
その拳は力が込められ、小刻みに震えていた。
その様子を見たアリエは、やれやれといった様子で肩をすくめて言った。
「サテル、思い出しなさいよ。アンタそれ、"感情"よ。アンタがとっくの昔に忘れちまった、ね」
アリエが知りうる最も古いサテルの姿。
それはまだ物心ついたばかりの頃の記憶。
その時にはもう、サテルはサイバーグラントとなり、感情を捨てていた。
そんな彼に再び芽生えた"感情"。
「あの女のお陰で呼び起こされたみたいだね」
「あの、女……スグミ・ドリムに……」
サテルは歯ぎしりした。
「そうイライラするんじゃないよ。コード"アムドゥスキアス"のデータも取れたんだしさ」
アリエは後ろで眠らされているミストレーヌを親指で指差した。
「分かっている……」
2機は、放棄されたANUNS基地へ向かう。
眠れる少女を乗せ、計画駒進めるために。
どうも星々です
夏ラストスパート(ry
マクロスといえば歌! 歌といえばマクロス!
ようやく出てきましたね歌
まだまだ曖昧なものですが、この歌の力、ミストレーヌの正体も、じきに明らかになっていきますよ!