INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
「靖人さん、少しよろしいですか?」
クラス代表決定戦後、マリーと夕食を食べ終わって部屋に戻ろうとした時だった。今日試合で戦ったセシリアが、靖人に声をかけてくれた。
「え・・・うん。良いけど・・・。」
靖人がばつが悪そうに答える。
「マリーさん。すみませんが靖人さんと2人で話してもよろしいでしょうか?」
セシリアがマリーに丁寧に頼むと、マリーは少し驚いてから了承した。
「うん、いいよ。それじゃ靖人、私先に家に戻るからね。」
マリーが席を外す。食堂のテーブルには、靖人とセシリアが2人きり。
「・・・・・・・・。」
靖人は何て声をかけようか悩んでいた。自分はセシリア相手に危険な戦い方をした。その後ろめたさを感じて靖人は口を開けずにいた。
「靖人さん。」
セシリアが紅茶を飲みながら話を切り出す。「先に一夏さんには言いましたが」と言ってから、本題を話した。
「今の今まで、無礼な態度をとってしまいましたわ。・・・本当に申し訳ありませんでした。」
セシリアの言葉に靖人は絶句する。以前のセシリアなら、自ら謝るという事はしなかった筈だ。
でも、それより・・・
「オルコットさんが謝る事はない。僕は・・・君を危険な目に合わせた。・・・ごめんなさい。」
靖人がテーブルに手をつけ、頭を下げる。
「そうですわね。あなたの戦い方は、とても褒められる物ではありませんわ。」
セシリアの鋭い一言が、胸に突き刺さる。
「だからこそ、あなたは知らなければなりません。『ISを扱う』という意味を。」
「ISを・・・使う意味・・・。」
セシリアの言葉を靖人は反芻する。セシリアは続けた。
「わたくしたち専用機持ちは、緊急時には専用機を用いて事態の鎮圧を行う義務があります。」
ISの中でも高い性能を持つ専用機は、場合によっては1機で従来の1個大隊を軽く上回る力を持つ。そのため、ISによる襲撃事件等が発生すると、場合によっては事件発生地の周辺にいる専用機持ちに、出撃の命が下る事もある。
「だからこそわたくしたち専用機持ちは、ISの持つ力を正しく使う必要があります。」
『ただ敵を捻り潰すのは暴力』・・・千冬に言われた言葉を思い出す。
「あなたも専用機持ちですわ。ですから・・・。」
セシリアが靖人の手をとった。
「わたくしが専用機持ちとしての心得を教えてあげますわ。あなたに後悔をしてもらわないためにも。」
そう言ってセシリアが笑った。靖人の中で彼女の印象がガラリと変わった。
「オルコットさん・・・。ありがとう。」
靖人も彼女につられて笑った。「しかし・・・」とセシリアがはにかみながら笑う。
「わたくしも人の事を言えませんわね。日本の方々に向かって、失礼な事を言ってしまったので・・・。明日、皆さんにしっかりと謝りますわ。」
本当に彼女は変わったな、と靖人は実感する。今の彼女の真摯な態度なら、皆許してくれるだろう。
「それにしてもオルコットさん、クラス代表おめでとう。」
と、靖人が賞賛の言葉を送ると―
「あ、その件なのですが・・・。わたくし実はですね・・・。」
と、セシリアが耳打ちをしてきた。
「・・・それ、本当に?」
「はい。今日の試合を見て、こうするのがクラスのためだと考えました。それで織斑先生に相談しまして・・・。」
おほほ、とセシリアが口元を押さえて笑う。彼女の大胆な行動を知り、靖人は苦笑した。
セシリアとの話を終え、1014室に戻った靖人を迎えたのは、部屋着に着替えたマリーだった。
「あ、お帰り靖人ー。セシリアと仲直りできたー?」
「え?まぁ、うん。」
何故セシリアと和解できたのを彼女は知っているのだろうか。疑問に思った靖人に向けて、マリーが言葉を続ける。
「何かセシリア態度丸くなったっぽいねー、見た感じ。デレたのかな?」
「どうだろうね・・・。」
マリーの最後の言葉に呆れながら、靖人は眼鏡を外してベッドに倒れこむ。今日は試合を2回も行った。体力の無い自分に、これは中々キツい。
「ねーねー靖人。」
マリーが靖人の隣に座ってきた。何だろうと体を起こすと、マリーが自分の膝をポンポンと叩いている。
「ほーら。」
・・・彼女は何をしたいのだろうか。靖人は彼女の行動の真意が分からなかった。
「もう!」
急にマリーに肩を捕まれ、引き寄せられる。気づいた時には靖人はマリーを見上げていた。
「・・・え?」
後頭部には、何か柔らかい物が当たっている。・・・それは、マリーの太ももだった。つまり、これは―
(ひ、膝枕!?)
状況を理解した靖人が起き上がろうとすると、マリーに押さえつけられた。
「ちょっとー暴れないでよ、痛いから。あ、それともおっぱいに顔突っ込みたかった?」
「~~~~っ!!?!??!!」
マリーの唐突な言葉に爆発する靖人。・・・確かに今起き上がったら、マリーの胸があたるかもしれない。
とりあえず膝の上で大人しくなる靖人だったが、先程の言葉のせいでマリーの胸が気になり、慌てて寝返りをうって視線をそらした。
「えー。もう、なんでそっぽ向くのー。私の方向いても短パンだからパンツ見えないよー。」
「お願いですからマリーさんそういう事平然と言わないでください。」
シューシューと湯気を立てた靖人が手で顔を覆う。女子が男子にそういう事を言ってはいけません、絶対。
「にひひ~。靖人可愛いっ。」
(あぁ、またこのパターンか・・・。)
もう何度もこうやって靖人はマリーに弄られ続けている。彼女のネタは、正直思春期真っ只中で奥手の靖人には辛い物だった。
が、突如マリーに頭を撫でられ、靖人は硬直する。
「ともあれ、お疲れ様。ゆっくり休みなよ?」
ふざけた態度から一変、彼女の優しい声色が耳に届き、靖人は驚きつつもとても安心するのを実感した。この包まれるような感覚。靖人にとっては、とても懐かしい物だった。
彼女が歌い始める。『Carpenters』の「yesterday once more」だ。本家さながらの美しい歌声に、心が癒されていく。少しずつ、靖人は意識を手放していった・・・。
「・・・あれ?」
あれだけ恥ずかしがってた靖人が静かになっていた。顔を覗きこむと、彼はスースーと寝息を立てていた。
「気持ちよくって寝ちゃった?ふふ、本当に・・・。」
マリーが靖人の耳元で囁く。
「・・・可愛くて一緒にいたくなっちゃうね、君は。」
そう言ってマリーの表情は、母が我が子に向ける笑顔その物だった。
「あ、でも靖人シャワー浴びてないよね。しょうがないな、やってあげよう。まずは服を剥いで―」
「いや自分でやるからね!?」
マリーのどす黒いオーラを感知し、靖人が起き上がる。―が、マリーは靖人の顔を覗きこんだ後だったため、若干前屈みになっていた。
むにっ
靖人の顔がマリーの胸に埋まる。
次の瞬間、靖人はオーバーヒートを起こし、マリーはしてやったりという表情をしていた。
「と言うわけで、1年1組の代表候補生はセシリア・オルコットさんに決定した、訳なんですが・・・。」
翌日のSHR、山田先生が昨日のクラス代表決定戦の結果を報告するが、どうも続きがあるらしい。
「ここでセシリアさんから皆さんに伝えたい事があるそうです。ではセシリアさん、どうぞ。」
山田先生に促され、セシリアが壇上に立つ。
「皆さん。昨日の試合の結果、わたくしがクラス代表を務める事になりました。しかし―」
セシリアが一呼吸置く。
「わたくしは先日、皆様に向かって無礼な発言をしてしまいました。・・・本当に申し訳ありませんでした。」
あの高慢なセシリアが深く頭を下げたのを見て、クラス全体がざわめく。
「試合を通じてわたくしは実感しました。このクラスを纏めるのに適しているのは、わたくしでないと。」
セシリアが腰に手を当てて、宣言した。
「わたくしセシリア・オルコットはクラス代表を辞任し、クラス代表は織斑一夏さんに任せますわ!」
セシリアの一言にクラスが「おおおぉっ!」と歓喜に沸く。セシリアは更に続けた。
「皆さん!一夏さんにいち早く素晴らしい代表になってもらうためにも、クラス一同力を合わせて一夏さんをバックアップしていきましょう!」
「良く言ったセシリア!」
「やってやろうじゃない!」
「見直したよ!」
「デレ期ですね分かります!」
セシリアの熱い言葉に、クラスの女子が次々と立ち上がり、割れんばかりの拍手が鳴り響く。因みに最後のはマリー。
「い・・・いやいやいやちょっと待てって!」
なんだこの選挙の街頭演説は、等と考えていた一夏は事態に気付き大声を上げる。
「セシリア!いくらなんでも勝手に代表降りたらまずいだろ!」
「残念だったな織斑。既に私が許可した事だ、変更はできん。」
一夏の反論を千冬がバッサリ切り伏せる。
「昨日の試合を見てお前には延び白があるとオルコットと判断した。それに、先週大見得はった特攻野郎に勝っているしな。」
「ゴフゥッ!!」
一夏の後ろで靖人が血を吐いた。うわ容赦ねぇ。
「靖人ドンマーイ(笑)」というマリーの声が響く。
「全員お前に期待しているぞ?どうする?代表を降りるか?」
千冬がニヤニヤしながら一夏に聞く。・・・もうこうなったら姉に対して勝ち目が無いことは、小さい頃から知っていた。
「・・・やらさせて頂きます。」
一夏の全てを諦めた言葉に、再び教室が拍手で埋まる。
「では、クラス代表は織斑一夏で異存は無いな?」
千冬の言葉に1年1組の生徒全員は「ありませーん」と息を揃えて答えた。
・・・頭を抱える一夏と、ライフがゼロの靖人を除いて。
靖人爆ぜろ。
とまぁこれで1章は終わりです。やっと彼女の出番が来ますね!次の章から靖人の運命(?)が動き始めます。乞うご期待。
靖人爆ぜろ。