INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
私には親と言うものがいない。
科学者の手によって試験管から産み出された、所謂『造られた命』だった。
存在する理由は唯一つ、兵士として祖国ドイツを守るため。
この世に生を受けてから、私は戦いの術しか教わっていない。
どうすれば敵を壊滅できるか。如何に自陣を守れるか。
体術や武器の扱い、兵法を幼い頃から叩き込まれた。
日夜続く訓練。私は死に物狂いで食らい付いていた。
そんな中、世にISが誕生する。
我が国の上層も国の防衛にISを取り入れ、我々からIS運用特殊部隊を組織する事を決定した。
ISの模擬戦が部隊内で幾度となく繰り返され、私はそこで何度も勝利をこの手にしてきた。気付けば部隊で最高位につけるほどの勝率を収めていた。
自分の中に絶対的な自信がついた丁度その時、あの忌々しい事件が起きる。
『ヴォーダン・オージェ』・・・人体の視力その物を強化し、疑似ハイパーセンサーとして活用する計画が、私の全てを狂わせた。
当初人体に悪影響は無いと言われたこの処置だったが、これを受けた部隊の者の中で私だけ、適合に失敗したのだ。
IS装備時にしか発動しない筈のそれが、常時稼働するようになった。左目から入る過剰な視覚信号は、私の脳に大きな負担を与え続けた。
暴走を止めるために私は眼帯の着用を強いられた。これにより情報の奔流に苦しめられる事は無くなったが、別の問題が浮上するようになる。
左目を塞いだ事で視界が狭まり、死角が増えてしまった。そして片目になったために以前より遠近感が掴みづらくなった。
急速に状況が変化する戦闘において、これらによる一瞬の隙は致命的な物となる。
訓練で私は負け続けるようになった。これまでトップに居続けた私は、この日を境に急激に崩れ落ちていった。
そして、周りの者から向けられたのは・・・侮辱の視線だった。
紅から金に変色したこの左目が、とても恨めしかった。
プライドを傷つけられ絶望に沈んでいた時、私の前にあの人が・・・織斑千冬が現れた。
もう一度、お前を頂点に返り咲かせてやる・・・そう宣言した彼女から、私は指導を受ける事になる。流石は世界最強と呼ばれるIS操縦者だけあって、訓練は相当厳しい物だった。だがその苦労は直に実を結び、私は以前のように模擬線で勝てるようになっていった。
そして1年後、教官がドイツを去る頃には私は部隊の隊長の座にまで登り詰め、専用機も配備される事になった。
これも全て、教官のおかげだ。以来私は師として、そして目指すべき目標として、織斑千冬に憧れるようになった。
『だからこそ認めない・・・あの人の顔に泥を塗った、奴を・・・。』
「ねぇねぇラウラ、聞いてる?」
考え事をしていたラウラは、マリーの問いかけで意識を現実に向け直す。
「む・・・すまない。それで、どういう用件だったか?」
話を良く聞いてなかったためラウラが聞き直すと、マリーが呆れたような声を上げた。
「だーかーらー・・・そろそろトーナメントも近いから、ドイツ代表候補生にして軍隊所属のラウラさんに指導して頂きたい、ってお願いしてたのー。」
「人に教えを乞う態度なのかそれは・・・。」
げんなりとしながらも、ラウラは先程の『トーナメント』という単語を思い出す。
それが指しているのは、今月末に行われる『学年別個人トーナメント』の事で間違いないだろう。この試合はIS学園のみならず、世界中から後の逸材のスカウトのために様々な企業や政府の者が視察に来る。1年生にとってはISの公式戦の記念すべき初舞台であり、目の前にいる彼女のように士気を高めている者も少なくない。
・・・だが実際に見てみると予想以上に気合いが入っていて驚いた。シーズンが近づくにつれ周りから優勝を目指す声が次々と聞こえてくるのだ。最初は向上心が高くて良いとラウラは考えたが、どうもよく聞いてみると・・・、
「優勝しかない!優勝すればあの権利が・・・薔薇色の青春が手に入る!」
「優勝の先にある、あの高嶺にある花を掴むのは私よ!」
「向こうから来ないのなら、此方から迎えに行くまで!」
・・・『優勝』ではなく『優勝商品』を狙ってるとしか思えぬ発言に、ラウラは呆れてしまった。たしか『学園食堂フリーパス1年分』だったか?そんな物のために頑張るというのはどうなのだろうか・・・。
それでも、正直専用機持ちが有利なのには変わりないが。
「頼むよー。私だけじゃなくて、セシリアとかも是非ラウラと訓練してみたい、って言ってるしさー。」
蒼いISを操るイギリスの代表候補生を始め、マリーの周りにいる専用機持ちの面々を思い出す。
(・・・私がいなくても十分ではないか?)
うーん、と首を捻っていたラウラだが、マリーの次の一言で身が強ばる。
「って言っても、元々これを提案したのは一夏なんだけどね・・・。」
その言葉が言い終わる前に、ラウラは素早く席を立った。そして去り際に、マリーにやや早口で言い残す。
「すまないが後に敵となる者を相手にする事はできない。此方の手の内をばらしてしまうからな。失礼する。」
ツカツカと教室を後にしたラウラに向けて、マリーは「やっぱりか・・・」と、ため息をついた。
「で、どうだった?」
廊下で合流した一夏が、マリーに聞いてみる。
「予想通り拒否られちゃった。最初から乗り気ではなさそうだったけど、一夏の名前を出した瞬間とっとと教室から出ていっちゃったよ。」
「あー・・・これもう確定かな・・・。」
報告を聞いた一夏が頭を抱え、深いため息をついた。
「・・・俺やっぱアイツに嫌われてるのかな・・・。」
『どうもラウラに避けられてる』・・・そう一夏が皆に切り出したのは3日ほど前の事だ。曰く、視界に彼女が入る度に睨まれるらしい。おかげで話しかけようにも話しかけれない・・・との事だった。事実、ラウラのそういった態度は周りから見ていても分かる程であった。
「で・・・それが事実として、じゃあ何で一夏がラウラに嫌われているのかが気になるよね。」
シャルルが心配から一夏の背中を撫でながら口を開く。
「ありがとよシャルル・・・その件なんだが、それが俺にも皆目見当がつかねぇんだよ・・・。」
「アンタに心当たりが無くても、咄嗟の出来事があの子にとっては嫌な事だったんじゃないの?」
鈴の一言で、周りにいた全員が「あぁ・・・」と小さく賛同した。確かにあり得る、この唐変木・ザ・唐変木の織斑一夏なら・・・。
「ちょ・・・なんで皆妙に納得した様子何だよ・・・!」
「今までの経験上・・・。」
「今何か言っただろ箒?」
じとっと一夏が睨むが、それを受けた箒はくるっと窓に目を向け、「今日も空は青いな・・・」と棒読みする。
「はいはい、ここで喧嘩をしないで頂けます・・・?それで、靖人さんはラウラさんから何か聞いてますか?」
セシリアの一言で、全員の視線がラウラと同室である靖人に集中する。
「・・・いや、特には聞いてないね。ってかボーデヴィッヒさん基本無口だから、普通の会話もあまりしないね・・・。」
おかげで勉強とか捗るけどさ、と靖人はつけ足す。あの一件以降、彼女はちゃんと部屋着を着るようになったので無駄に精神を削られる事は無くなっていた。
「・・・この引きこもり。」
「聞こえてるよ、鈴?」
鈴から放たれた呟きに苦笑を浮かべる。・・・内心それは大きな剣となって、靖人の心を抉っていったが。
「でも思い返すと初対面の時から何か敵意を向けられてた気が・・・。」
2人が転校してきた時を思い出しながら、一夏は眉を潜めた。
(俺とアイツには接点なんて無いよな・・・あるとすれば・・・。)
ラウラが姉の事を『教官』と呼ぶ事くらいか。千冬はかつてドイツ軍に世話になっていた時期がある。というのも、その理由は元を辿れば自分にあるのだが・・・。
(まさか、な・・・。)
あの事実の解釈によっては、自分を恨む理由になるかもしれない。だが流石に考えすぎだし、自分にとっても良い思い出ではない。
「まぁいつか仲直り出来るだろ。悪かったな、皆。」
思考をやめて、もやもやとした気持ちを切り捨てる。その頃には、彼らはアリーナの周辺に辿り着いていた。
早足だった己の歩みが、徐々に遅くなる。周りに誰もいない階段の踊り場で、ラウラはついに足を止めた。
(・・・少し無礼過ぎたか。)
先程のマリーからの申し出の断り方を思い出し、ラウラの脳裏に後悔の文字が浮かんだ。
(やはり何か変だな、ここ最近の私は・・・。)
織斑一夏―彼の存在を認知するだけで、心の奥から何か黒い感情が吹き出てくる。軍にいた頃名前は耳にしていたが、奴と自分にはこの学校に来るまで何の接点は無かった。それなのに、何故・・・。
(・・・いつからだ?このような感情は・・・。)
違和感に気づいたのは、学園に来る前の事だった。たしかIS学園への転入に向けて準備を進めていた頃、4月の半ば頃辺りか?記憶を探りながら、ラウラはその場で立ち尽くしていた。
「おいどうした、そこで物思いに耽ってるな。邪魔になるぞ。」
突如かけられた声にハッとし、ラウラは2階へ続く階段に目をやる。
「きょ、教官・・・!」
かつての師、そして現在の担任である千冬の登場に、ラウラはほぼ反射的に姿勢を正す。軍に所属していた頃の習慣であった。
「まったく・・・転校して暫く経つと言うのに、まだ慣れてないのか。ここでは教官は止めろと言っただろう?」
「す、すみません・・・織斑先生・・・。」
呆れながら階段を降りてくる千冬に注意され、慌てて訂正をする。数瞬の沈黙が流れた後、千冬が徐に口を開いた。
「・・・お前、何やら最近様子がおかしくないか?」
その言葉にラウラの肩が一瞬震えた。
「・・・そうですね。ずっと軍にいたせいか、この学校の雰囲気にいまいち慣れておらず―」
「嘘をつくな。」
ラウラの言葉を、千冬のいつもより低い声が遮る。
「貴様を指導したのは何処の誰だと思っている。私に向かって隠し事をするなど100年早い。」
流石は教官か・・・彼女の観察眼に舌を巻きながらも、ラウラは声を振り絞った。
「・・・自分でも良く分からないんです。ただ、ここ最近何故か不安で一杯で・・・。」
「・・・・・・・・・。」
千冬は何も言わずに、ラウラの肩に手をやった。
「戦いの場では迷いを捨てろ、死ぬぞ・・・と軍にいた頃なら言っていたが、ここは学校。私とお前は教師と生徒の関係だ。」
フッと笑みを浮かべながら、千冬は言葉を続ける。
「何かに悩むのも学生の本分だ。だが、あまり一人で抱えこむなよ。気持ちが整理できたら、先生にでもクラスの誰かにでも相談しとけ。」
時間があったら私も聞いてやるぞ、と言い残して千冬は去っていった。その姿は訓練の時の厳しい物ではなく、休憩時間の時に良く見せていた優しい彼女の物であった。
「・・・ありがとうございます、教官。」
見えなくなった背中に敬礼をし、ラウラは再び歩き始めた。
呼び出された場所は、路地裏にある古ぼけたバーだった。軋む木製の扉を開けると、がらがらの店内が目に入る。バーテンダーがチラリと此方を確認したのを見てから、カウンターの最も奥、薄暗い箇所にその人物がいるのに気づいた。
「やぁ、急に呼び出してすまなかったね。」
ウィスキーの入ったグラスを片手に、金髪の男性が挨拶をしてきた。年は近い筈だが、彼の方が自分より若々しく見えるのは、身なりがきちんとしているからだろうか。
「いやいや、此方こそ遅くなりました。」
愛想笑いを浮かべながら男の隣に腰かける。かなり痩せ細った自分の笑い顔は端から見ると嫌悪感を抱くだろうが、彼はそんな素振りを見せなかった。
「今日は奢ろう。何が欲しい?」
「ではお言葉に甘えて。同じのをお願いします。」
生憎自分にはこういう場のルールは分からない。すぐに2つのグラスを此方に滑り込んできた。
「・・・それで、首尾の方はどうだい?」
バーテンダーが奥に消えたのを確認してから、向こうが切り出してきた。
「えぇ、おかげさまで。何の問題なく準備できました。後は実際に動かすのを待つだけです。」
意気揚々としながら私はウィスキーを口へ運ぶ。が、アルコールがキツくて軽くむせてしまった。
「フッ、それは良かった。提供した僕もとても嬉しいよ。」
男もウィスキーを含む。慣れてるのか、私の様なへまは起こさなかった。
「それにしても、あんな代物をどうして・・・。」
私は以前から抱えていた疑問を口に出した。
「簡単さ。かつての記録を集計して、それを―」
「そうじゃない。何故私に寄越したのか知りたいのだ。」
酔いがもう回ったのか、少し言葉を荒げてしまった。男は薄く笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「あんな貴重な物を使わないなんて、宝の持ち腐れだろう?君なら、僕のこの意見に賛同してくれると思ったのさ。」
「その通り。そして私はそれを形にする事ができた。」
クックッと自分でも気味が悪いと思える笑いを上げる。だがそれでも、今日は気分が良い。
「成功を願ってるよ。これは僕にとっても夢だからね。」
「えぇ、分かってますよ・・・『J』。」
そう言って、2人はまたグラスを傾けた。
もうここら辺は記憶と自分の感性を頼りに書いてます。矛盾とか生じていたらごめんなさい。そして増えていく文字・・・。