INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~   作:Mr. P.C.

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ついに原作2巻がこの手に戻りました。早速読み返すと、やはり取り零した真面目なネタが多かったです。今後、これまでの話にも若干修正を加えていきます。


第26話:抑止力

迫り来る恐怖から、靖人は懸命に逃げていた。既に足が棒になりかけ、呼吸も激しいなどというレベルを越えてもはや過呼吸状態だ。それでも靖人は走り続ける。後ろから迫る狂気から・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁす!!!」」」

大合唱と共に無数に伸びる手、手、手。

「ぎゃああああああ来るなぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

振り返るな、振り返ったら連れてかれる!安心なんてない何処かへ!!

靖人は泣き出しそうな声を上げながら、必死で足を動かし続けた。

 

 

事態は数分前に遡る。

放課後1組の教室で靖人は荷物をまとめて席を立つと、昨晩の事を話そうと教室の後ろでシャルルと会話している一夏の元へ向かった。

「ねぇ2人共、ちょっと。」

いつものように軽く声をかけるが、

「うおぁっ!?」

「ひゃうっ!?」

何故かこの時は2人共大袈裟に驚いた様子を見せた。突然発せられた大声に周りからの視線も集まる。

「な、何だよ靖人!驚かすなよな!」

「そ、そうだよ!話してる最中に話しかけないでよ!ビックリするじゃん!」

「え、えーと・・・ごめん・・・。」

靖人はとりあえず謝ったが、どうも2人の注意が納得できなかった。別に今までも話の最中に割り込んでも特に文句は言われなかったのに。

(堪忍袋の尾が切れた・・・という訳でも無さそうだな。)

目の前の2人は怒っているというより慌てている様にしか見えない。とりあえず靖人は揺さぶりをかけてみる事にした。

「・・・ねぇ2人共、何か隠し事してない?」

靖人の落ち着き払った言葉に、2人が明らかに体を強ばらせたのが分かった。

今朝から2人の様子がおかしいのに靖人は気づいていた。妙にそわそわしていたし、やたらと一緒に行動してるし、ちょくちょく内緒話していたし・・・。昨日までとは違う2人の雰囲気に、靖人を含め他の皆も首を捻っていた。

「いや別に何もございませんよ!?」

一夏が早口でそう言い、シャルルも首をぶんぶん横に振っている。・・・もうこれは確実に黒だろう。だが・・・

「まぁ別にそんな事は良いんだけどさ。」

深く詮索するのは止めておく。誰だって人に触れてほしくない秘密を持っている物だ。それをこの場で白状しろと言うほど、靖人も鬼ではない。

(最も、僕も秘密を抱えているしね。)

鈴の顔を一瞬思い浮かべ、すぐにそれを打ち消した。一呼吸おいて、本題を切り出す。

「それでさ一夏、その・・・ボーデヴィッヒさんの事―」

と、靖人がそこまで言いきるよりも前に、遠くから不思議な音が・・・いや地響きがした。

そしてそれは、どんどん近づいてくる。

「お、おい・・・何だよこれ・・・。」

一夏が周囲を警戒し始める。そしてその時、靖人は音の正体に気付いた。

(これは・・・足音か?しかも1人の物じゃない。もっと沢山の―)

そこで靖人の思考は停止した・・・いや、停止せざるを得なかった。

教室の扉が勢いよく開くと同時に、数えきれないほどの人数の生徒たちが中に押し寄せてきた。

「織斑君!」

「神谷君!!」

「デュノア君!!!」

口々に此方の名前を叫びながら、彼女らは一斉に手を伸ばしてきた。

「うわぁぁぁぁっ!!みみみみ皆どうしたのっ!?」

恐ろしい光景に靖人は悲鳴を上げる。まるで某風の谷の姫の回想シーンだ。何処からか幼い少女の歌声が聴こえた気がした。

「「「これっ!」」」

全員がこれまた同時に紙を差し出してくる。その内の1枚を一夏が混乱しながらも受け取った。

「え、えと・・・『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。』!?」

申込書付きの告知用紙に書かれていた内容を音読し、一夏含め3人は驚いた。学園側の急な変更を知った彼らは、同時に目の前の彼女たちが何故ここに来たのかを察する。

「「「是非私と組んでください!!!」」」

ズビシッと全員が右手を差し出してきた。だから怖いって!!

「私まだIS初心者だけど頑張るから!!」

「一緒に頑張ろ!そして目指すは優勝!!」

「私が周りの子達からの魔の手から守ってあげるから!!」

「そうそう!何せ優勝したらその子が3人の中から好きな―」

「それ言っちゃダメ!ストーップ!!」

ついには各々アピール(?)合戦を始めてしまった。しかも事態を聞きつけた他の女子たちも紛れ込んで数がもっと増えている。頭上から降りかかる無数の甲高い声に耳が痛くなる。

「え、えーっと・・・。」

とりあえず事態を落ち着かせようと、靖人が皆を一旦止めようとした。刹那―

 

 

「わりぃ!俺シャルルと組むから!」

突然一夏から発せられた大声によって、急に辺りが静かになった。全員の目が点になっている中、シャルルは何処か安心したような表情をしていた。

「そ、その・・・ゴメンな皆。それにやす―」

一夏が申し訳なさそうに残された1人、靖人の方を向く。

が、そこには既に靖人の姿は無かった。どうやら女子たちも靖人の失踪に気付いていなかったのか、困惑した様子で再び騒ぎだした。

「あ、あれ!?神谷君がいない!」

「いつの間に!」

「あ、あそこっ!」

1人が指差した先には、鞄を抱えて音を立てずに教室の扉に向かっていた靖人の姿があった。

「げ、気付かれた・・・!」

一夏のシャルルと組む宣言→残された男子は自分だけ→彼女らに狙われるのが確定→現在注目が一夏とシャルルに集中→この場からの逃走を推奨・・・という考えを一夏の発言から僅か0.5秒で導きだした靖人はすぐさま隠密に撤退したが、最後の最後でバレてしまい顔を青くする。

こうなれば強行突破―と靖人は全力で廊下へ駆け出していく。

「「「待てぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」」」

強行突破にでた靖人が全速力で廊下へ駆け出したのとほぼ同時に、女子集団が靖人を追いかけていった。

 

 

「・・・何だったんだよ、もう。」

静かになった教室で、一夏が大きく息をはいて座り込んだ。それを聞いてシャルルも苦笑を浮かべるが、その後その笑顔はどこか嬉しそうな物になった。

「・・・ありがとね、一夏。」

一夏が自分と組むと言ってくれたのは、もし女子とペアを組んでしまうと周りに正体が・・・女だという事がバレてしまうかもしれなかったからだろう。身を案じて行動してくれた事が嬉しくて、シャルルは静かに微笑んだ。

「それにしても、靖人には迷惑をかけちゃったね。後で謝りに行かないと・・・。」

「だな・・・わりぃ靖人。生け贄になってくれ。」

一夏が見えなくなった友へ合掌する。「それは酷いんじゃないかな・・・。」とため息をつきながらも、シャルルはふと浮かんだ疑問を口にした。

「靖人って、誰と組むのかな?」

「さぁな・・・、中学からの付き合いだし鈴とか、同室のマリーじゃね?ってあぁ、今あいつマリーとじゃなくて・・・。」

そこまで口にした一夏の表情が、急に暗くなった。

「・・・アイツか。」

自分に向けられる血のように紅い瞳を思い浮かべる。同時に昨日の一件、そして彼女の言葉を思い出して一夏は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 

「・・・ふむ。そういうルールの変更があったのか。それで奴等は部屋の前で騒いでいたんだな。」

ラウラが騒動の発端である用紙を一通り眺めてから、視線を靖人の方に戻した。

「そうなんだよ・・・それにしても助かったよ。あー怖かった。」

靖人は疲れきった様子でため息をつく。「気にするな」と短く答えながら、ラウラは先程見た景色を思い出していた。

あは用事を済ませてから寮に戻ってきたら、目に飛び込んできたのは自室の前に群がる生徒たち。邪魔なので千冬直伝(実際に教わったわけではないがイメージで)の睨みを利かせると、彼女らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。何だったのかと毒づきながら部屋に入ったら、すみの方でで膝を抱えて震えていた靖人を発見した。

「情けないな貴様は。」

女子相手に子犬のように怯えていた靖人に、ラウラは残念そうな視線を送った。

「いやあれ本当にヤバイから。そんじょそこらのお化け屋敷より怖いから。一番恐ろしいのは人間の狂気だね・・・。」

(そういう物なのか?)

お化け屋敷に入った事がないのでラウラにはいまいちよく分からなかった。

「で、奴等はお前とペアを組むために押し寄せてきたというわけだな。」

「うん・・・誘ってくれるのは嬉しいけど、あのようにがっつかれても困るんだよなぁ・・・。」

・・・でも正直、靖人にも組みたい相手はいる。一夏がシャルルと組むと決めた以上、恐らく一夏と組もうとしていた彼女(・ ・)も、今はフリーな筈・・・。

だがラウラから発せられた次の言葉に、靖人の甘い理想は打ち砕かれる事もある。

「神谷、私と組む気はないか?」

「・・・・・・・・。」

予期せぬ一言に、靖人は黙り込んでしまう。・・・いや違う、よく考えれば彼女がそう言い出すのは必然だったとも考えられる。

「今の私の状況を一番理解しているのはお前だ。もし何かあった場合、事態を把握している者がいた方が対処が早いからな。」

ラウラが言っているのは、『一夏へ対する攻撃的な感情』の事だろう。専用機持ちである以上、ラウラは確実にトーナメントを勝ち上がるだろう。そして同様に一夏とシャルルも勝ち続ける筈だ。

つまり、トーナメントでラウラと一夏がぶつかる可能性は極めて高い・・・。

そうなれば再びラウラが一夏に対して過剰に反応して、再び自分を制御できなくなるだろう。昨日は一夏の周りには専用機持ちの面々に箒やマリーもいた。だがトーナメントになると一夏の味方はシャルルしかいない。軍人であるラウラを相手に、彼1人で一夏を守るのは難しいだろう。つまり・・・

「もしまたボーデヴィッヒさんが暴走したら、僕にも止めてほしいって事だね?」

ラウラは真剣な眼差しで靖人の言葉に頷いた。もしラウラのペアが何も知らない一般生徒なら、状況を飲み込めずに混乱してしまうだろう。だが鈴のような代表候補生ならもしもの時にも対応できるのでは?

「事情もそうだが・・・お前のISも見て判断した。防御性能が高いのだろう?聞いた話では、実弾・エネルギーどちらを相手にしても規格外の性能らしいな。・・・神谷には悪いが、不知火なら私の攻撃に長く耐え、教師たちが出撃するまでの時間が稼げるだろう。」

確かに、シュヴァルツェア・レーゲンのプラズマブレードやワイヤーブレードの攻撃には軽く耐えられるだろう。レールカノンは実際にやってみないと分からないが、シャルルのリヴァイブがシールドで防いでいたので受け止められる可能性は高い。

(やっぱり、君は一夏を傷つけたくないんだね。)

彼女の本心を悟り、靖人は自分の中にあった淡い感情を押し殺した。・・・こういった時に自分の事を優先するような馬鹿な真似はしない。

「・・・そういう事なら、喜んで協力するよ。」

「感謝する。」

2人は固く握手をする。互いに心強い味方ができた感覚がした。

「・・・それにあたって、もし織斑と対戦する時には神谷に相手をしてもらいたい。・・・できるなら私が何かしでかす前に倒してくれた方がありがたいのだがな。」

冗談めいた事を言ってラウラが軽く笑った。

「努力するよ。」

始めて見た彼女の笑顔に多少驚きながらも、靖人はそれに笑顔で答えた。

 

 

「・・・・・・・・。」

IS学園地下施設の一室で、千冬はアリーナに設置されてる監視カメラの映像を見ていた。右下に表示された時刻は昨日の夕方頃を指している。そしてそこには、シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラが、一夏を始めとする複数の生徒に止められている様が映っていた。

先程ラウラ本人にこの事を聞いてみた所、「この行動は自分が意図して行った物ではない。」という、何ともまぁ調子の良い答えが返ってきた。だが、彼女は続けてこのような発言もした。

「もし学年別トーナメントにおいて昨日のような状況に陥った場合には、すぐに試合を中止して私を取り押さえてください。」

千冬は頭を抱えてしまった。一体何の冗談のつもりだろうか?だが教え子の目は真剣その物で、発言の内容が本気である事を千冬は認めざるを得なかった。ラウラの申し出に、千冬は仕方なく首を縦に振った。

映像の中で、ラウラが一夏と鍔迫り合いを始める。その瞳はひどく冷たく、暗い物だった。それを見た千冬の中である思いが浮上する。

やはりこれに似た状況を見た事がある。

何度も同じ映像を見た後に、千冬は別の映像を流し始める。それは例のクラス対抗戦の時の物だった。

乱入してきた無人機を、不知火を纏った靖人が破壊していく。もう何度も見続けたこの映像の靖人の目にも、ラウラと同じ光が宿っていた。

「・・・凰の言っていた事もあながち間違いではないようだな。」

やはりこの2つの事件において、2人の変化に共通点が多い気がする。つまり、同じ現象が2人に起きているのだろうか?だがこの一件以降靖人にも不知火にも何の異常は起こっていないし、第一搭乗者にもISにも接点は全くない。では何故このような暴走が立て続けに起こったのか?

「全く・・・相談しろとは言ったが、極力面倒な問題は持ってきて欲しくないものだな。」

千冬はため息をつきながら映像を止めた。

 

 

薄暗い部屋の中で、男は気味の悪い笑い声を上げていた。

「もうすぐ、もうすぐだ!私の作った傑作が、世界に認められる時が!!」

大袈裟に振り回した腕によって積み上げていた書類が床に散らばるも、男は全く意に介さない。

「見ていろ!その手に強大な力を持ちながらそれを持て余す平和ボケした愚者共!この私が手掛けた『最強の兵士』が、目障りな貴様らを消してくれるわ!」

そう言って男は机の上にあった小さいカレンダーを力任せに掴む。くしゃくしゃになったそれは、ある日にちが雑な丸で囲ってあった。

・・・その日は偶然なのか、IS学園で学年別トーナメントが開催される日時と一致していた。




男の小物感。
やっとこさトーナメント当日に話を持っていけます。ですが、本編のように1回の試合では終わりません。だってあの子達無事ですし。
・・・気持ち的にはやっと3章後半戦かな。頑張ろ。
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