INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
IS学園には、『アリーナ』と呼ばれる施設が複数存在する。その名の通りISでの試合を行う場所で、フィールドの直径は200m。また安全のためフィールド周辺にISのシールドバリアと同じ性質を持つ遮断シールドを形成しており、観客席等に攻撃が届かないように設計されている。
クラス代表対抗戦を始め、IS学園で行われる試合の殆どはこのアリーナで行われる。
また平時には生徒たちに解放されており、放課後、ISの修練を積む生徒たちの姿が見られる。
放課後、第2アリーナ。
『ISスーツ』・・・―操縦者の動きを検知し、IS本体に伝達する事で、ISの反応速度を高める特殊なボディスーツ―・・・を着込んだ靖人がそこにいた。
既にアリーナ内はISを装着した生徒が大勢いた。飛行や停止など、基本的な運動を行う者。突如出現した標的を展開したライフルで撃ち落としていく者。模擬戦で相手と剣を交える者。各々が自分に必要な訓練を行っている。
・・・がそこにIS学園で2人しかいない男子のうちの1人、神谷靖人が現れたため全員の意識が訓練から靖人へ逸れていた。現に何人かがよそ見をしていたせいで空中で衝突しているのを靖人は目撃していた。
(あれ・・・僕もしかして邪魔?)
彼女たちの姿を見て申し訳ない気分になりつつ、靖人は『先生』を待っていた。
「ごめん、遅くなった!」
ピットから『ラファール・リヴァイブ』を装備した『先生』・・・マリーが翔んできた。靖人の直ぐ隣に着地したマリーは顔の前で手を合わせる。
「待たせてごめん!ISを借りるための申請が結構めんどくってさ。」
「いや、そんなに待ってないから大丈夫だよ。わざわざありがとうね。」
謝罪をしてくるマリーに靖人は優しく声をかける。・・・何か周りから微かに殺気を感じるんだが気のせいだろうか。
「靖人は専用機あるから良いよねー。って事で早速その専用機をお披露目しちゃってよ。」
マリーの言葉に頷くと、靖人は右手を胸にあてる。目を閉じて、意識を集中する。
(・・・不知火。)
心の中で呼び出すと同時に、靖人の周りが光で包まれ、自分の感覚が研ぎ澄まされるのを感じる。
光が晴れると、そこには不知火を身に纏った靖人がいた。
「これが・・・靖人のIS・・・。」
マリーが感嘆の声をあげる。観察のためだろうか、ラファールを操り、様々な方向から靖人を眺めていた。
「全身装甲だけど、間接部の造りがよく出来てる。全体的に装甲が厚そうだね、防御力凄いんだろうなぁ。」
マリー全身をくまなく見られ、更に専用機である事も相まって周りからの視線が更に強くなる。流石にこれは恥ずかしい・・・。
「・・・ジャスパーさん。そろそろ始めようよ。」
恥ずかしさのあまりマリーを止めると、彼女は「ごめんごめん」と笑いながら正面に向き直る。
「さてと・・・、それじゃあレッスンを始めようか。まずは機関の方でもやっただろうけど、基本的な操作のおさらいから!」
マリーが元気よく手を叩く。こうして靖人の特訓が始まった。
「どうしてここまで弱くなっている!」
夕日が窓から入り込むIS学園の剣道場内で、面を外した箒は目尻を吊り上げていた。箒の怒りを受けた一夏は、「どうしてって言われてもなぁ・・・。」と頭をかく。
専用機が届くと知らされ、それまでは量産機を借りてISの特訓をしようかと一夏が考えていた時、一緒に昼食をとっていた箒に「特訓に付き合ってやる」と言われた。勿論了承したが、箒に来るように言われたのはアリーナではなく剣道場だった。はて?と首を捻っていた一夏は無理やり防具を着けさせられ、箒と剣道で勝負する事になった。
何度か手合わせをしたが、結果は一夏の全敗。痺れを切らした箒が一喝して、今に至る。
(つーか中学の時帰宅部だった俺が、この間全国大会で優勝したような奴に敵うわけないだろ・・・。)
いつぞやだったか読んだ新聞のスポーツ欄に、箒の名前が載っていたのを思い出す。
「鍛え直す!IS以前の問題だ!これから毎日稽古をつけてやる!」
「いや、俺は剣道じゃなくてISの稽古をつけて貰いたいのですが―」
「剣の道は全てに通ずる。剣で勝てぬのならISでも勝てん!」
一蹴。もうダメだ。こうなってしまうと箒は聞く耳を持たない。「もう一度だ!」と箒が叫び、再び試合を始めようとした時だった。
「あー、やっぱり箒と一夏だ。箒の声が聞こえたからもしかしたらと思ったんだよねー。」
突然来訪したのは、先程特訓を終えた、マリーと靖人だった。マリーは元気に手を振っているが、靖人は少し疲弊している模様だった。
「篠ノ之さん、声凄く響いてたよ。外でも丸聞こえだった。」
「なっ・・・!?」
靖人が苦笑しながら言うと、箒が口をあんぐり開けながら固まる。
「・・・一夏、休憩をとるぞ。」
「え?」
「いいから休憩だ!」
水を刺されたからだろうか、急に箒が試合を中止し、座ってしまった。
「おー!これが『ケンドー』の鎧かぁ。かっこいー!」
マリーは箒の元へ走っていって、箒の剣道着姿に目を輝かせていた。尻尾を振ってはしゃいでいる犬みたいだな、という印象を一夏は受けた。
「で、靖人は一体何をしてたんだ?」
一夏が靖人に声をかける。靖人は眼鏡をかけ直しながら答えた。
「あぁ、さっきまでジャスパーさんにISの指導を受けてたんだ。でも僕はやっぱりああいう体を動かす事は苦手だからね。疲れちゃったよ。」
「情けねぇなぁ・・・。」
一夏が酷評を下すが、自分も先程箒にぼろ負けしていたため、「俺が言えた事じゃないけど」と付け加える。
「そーそー、途中で集中力切れたからって、私の体ジロジロ見ちゃダメだよー?」
「何ぃ!神谷貴様ぁ、破廉恥だぞ!」
竹刀を眺めていたマリーの突然の爆弾発言に、マリーの相手をしていた箒が怒髪天を衝いた。
「ちょ、ちょっとジャスパーさん!別にいやらしい感じで見てた訳じゃ無いんだってば!篠ノ之さんも落ち着いて!」
靖人が顔を真っ赤にして弁明する。
先程の特訓では、マリーもISスーツを着用していた。IS学園の指定のISスーツは、俗に言う『スク水』に酷似していて、当然ながら体のラインがくっきり出てしまう。さらに負担を減らすために間接部に穴が開いており、肩や鼠径部が露出している。
特訓の終盤、疲労が溜まり靖人の集中が少し途切れた時、ふとマリーの姿に意識が向いてしまった。一瞬しか見ていなかった筈なのに、マリーには感づかれてしまった。
「あれー?説明そっちのけでどこ見てるのかな靖人君?私の体に興味あるのかなー?にっひっひ~♪」
当のマリーは恥ずかしがるどころか、むしろイタズラを思いついた子供のような笑顔を浮かべて楽しんでる様子だった。その後特訓が終わってからも弄られ続けたのは言うまでもない。どうもマリーにはペースを握られてしまう。
「・・・そうか、あまり女子と接点がなかった靖人も男だった、て事か。」
靖人とマリーのやり取りを見てうんうんと頷いていた一夏だったが、直後に向けられた靖人の本気の睨みに口を閉ざした。靖人が怒ると手がつけられないのは、過去の経験から知っていた。普段怒らない人物が怒る事ほど、恐ろしい物はない。
「えーホントに?後で部屋で2人きりになったりしたら襲ったりしないでよ?」
「す、するわけないでしょ!!」
「冗談だよー。もう、靖人は可愛いなぁ。」
羞恥で顔から火が出ている靖人と、靖人を弄り倒して満面の笑みのマリー。
(・・・この2人、ある意味相性いいな・・・。)
一夏が乾いた笑いを浮かべていた時、箒が大きく咳払いをした。
「あー・・・2人共、騒ぐなら別の所でやってくれないか?稽古の邪魔になる。」
(今は休憩中だけどな。)
一夏が心の中で突っ込む。箒が苦言を呈したのも分かる。確かに目の前で2人にじゃれつかれて(?)いたら、試合に集中できない。
「あ、ごめん。篠ノ之さん・・・。」
靖人の謝罪を聞いた箒が、僅かに厳しい表情をする。一夏は先程からの靖人の言葉に箒が反応しているのだと悟った。
「神谷。すまないが名字で呼ぶのはやめてくれないか?私の事は箒で良い。」
「え?」
箒のいきなりの忠告に靖人が疑問を浮かべる。彼女の言葉の意味を知っている一夏は、靖人に耳打ちした。
「靖人、あいつは姉である束さんがISを開発した影響で転校を続けるはめになったんだ。多分、その事がきっかけで束さんと同じ名字で呼ばれたくないんだろ。」
一夏の説明になるほど、と納得する靖人。
篠ノ之束がISを開発し、『ある事件』でその性能が公になった後、彼女の技術を手に入れたい各国の政府が様々な方法で彼女に手を出してきたらしい。束はそれをのらりくらりとかわしていたが、本人の周辺の人々から干渉されるのも時間の問題だった。故に日本政府は、篠ノ之束の肉親を日本各地に転々とさせ外国からの魔の手から守るという、防衛プログラムを実行した・・・と、機関での勉強中に職員の方から教えてもらったのだ。箒は正に、その防衛プログラムの、束の所業による被害者だったのだ。
「分かったよ、箒さん。」
「・・・それで良い。」
靖人が名前で呼ぶと、箒が一瞬笑みを浮かべたのが分かった。
「・・・よし一夏。稽古を再会するぞ。」
箒が立ち上がり、外していた面を被る。
「あ、じゃあ私たちはおいとまするねー。行こう靖人。」
マリーが剣道場の出口へ歩き出す。靖人は頷いてから、一夏の方に向き直った。
「一夏、稽古頑張ってね。僕も試合まで頑張るから。」
「おう、それじゃまた明日な。」
夕日をバックに、親友2人は拳を合わせた。
「・・・ねぇ、そういえばさぁ。」
一夏たちと別れて、2人で部屋に戻っていた時、不意にマリーが靖人に声をかけた。
「箒の事は名前で呼んだのに、私の事は呼んでくれないの?」
「え?あぁ、それなら・・・。」
マリーの提案に答える靖人。
「マリーさん。」
箒と同じように名前で呼んであげた・・・が、
「・・・『さん』?」
マリーがじとっと睨み付けてくる。何で?・・・もしかして・・・。
「ちょっとー、女の子が『名前で呼んで』って言ってるのにそれはないでしょー?男の子失格だよ?」
「え、いやほら、呼び捨てはもう少し仲良くなってから・・・。」
彼女は呼び捨てで呼んでもらうのを待っていたのだろう。だが、会って2日しか経っていない彼女をいきなり呼び捨てするのは、少し恥ずかしい・・・。
「何で?同棲してる仲でしょ?」
「その言い方やめて!」
『同棲』と言われると、何か・・・背徳的に感じる。
「一夏の事は呼び捨てじゃん。あ、靖人ってもしかしてそっち系?」
「いや違うよ!?」
一夏とは中学の頃からの付き合いだし・・・あと決して自分はそっち系ではない。
「・・・・・・・・。」
マリーが口をへの字に曲げていた。・・・ダメだ、もうやるしかない・・・。
「・・・マリー・・・。」
「え、何?聞こえなーい。」
あぁもう!!
「いい加減からかうの止めてよ、マリー!」
大声で叫ぶと、マリーの表情はいつもの子供っぽい笑顔に
なっていた。
「にひひ、やっと呼んでくれたねー。やっぱ靖人弄るの楽しいわー。」
「僕はおもちゃか!」
「うん。」
即答。靖人は怒りを通り越して呆れてしまい、がっくりと肩を落とす。
一方のマリーは上機嫌なのか、歌を歌いながら・・・―確か『It's only a paper moon』という曲―・・・歩き出していた。
(やっぱり、マリーには敵わないな・・・。)
自虐的な笑みを浮かべながら、靖人はマリーに続いた。
その日からクラス代表決定戦に向けて、2人の特訓が続いた。
「まだだ、まだ感覚を取り戻しきれてないぞ一夏!もう一度だ!」
「あぁ、行くぜ箒!」
剣道場では、一夏と箒が竹刀を交え、
「良い?相手の狙撃を避けるのに重要なのは、相手の視線と銃口の向き!瞬時に見極めて、相手が予想している方向以外に避ける!」
「はい!」
アリーナでは靖人とマリーがISを駆る。
互いに修練を重ね、遂にクラス代表決定戦当日を迎えた・・・。
マリーは書いてて楽しいです。でも何か、生徒会長さんとキャラ被ってる気がするようなしないような。