INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~   作:Mr. P.C.

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書きたい事を書いてたらとても長くなりました!原作がないと余計に纏められなくなる。


第20話:日常に吹き荒れる嵐

「目標発見!」

「尚、3人中2人は手を繋いでいる模様!眼福!」

「者共出会えぃ!」

IS学園の廊下で数多の女子生徒が、合戦場が如き勢いで駆けてくる。彼女らの目標、それは―

「ど、どうして皆追いかけてくるの!?」

「そりゃ俺たち男子が珍しいからだろ!悪いなシャルル、スピード上げるぞ!」

「一夏!そこの階段を降りよう!近道になる!」

本日転校してきたシャルルを含めた男子3人が、懸命に足を動かしていた。

SHR後、1時間目がアリーナでの実習だと知らされた靖人たちはロッカールームへ移動しようとしたが、そこへシャルルの事を嗅ぎ付けた生徒たちが群れを成して攻めてきた。1度捕まれば質問攻めの餌食になり、千冬が監督する授業に遅れてしまうと直感した一夏は、何故か呆然としていたシャルルの手を引き、靖人と共に逃走劇を開始したのだった。

時折わざと遠回りをしながら、3人はロッカールームを目指す。

追っ手を振り切り、無事に目的地に到着した時には皆肩で息をするほど疲弊していた。

「はぁ・・・はぁ・・・ったく、授業があるってのに迷惑だな・・・遅刻したらどうすんだよ・・・!」

一夏が髪をかき上げる。その隣でシャルルが軽く咳き込んでいた。

「すまねぇシャルル。無理させたか?」

「い、いや・・・僕は大丈夫だよ。それよりも・・・。」

ちらりと隣を見る。

「・・・靖人が死にそうだけど・・・。」

シャルルの視線の先には、ロッカーに背を預け過呼吸寸前になっていた靖人の姿があった。

「ぜぇ・・・ちょ・・・はぁ・・・ちょっと待って・・・走りすぎて・・・息が・・・!うぅ・・・。」

「お前、相変わらず運動神経無いなぁ・・・。」

情けない友人の姿を目の当たりにして一夏がため息をついた。中学の頃も、靖人の成績は座学に関してはオール5だったが、体育だけは3だった。長距離リレーをやった後、彼が日陰で倒れているのは最早名物とも言えた。

「でもそこで死んでる余裕無いぞー。遅刻したら千冬姉にどやされるぞ。」

「そ・・・そうだね・・・。」

どっこらしょ、と靖人が立ち上がる。疲労のせいでおっさんになったか。

「ほれシャルルも急いで着替えるぞ。転校早々怒られたくないだろ?」

「え?あ、あぁ!そうだね!」

何故か若干テンパりながら、シャルルも近くのロッカーを開いた。

1時間目開始までもう猶予はない。3人は無駄話をせず、黙々とISスーツを身に付けていった。

 

 

「遅いわよアンタたち!」

第1アリーナに到着すると同時に、鈴の声が耳に届いた。今回の実習は1組と2組の合同授業で、既にアリーナの一角に約60人の生徒が整列している。

「わりぃわりぃ。追っ手から逃げてたら遅くなった。」

一夏が代表して謝り、列の空いている所に3人が入る。1組が全員集合したのを見計らったかのようなタイミングで本鈴が鳴った。

「今日から遂に実際にISを動かす実習が始まる。以前から何度も言っているが、ISは兵器だ。使い方を誤れば大きな事故に繋がる。全員、心してかかるように。」

生徒たちの前で千冬が凛とした表情で口を開く。彼女の気迫が伝わったのか、その言葉を聞く少女たちの顔も真剣その物だ。

「では山田先生。後は頼みます。」

「は、はい!え~と、それじゃあ専用機を持っている方たちは、すいませんが前に出てください。」

自らもISスーツに身を包んだ山田先生が千冬からバトンタッチを受け、「こっちこっち」と言わんばかりに手を振る。その度に豊満な胸が揺れるのを見てしまい、気恥ずかしさから靖人は若干視線を逸らした。

生徒たちの前に一夏、靖人、セシリア、鈴、シャルル、ラウラの6人が集合する。

(って事は転校生の2人も専用機持ちなのか。)

それは男子と軍人という特殊な人材だからか、それとも代表候補生だからなのか。後で本人に聞いてみようと靖人は頭の中で考えていた。

「基本的に授業は私や織斑先生が教えるのですが、実習では私たちだけだと全員の面倒は見れません。ですので、専用機を持っている皆さんに指導のお手伝いをしてもらいます。」

山田先生がすらすらと状況を説明する。山田先生は授業等の真面目な時間においては、いつもの慌てている雰囲気が影を潜める。

「ですので、残った皆さんには6つのグループを作ってもらいます。そして各グループに1人ずつ専用機持ちの人たちをコーチとしてついて―」

と、山田先生が言い終わる前に女子たちは行動を開始していた。

「織斑君!」

「神谷君!」

「デュノア君!」

「「「よろしくお願いします!!」」」

総勢約60人の群衆が、3人の男子に迫ってきた。

「頭に乗るな馬鹿共。」

そして千冬が出席簿でそれらを一瞬で鎮圧した。圧倒的物量、超スピードで繰り広げられた茶番に、靖人たちは苦笑いを浮かべる事しかできなかった。

「自由に決めるなど誰がさせるか。出席番号でグループを決める!とっとと番号順に並べ!」

千冬の鶴の一声で悶えていた生徒たちが慌てて整列していった。

 

 

「そうそう。座り込むような感じでISに身を委ねて。・・・よし、それじゃ暫く動かないでいてね。」

「うん、分かった。」

相川が返事をすると同時に、打鉄の装甲が彼女の体格に合わせて閉じていく。センサー類を含む全ての接続が終わったのを確認した靖人は彼女に次の指示を出す。

「それじゃあ、そこから立ち上がって少し進んでみようか。入試とかで乗った事あるだろうから分かると思うけど、感覚的には若干前に重心を持っていく感じだよ。」

靖人の言葉に続いて、打鉄を纏った相川がゆっくりと前進する。

「そう、良い感じだよ。だけどもっと速さが欲しいかな。もう少し体を前に倒すイメージでやってみると良いかも。」

自身の経験を交えながら、なるべく分かりやすいようにコツを教えていく。その甲斐もあってか、時間が経つに連れ相川さんの動きが段々良くなっていった。

前進、旋回、停止―山田先生に頼まれた指導内容を何度か繰り返す。そろそろ次の人に交代しようとした時、一夏のグループの方から黄色い声が聞こえた。

「あ!(かがみ)さん一夏君にお姫様抱っこされてる!」

相川の言う通り、白式を展開した一夏が同じクラスの鏡ナギを打鉄の搭乗位置まで運んでいる。

「あ~あ・・・さては一夏、前の人にISを座らせるのを忘れたんだね。」

ISの高さは平均3mはある。量産型のISに搭乗する際、予めISを座らせる形で待機させておかないと、パイロットは自力で搭乗位置に到達できないのだ。恐らく一夏は呼べばいつでも装着できる白式に慣れていたため、その事を失念していたのだろう。

「相川さん、ちゃんと降りる時は座ってよ?」

自分のグループの「良いなぁ、私もやってもらいたい。」という雰囲気を何となく察知した靖人は相川に釘を刺す。ISスーツを着た女子をお姫様抱っこ・・・あんな密着した状態になるのは抵抗がある。

「わ、分かってるよ~。」

図星だったのか、相川がぎこちない笑みを浮かべながら打鉄から降りる。

その後の生徒に対しても特に問題は起きず、靖人の指導はテンポ良く進んでいった。そして―

「いやー様になってるじゃないか、先生嬉しいよー?」

自分にISの操縦を教えてくれた張本人である、マリーの番が回ってくる。靖人が皆に教えているコツは、かつて靖人がマリーから聞いた物が多い。

「うん、マリーから教わった事が今凄く役に立ってるよ。」

「そりゃ良かった。」

にひひ、とマリーが笑う。こうしている間にも、マリーは実習内容の基礎的な運動を軽々とこなしている。その姿を見て、そういえばと靖人は疑問を口にする。

「どうしてマリーはISに慣れているの?前から乗っていたとか?」

「え?あぁ、私のお父さんがISに関する仕事をしていてね。IS学園の入試前にお父さんのツテで練習したんだー。」

「成る程ね。」

マリーの言葉から、靖人の脳裏にはISの研究員だった母の顔が浮かび上がっていた。

「じゃあ適当に回数重ねたら交代するねー。いやー打鉄も良い機体だよねー。」

此方から何も指示を出さずとも、マリーは勝手にノルマをこなしていってくれた。

「マリーなら大丈夫だよね。・・・皆どうしてるのかな。」

束の間の休憩ができた靖人は他のグループの様子を伺う。

「えぇい!早くしろ!」

「わ、分かったよ・・・!ったく、何で皆立って停止しちゃうんだよ・・・。」

一夏が今度は箒をお姫様抱っこしていた。どうやら向こうのグループではわざとISを立たせる事でお姫様抱っこを堪能しているらしい。一夏と密着した箒の口元が緩んでいる。

(つーかいちゃついてたら時間内に終わらないよ?)

しらけた目で一部始終を見ていた靖人は、今度はセシリアの方に目を向ける。

「ですから、右へ曲がる時は全身を右へ17゚傾けるイメージで、半径2.3mの円を描くように―」

(だるっ。)

セシリアの具体的すぎる説明に靖人も教えてもらってる生徒もやる気が失せた。

(えーと、シャルル・・・。)

新たな仲間である彼の様子を見ると、

「アイススケートやローラースケートをやった事がある人は、それをイメージすると良いかもね。バランスを保ちながら、滑っていくように進んでみて。」

靖人同様、イメージを用いながら分かりやすく説明している。

(シャルルは勉強ができそうな感じだよね・・・。どちらかと言うと問題なのはシャルルに見とれてる皆の方かな・・・。)

温厚な金髪の貴公子に、グループの女子たちは皆恍惚の表情を浮かべている。シャルルの解説をちゃんと聞いてるのか?

(ボーデヴィッヒさん・・・。)

もう1人の転校生はと言うと・・・。

「踏み込みが甘い!そんな遅さでどうする!ここが戦場なら、的にされて命は無いぞ!」

(スパルタ!?)

流石は軍人というべきか。基本の動きにも一切妥協せず檄を飛ばしている。ラファールに乗っている子は雰囲気に飲まれたのか、「サーイエッサー!」と大声で返事をしている。何だこれ。

(・・・最後に。)

「で、そこでぴたって止まる!・・・違う違う。もっとピシッて行動するの!」

鈴が四苦八苦しながら大声で指示する。彼女の説明はセシリアと逆で抽象的だ。明確なイメージが沸きにくい。

(あ、鈴って箒と似たような感じだな。)

自分の特訓の時の事を思い出しながら、暫く鈴の事を眺めてしまう。その視線に気付いたのか、鈴が此方を向いてきたので靖人は慌てて顔を背ける。

「靖人ー終わったよー。」

丁度マリーの番が終わったらしく、彼女に大声で呼ばれた。今は授業中だ。靖人は気を引き締め直し、再び皆への指導を開始した。

 

 

「ふぅ・・・今日も疲れたなぁ・・・。」

疲れが溜まった首を回しながら靖人は寮の廊下を歩いていた。既に夕食は食べ終わっており、窓の外は夜の闇に支配されていた。

「やっぱり一夏との試合はキツいなぁ・・・零落白夜が怖い。」

放課後の特訓で行った一夏との試合を思い出す。不知火の砲撃能力の高さで何とか勝利できたが、一夏の零落白夜の起動と同時に瞬時加速による突撃という戦法は仕掛けられると背筋に冷たい物が流れる。

(まぁあの戦法はエネルギー消費が激しいからバンバンやってこないけどね。)

一夏の癖や自分の欠点等をシミュレートしながら、靖人は自室の前に辿り着いた。しかしここである異変に気付く。

「あれ・・・鍵が空いてる?」

解錠しようと鍵を捻っても手応えが無かった。今朝鍵を閉めるのを忘れたのだろうか。

(やっちゃったなぁ・・・まぁ寮には従業員さんや監視カメラとかあるから空き巣の心配は無いだろうけど・・・。)

それでもやはり心配なので、靖人は荷物を確認しようと中に入る。そしてシャワールームを通り過ぎた瞬間―

「っ!?」

突然視界がひっくり返った。床に後頭部を打ち、思わず苦悶の声が漏れる。

だが脳内で状況を整理する前に、首筋に冷たい物が当たる。

「え・・・!?」

靖人の目に飛び込んできたのは・・・。

 

 

「む?何だ貴様か。そういえば、神谷とは同室だと教官が言っていたな。」

銀色の髪から水滴を滴らせたラウラが、サバイバルナイフを靖人の頸動脈に当てていた。

「すまない。部屋に侵入者が現れたものだからつい警戒をしてしまってな・・・。怪我は無かったか?」

昼間眼帯に隠れていたラウラの金色の瞳から冷徹な光が消え、手を差し伸べてくる。いきなり命の危険に晒されパニックになっていた靖人は、やっと落ち着いて状況を理解する事ができた。

「う・・・うん、大丈夫だよ・・・。シャワー浴びてる最中に誰か来たら警戒するよね・・・。」

ナイフによって首に怪我をしてないか確かめながら、靖人は乾いた笑いを浮かべた。

(ん・・・?)

自分の言った言葉に引っ掛かる物を感じた靖人は、ラウラの全身を一瞥してようやく自分が今大問題に直面しているのを実感した。

「ってうああああああっ!!な、何で裸っ!?」

慌てて目をつぶって顔を横に向ける。だが既にラウラの白い肌をこの目でしっかりと見てしまった。小柄だがよく引き締まった裸体が脳裏に焼き付いてしまう。

「ってか何でバスタオルすら巻いてないの!?」

靖人の指摘通り、現在ラウラは肩にフェイスタオルをかけているだけの状態だった。何でそんな男らしい格好をしているんだ!?

「いや、シャワー中だから裸に決まっているだろう。それにバスタオルなんて巻いたら体を動かしにくくなる。」

当の本人は特に恥ずかしがる様子もなく堂々と理由を述べた。

「と、とにかく服を着て!体隠して!!」

靖人が大声で懇願するのを見て、ラウラは「制服以外は1着しか無いんだが・・・。」とぼやきながら荷物を漁っていた。暫くして、シャワールームの扉が閉じた音を確認した靖人は、恐る恐る目を開く。部屋にはもうラウラの姿は無かった。

「あぁもう・・・!部屋の変更の理由はこういう事か・・・!」

ここ数日2人部屋に1人で住まわされたのは、シャルルとラウラを受け入れるためだったのだと理解する。

(・・・つまり一夏の部屋にはシャルルがいるのか。)

そう考えた瞬間、何ともくだらない怒りが込み上げてくる。向こうは男同士で何の気遣いも無いのか。こっちは命と理性が崖っぷちだわ!

「くっそ~、許さないぞ部屋決めた人・・・!」

靖人が珍しく怒りを顕にする。ちなみに部屋割りを決めたのは寮長である千冬だという事実を、彼は知る由も無かった。

「着替えたぞ。」

丁度その時ラウラの声が届き、シャワールームのドアが開く。靖人は1度ため息をついてから体を彼女の方に向けて、

「いや、何でそんなガチガチとした服なの。」

ツッコミを入れた。

「これか?我が『黒ウサギ隊(シュバルツェ・ハーゼ)』の服だが?」

と、黒い軍服に身を包んだ彼女は胸を張る。ミニスカートにガーターベルトで繋がれたストッキングがとても魅力的だが、眼帯に加え腰に下げられた短刀が軍人らしい格好良さも醸し出していた。しかも室内なのにちゃっかり帽子を被っている。

「あ、あのさぁ・・・部屋着何だしもう少しラフな格好でも良いんじゃないの?」

これから軍事パレードでもあるの?と言えるほどの正装なラウラに、靖人がアゼントしながら聞いてみる。

「すまんが私は部屋着という物を持っていない。軍にいた頃は支給された物を使っていたしな。特に必要では無かったから此方では全裸で過ごそうとしていたんだが・・・。」

「何その痴女発言!!」

ラウラの爆弾発言に靖人は激昂した。ドイツ軍というのは年頃の少女に常識を教えないのか!?

「・・・まぁ、それしか無いのならせめて上着とか脱いだら?そんなかたっ苦しい格好じゃ上手く寝付けないと思うよ・・・?」

「そうか。」

靖人の助言に応えて、再びラウラはシャワールームに入っていく。別に上着を脱ぐ位ならここでも良いのでは?という言葉を靖人は飲み込んだ。

「さてと・・・。」

今日は軍服で過ごしてもらうとして、明日以降はどうしようか。流石に同じ服を毎日着させる訳には行かないし、制服を着続けるのも難しい。全裸なんて真っ平ごめんだ。

とある結論に達した靖人は、携帯である人物に電話をかける。案の定相手はすぐに反応してくれた。

『ん?何靖人。いきなり電話して来るなんて。』

「夜遅くにごめんね、鈴。相談があるんだけどさ・・・。」

一呼吸置いてから、靖人は鈴に質問した。

「・・・女の子の部屋着って、どんなのを買えばいいの?」

暫くの沈黙。突然の質問に状況が掴めない鈴が「はぁ?」と聞き返すが、

「神谷、これならどうだ?」

「何で裸Yシャツなのぉぉぉぉぉぉ!!?パンツ隠してぇぇぇぇ!!」

ラウラのはしたない格好を見た靖人の絶叫によって掻き消された。




靖人にどんどん災難が続きます。こんな毎日を送っていたら胃がやられそうですね。
靖人爆ぜろ。
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