INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
「久し振りね一夏。それに靖人。」
ドアにもたれかかり、腕を組んだ鈴は不敵に笑う。突然現れた旧友に、靖人は困惑していた。
「鈴・・・どうして君が?」
「どうしてって・・・中国代表候補生として、そして2組のクラス代表として、一夏に宣戦布告しに来たのよ。」
そう言って鈴はズビシッと一夏を指差す。鈴の挑戦的な視線を受けた一夏は―
「・・・お前何格好つけてるんだ?すげぇ違和感。」
ひどく間の抜けた声をあげた。その一言に鈴はずっこける。
「ちょ・・・アンタねぇ!少しはのってくれてもいいじゃない!」
と、鈴が眉を吊り上げながら怒鳴る。その姿は、かつて見慣れた物に戻っていた。
「変わってないね、鈴。」
と、靖人は中学時代を思い出しながら苦笑する。
「はぁ?何がよ。」
「すぐむきになっちゃうところが。」
「何ですってぇ~!?」
鈴が怒りで顔を真っ赤にしていたが、直後にお馴染みの乾いた音と共に彼女の特徴であるツインテールが揺れた。
「何教室の入り口で騒いでいる。これからSHRだ、教室に戻れ。」
我らが1年1組の担任、織斑千冬のご登場である。
「ち、千冬さん・・・どうも・・・。」
「織斑先生だ。」
頭を押さえながら涙目の鈴を、獅子のような鋭い目付きで睨む千冬。「ひぃっ!」と怯えた声をあげた鈴は、そのまますごすごと2組の教室に向かっていった。
(覚えてなさい!)
と、去り際に靖人たちに向けられた目はそう物語っていた。
「・・・それにしても、どうして鈴が?」
「あいつ、ISのパイロットになってたのか。日本にいた時は、そんな感じには思えなかったけど。」
靖人と一夏が疑問を口にすると、途端にクラスが沸き始めた。
「一夏っ!今のは一体誰だ!?」
「そうですわ!あの子とはどういう関係で!?」
「靖人の知り合いに代表候補生がいたんだー!何か意外ー。」
「誰々、友達?もしかして恋人とか!?」
「うそー!恋人だったら困る!」
―その他諸々。2人と鈴の関係にクラスがざわめくが、この教室にはあの方がいる。
「・・・これからSHRだ。静かにしろ馬鹿共。」
目にも止まらぬ速さで千冬が騒ぐ女子たちを出席簿でKOした。この俊敏さと正確さは流石ブリュンヒルデと言える物だった。
「・・・はぁ。」
一夏がため息をつき、靖人は合掌。2人が呆れた瞬間、SHR開始のチャイムが鳴った。
朝の騒ぎが落ち着き着々と授業が進む中、心中穏やかでない人物が2人。
(何なのだ、あの女子は・・・!)
不機嫌そうに指で机をトントン叩く箒と、
(一体誰ですの、あの方は!)
シャーペンでノートにぐるぐると円を描くセシリア。2人は先程現れた、一夏と親しげに話すあの女子の事が気になって仕方がなかった。
(あんなに仲の良い女子がいるなんて聞いてなかったぞ、一夏!)
(あの方と一夏さんは友人・・・それとも、本当に・・・あぁもう!集中できませんわ!)
同じタイミングで箒とセシリアが中央最前列、一夏の席を睨む。・・・そして、教壇に立つ千冬の鋭い目線も目に入った。瞬間、2人は頭が冷えるのを通り越して、全身に寒気を感じた。
(し、しまった!全く授業の内容を聞いていなかった!)
(まずいですわ・・・もしここで先生に当てられたら・・・!)
問題に答えられない者に待っているのは、
「おい。」
((ひぃぃぃぃっ!!!))
千冬の目付きがさらに険しくなる。箒とセシリアは死期が近づいているのを直感した。が、千冬の標的は2人ではなかった。
「聞いているのか?・・・神谷。」
「あ、はい!・・・ISには『
千冬に名指しされ、一時は混乱していた靖人だったが、普段通りの落ち着いた雰囲気で千冬の出した問いに答える。
「そうだな、IS・・・特に量産機は拡張領域を用いて戦況にあった装備を整える事ができるわけだ。しかし・・・」
千冬がため息をついて続ける。
「何を考えこんでいたのかは知らんが、私が指名したら直ぐに答えろ。いいな?」
「はい、すいませんでした。」
千冬の注意に靖人が頭を下げる。それを見たセシリアたちは少し驚いていた。
(珍しいですわね。いつもなら靖人さん、授業に集中していらっしゃいますのに。)
(そういえば、さっきの女子は神谷とも面識があったようだったな。何か関係があるのだろうか・・・。)
が、深く詮索するのは今はやめておく。とりあえず今は千冬の授業を安全に過ごすため、2人は真面目に授業に取り組む事にした。
昼休み。クラスの女子から、「朝来た子は一体誰!?」と質問攻めにあった一夏と靖人は、ゆっくり説明するために数人グループで食堂に向かった。
「・・・つっても、一体何を説明すれば良いんだよ。」
一夏がげんなりとする。靖人もうーんと首を捻る。
「そうだね・・・説明しようにも、僕たちと鈴は普通に―」
「中学の時つるんで一緒に遊んでただけだしねー。」
「そうそう。」
靖人の言おうとした事を鈴が代弁し、一夏が相づちを打つ。
「って鈴!?何さらっと入ってきてんだよ!」
「自然すぎて全然気づかなかった!」
一夏と靖人、そして着いてきた女子一同が鈴の登場に驚く。その様子を見た鈴がじとっと睨んでくる。
「さっきからいたわよ。全く、皆してあたしの事噂しているから気になって着いてきたの。」
「本当に?うわ真面目に気がつかなかったよ。」
靖人が苦笑しながら頭を押さえる。「いやーすまんすまん。」と一夏が手を合わせる。そんなやり取りをしている間に、一行は食堂に到着した。
「で、俺たちと鈴について何だが・・・。」
各々が食事を持って席に着いたのを確認してから、一夏が口を開く。
「まず小5の時、鈴が俺の小学校に転校してきたんだ。ちょうど箒が転校したのは小4の終わりだったから、2人は入れ替わりのタイミングだった訳だ。」
外国に来て、色々大変な思いをしていた鈴を助けたのは一夏だった。まだ流暢に日本語を喋れなかった鈴をクラスの男子が馬鹿にし、それにキレた一夏が大立回りをしたのが切っ掛け。
「ほう・・・。」
箒が納得する。が、その目はまるで敵を目の前にしたかのように鋭くなっていた。
「それで、中学校で僕は一夏と鈴に出会ったんだ。まずは一夏と仲良くなって、そこから自然に鈴とも話すようになったね。」
靖人が更に説明する。3人に、五反田弾を加えた4人で、よく放課後に遊びに行った物だった。特に、鈴の両親が経営する中華料理屋には良く世話になっていた。
「でも、鈴が中2の終わりに帰国しちゃったから、会うのは約1年ぶりだね。」
靖人が鈴に視線を振ると、鈴はラーメンをすすりながら「そうねー。」と答えた。
「ちょうど帰国した頃にIS学園に行こうって考えて、そこから勉強とか始めたわね。そしたらこの間、一夏がニュースに出ててホント驚いたわよ。」
「たった1年でIS学園に入学できて、しかも代表候補生って、鈴音って結構才能あるね。」
マリーが感心する。通常代表候補生になるためには、幼い頃から徹底的に指導を受けてなれるかどうか、というレベルだ。鈴が帰国してから積み重ねた努力は、並大抵の物では無かった。
「で、実は入学までにあたしのISの調整が終わらなくてね、それでこのタイミングで転校してくる事になったの。そしたら今度は靖人がIS動かしてさぁ・・・アンタたち一体何したの?」
「俺が聞きてぇ。」
「同じく。」
3人は中学時代と同じように笑う。そんな楽しそうな雰囲気を、周りが羨ましそうに見る。
「でさぁ一夏。アンタ1組のクラス代表なんだって?」
鈴が話題を変えてきた。
「あぁ・・・。そういや鈴がクラス代表なのか?もう2組の代表は決まっていたんじゃ無かったのか?」
一夏が鈴に疑問をぶつける。各組のクラス代表は、1組のようにゴタゴタが無かったため、クラス代表決定戦の前に決まっていた筈だ。
「あ、その人にはね、昨日こっち着いた後に試合で負かして交代してもらった。」
「容赦ねぇな!」
鈴の大胆な行動に一夏がつっこむ。
(可哀想だなぁ、2組の元代表候補生さん。)
今後の鈴とその人の関係が劣悪にならないか心配する靖人。
「まぁそんな訳で来月あたしと一夏は戦うって事だけど・・・。」
にぱっと笑いながら鈴が続けた。
「友達のよしみで、一夏と靖人のISの操縦見てあげよっか?あたし代表候補生だし。」
「マジで?そりゃ助かる―」
一夏が嬉しそうに賛成する―が、その声は机を叩く音で遮られた。
「お待ちなさい!2組のあなたに手助けされる筋合いはありませんわ!」
セシリアだった。確かに鈴はクラス対抗戦で戦う相手、つまり敵であるともとれる。
「それに代表候補生ならこのわたくし、セシリア・オルコットで事足りていますわ!」
セシリアが人差し指を鈴に向けるが、鈴はそれに対して冷めた視線を返す。
「ふーん。別に代表候補生とか今はどうでもいいし。あたしは付き合いが長いから2人の面倒を見るだけよ。」
「なっ・・・!」
わなわなと肩を震わせるセシリア。その彼女に変わり、今度は箒が鈴に食ってかかる。
「だったら私だって一夏との付き合いは長いぞ。それに、元々私が一夏に稽古をつけていたからな!」
「あたしが見るのは一夏だけじゃないわよ。靖人も一緒に見るの。2人の事は私が一番知ってるし。」
「だったら神谷を見ていれば良いだろう!」
3人の間に火花が散る。マリーが「えー鈴音にも参加してもらおうよ。鈴音のIS見たい。」と言っていたが、直後に箒とセシリアに叱責された。この状況を察した靖人は1つの結論に至る。
(要するに、3人共一夏と一緒にいたいんだね。)
中学で出会ってから鈴が一夏に好意を寄せているのは知っていた。鈴は自分の操縦も見てくれると言っていたが、恐らく今まで通り鈴に気遣いをする時が来るのだろう。
(・・・相変わらずだな。)
靖人はため息をつき、箸を進める。
「お話し中失礼するけど、そのまま言い合っていたら授業に遅れるよ?」
靖人が指差した先には、昼休みが残り10分しかない事を告げる時計。1組の次の授業も千冬担当なのを思いだし、箒とセシリアは一気に怒りが鎮まった。
「ま、とにかくあたしは暇になったら見に行くから。それじゃあね。」
鈴が食べ終わったラーメンのどんぶりを持って席を立つ。
「ったく・・・お前ら初対面で喧嘩すんなよ。仲良くしろって。」
一夏が呆れて口を開くが、そんな彼に対して一同が「お前が原因だよ」という視線を送った。
名前は出てるけど弾の出番がないですね・・・いつか出ますよ、きっと。うん。