INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~   作:Mr. P.C.

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相変わらず熱は出てる!だが創作意欲がいつもと段違いだ!てなわけでまた書きました。ずっとシリアス続いているから、書いてる側も大変です。


第25話:差しのべられるその手は

「本当に申し訳ありませんちょっとした出来心だったんです慈悲をくださいこのとーり!!」

「目覚めて早々何言ってるの!?」

呪文を唱えながら勢い良く飛び起きた一夏に、シャルルが驚いた声を上げる。しかしほぼ反射的に口から出た突っ込みも、その後の気まずい空気によって霧散していった。

「な、なぁ・・・シャルル。」

一夏がゆっくりとシャルルの方を向く。そして、目に飛び込んできた人物の姿を見て自分の疑念が事実だった事を悟る。

「お前・・・女だったんだな・・・。」

シャルルが着ているのはいつものジャージ、だが隠れて装備していたコルセットを外しているため、女性特有の膨らみが見てとれるようになった。

「う、うん。騙していてゴメンね・・・。」

シャルルはばつが悪そうに視線を落とした。彼・・・いや彼女が転校してきてから約2週間が経つ。良く周りにバレなかった物だ。恐らく本人も正体を隠し通すのに必死になっていたのだろう。

「それにしても、どうして男に変装してたんだ?」

自分と靖人という特殊なケースがこの学校にいるからこそ、シャルルは男としてIS学園に転校してきたのだろう。だが、わざわざ性別を偽る理由が一夏には思い浮かばなかった。

「・・・ゴメンね、全部教えるよ。まず一夏、『デュノア社』は知ってるよね?」

一夏はいつぞやの授業で耳にしたその単語をすぐに思い出した。

「あぁ・・・ラファールとか開発したフランスの会社だろ?・・・ってもしかしてとは思ってたけど、まさかシャルル・・・。」

「そう、僕はデュノア社の社長の娘なんだ。」

一夏はデュノア社の名を聞いた時、シャルルのファミリーネームが同じだったのを思い出して彼はその会社の御曹司なのではと思った事がある。だがシャルル本人からそのような話は聞いて無かったし、その後シャルルに聞く機会が無くてその疑問は一夏の頭から自然消滅していた。

「実はここ最近デュノア社は経営難でね・・・未だに第3世代機を開発する技術が無くて、国からの援助が途絶えようとしているんだ。」

技術の遅れが北欧に属する他の企業に差をつけられる要因となり、フランス政府は衰退していくデュノア社を早々に切り捨ててしまう方針なのだ。つまり・・・このままではデュノア社は倒産をしてしまう。

「そこで社長は自分にとっては起死回生の方法を思い付いたんだろうね。・・・織斑一夏という存在を知った瞬間にさ。とても思慮深く考えられた方法とは思えないけどさ。」

それは何とかして自分の今の地位にすがるためだけの卑劣な手段と言っても良い。

「自分の娘を男性操縦者を仕立てあげて、デュノア社のプロパガンダとする。そして特殊ケースである織斑一夏、そして偶然にもその後現れた神谷靖人に接近しISの物も含むデータを持ち帰る・・・。」

「・・・つまり、それって。」

今まで黙っていた一夏の呟きに、シャルルは全てを諦めたかのような笑顔を返した。

「要するにスパイだったんだよ、僕は・・・『シャルル・デュノア』は。」

生きる活力を失ったかのような、光を失った瞳を見て一夏は歯軋りをする。だがシャルルが語る衝撃の事実は、これだけでは無かった。

「・・・いや、社長にとっては僕は娘ではなかったんだろうね。同時に、例え血縁上そうだとしても(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)、僕もあの人を父親と思った事は一度もない。」

「・・・どういう意味だよ。」

「僕は社長と愛人の間に産まれた・・・あの人にとって厄介な命だから。」

一夏の顔から血の気が引いていった。シャルルの口から感情が抜け落ちた言葉の羅列が紡がれていく。

「僕の母さんは女手一つで僕を育ててくれた、優しい人だったよ。でも持病を抱えていてね・・・2年程前に容態が悪化して亡くなっちゃった。これからどうしよう、って時にいきなり社長に呼び出されて『お前は私の娘だから』って言われて頭がこんがらがったよ。そしたら本妻の人に『泥棒猫の娘』とか怒鳴られて殴られて・・・。しかも勝手に学校を転校させられて友達とも離ればなれ。周りの人は誰も助けてくれなくて、毎日一人で閉じ籠って泣いてたよ。そして今回、たまたま僕のIS適正が高かったのを利用されて、『シャルル・デュノア』としてここに送り込まれたんだ。」

辛い過去を吐き出している筈なのに、彼女の目には涙が浮かんでいなかった。その姿があまりにも痛々しく、見るに耐えられなくなって一夏は顔を伏せてしまった。

「・・・何でそんな・・・。自分の娘を、自分の身勝手で振り回すなよ・・・!」

自らの保身のために目の前の少女の心を殺した、デュノア社社長への怒りを露にする。

・・・正直一夏には親という物が分からない。彼自身が幼い頃に二人とも蒸発してしまい、肉親は千冬ただ一人だった。

だがそんな一夏にも、社長が人の親として風上にも置けない存在だというのは理解できた。

「正直僕はデュノア社がどうなろうと知ったこっちゃない。元からあの人に言われた事なんてするつもりはなかった。ただ、あの辛い世界から遠ざかりたかっただけだった。」

「・・・・・・・・。」

「でももう一夏にバレちゃったしね。3人目の男性操縦者にしては世間で騒がれなかったし、直に周りにも気付かれる。その時が来たら、もう僕はここにはいられない。まぁ、あの忌々しい会社が潰れるのは嬉しいけど。」

自嘲的なシャルルの独白は続く。事態が公になれば社長及び社員は政府に連行されるだろう。勿論シャルル本人も。下手をすれば・・・いや、ほぼ確実に実刑を下される筈だ。

だが全てがどうでも良くなりかけていたシャルルに、一夏のはっきりとした声が突き刺さる。

「良いのかよ、それで。」

「え・・・?」

ゆっくりと一夏が顔を上げる。彼の強い意志がこもった瞳が、シャルルの視界に入る。

「またそうやって、一人になるのかよ。」

「・・・しょうがないでしょ?僕は皆を騙したんだ。ここにいる資格なんて・・・。」

「『特記事項第二一:IS学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』・・・だろ?」

一夏が告げたIS学園の規則にシャルルがハッとする。

「俺だってガキじゃないから、シャルルがやりたくないからって言ってもそれだから無罪放免、なんて上手い話になる訳じゃないのは分かってる。でも、ここに入れば後3年は自分の身を守れるだろ?もしかしたらその間に、シャルルの罪を軽くする方法が見つかるかもしれないしな。」

一夏の言葉が暖かな風となって、シャルルの崩れかけていた心を満たしていく。

「ここには俺がいる。・・・俺だけじゃない。靖人に、箒に、セシリア、鈴・・・クラスの皆や先生たち・・・IS学園にはたくさんの人たちがいる。ここにいれば、お前は一人じゃないんだ。」

そうだ。朝の教室や昼の食堂、放課後のアリーナ・・・ここに来て自分の周りにはたくさんの人がいてくれた、笑ってくれた。あんな冷たく息苦しかった世界とは違う、暖かくて心の底から笑える世界・・・。

「・・・いいの?」

シャルルの声が震える。

「皆を騙している僕が、ここにいていいの?」

目の前の一夏の顔がぼやける。

その時、一夏が大きな腕でシャルルを包み込んだ。

「・・・いてもいいさ。俺が・・・俺たちがそばにいてやる。」

母が亡くなって以来シャルルが失ってしまった、そして恋い焦がれていた物。誰かの優しさを直に受け止めたシャルルの目からそれまで凍りついてしまっていた雫が幾つも落ちていった。

 

 

 

 

 

 

「・・・ボーデヴィッヒさん、お茶入れたよ。」

「うむ、すまないな・・・。」

うなされていたラウラを気遣い、靖人が緑茶が入った湯飲みを渡す。とはいえ、ラウラはいつもの落ち着きを取り戻しているようなので靖人は安心―

「熱っ・・・。」

できなかった。澄ました顔で湯飲みを傾けたラウラが、慌てた様子で口を離す。

「あ、ご、ゴメンね!熱かった?氷入れてくるね。」

コクコクと頷きながらラウラが湯飲みを渡してきたので、すぐに冷凍庫から出した氷を入れる。一応これで温度は下がった筈だがラウラは念には念を入れてか、何度も息を吹き掛けながら茶を口に含んだ。

(こうやって見ると、ラウラさんも年相応な女の子だね。)

いつもの厳格なイメージとほど遠い今の彼女の姿を見て、靖人は自然に表情が綻んでいた。

だが、そろそろ本題を聞く頃合いだと考え、靖人は表情を真剣な物にする。

「それで・・・さっきはどんな夢を?」

最後の一口を飲み込んでから、ラウラはすらりと答える。

「残念だがあまり良くは覚えていない。・・・かなり気分が良くなかったのは確かなんだがな。」

それについてはしょうがないと靖人は考えた。実際起床直後に『夢を見た』という感覚はあっても『どんな内容だったか』を明確に覚えているケースは日常生活においても少ない。

だがラウラは何かを思い出したらしく「そういえば」と口を開く。

「誰かが話しかけてきたな・・・たしか2人ほどか?どんな内容かまでは・・・思い出せないな。」

「そっか・・・。」

靖人はうなされていた時にラウラが叫んでいた『来るな』『そんな物はいらない』等の言葉を思い出す。それが一体何に対しての物か判断するには流石に情報が足りなかった。

「こういう経験、前にもあった?」

「いや、記憶にないな。」

これ以上、夢に関しては追及できないだろう。靖人は今度は別の問題について聞いてみた。

「さっき『一夏』を攻撃してきたのはどうして?」

放課後に起きた一件について靖人は詳しく聞いてみようとする・・・が。

「・・・・・・・・。」

まただ。ラウラの目に微かにだが冷たい光が灯るのを靖人は見逃さなかった。

「ボーデヴィッヒさん。」

「・・・む、すまない。続けてくれ。」

靖人が少し強くラウラに呼び掛けると、彼女の雰囲気がいつもの物に戻る。靖人はやはり自分の建てた仮説が正しいのだと確信を持った。

「質問を少し変えるね。・・・どうしてラウラは一夏に対してそんなに敵対心を浮かべているの?」

「・・・・・・・・。」

またラウラは黙ってしまったが、さっきとは違いどこか張り詰めた様子はない。返答に困っているが故の沈黙だろう。

「それは・・・私にも良く分からない。だが気付けば、織斑に対して何か・・・怒りに似た感情が浮かんでくるんだ。」

最近感じている謎の違和感。当初は気のせいだとは思っていたが、ここ何日かで何となく、そして今日確証が持てた。

自分は織斑一夏を恨んでいると。

「・・・どうして一夏に対して怒っているの?」

靖人は質問をさらに続けていく。

「・・・それが分からないんだ!私だって、教官の弟にそんな負の感情をぶつけたくない!」

自分が最も尊敬する人が、ただ一人の家族をどれほど大切に思っているのか・・・軍にいた頃に千冬が見せてくれた表情からそれを認識するのは容易だった。

だからこそ、どうして今このような事になっているのかがラウラには分からない。

「・・・最後に、一夏に対してそういう感情を浮かべたのはいつから?」

「・・・詳しくは覚えていないが。」

ラウラは言葉を続けた。一夏の名を聞くと怒りが込み上げて来るようになったのは今年の4月頃、IS学園への編入が確定となり、専用機も最終調整を迎えドイツ代表候補生に就任した頃と重なる―との事だった。

「OK。色々聞いてゴメンね。一先ず今日はゆっくり休んで。それと―」

一呼吸おいてから、靖人は忠告する。

「原因が分からないとはいえ、一夏に対して感情が制御できないとなると・・・暫くの間一夏とは距離を置くべきだね。」

「・・・そうだな。私もこれ以上の衝突は避けたい。」

ラウラはすぐに了承してくれたが、その表情はどこか寂しそうだった。千冬曰く『会うのを楽しみにしていた相手』とこういった形で交友を断たれたのだから無理もないだろう。そしてやはり此方が、ラウラの本心なのだと靖人は考える。

「一応一夏にもラウラさんの事情は言ってみる・・・と言っても内容が内容だけに信じてもらえるか分からないけど・・・。」

あれだけ激しい怒りを露にしていたから、親友である靖人でも彼を説得するのは骨が折れるだろう。

「・・・神谷は信じてくれるのか?」

ラウラがきょとんとした声を上げた。確かに彼女の証言は抽象的だし、端から聞いていれば戯言ともとれるレベルだ。正直靖人も普通ならこのような言い訳は聞く耳を持たない。・・・そう、普通なら。

「信じるよ。」

ラウラに聞こえないように、靖人はその続きを呟いた。

「僕も同じような体験をしてるから。」

靖人は思い出す。1機のISがバラバラに引き裂かれる映像を、ぽっかりと記憶に穴が空いたような感覚を。

そして―

 

 

 

 

 

深夜、真っ暗な部屋の中で靖人はケータイの光を頼りにある本を読んでいた。それは数ある教科書類の中でも一番分厚い、3年間通して使う『IS工学理論全集』という資料集だった。

靖人はびっしりと文字が敷き詰められたページをパラパラとめくっていたが、その目に自分が探していた記述を捉えると、すかさずその箇所にマーカーを引いた。

『操縦者の意識とISコア深層意識の同調作用』・・・そう記されたページを靖人は何度も読み返した。




シャルの過去は原作で既に知っていたけど、いざ二次創作で文章化すると中々来るものがありますね。ってかISの主要キャラは皆家族に何かしら問題を抱えてますよね。
無論、靖人も。
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