INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
試合中に突如謎のISが乱入。突然の事態にIS学園の全ての者が震撼した。
「山田先生!状況は!?」
Aピットにいた千冬がすぐに動きだし、隣にいた山田先生に声をかける。
「どうやらあのISはアリーナ上空の遮断シールドを破壊、突破した模様!」
非常事態にいつもの慌てた様子を感じさせず、端末を操作しながら冷静に状況を報告する山田先生。その姿を見たマリーは、ただ事では無いと実感する。
「織斑先生、出撃許可を!シールドを突破する程の攻撃力を有しているのなら、このまま放っておくわけには!」
セシリアが一夏と鈴、そして観客席の生徒たちの身を案じて発言するが、千冬は「落ち着け」と制する。
「お前たち生徒を危険に晒すわけにはいかん。教師はISを装着して出撃!織斑と凰を含め、生徒は早急に避難せよ!」
通信回線を開き、千冬がアリーナ全体に命じる。だが直後に山田先生が切羽詰まった声を上げた。
「だ、ダメです!遮断シールドのレベルが4に設定!更に第3アリーナの隔壁が全てロックされ、増援を送るどころか避難すらできません!」
「何っ!?」
あのISの仕業だろうか。千冬は舌打ちする。シールドを突破できるISがいる場に、何の抵抗もできない生徒たちが残されるという、最悪の事態だった。
『織斑先生!』
いきなりISのオープンチャンネルによって靖人がAピットに通信してきた。
『校内でのIS機能の無断使用、校則違反をしてしまい申し訳ありません。』
「その件については今はいい。何の用だ神谷。」
観客席にいた靖人は、一瞬間を置いてから口を開く。
『・・・不知火の装備で隔壁を破壊する事は可能ですか?』
「ま、まさか開かない隔壁を無理矢理こじ開けるつもりですか!?」
山田先生が驚愕する。しかし『sound only』と表示された画面から聞こえる彼の声は真剣そのものだった。
『もしあのISが此方を攻撃してきたら、生身の生徒たちに甚大な被害が及びます。隔壁なら後日直せますが、人の命は戻ってきません!』
始末書なら後でいくらでも書きます!と靖人が付け足し、しばしの間沈黙が流れる。次に発言したのは千冬だった。
「お前の機体に搭載されているミサイルなら、隔壁を破壊する事ができるだろうな。」
「織斑先生!?」
「非常事態だ。仕方あるまい。」
山田先生を制し、千冬が再びに命じる。
「神谷に生徒の数が多い箇所周辺の隔壁を破壊させる。場所は此方から送らせてもらう。生徒たちはそこから脱出しろ。避難した整備科の3年はシステムクラックを敢行、他の隔壁を開放しろ。教師はいつでも出れるように準備を急げ!」
『了解しました!』
靖人からの通信が切れたのを確認し、千冬は一夏と鈴にも通信を入れる。
「2人共聞いたな?これから神谷によって避難が完了するまで、そのISの注意を引け。シールドエネルギーを切らされるなよ。絶対に無理をするな!」
『だけど、アイツ只者じゃ無いわよ!こっちだって持つかどうか・・・!』
鈴が悲痛な声を発する。現に2人共高出力のビームに晒され、自由に身動きが取れないようだった。
「アリーナが閉鎖された今、頼れるのはお前たちだけだ。此方も準備ができしだい、直ぐに援護に回る。」
『でも・・・!』
『やるしかねぇよ、鈴!』
鈴の弱気な声を一夏が一蹴する。
『皆の方に攻撃されたらただじゃすまない!靖人が頑張るなら、俺たちも腹くくるしかないだろ!』
回避を繰り返しながら、一夏は叫んでいた。実の弟が危険に晒されているのに助けに行けない事が悔しくて、千冬は歯噛みをする。
「頼んだぞ・・・凰、一夏・・・!」
そう言い残して通信を切った千冬は、直ぐに踵を返した。
「私も出る!山田先生、打鉄を1機此方に回してくれ!」
「は、はい!」
山田先生にそう言い残すと、千冬は駆け足でAピットから出ていった。
「・・・やっぱり家族の事が大事なんですね、織斑先生。」
いつもの千冬らしからぬ慌てた姿を見て、山田先生が苦笑する。
「あれ?箒は?」
キョロキョロしていたマリーが突如声を上げ、セシリアと山田先生も辺りを見回す。確かに、先程まで此処にいた筈の箒がいない。
「箒さん・・・一体どちらへ?」
セシリアが疑問を投げ掛けるが、画面の向こうの爆発に皆我に返り、皆再びモニターに注目した。
「B-2からB-4・・・。あそこか!」
通信を終えた靖人は不知火を展開し、観客席を駆け巡っていた。既に指定された隔壁の周りには、生徒たちがごった返していた。一旦それらの上に飛翔する。
「皆さん!これからその隔壁を破壊します!暫く離れていてください!」
下降すると同時に生徒たちに向けて叫ぶ。靖人に気付いた生徒たちが皆隔壁から十分に離れたのを確認してから肩のミサイルポッドを展開、隔壁に向けて2発発射する。
爆発音と同時に生徒側から悲鳴が聞こえ怪我をしたのではないかと振り返るが、特に巻き込まれた様子は無い。爆煙が晴れると隔壁にぽっかりと大きな穴が空いていた。それを確認し、靖人がまたしても声を張る。
「破片等があるので焦ると危険です。皆さん落ち着いて避難してください!」
靖人はそう言い残して他の隔壁に向かって再び空を翔んだ。まだまだ破壊すべき隔壁は多い。一刻も速く終わらせなければ。
ちらりとアリーナ中央を見ると、一夏と鈴が例のISのビームに苦戦していた。
「無事でいてよ・・・一夏、鈴!!」
そう呟いてから、靖人は次の肩に向かって急降下した。
此方を相手にしていたISが突然観客席の方を見た。それが靖人を捕捉した事を意味する物だと感じた一夏は、敵に向けて加速する。
「お前の相手は俺たちだ!」
雪平弐型を降り下ろすが、咄嗟の所で回避されてしまう。中々の巨体の癖に素早い動きをする相手に、一夏は既に疲弊していた。
「くそ、こうなったら零落白夜で一気に・・・!」
撃墜してしまえば話が早く済む。そう一夏は考えたがその独り言を聞いた鈴が怒鳴る。
「馬鹿!アンタの攻撃当たらないじゃないの!それに、零落白夜はシールドエネルギーを削るんでしょ!?それで落とされたらどうすんの!」
確かにその通りだ。奴の掌のビームによって近づく事は容易ではないし、仮に懐に入ってもあの俊敏な動きによってかわされてしまう。零落白夜を起動させても無駄だ。
「畜生・・・!靖人、早くしてくれ!」
焦りからか、一夏の動きが直線的になってしまう。
「ダメッ、一夏!」
鈴が制するが既に遅かった。一夏が気付いた時には敵の目が一夏を完全に捉えていた。
一夏の目の前が閃光に染まった。
観客席から、6度目の爆音が響いた。続いて、生徒たちが駆け足で空いた穴に向かっていく。
「・・・これで最後か。」
弾切れになったミサイルポッドを
―丁度その時、ロックオンされた事を告げる警告が頭に響いた。
「っ!?」
アリーナ中央からあのISが此方にビーム砲を向けていた。掌にどんどんエネルギーが充填されている。
(まずい!このままじゃ皆が!)
遮断シールドを突破されたら、生身の生徒はあのビームによって一瞬で蒸発するだろう。
靖人は猛スピードでISと脱出口の間に立ち塞がり、摩利支天を最大出力で展開した。
陽炎の鎧が出来上がった所に、相手の熱線が遮断シールドを突き破ってきた。3枚の天城を前面に展開し、それを受け止める。
「ううぅっ!!」
全身に走る衝撃に呻きながらも、姿勢を崩さないように踏ん張り続ける。
ビームを放ち続けるISに向けて、一夏が刀を切り上げるのが見えた。邪魔をされたISから攻撃が止む。摩利支天のエネルギーはかなり持っていかれたが、シールドエネルギーそのものはまだ大丈夫だった。
「皆は・・・!?」
振り返ると既に避難は完了していたらしく、生徒の姿は見えなかった。彼女らを守りきれた事に安堵する。
「良かった、間に合って―」
そう言いながら正面に向き直した靖人は、目に飛び込んできた景色に戦慄した。
アリーナの奥で鈴が倒れていた。甲龍の装甲の右半分が大きく損傷し、至るところでスパークが生じていた。鈴自身にまだ意識はあるようだが、何処かを怪我したのだろうか顔を歪めていた。
「り・・・ん・・・。」
好きな子が苦しんでいる姿を目の当たりにし、靖人の全身から力が抜けてガックリと倒れ込む。遮断シールドに空いた穴から、一夏と戦っているISが目に入る。
『・・・・・・・・・・・・。』
胸の奥から、どす黒い感情が沸き上がってくる。
『・・・・・・・・や・・。』
ある衝動が靖人の脳を支配する。
『こ・・・・・・・・る・・・!』
ゆらりと立ち上がりながら、靖人は目の前の敵を睨み付けた。
「殺してやる!!!」
激しい怒りに身を任せ、不知火が飛翔する。
拳に激しい怒りが込められるのを靖人は感じていた。
ビームを食らう直前、鈴が此方に飛び込んできた。彼女に覆い被されたのと同時に、激しい震動が全身を襲う。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
鈴の悲鳴を耳にしながら、一夏たちは地面に叩きつけられた。
「お、おいっ!鈴!?しっかりしろよ!」
一夏は直ぐに起き上がり、鈴に声をかける。甲龍の装甲の大半が焼かれていた。
「うっ・・・ったく、アンタはいつも危なっかしいのよ・・・。」
苦しそうに鈴が呻く。
「馬鹿野郎、お前こそ何でこんな無茶をしたんだよ!?」
自分の軽率な行動で鈴を傷付けてしまった。その事実が爪の様に一夏の胸に食い込む。
「だって・・・あたしがISに乗ってるのは・・・アンタを・・・!」
鈴がそこまで言いかけた時、大音量の発射音が聞こえた。顔を上げると、ISが観客席に向けてビームを放ち、それを靖人が不知火の装甲で防いでいた。
「しまった!!」
急いで体を起こし、白式の状態を確認する。左半身の装甲にダメージがあるが、まだ動ける。鈴が庇ってくれたおかげだった。
「鈴、すまねぇ・・・。」
そう言い残して、一夏はISに肉薄し右下から切り上げた。斬撃は当たらなかったが、相手の攻撃を中断させる事はできた。
「てめぇっ!よくも鈴を!!」
間髪入れずに斬り込んでいき、敵の逃げ場を無くす。雪平弐型の刃が、相手の体を捉え始めた。
(いける!)
そう一夏が確信したのも束の間、突如右腕を捕まれ力任せにぶん投げられた。白式のスラスターを駆使してバランスを保つも、そこへビームの雨が降る。
「くそ!また振り出しかよ!」
シールドエネルギーももう残り少ない。この弾幕を突破して攻撃できる可能性はかなり低かった。じわじわと距離が開いていく。一夏は再び焦り始めた。
『一夏ぁっ!!』
耳をつんざくようなハウリングと共に、箒の声がアリーナに響く。放送室の方を見ると、箒がマイクに向かって大声を上げていたのが分かった。
「箒!?何してんだ!」
『男なら、その位の敵に勝てなくてどうする!!』
再びハウリング。アリーナに響き渡る叫び声に目の前のISは興味を持ったらしい。センサーレンズが放送室の方を向いた。
「まずい!」
気付くと同時に、瞬時加速を行い白式が翔る。今ここで放送室に向けて攻撃でもされたら、中にいる箒はひとたまりもない。
ISが腕を上げるのを見た一夏は、我を忘れて大声で叫んだ。
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!」
刹那、高速で飛来した何かにISは吹き飛ばされた。
「っ!?今度は何だよ!」
一夏は急停止して突如現れた物を見る。それは―
「や、靖人!?」
アリーナに降り立ったのは不知火を纏った靖人だった。しかし今までの姿に比べ、たった今目の前にいる不知火には決定的に違う点があった。
右腕が、異様に巨大化している。
不知火の銀色の装甲と違い、焼け焦げて劣化しているようにも見える腕の至るところから、橙色の燐光が漏れていた。そして、巨大な4本の爪がゆっくりと開いていく。
「靖人・・・何だよ、その武器・・・?」
見るからに武骨で、どこか禍々しさすら感じる謎の装備。一夏が混乱した様子での声を発すると、靖人がゆっくりと振り返り、一夏の顔を見た。
今にも人を殺めてしまいそうな、獰猛な獣のような目で。
次回をお楽しみに。