INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
親友の今までに見た事も無いような形相に、一夏は言葉を詰まらせる。
(な、何があったんだよ・・・靖人!)
一夏の問いかけは声に鳴らない。あまりにも靖人の表情が恐ろしく、一夏の心を恐怖が支配してしまったためだった。
が、センサーからの警告音に一夏ははっとする。先程吹き飛ばされたISが、此方に砲口を向けていた。
瞬間、不知火が猛スピードでISに突撃する。靖人の接近に気付いた敵がビームを連射するが、靖人はお構いなしに突っ込んでいく。数多のビームが不知火の重装甲に弾かれていった。
ISが回避行動を取る前に、不知火の巨大な爪が胴体を捉えた。
次の瞬間、盛大な爆音と共にISが黒煙を上げて宙を舞った。体の装甲が大きくひしゃげ、至るところに亀裂が走っている。
対して不知火の右の掌からはもうもうと白煙が上がり、例の装備の各部が開いて赤熱している内部フレームが露出していた。立ち上る熱気が陽炎を作り出している。
(零距離射撃!?にしても何て威力だ・・・絶対防御があるとはいえ、あれじゃあパイロットもただじゃすまないぞ!)
一夏の予想通りダメージはかなりの物だったらしく、地面に落ちたISはギシギシと震えるだけで立ち上がる事すらままならない。
既に虫の息であるISに向かって靖人はゆっくりと近づき、その右手で相手の左腕を掴んだ。そして顔面を左手で掴む。力を込めているのか、右手の爪がISの装甲に食い込んでいった。
「おい、まさか・・・馬鹿!やめろ靖人!!」
一夏が制するも時既に遅く、靖人はISの左腕を引きちぎった。恐ろしい想像をした一夏は顔を背けるが、恐る恐る様子を伺うと、ISのちぎれた箇所から金属のフレームとケーブルしか見えなかった。
(中身も機械・・・?まさか、あのISは無人機だったのか?)
最悪の状況にならなかった事に少し安堵するが、本来人が乗らないと動かない筈のISが無人で動いているのを知り、一夏は更に混乱した。気が遠くなりかけ、その場に力なく座り込む。
靖人の蹂躙はまだ続いた。鋭利な爪でISの体を引き裂き、バラバラにしていく。辺りにオイルが流れ、破片が散らばっていく。
「・・・・・・・・。」
オイルを返り血のように全身に浴びた靖人が、ISの胴体を持ち上げる。既にISの四肢はもがれ、半分だけ残った頭部がだらりと垂れていた。
不知火の右手が少しずつ閉じていく。ISの全身からオイルが吹き零れ、不知火の銀色の装甲を更に汚していった。
ガギン、という音と共に開いていた前腕部の装甲が閉じる。
「・・・・・・・・・死ね。」
靖人の呟きと同時に、不知火の掌から再び炎があがる。ISの胴体が砕け散り、残骸がオイルの海にぼとぼとと落ちていった。
しん・・・と、辺りを静寂が包んだ。不知火が光に包まれ、粒子となって消える。ISスーツのみになった靖人は、そのまま前に倒れ込んだ。
「・・・靖人?」
目の前で起きた出来事に呆然としていた一夏が、白式を解除して靖人の元にふらふらと歩み寄る。だが、急に誰かに肩を掴まれた。
「・・・一体何があったんだ?」
「千冬姉・・・。」
打鉄を装備した千冬が一夏の体を支えた。千冬も含め、アリーナに降り立った教師一同も困惑した表情を浮かべていた。
「靖人さん!大丈夫ですか!?」
ブルー・ティアーズを纏ったセシリアが靖人を抱き起こし声をかけていたが、意識を失っているのか返事は無かった。
「とにかく、3人を保健室へ!特に凰と神谷は重症だ、くれぐれも注意しろ!」
千冬が声を張り上げて教師たちに指示する。一夏の目前で、鈴と靖人が担架で運ばれていった。鈴も何があったのか分からない、と言いたげな顔をしていた。一夏は何も言えないまま、千冬に連れられて保健室へ向かっていった。
突然の靖人の豹変に、驚きを隠せなかったのは一夏だけではない。
「何なんだ・・・今の神谷は・・・。」
箒が放送室の床にぺたりと座り込む。
「・・・あの目、以前のクラス代表決定戦の時の物に似ていましたわ・・・。」
ティアーズを解除したセシリアが不安で胸を押さえる。
「神谷君・・・あの武装は一体?」
モニターで事の顛末を見ていた山田先生の手が震える。
「・・・靖人のISに、あんな物が。」
その後ろでマリーが真剣な表情をする。
「・・・あれは一体・・・データには無かったぞあんな物は。」
保健室に一夏を連れていった千冬は頭を抱える。
「・・・あんな靖人・・・知らない。あたしが知ってる靖人は、あんな顔をしなかった・・・!」
ベッドの上で鈴が青ざめた顔で首を横に振る。
あの場に居合わせた全員が、怒り狂った靖人の姿に恐怖した。
ここはどこだ?
また、真っ暗な世界。
でも、この間よりはっきりと分かる。
目の前に、誰かいる。
でも、誰なのかは分からない。
「君は誰?」
もう一度、その人物に問いかける。
こつ、こつ、とその人物が自分に近づいてきた。
少しずつだが、全身のシルエットが見え始める。
・・・女の子?
「・・・『俺』は―」
彼女の口元が、不気味に歪んだ。
「!!?」
薄暗い部屋の中、肩で息をしながら靖人は目を覚ました。がばりと起き上がり、辺りを見回す。
「・・・保健室?」
靖人は保健室のベッドの上にいた。すぐ隣の窓からは、月明かりがうっすらと入り込んでいる。
(どうして、ここに・・・。)
寝ぼけた今日の出来事を思い出す。確かクラス対抗戦があって、観客席で試合を観ていたら突然謎のISが乱入してきて―
「そうだ・・・一夏!鈴!!」
2人が危険な目にあったのを思い出し、靖人はベッドから降りる。するといきなり、隣のカーテンが勢いよく開く音がした。
「何ようっさいわねぇ・・・怪我人が寝てるんだから静かにしてよ!」
鈴が隣のベッドから機嫌が悪そうな声をあげる。靖人は驚きながらも彼女の無事が判明して安心した。
「鈴・・・だいじょ―」
靖人は途中で声が出なくなった。彼女の患者衣の肩口から包帯が見えた。
「あぁこれ?気にしないで、軽い火傷よ。絶対防御のおかげで、大事には至らなかったから。」
鈴が背中を擦りながら苦笑する。彼女の傷ついた姿を見るのが辛くて、靖人は思わず視線を落とした。視界に入った右手の中指には、不知火の待機形態である指輪が無くなっていた。
「・・・それより靖人、さっきのアレ、何だったの?」
「『アレ』・・・?」
鈴の言葉に靖人が疑問を浮かべる。彼女は何について言っているのだろうか、皆目見当がつかない。
「ほら、アンタがあのISの攻撃を防いだ後、あの馬鹿でかい武器でISをぐちゃぐちゃにしてたじゃない。」
・・・は?
1度、記憶を整理する。
あのISが乱入した後、千冬に許可を取って隔壁を破壊した。そして最後の避難経路を確保したところで攻撃が来たから皆を庇って・・・避難が完了して一安心した後・・・ぼろぼろな状態の鈴を見た。
そして―そこで記憶は途切れている。
「え・・・?」
何度もその後を思い出そうとするが上手くいかない。鈴が倒れている姿を見た後、思い出すのはこの保健室の天井だ。あのISを破壊した記憶なんて何処にもない。
「・・・もしかして、覚えてないの?」
鈴が嘘をついているのか?いや、そんな事をして何になる。では、本当に自分があのISを倒したのか?以前にも不知火に乗っていた記憶がボンヤリする事はあった。だが今回は違う。まるで切り取られたかのように記憶が昼間から今に飛んでしまっている。
「わ、分から・・・ない・・・。」
自分がやった事が自分には分からない。その事実が靖人に突き刺さる。ベッドに腰掛けた靖人は、得体の知れない恐怖に身を震わせていた。
IS学園地下・・・IS学園関係者でも、ごく一部の者しか入れない場所で、千冬はあの戦闘の映像を見ていた。
吹き飛ばしたISの体を不知火の武骨な右腕が紙のように引き裂いていく。その姿はまるで獲物を食い散らかす狼のようだった。
「・・・・・・・・。」
無言で何度もその映像を確認していた千冬の元に、山田先生が近づいてきた。
「織斑先生、解析結果が出ました。」
「・・・どうだった?」
映像を消して、千冬が振り返る。山田先生が端末を操作すると、空中に様々なデータが記されたディスプレイが浮かび上がった。
「まず例の乱入してきたISですが、あれは完全に無人機でした。ですがコアを含め、全てのシステムがバラバラにされているため、原理については解明できませんでした。」
「そうか・・・。」
山田先生が残念そうにため息をつき、千冬は表情を変えずにディスプレイを睨み続けた。
「そして・・・神谷君のISですが、装備一覧にあのような武装は登録されていませんでした。」
「・・・何だと?」
千冬が怪訝そうな顔で山田先生の方を見る。いつもなら弱気な山田先生も、今回ばかりは動じずに言葉を続けた。
「実際に倉持技研の方にも来ていただいて、何度も確認を取りました。しかし、新装備はおろか、不知火のシステムその物に不自然な変化は見られませんでした。」
ISは戦闘を繰り返すと新たな武装を構築する事がある。今回の武装もその現象かと考えたが、どうやら違うらしい。この問題は、そう簡単に解決する物では無さそうだ。
「ISの装甲を易々と破壊する、隠された武装か・・・。」
千冬が呟きながら再びあの映像を途中から再生する。不知火から放たれた業火がずたぼろの無人機を砕く瞬間が、モニターに投影された。
「へぇ~。ふんふん、なるほどなるほど。」
世界の何処か―巨大なモニターの光が、部屋の中の大量の機材を照らす。そこに
爆発と共に、無人のISが木っ端微塵になる。
「まさかここまでしてやられるとはね。一体何なんだよ君は。予定が狂っちゃったよ。」
ぶーぶーと文句を言いながら、彼女は手元のキーボードを片手で操作する。異常とも思えるスピードでキーが叩かれ、enterキーを押した瞬間モニターの画像がとある人物の戸籍のデータになる。
「ふーん。神谷靖人、ねぇ・・・。」
真面目そうな少年の顔写真を見て、彼女は不機嫌そうに唇を尖らせた。
「・・・ほら、元気出しなさいよ。」
寮へと帰る道の途中で、鈴が口を開いた。その言葉に靖人は返す言葉が見つからなかった。
「あぁもう、別にアンタが悪い事した訳じゃ無いでしょーが。おかげであのIS倒せたんだし。」
鈴は鈴なりに自分を励まそうとしてくれている。その好意は嬉しいが、それでも靖人は塞ぎこんでしまう。
「・・・もっと周りを頼りなさいよ。『友達』でしょ?」
先日自分が鈴にかけた言葉を返され、靖人は立ち止まった。
「アンタ1人で抱え込まないでよ。アンタにはあたしや一夏、箒やセシリアやマリーだっているでしょ?」
・・・本当に自分は馬鹿だ。他人にはあれこれ言っておきながら、自分はそれができていない。
「・・・そうだね。」
同時に靖人の心に更なる罪悪感が生まれる。
「ごめん。」
―やっぱり僕は、そうやって自分を心配してくれる君を諦めきれないみたいだ。
再び前を向いて歩き出す。鈴に自分の心境を悟られぬように、あえて話題を変えてみる事にした。
「そういえば、一夏との約束の件はどうするの?」
「あぁそれね・・・もういいわ。それどころの話じゃ無かったしね。でも・・・。」
鈴が肩をすくめるが、ぐっと拳を握りしめて決意を固めた。
「またアイツに約束するわ・・・今度こそ一夏をあたしの物にする!」
「そんな事大声で言って良いの?」
「あっ・・・。」
誰かに聞かれたのではないかという羞恥で真っ赤になった鈴を見て靖人は苦笑する。
(本当に変わってないな・・・本当に。)
複雑な感情が、靖人の心を支配した。
寮の階段を登る最中、この2人きりの時間がもうすぐ終わってしまうのを靖人は少し寂しく感じていた。
「つ、付き合ってもらうぞ!!」
「「・・・え?」」
突然の2階の廊下から聞こえた叫び声に、靖人と鈴は立ち止まる。
2人で顔を見合わせてから、急いで残りの階段を駆け上がった。
廊下を覗き込むと箒が廊下を走り抜け、1025室とは別の部屋に入っていった。
そして1025室の前では一夏が頭上に大きな『?』を浮かべていた。
「・・・あぁ、そういう事ね。」
何となく状況が理解できた所で、鈴からどす黒いオーラが立ち上った。目に光がない。
「「あは・・・あはははは・・・。」」
靖人の苦笑と、鈴の壊れた笑いがハモる。
やれやれ、どうやら恋の行方は果てしなく険しいらしい。
鈴の物も、自分の物も。
『????』
クラス対抗戦時での襲撃事件において、不知火が展開した武装。
その後の調査で不知火の装備一覧にこのような武装は登録されておらず、詳細な情報や性能は不明。
以下に映像によるデータと推測を記す。
右前腕部に装着される巨大な腕。不知火の銀色の装甲と違い全体が黒く煤けていて、装甲の隙間から橙色の燐光が漏れている。
確認されている武装は4本の指の先端にある巨大な爪と掌底の零距離砲。共にISの絶対防御を強制的に発動、最悪の場合それすら貫通するほどの危険な威力を誇る。
その鋭利な爪に圧倒的な握力が相まってISの装甲を切り裂くどころか、強固な金属製だった無人機の内部骨格ごと引きちぎる事が可能。
また特殊炸薬を用いているのであろう零距離砲の威力は絶大で、重装備のISを大きく吹き飛ばす程。なお発射の際に武装の至る所の装甲が開き内部フレームが露出しており、恐らくこれは砲撃後の冷却のために行われている物だと考えられる。初撃から約40秒後、装甲が閉じた後に間髪入れずに次の砲撃をしていた点から、この零距離砲は連続して発射できないと推測される。
・・・2章終わりました。いやぁ、色々と急展開を迎えて混乱している方もいるのではないでしょうか・・・いるのかな?
やっとタイトルの深意が判明しましたね。とにかくこれで、やっとこのSSの今後に続く伏線を張ることができました。不知火とは一体何なのか?靖人の鈴に対する想いの行方は?何故靖人は不知火を操れるのか?・・・これらを始め、様々な事が今後の話を左右していきます。
ってか伏線を張るのに時間掛かりすぎ(笑)20話以上使ってしまった!ぐだぐだで申し訳ありません!
さて、今の今までハイペースで作品を投稿して来ましたが、ここで遂に以前から書き貯めていた下書きが切れました。なのでここからは今までより投稿が遅れるかもです。
様々な謎が交錯する『INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~』、第3章以降もぜひお楽しみください。