INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
学年別トーナメント当日・・・IS学園はこれまでにない程の緊張感に包まれていた。このトーナメントには各国の政府関係者や研究者、企業の重鎮など全世界のトップに立つ人物も参列しており、生徒たちは会場の整理や誘導に学園中を走り回っていた。
そしてそれが終わり、それぞれがISスーツに着替え各アリーナの待機所へ集合する。自分たちの出番を前に各々が闘志を燃やし、そこかしこでエールや挑発が起こる。・・・その中でも1年生の集合場所のとある一角が、一際異彩を放っていた。
第3アリーナ待機所―
「良いか皆!ここにいる私たちは、皆同じ志をその胸に秘めている!」
集団の前でリーダー格の女子1人が、有らん限りの声を上げている。
「だが、栄冠に輝けるのは1人・・・じゃなくて2人!!」
この間のルール変更を思い出して、言葉のあやで出たミスを慌てて訂正する。
「謂わば私たちは敵同士・・・己の夢のために戦いあう運命にある!負けた者は夢を語る資格などない!」
彼女の原稿無しの思い付きの言葉にも、他の者は皆真剣な表情で耳を傾けている。
「だが!勝った者は負けた者の犠牲を無駄にはしない!その意思を受け継ぎ、次なる戦いへ身を投じていく!そして!」
少女が左手を高々と挙げた。
「最後に残った者が!全てを勝ち取るのだ!!」
うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!と辺りから魂の叫びが上がる。
「諸君らの健闘を祈る!!全ては・・・」
一斉に、全員が高らかに叫んだ。
「「「栄えある男子との交際を手に入れるためにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」」」
「・・・どうしてこうなった。」
テンションが最高潮になった集団を、テンション駄々下がりな箒が死んだような目で見ていた。と言うのも、目の前のこの惨状を引き起こした要因は、本人にはそのつもりが無かったとはいえ箒なのである。
以前、山田先生に部屋を変えるよう言われた際に箒は一夏に向かって「学年別トーナメントで自分が優勝したら付き合ってもらう」と堂々と宣言した・・・寮の廊下で。それは日を重ねる毎に周りに伝わっていき、さらに途中で形が変わっていってしまい、気付いた頃には「トーナメント優勝者が、男子3人のうち誰かと付き合える」という噂が学年内に浸透してしまった。慌てて訂正しようにも内容が内容なだけに言い出す事ができず、こうして当日を迎えてしまったのである。
(何故あのような場で言ってしまったのだろう・・・もっとこう、校舎裏とかの方が雰囲気とかも良かったのではないのか?)
先日の自分の失態を悔やむ。そうしている間にもあちらでは「ペアで狙う男子が被った際どうするのか」「3人中2人が交際を始めたら残った1人が可哀想ではないか」「男子が優勝したらどうするのか」などの質問が飛び交っていた。
「やーやーそんなに落ち込んでどうしたんの箒さーん?」
ペアを組んだマリーが笑いながら隣に座ってきた。
「向こうすっごく盛り上がってるね。でもあれさ、本人たちの許可取ってるのかな?」
「いや、取ってないと思うぞ・・・。」
箒は最も重大で初歩的なミスを指摘する。一夏はまだしも、他の2人はこの件に本来は全く関係がない。というか―
(それ以前にこれは私と一夏の約束だぞ!便乗は許さん!)
箒の中でもめらめらと闘志が燃える。・・・若干どこか黒い物を感じるが。
「優勝するぞマリー!あんな腑抜けた奴等に負けはせん!!」
ぐっと拳を握りしめながら箒は立ち上がり、ずかずかと出口へと向かっていった。
「はーい、任せといてー。」
箒の表情の変わり様を面白がりながら、マリーもゆっくり腰を上げた。
「なんか向こうが騒がしいね。何があったんだろう。」
待機所の奥の方で騒ぐ集団を見ながらシャルルは口を開く。
「皆試合前でテンション上がってるんじゃね。公式戦は今日初めての人とか多いんだろ?」
一夏はそれに目をくれず、先程配られたトーナメント表を確認していた。
(・・・順調に勝ち進めば、準々決勝か・・・。)
『織斑・デュノアペア』と『ボーデヴィッヒ・神谷ペア』の進む先が交わる箇所を確認し、一夏の表情が険しくなる。
まさか本当に靖人がラウラと組むとは思わなかった。専用機持ち同士のペアとなると、倒すのは一筋縄では行かないだろう。
(でも、俺は負けねぇ・・・。千冬姉の事を何にも分かってない奴には絶対に!)
先日の襲撃を思い出し、トーナメント表を持つ手に力が入る。
「一夏・・・気負いすぎは良くないからね。先を見据えすぎてると足下すくわれちゃうよ?」
「そ、そうだな・・・悪い。」
シャルルの言葉で怒りで満たされそうになった頭を冷やす。ペアを組んで以来、シャルルはよく自分を観察してくれているのか、その都度適切なフォローをしてくれる。もちろんそれはISの戦闘においても活かされている。
「勝とうぜシャルル。」
「うん、そうだね。」
2人は静かに拳を合わせた。
丁度その時、例の集団がより一層騒がしくなった。
「あらあら皆さまごきげんようですわ!!」
男子争奪のために燃え上がっていた者たちへ、セシリアが堂々と挨拶をしてきた。若干入学時のあの高慢な態度が戻っている気がする。
「出たわね我ら最大の障害!憎むべき強敵!『オルコット・凰ペア』!」
「何であたしたちそんなに忌み嫌われてるのよ!」
誰かが発した言葉に鈴が怒りを顕にする。
因みに2人共代表候補生であり、遠距離型と近距離型という組み合わせである2人は、1年生の中で優勝候補筆頭とされ周りから特に注意視されている。そして何より―
「わたくしにそう簡単に勝てると思わないでくださいまし!パーフェクトでエレガントな射撃で撃ち抜いてあげますわ!」
(そして優勝して一夏さんと交際するのはこのセシリア・オルコットですわ!)
「文句があるなら正々堂々かかってきなさい!力の差を見せつけてあげるから!」
(そして優勝したら今度こそ一夏の隣に・・・!)
目の前の猛者たちへ、そしてお互いへ物凄いプレッシャーをかける。
「頑張りましょう鈴さん。」
「頑張ろうねセシリア。」
「おほほほほほほほほほ!!」
「あははははははははは!!」
最大の敵は身内にあり。笑いあう2人の背後に、巨大な竜虎のオーラが見えた気がした。
「調子はどう?ボーデヴィッヒさん。」
喧騒から離れ廊下にいた彼女へ、靖人は声をかける。
「今の所異常はない。」
壁にもたれかかったラウラは閉じた目をそのままに、手短に応えた。試合前に集中を高めているのだろう。
靖人は何も言わずに隣に立つ。静かな廊下に、遠くから聞こえる喧騒だけが木霊していた。
以前靖人は、一夏の件がある以上ラウラはこのトーナメントを棄権、またはわざと敗退するべきではないのかと意見した事がある。だが彼女はドイツの代表候補生であり、トーナメントには軍を含めドイツの上層部も視察に来ている。彼らを前にして、そんな無様な姿は真似はできない・・・ラウラは苦しそうに靖人の提案を否定した。その姿が、靖人は見ていて辛かった。
(不安・・・だろうな。自分でもどうなるか分からないだろうに。)
「そろそろ時間だな、行くぞ。」
1回戦第1試合・・・自分たちの初戦開始が近付くのを察知し、ラウラがピットへ向かって歩き始めた。
「・・・ボーデヴィッヒさん。」
靖人の言葉に、ラウラは振り返る。
「やれるだけの事をやろう、お互いに。」
靖人の静かな、だがはっきりとした声がラウラの耳に届いた。
「・・・そうだな。」
―自分のためにも、一夏のためにも。
感情を乱さぬように心を落ち着かせながら、ラウラは再び歩きだした。
「織斑先生。頼まれていた通りに配置完了しました。」
第3アリーナの観察室に入ると同時に、山田先生が報告する。「ご苦労」と千冬が短く労うと、山田先生が隣にやってきてモニターを眺めた。
「あの・・・言われた通りに余った打鉄2機とラファール1機を第3アリーナに配置しましたが・・・本当に必要なのですかね?」
山田先生が少しおどおどした様子で聞いてくる。
「各国の重鎮がいる今、何があっても迅速に対応する必要があるからな。」
会場全体の警備・・・そう職員らには伝えてある。・・・表向きは。
スピーカー越しに歓声が鳴り響き、第3アリーナのフィールドに2機のISが降り立つ。銀に煌めく不知火と、黒を纏ったシュヴァルツェア・レーゲンだ。
(ラウラ・・・お前の言った通りにならない事を願うぞ。)
試合開始のブザーと共に、4機のISがフィールド中央で衝突した。
降り下ろされたラファールのブレードを、左手の天城で受け止める。そして即座に展開した凩でがら空きになった相手の胴へ素早く突きを繰り出した。苦悶の表情を浮かべて、相手が吹き飛ぶ。絶対防御が発動した手応えを感じた靖人は、追い討ちをかけるように針雨を放った。
一方のラウラも腕組みを崩さぬまま打鉄の攻撃を軽々と避け、その勢いにのせて回し蹴りをお見舞いする。
体勢を崩した相手がラウラに再び斬りかかると同時に、ラファールも靖人を無視してラウラにサブマシンガンを放ちながら突進していった。恐らくラウラの余裕な態度に腹を立てて、頑丈そうな見た目から倒すのに時間がかかりそうに思える自分よりまずラウラを片付けようと考えたのだろう。だがそれは大きな誤算だ。
ISを動かしてまだ数ヵ月の者が生粋の軍人相手に勝てるわけがない。腕組みを続けながら2人の斬撃、射撃の間隙を容易くくぐり抜け、ラウラは4本のワイヤーブレードを射出し的確に相手の装甲を抉っていく。
(6本全部出さないあたり、まだまだ本気じゃないんだね・・・意地悪だなぁ、ボーデヴィッヒさん。)
だが彼女はただ舐めているのではなく、意図的に全力を出していない。トーナメントでは試合の状況をモニターで配信しており、待機所の生徒たちもリアルタイルで観戦している。つまり、最初から手の内を全て晒すと後の対戦相手に対策され、勝ちにくくなるのだ。故にラウラはこの試合をあのワイヤーブレードだけで片付けるつもりなのだろう。最も―
「あぁもうちょこまかと!余裕かましてんじゃないわよ!」
打鉄の方の少女が怒声を浴びせた。手玉にされている側としては堪ったものじゃない。全力の攻撃でもラウラに傷一つ与えられない事に、彼女らはむきになっていた。
―それが、もう1つの誤算。
「忘れちゃダメだよ・・・君たちの相手は、ボーデヴィッヒさんだけじゃない。」
わざと攻撃せず、その場から少し離れていた靖人が口を開くと同時に、2人にロックオンカーソルがぴったりと重なる。不知火の本分は砲撃戦だ。・・・ラウラの挑発で、相手を狙う時間が十分すぎるほど与えられた。
『今だ、撃て。』
ラウラからの秘匿回線による合図で、ミサイルを3発ずつ発射する。ラウラが上空へ退避したのとほぼ同時に、2人は爆煙に包まれた。
狙ったのは、既にラウラによって装甲を薄くされていた箇所。脆くなった場所に直撃を受けて、絶対防御によって2人のシールドエネルギーがあっという間にゼロになる。
『試合終了。勝者、ラウラ・ボーデヴィッヒ。神谷靖人。』
圧倒的な力量差を見せつけた2人にアリーナが沸く。ラウラはそれに興味を持たずにピットへと飛翔した。
『連携以前の問題だな。2対2の試合だというのに1人しか見えなくなるなど、愚の骨頂としか言いようがない。』
去り際に彼女が口にした。
『そうだね・・・ボーデヴィッヒさんはそうならないでよ?』
『分かっている。』
この発言は、この先あるであろう一夏戦への不安から来ていた物かもしれない。
靖人たち以外の者たちも、順調に勝ち進んでいた。
「もー!速すぎるよ2人とも!!」
「だ、ダメよ!まだ諦めちゃダメ!」
狼狽える相手2人に向けて、
「一気に決めるぞ、シャルル!」
「OK、援護は任せて!」
シャルルの支援射撃と共に斬り込んでいく一夏。雪平弐型の光輝くエネルギーの刀身による一閃が、足を止めた2人の胴を正確に捉えた。
『試合終了。勝者、織斑一夏。シャルル・デュノア。』
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
気合いの入った叫びと共に、葵による連続攻撃によって箒は相手のバランスを崩した。それを見計らって・・・
「じゃ、ごめんねー。相方に止め刺すね。」
右腕に展開したシールドで相手の弾丸を防ぎながら、マリーは振り返らずに左手のショットガンを後ろへ撃つ。ろくに回避行動を取れないまま、片方の敵が落ちた。
「しまっ―このぉっ!」
孤軍奮闘となった相手の銃撃がさらに激しくなるが、マリーは鼻唄交じりでそれを防ぐ。
「~♪あ、箒後はよろしく。」
「言われなくとも!」
打鉄を急加速させて、相手の武器ごと斜めに斬り上げる。それが決定打となった。
『試合終了。勝者、篠ノ之箒。マリー・ジャスパー。』
「そらそらそらぁっ!」
連結させた双天牙月を振り回し、半ば強引に2人のシールドエネルギーを削る。
「きゃぁぁぁぁっ!!」
「もう!手加減してくれてもいいじゃん!」
あまりにも大きな実力の違いに、思わず2人から不満の声が上がるが気にしない。
「問答無用!そんじゃ止めに!」
甲龍の肩のパーツがガバリと開き、光が徐々に強くなる。やがて、発射完了の合図が鈴に届いた。
「行っくわよ~!『龍―」
が、それを撃ち出す前に上空から撃ち込まれたレーザーが相手のシールドエネルギーを削りきった。
「なっ!?」
「あらあら鈴さん、時間が掛かりすぎですよ?待ちくたびれてつい止めを刺してしまいましたわ。」
青空を背に、ブルーティアーズを纏ったセシリアがわざとらしく笑っていた。
「ア・ン・タ・ねぇ~!あたしの邪魔すんじゃないわよ!」
「あら鈴さん。次の相手はあなたですか?」
バチバチと火花が散るのを見て、慌てて試合終了のアナウンスが流れる。
『しょ、勝者!セシリア・オルコット!凰鈴音!!』
かくして学年別トーナメント1年生の部は、例年より多くの専用機持ちを始めとする実力者たちによって、たちまち会場のボルテージが上がっていった。
そして午後―ある試合を目前に観客のテンションがさらに高くなる。
『これより第3回戦第4試合、オルコット・凰ペア対ボーデヴィッヒ・神谷ペアの試合を始めます。』
原作のフルボッコが無かった分、ここでラウラに2人をぶつけさせます。一方的な蹂躙ではなく、ちゃんとした試合にしますよ。
そして靖人にとっては鈴との初めての対決。さぁ、どうなるのでしょうか。