INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
実は既に何話分かは製作済なので、しばらくは更新が早いかもしれません。
平日の昼間といえど、春休みシーズンである今は街の中心の大通りを歩く人の姿が多い。数人グループの学生、散歩中の老人、親子連れ・・・。靖人もその中の1人だった。その手には、小さめのビニール袋をぶら下げている。中身は彼が愛読している推理小説の新刊だ。一夏との電話の後、彼は最寄りの本屋に足を運んだのだった。
靖人は小さい頃から読書が好きだった。本は様々な知識や考えを与えてくれる。新しい本は新たな発見をもたらし、また既に読んだ本ももう1度読み返すと以前まで気づかなかった発見ができる。それが楽しくて靖人は読書にはまっていった。
今度の本はどんな事が書かれているだろう・・・。そう思うと気分が高揚し、靖人はやや速足で脇道へ入っていった。
先ほどの大通りから一変、人の姿は無くなり住宅が静かに道沿いに並んでいる。その向こうに大きなマンション・・・靖人の自宅がある。あと5分ほどすれば家に着くだろう。靖人は自宅を目指して歩を進めていった。
『音』が聞こえたのは、以前まで廃工場があった広い空き地の近くを歩いていたときだった。何かが高速で風を切るような、鋭い音。飛行機だろうか?靖人は上を見上げた。
『黒い疾風』が、此方に向かってきていた。
高度3万3千フィート。言うなれば、飛行機の巡航高度。そこに彼女はいた。
「目標確認・・・あれだな?」
彼女の視線は、約1万メートル下の地表にいる1人の少年の姿を捉えていた。
『確認完了、合っているわよ。手はず通り頼むわね。』
彼女の耳に別の女性…彼女の上司の声が届く。目標の確認がすんだところで、彼女は着地地点を探していた。
「周辺に人の姿はない。目標の先に空き地があるようだ。」
淡々と計画を練りつつ、彼と接触するタイミングを今か今かと待ち続ける。その最中、上司から再び無線が入る。
『もう一度確認するけど、あなたの専用のISは現在調整中、そして今乗っている機体にはステルスを積んであるとはいえ、時間がかかると敵に察知されやすいわ。無駄な戦闘を避けるためにも作戦は迅速に遂行してちょうだい。』
「分かってる、心配するな。」
その忠告は耳にタコができるほど聞いた。そんな失敗はしない。そして、遂に待ちに待った時が訪れる。
『そろそろね、通信を終了するわ。』
上司からの通信が切れる。・・・遂に来た。
少年が空き地に近づいた瞬間、黒いISを纏った彼女は地表に向かって加速した。
突如高速で飛来したそれは地面にぶつかる寸前に減速し、地表からわずか数cmの所で停止した。
「あれは・・・!」
空き地に舞い降りた黒い物体に靖人は驚く。桁外れのスピードを出しておきながら、ほんの一瞬で減速、停止。そんな無茶苦茶な挙動ができる物は、この世で1つしか存在しない。
「IS・・・!?あれは確か『ラファール・リヴァイブ』!」
『ラファール・リヴァイブ』・・・フランスのデュノア社が開発した量産型IS。汎用性が高く、世界中でもかなりの数が普及している傑作機。しかし靖人の知っているラファールと今目の前にいるラファールは少し違う。まず、ラファールの基本カラーはネイビーの筈だが、目の前のラファールは黒一色。そしてISには基本搭載されないフルフェイスのバイザーによって、登場者の顔が見えなくなっている。
ラファールは此方を向いたまま動かない。相手の表情が見えないため、ラファールからは不気味な冷たさを感じた。
(おかしい。何でいきなりISが目の前に現れるんだ?)
ISが一般市民を襲撃。これは大きな国際問題になり得る。こんな事をするのは…、戦争を起こしたい国か、テロリストだ。靖人の額に冷や汗が浮かぶ。目の前のISはその後ろに大きな闇を抱えていそうだ。
(逃げないと・・・!)
身の危険を感じ、靖人はISから1歩後ずさる。
瞬間黒いラファールが靖人に肉薄した。
「!!!?」
声をあげる間もなく、靖人の首がラファールに締め上げられる。かけていた眼鏡が吹っ飛んだ。
「っ・・・がっ・・・!」
呼吸ができず、声も発せられない。いきなりの奇襲に、靖人の頭は更に混乱する。ラファールの腕を振りほどこうとしても、人間の力では最強のパワードスーツであるISには到底叶うはずもなかった。
「・・・・。」
黒いラファールは何も喋らない。バイザーによって表情すら見えない。まるでSF作品において冷酷非道なロボットが、人間を無差別に殺すような感じだった。
―死ぬ?
―こんな訳の分からない状況で、僕の人生が終わる?
靖人の首を絞める力は一向に緩まない。段々と意識が遠退いていく。抵抗していた靖人の腕が、力を失ってだらりと垂れる・・・。
―嫌だ。
―死にたくない。
―死にたくない!
靖人の沈みかけた思考が、生への欲求で埋め尽くされる。朦朧とした意識が覚醒していく。
右腕に力を込め、再びラファールの腕を掴む。中指の指輪が目に入った。
「・・・せ。」
声を振り絞る。右手に力を込める。
「・・・離せ。」
まだ死にたくない。
こんな所で死にたくない!
僕は、死んだ母さんの分まで生きなければならない!!
靖人は黒いラファールを睨み付け、叫んだ。
「この手を離せぇ!!」
靖人の叫びと同時に、指輪・・・母の形見が眩い光を発した。
『神谷靖人の拉致』、これが彼女の任務だった。上司曰く、「神谷靖人を人質として利用する事で、あるものを手にいれる」のが目的らしい。上が何を欲しているのは分からないが、彼女にとっては知らなくても良いこと。自分は与えられた任務をこなすだけだった。
任務は滞りなく進んでいた。所詮生身の人間ではISに勝ち目は無く、捕まえるのは容易だった。首を絞めたが別に殺すつもりはない。意識を手放した所で連行してしまえば任務完了だ。
そのまま彼は気絶した・・・筈だった。
あろうことか彼は意識を取り戻した。物凄い形相で此方を睨み付けてきた。
離せと叫んできたが関係ない、もう一度意識を失わせるだけだ。
彼女が腕に更に力を加えたとき・・・、
更なる異変が起きた。
彼の右手の中指の指輪が輝き始めたのだ。気付いた時には既に、光が彼の体を包み込み始めていた。
(一体何が・・・!?)
彼女が焦燥に駆られた瞬間、光が爆発的に広がり、彼女は吹っ飛ばされた。
ラファールのPIC・・・ISの運動の基本システムを駆使し姿勢制御を行う。彼から数メートル離れた位置でバランスを保った頃には光の奔流は消え、静寂が戻っていた。
だが彼の姿に、彼女は驚愕した。
全身を覆う銀色の装甲。
両脇に浮遊する2枚の盾。
右手に携えた日本刀。
左腕には浮遊しているものと同じ盾、そしてガトリング砲。
「IS・・・!?」
謎のISを装備した靖人が、怒りに満ちた目を此方に向けていた。
靖人は少しだけISの知識を持っていますが、理由についてはまた後ほど。