INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
「なぁ、いい加減機嫌直してくれよ・・・。」
「別に怒っていないと言っているだろう。」
午前7:30頃。1年生寮の食堂に足を踏み入れた靖人とマリーが見たのは、謝罪を繰り返す一夏と不機嫌そうな表情の箒だった。
「・・・ねぇ、あの2人何があったの?」
マリーが靖人に質問する。靖人は昨日の放課後、自分が目撃した光景をありのままに語った。
「・・・木刀持った篠ノ之さんが一夏の命を狙っていた。」
「何その任侠映画。」
と言われても本当の事なんだが。実際、靖人も何故一夏があのような目にあっていたのかは分からない。
(篠ノ之さんがあんなに怒ってた・・・て事は一夏が何かしたのかな。後で聞いてみようか・・・いやでもやめた方が良いのかな。)
皿に鮭の切り身を盛りながら靖人は考える。学生寮の食堂はバイキング形式になっていた。
朝食の品を選び終わり、靖人とマリーは一夏たちが座っている席から少し離れた机をとる。2人の言い争いはまだ続いていた。
「・・・何ていうかさぁ。」
2人の様子を観察してたマリーがコンソメスープを口に運びながら言う。
「端から見るとあの2人、夫婦みたいだね。」
「っ・・・確かに。」
マリーの例えに靖人は思わず吹き出した。
「浮気がバレた夫とそれにご立腹な妻。」
マリーが更に言葉を付け加えていく。2人の会話が聞こえないせいか、本当にそのように見えてしまうのが可笑しかった。
「まぁ、あの2人は幼馴染みらしいから、仲良く見えるんだろうね。」
「それで昨日一夏を呼び出してたんだ。・・・あ、箒が席を立った。実家に帰るのかな。」
見ると、箒が食べ終わった朝食のトレイを持ってスタスタ歩いていってしまっていた。取り残された一夏が黙々と朝食を片付けていたが、すかさず3人の女子が一夏の周りに座り始めた。
「あー、浮気相手が3人もいたんだ。こりゃ箒も怒るわー。」
「・・・ジャスパーさんって、結構不思議だね・・・。」
相変わらず昼ドラのような例えを続けるマリーに靖人は苦笑する。
「よく言われる。」
ひとしきり観察が終わり、マリーは食卓に向かい直す。そして、靖人に対して違う話題を切り出した。
「そういえば、試合はどうするの?流石に1週間、何もしないなんて事は無いよね?」
「あぁ・・・。」
昨日のいざこざで、一夏と代表候補生であるセシリアとクラス代表の座をかけた対決をする事になったのを思い出す。
正直、セシリアに勝てる可能性は限りなくゼロに近いだろう。以前千冬も言っていたが、「ISでの実力は、ISをどれだけ長く操縦してきたかどうかが鍵になる」のだ(勿論訓練の内容なども大事ではあるが)。2週間機関で訓練してきたとはいえ、代表候補生として何百、何千時間もISに搭乗したであろうセシリアには簡単には追い付けない。一夏に至っては靖人と違って訓練すら受けてないのだから、敗色は更に濃くなるだろう。
(・・・でも。)
昨日の一夏の真剣な眼差しを思い出す。彼は決して自分が不利だとか、勝てる筈がないだとかは考えていない。正々堂々と、真剣勝負を望むだろう。そういった考えは、昔やっていたという剣道から来ているのだろうか。
(だとすれば・・・僕も。)
何もしないで、無様に負けるのは嫌だ。やれるだけの事を、試合でぶつけてみたい。
「訓練はしようと思ってるよ。放課後アリーナが開放されているそうだから、早速使ってみようと思う。それで、ジャスパーさん・・・。」
靖人は正面に座るマリーに頭を下げる。
「良かったら、僕の訓練に協力してくれませんか。ISに関しては、僕はまだ皆より未熟だから。」
自分の言葉に、マリー(そして周りで聞き耳を立てていた女子数名)が驚きの声をあげたのが分かった。
IS学園に入学する筈が無かった自分は、周りの生徒たちと違い、圧倒的にISの知識、経験が不足している。誰かに指導してもらおうとは、試合が決まった時から考えていた。ルームメイトであり、今(一夏を除いて)一番仲が良いマリーが適任だと結論を出した。
「えっ!?その、私から誘おうと思ってたんだけど・・・!とりあえず頭をあげて!」
マリーが慌てていた。「これで昨日初めて会った時のお返しができたな」と内心笑みを浮かべつつ、靖人は姿勢を戻す。
「・・・いいんだね?」
マリーが確認をとってくる。靖人は迷いなく頷くと、彼女の表情がパッと明るくなる。
「よし、それじゃあ今日の放課後から始めようか!」
「うん、よろしくね。」
硬く握手を交わす。その後はどのアリーナを使おうか、どういったスケジュールで進めていこうか話し合いつつ、朝食を終えた。
ちなみにSHR前、教室で一夏に昨日何があったのか聞いてみた。曰く
「部屋に入ったらシャワーを浴び終わった箒に遭遇した。」
「この学校ではトイレをどうしたらいいのか話したら箒が再び木刀を振ってきたので、咄嗟に鞄に刺さっていた竹刀を取り出したら、一緒に箒の下着も引っ張り出してしまった。」
・・・だそうだ。それは怒るわ。あと確かにトイレどうすればいいんだろう。
「織斑。」
2時間目の休み時間。一夏が靖人に先程の授業で分からなかった所を質問していた時、千冬が声をかけてきた。
「ちふ・・・織斑先生。」
(今『千冬姉』って言いかけてた・・・。)
いくら実の姉弟でも、学校だと教師と生徒。気安く名前で呼ぶわけにはいかない。出席簿は・・・こないようだ。
「お前のISに関してだが、学園側で専用機を用意する事になった。」
「えええええっ!!」
千冬の言葉にクラスが騒然となる。言われた本人はいかにも「何で皆驚いてるんだ?」という表情を浮かべていたので、靖人は再び一夏に教科書を差し出した。
この世に467基存在するISコアのうち、100基程は研究対象として様々な新システムを導入した試作機となり、代表候補生等にデータ収集を目的に譲渡される。これらの機体が専用機であり、その性能は量産型の物に比べて高い、または異質である事が多い。
「今回は『ISを動かせる男』であるお前のデータをとるために、特例として専用機が用意される。本来なら国家に関係する者でないと与えられない貴重な物だからな?」
「な、なるほど・・・。」
ようやく状況を理解した・・・であろう一夏が、突如「あれ?」と疑問を浮かべる。
「専用機が用意されるのは俺だけですか?靖人は―」
「あぁ、それはな。」
一夏の言わんとしている事が理解できた千冬が靖人に目線を送る。
「僕はもう、専用機を持っているんだ。」
「嘘ぉぉぉぉぉぉ!!!?」
靖人の言葉に、一夏を含め再びクラスが震撼する。セシリアが「入試を受けてないのに、専用機ですって!冗談じゃありませんわ!」とか言っていた気がするけど、無視。
「正確には、僕はこのISしか動かせない。自己紹介の時に織斑先生が言っていた『特別な条件』っていうのはこの事なんだ。」
靖人が右手の中指の指輪を触りながら言う。
(あれいつも着けてた指輪じゃん。実はISだったのか・・・。)
『事実は小説よりも奇なり』とはよく言った物だな、と呟く一夏であった。
専用機の事でワイワイ盛り上がっていた教室だったが、3時間目の開始を報せるチャイムが鳴り響くと、一瞬で静かになった。
「さて、授業を始めるか。」
千冬が教壇に立つと同時に、起立した1年1組の生徒たちが揃って礼をした。
ちなみにトイレは一部のトイレを男子トイレとして使用して良い事になった。といっても、学園内でたった3ヵ所しかないらしいが・・・。
文字数が段々と増えてますね。あまりにも簡素なのは避けたいのですが、増えすぎても読みにくくなりますよね。どれ位まで書いていいのか、毎度悩みます。