INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
ブザーと同時に、『スターライトMk-Ⅲ』を発砲する。放たれた閃光は一夏の左肩を捉え、白式の装甲を砕いた。
「うおっ!?」
着弾の衝撃に吹き飛ばされた一夏が、白式の姿勢制御によって体勢を立て直す。
(・・・咄嗟に回避しましたわね!)
セシリアは元々一夏の胴・・・直撃すれば『絶対防御』が発動するであろう部位を狙っていた。しかし一夏は着弾までの一瞬の間に、射線から自分の体をずらしていた。結局被弾はしているが、絶対防御が発動しなかった分シールドエネルギーはそこまで削れていないだろう。
(やはり、侮れませんわね。)
冷静に状況を見極めながら、ライフルを撃ち続ける。
数発相手に被弾するものの、やはり決定打にはならない。それどころか、完全に回避されてしまった狙撃もある。
(ISを動かしたばかりにしては中々やりますわね。それに・・・。)
セシリアは先程から一夏のISのある異変に気づいていた。
装甲が絶え間無く変形している。ISがそのような状態になるのは、『最適化』を行っている時のみだ。つまり彼は―
(『
最適化が終わり、ISが一次移行を完了して初めてそのISは操縦者専用の物になる。最適化が終わる前のISは本来の性能が発揮されず、場合によっては量産機以下の性能に陥る事もある。
つまり、織斑一夏はまだ本調子ではない。
その事がセシリアは心残りだった。決闘を望んだ以上、本気の彼と戦いたかった。
(でも・・・。)
レーザーを避け、その手に近接ブレードを展開した一夏を見る。その目は、揺らぎない覚悟で燃えていた。
(彼は情けをかけられる事を望んでいない。ただ、わたくしと全力で戦う事を望んでいる!)
白式の一次移行が終わるまで手加減をする事は、彼の覚悟を踏みにじる事になる。自分が彼と同じ立場であっても、相手にそれをしてもらいたくはない。だからこそ―!
「本気であなたを倒させていただきます!『ティアーズ』!」
背中からビットが飛翔し、彼の周囲を取り囲む。4つの銃口が、一斉に火を噴いた。
「踊りなさい!このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる
「一夏っ!」
セシリアに苦戦する一夏を見て、箒が心配そうに彼の名を叫ぶ。セシリアのライフルとビットの波状攻撃で、一夏は逃げ場を失い、何発ものレーザーを浴びていた。既にシールドエネルギーも残り200を切り、白式の装甲も至るところが破損していた。
「セシリアの攻撃を避けきるのは至難の技だね。あのビットで、反応が遅れやすい真後ろとかから狙撃してる。仮にビットを全てかわしても、次はセシリア自身のライフルが待っている・・・。」
マリーがセシリアの戦法を分析する。
「加えて、オルコットさんにはあのミサイルがある。威力から考えて、恐らくとどめに使うんだろうね。」
靖人が更に付け足す。
対する一夏は未だにブレードを持ちながらセシリアのレーザーに翻弄されていた。白式には、射撃武器が搭載されていないのだろうか。となると、遠距離射撃型のブルー・ティアーズとは、かなり相性が悪い事になる。
「ふっ・・・だがどんな戦法にも必ず穴はある。奴がそれに気づけるかどうかだな。」
靖人たちが厳しい表情をする中、千冬だけは微かに笑っていた。まるで実の弟の勝利を確信していたかのように・・・。
(いよいよまずいな・・・!)
レーザーの間隙を縫うように飛びながら、一夏は舌打ちする。もう残りのシールドエネルギーは少ない。あと数回攻撃を食らうだけで、自分の敗けが決まるだろう。セシリアには、一太刀も浴びせられていない。というより―
(武装が近接ブレードだけってどういう事だ!?最適化が完了していないせいか!?)
とにかく近接武器しか無いのなら、相手の懐に飛び込むしかない。だがセシリアまでの道程を、彼女が操る4つのビットの砲撃が邪魔する。またこのパターンか!
ビットの攻撃で動きを止めたところに、セシリアがライフルを撃ってくる。レーザーが白式の右腕に当たり、シールドエネルギーが削られる。残り100を切った。
先程からこの繰り返しだ。4つのビットで牽制され、セシリアのライフルで仕留められる。絶え間ないセシリアの攻撃に、一夏はまったくセシリアに近づけなかった。
(くそっ、どうする!どうすればいい!)
迫り来る4つのビットに翻弄されながら、一夏は焦燥に駆られた。恐らくまた、セシリアのライフルが来る。
(・・・まてよ。)
ビットの牽制から、ライフルの狙撃。彼女はずっとこのパターンだ。
今までにビットとライフル、5つの砲口が同時に火を噴いた事があるか?
(・・・もしかして!)
「そこですわ!」
セシリアがレーザーを放つ。迫り来る閃光に、一夏は集中する。
(ここだ!)
レーザーが直撃する寸前、右に転がり込むように回避する。そしてすぐに目標に向けて一夏が加速した―
「うおぉぉぉぉっ!!」
白式のブレードがビットを1基切り裂く。間髪入れずに残りの3基が一夏に向けて発砲する。一夏は急加速してその宙域から抜け、セシリアに猛進する。セシリアが格好の的だと言わんばかりにスターライトMk-Ⅲを構える。
一夏はそれに構わず、セシリアに更にスピードを上げる。
スターライトMk-Ⅲからレーザーが放たれる―寸前にライフルを切り裂く。セシリアがライフルを手離す頃には、一夏は再びビットの元に戻り、更にもう1基撃墜する。今回もビットの動きが止まっていた。
(やっぱり・・・ビットはセシリアが命令しないと動かないんだな!)
恐らくセシリアは自分の行動とビットの制御を同時進行で行う事ができない。意識を集中させないとビットを動かせないのだろう。故にセシリアの攻撃とビットの攻撃の間に若干の隙が生じており、セシリアの意識を逸らせばビットは止まる。
(そして武器が減ったセシリアは・・・!)
セシリアが腰のビットからミサイルを放つ。一夏の予想通りだ。靖人の時と同様、セシリアはとどめにミサイルを使ってくると踏んでいた。今の自分に追尾型のミサイルを避ける技術は無い。
ならば―短く息をはき、意識を集中させる。
(ミサイルを切り裂いて、そのままセシリアに肉薄する!)
箒との稽古で取り戻した集中力。それをフルに発揮し、一夏は飛翔した。
(・・・凄い。)
初戦で自分がまだ完全にビットを操れていないのを見極め、最適化前の機体でここまで戦い抜いた目の前の少年・・・織斑一夏に、セシリアは感嘆する。
今まで見てきた、女に簡単に下る男とは違う。どんなに不利な状況でも、彼の目は闘志に溢れていた。そんな一夏の勇ましさに、セシリアは高揚する。
(ですが・・・。)
浮かべる表情は、戦う者の冷徹な物。そう、まだ戦闘中だ。
「・・・戦いとは常に、相手の2手3手先を読む物ですわ。」
その呟きと同時に、彼女は2基のレーザービットに命じた・・・。
一夏のはるか先で、迫っていたミサイルが爆発した。
「なにっ!?」
予想外の出来事に、一夏が驚く。その一瞬の隙が、致命的な物になった。
彼の真下から、先程
「わたくしの勝ちですわ。」
セシリアが静かに勝利を確信した―
瞬間、白式が光輝いた。
突然の出来事に、セシリアを含め、試合を見ていた物全てが驚く。
「ふっ。機体に助けられたな。」
Aピットで千冬が笑う。靖人はその言葉の真意を悟った。
「そうか、あれは・・・『
光が晴れると、そこには・・・
白を基調に、所々に蒼が入った装甲。
先程より大型化し、まるで翼のように広がる非固定浮遊部位。
より機械的になった刀。
・・・一次移行を完了させた白式が、その美しく勇ましい姿を現していた。
「・・・やっと俺の物になってくれたな、白式・・・。」
変化した白式の装甲を眺め、一夏が呟く。『最適化』が完了した白式は、先程より確実に自分に馴染んでいる。これでやっと、本当の実力を出せる。
「待たせたな、セシリア。」
セシリアに向き直り、一夏が笑う。
「えぇ・・・これでやっと正真正銘、本当の決闘ができますわね。」
セシリアも笑みを返す。それはまるで、これから恋人に会うのが楽しみな時に浮かべるような物だった。
「世界最強の弟が弱いだなんて、俺も、千冬姉も格好がつかねぇ。だから―」
近接ブレード『
開いた鎬の溝から光が溢れだし、雪片弐型の刀身を包み込む。
「負けるわけにはいかないんだぁぁぁぁっ!!」
一次移行によりスラスター出力が上がり、爆発的な加速を生み出す。雪片弐型の光が、セシリアに届こうとしていた―
『試合終了。勝者―セシリア・オルコット。』
・・・え?
第3アリーナの空気が、突如流れた試合終了の合図に凍りつく。
いや、ちょっと待て。
俺・・・負けたのか?
よし、状況を整理しよう。白式が一次移行して、「俺たちの戦いはこれからだ!」ってなって、セシリアに突っ込んで、負けた。よし、把握完了。
既に白式のシールドエネルギーが切れていた?いや、一次移行直後はまだシールドエネルギーが残っていたのは確認していた。
ならセシリアが攻撃したのか?だが白式の新たな装甲には傷ひとつない。第一セシリアまでも呆気にとられた顔してるから、彼女が攻撃したとは思えない。
あれ?ちょっと待て。だったら・・・。
「何で俺・・・負けたんだ?」
一夏が首を傾げる。その姿を見た千冬は、「あの馬鹿・・・!」と頭を抱えていた。
次は一夏VS靖人です。普通ならここでセシリアが2勝しているからもうこれで代表は決定してしまいますね。試合の順番をもう少し念入りに考えておくべきでした。