INFINITE STRATOS ~業火の腕で掴むもの~ 作:Mr. P.C.
「きゃっ!・・・へぇ、こりゃヤバイね。」
全身に強い衝撃を感じて、普段飄々としているマリーも顔に焦りを浮かべていた。
「止め刺す前にさ、教えてくれない?・・・どうやったらそんなに早く武器を切り換えられるのかを。」
苦し紛れに軽口を叩く。スナイパーライフルを構え滞空していたラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ―シャルルはマリーに笑顔を向けた。
「ちょっとしたコツがいるんだよ。でも、説明は難しいかな。」
「そっかー、そりゃ・・・残念だよ!」
吐き捨てると同時に背中に隠していた右腕を思いっきり振り抜き、グレネードを投擲しようとした。
だがシャルルは瞬時に距離を詰め、目にも止まらぬ早さでスナイパーライフルを粒子化、その手にサブマシンガン『レイン・オブ・サタディ』を展開しグレネードを持つ右手に向け弾の雨を降らせる。
「やばっ!?」
気付いた時にはもう遅かった。シャルルが過ぎ去ると同時にマリーの眼前でグレネードが爆発し、爆風で地面に思いっきり叩きつけられる。そして、ラファールのシールドエネルギーがゼロになった。
「・・・あっちゃ~。まさかあそこまで早いとは。降参だ降参。」
あはは・・・とマリーが乾いた笑いを浮かべた。
この試合何度目か分からない甲高い金属音が、アリーナに鳴り響く。お互い一度距離を取り、一夏と箒は動きを止めた。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
ISでの試合中だというのに、2人とも何もせず、何も喋らない。まるで剣道の試合のように空気が張り詰め、思わず観客も口を閉じる。
『シャルル。悪いけど、邪魔しないでくれ。』
一夏からの秘匿回線。それを聞いたシャルルは何も答えず、ただ静かに2人の姿を見守っていた。
アリーナ全体が、異様な静けさに包まれる―
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
雄叫びと共に2人が同時に加速し、アリーナ中央でぶつかった―
『試合終了。勝者、織斑一夏。シャルル・デュノア。』
アナウンスと同時に、観客から割れんばかりの歓声が上がる。それを耳にした箒は負けを認めて地面に降り立った。
(・・・勝てなかったか。)
約束を思い出しながら、箒は浮かない顔をした。これで、自分が優勝する事はできなくなった。それは同時に、あの約束も果たせなくなったのを意味する。だが―
(久しぶりに一夏と、本気で刀を交えられたな。)
入学当初のたるんだ物とは全然違い、今の一夏の一振りには確かな闘志が込められていた。それは箒が好きだった、かつての一夏の姿そのもの。
箒は自然と、笑顔を浮かべていた。
「一夏!」
遅れて降り立ってきた一夏に向けて、箒がエールを送る。
「優勝しろ!お前ならできる!」
それを聞いた一夏は、少しきょとんとしていたが、
「・・・おう!任せておけ!」
と爽やかに笑った。
「っ!!」
それを向けられた瞬間急に恥ずかしくなって、箒はすぐに身を翻しピットへ向かっていった。
「・・・やれやれ、青春だねー。」
マリーも呆れながら、彼女の背中を追いかけた。
「お疲れ様一夏。最後の集中力凄かったね!」
「おう、そっちもお疲れ。」
待機所へ戻った2人は一旦シートに座る。そこで丁度、次の試合を告げるアナウンスが流れる。
『これより第3回戦第4試合、オルコット・凰ペア対ボーデヴィッヒ・神谷ペアの試合を始めます。』
「・・・来たか。」
一際大きな歓声の中で、一夏は静かに口を開いた。このトーナメント初の4人全員が専用機持ちの試合だ。
「ねえ・・・一夏はさ、どっちが勝つと思う?」
シャルルがモニターに注目しながら、一夏に聞いた。
「・・・さぁな。」
モニターがラウラをアップで映した瞬間、一夏は眉を潜めた。
「・・・正直アンタたちとは一番ぶつかりたくなかったわよ。片や軍人、片や化け物だからね。」
口火を切ってきたのは鈴だった。双天牙月をバトンのように操り、正眼に構えた。
「・・・化け物って言われるのは心外だよ鈴。こっちも、まさかこんなに早く優勝候補に当たるとは思わなかった。」
針雨に弾丸を装填しながら、靖人も鈴に向かって闘志を込めた言葉を送った。
「そうですわ鈴さん。いくら不知火の固さが異常とはいえ、化け物呼ばわりは失礼だと思いますよ?」
セシリアが苦笑混じりに鈴に突っ込むが、直後に真剣な眼差しを此方に・・・いや、ラウラに向けた。
「ところで、ボーデヴィッヒさん。先日のあの襲撃の事、忘れてはいませんよ?」
その目は戦場のスナイパーその物だ。「狙った獲物は逃がさない」・・・彼女の意思がひしひしと伝わってくる。
「そうね・・・。結局さぁ、何であんな事したの?素直に言えば特別に手加減してあげるわよ?」
鈴もラウラを挑発する。やはり一夏を危険に晒した事を、2人は少なからず根に持っているようだ。
それまで黙っていたラウラが、ついに口を開く。
「・・・説明する気はない。」
(正確には『自分でも分からなくて説明できない』だろうけどね。)
靖人は彼女が抱えている得体のしれない闇を思い出すが、状況が混乱するので言葉にはしなかった。
「・・・あっそ。だったら。」
試合開始のブザーが鳴り響く。
「全力でブッ飛ばす!セシリア!」
「えぇ、行きますよ鈴さん!」
鈴の甲龍が突っ込んでくる。同時に、その脇からセシリアの放ったスターライトmk-Ⅲのレーザーがラウラ目掛けて伸びていった。
が、ラウラとレーザーの間に割って入った靖人は非固定浮游部位の2枚の天城を正面に展開しながら閃光を弾き飛ばす。そして間髪入れずに鈴に向けて脚からミサイルを6発放つ。
「んなもん貰わないわよ!」
龍砲を広範囲に放ち、ミサイルを迎撃する。不可視の弾丸によってミサイルは空中で爆散した。
「だが、隙はできたな。」
爆煙を突っ切り、ラウラが鈴に肉薄する。両腕のプラズマブレードに合わせて鈴が双天牙月を分離させた。武骨な青竜刀と灼熱の光刃が何度も衝突し、その度に激しいスパークを生じた。
「鈴さん!」
鈴を援護しようと、セシリアがラウラに狙いを定めようとする。しかし―
「やらせないよ。」
靖人が針雨から大量の弾丸を撃ち、セシリアはその場からの離脱を余儀なくされてしまう。弾幕をくぐり抜けながら、セシリアは腰のビットからミサイルを放つ。靖人は怯みもせずに針雨でミサイルを撃ち落とした。
だが靖人がミサイルに気を捕らわれている隙に、セシリアはラウラへ閃光を放った。
鈴と激しい格闘戦を繰り広げていたラウラは突如鳴り響いた高熱源反応を素早く察知し、双天牙月の一閃をバックステップで大きくかわした。その直後に、つい先程まで自分がいた空間を青いレーザーが切り裂く。
「援護射撃に時間掛かりすぎ!」
「あら。鈴さんならあれ位の攻撃、一人で捌けるのではなくて?」
冗談を言い合いながら、鈴とセシリアは再び隣接した。靖人とラウラの動きを警戒しているのか、すぐに攻め込んで来るような雰囲気はなかった。
『・・・ボーデヴィッヒさん。』
『暫く試合を長引かせろ。
『了解。』
秘匿回線でラウラと作戦を確認する。・・・鈴とセシリアはこのトーナメント随一の強敵だ。だからこそ、此方も彼女たちを倒す策を用意してある。
「・・・行くよ。」
靖人が呟くと同時に鈴たちへガトリングとミサイルが牙を向く。それよりも早く、ラウラがワイヤーブレードを展開しながら2人へ果敢に攻めていった。
多種多様なISがアリーナで何度も切り結び、砲火の間隙を縫っていく。一般生徒と比べ何段階も上のレベルの戦いが目の前で繰り広げられ、観客の歓声にますます熱が入っていく。
「良い試合をしますね、皆さん。流石は専用機持ちと言った所でしょうか。」
モニターで試合の様子を眺めていた山田先生が嬉しそうな声を上げる。教え子たちの勇ましい姿を見れて、教師としても鼻が高いのだろう。千冬も山田先生の賞賛に肯定しながらも、厳しい評価をつけた。
「そうですね。しかしあいつらもまだまだ未熟です。特に・・・。」
千冬の視線の先には、ティアーズのレーザーを右腕に受け、バランスを崩した不知火の姿があった。
「神谷は3人に遅れを取っていますね。」
ISの腕は搭乗した時間の長さがものを言う。代表候補生として特別に訓練を受けてきた他の3人に比べ、今年の3月にISを初めて動かした靖人の技術が低いのは当然である。
「まぁ、それは仕方がないですよ。でも、オルコットさんたちはそこを突くつもりでしょう。」
苦笑しつつ、山田先生が戦況を分析する。
靖人に向けて、ラウラから身を離した鈴が衝撃砲を何発か浴びせていた。先程から、2人の攻撃が若干靖人に集中している。
恐らく、先に靖人を落としてラウラを孤立させるつもりなのだろう。
いくら軍人と云えど、代表候補生2人を同時に相手にするのはラウラも骨が折れる筈だ。戦況を自分たちに有利に持っていく事で、セシリアたちはこの試合に勝つつもりだ。
現に靖人の被弾率は着実に上がっている。摩利支天のおかげで未だにシールドエネルギーに大きな差はないが、このままのペースでいくと不知火の防御性能が低下するのも時間の問題だ。
「それでも、ラウラは戦うつもりだろうな。」
千冬は視線をかつての教え子に移す。今までの試合を見るに、
「だが、お前はみすみすやられるだけなのか?神谷。」
千冬が靖人を軽く睨みつけた瞬間、再び大きな歓声がアリーナ全体に響く。
ブルー・ティアーズの猛攻に動きを止めた不知火に、鈴の甲龍が急速に接近していた。
「そろそろケリつけるわよ、靖人!」
開口一番、龍砲を最大出力で放つ鈴。回避が遅れた靖人は3枚の天城を正面に展開するも、着弾の衝撃で大きく後ろに吹っ飛ばされた。
体が大きく揺すぶられ顔をしかめる。体勢を立て直そうにも間髪入れずに連結された双天牙月のコンボが追い討ちをかけてきて、靖人は防戦一方に追い込まれた。
(援護は・・・!)
助けを期待し、少し離れた位置にいるパートナーを確認する。さっきまでこっちに攻撃していたセシリアの、幾重にも重なったレーザーを回避するのに精一杯なラウラの姿が目に入った。
(やっぱりか・・・!)
セシリアの目的は十中八九ラウラの足止めだろう。・・・鈴が自分を落とすまでの時間稼ぎだ。
不知火の特徴は頑丈さと砲撃主体の武装。これらの2つを併用し、時には援護射撃、時には楯として味方機の支援にまわるのが本来の運用方法である。
つまり本来1VS1で敵機と戦う事は想定されていない。
厚い装甲によって犠牲となった機動性と、手薄な近接武装がここに来て仇となる。
無論、射撃特化型のブルー・ティアーズで全距離強襲型のシュヴァルツェア・レーゲンと渡り合うのは至難の技だろう。ラウラが近接戦に持ち込めばセシリアは劣勢になり、倒されてしまう可能性もある。・・・だが代表候補生であるセシリアと素人の靖人。どちらが長く生き延びるかは、誰の目からでも一目瞭然だった。
靖人は苦い顔をしながら舌打ちをする。普段冷静沈着な彼が珍しく見せた焦りの表情。それを親しかった鈴が見落とす筈が無かった。
「てりゃあぁぁぁぁ!!」
気合のこもった叫びと共に、双天牙月を脳天に降り下ろす。靖人は防御のために素早く右肩の天城を頭上に展開した。
鈍い金属音と共に、巨大な2つの物体が衝突する。そして―天城の大部分がひしゃげ、所々に亀裂が入った。
「―っ!!」
不知火を守る鎧が、摩利支天がついにその効力を失ったのだ。鈴は勝利を確信し、力任せに双天牙月を振り抜き、靖人を吹き飛ばす。
「どうやらアンタはここまでのようね!攻撃が通るようになったなら、もう遠慮はしないわよ!」
何発も放たれた龍砲が、バランスを崩した不知火を確実に捕らえていく。不可視の衝撃が直撃する度に、煌めく銀色の装甲に傷が入っていった。
「このっ・・・!」
悪あがきか、靖人が肩から2発のミサイルを発射する。だが劣勢に追い込まれ焦っていたのか、狙いが甘かった。
「そんな見え見えの攻撃、あたしに通用するとでも!?おとなしくやられなさいよ!」
鈴が余裕の表情で、迫り来るミサイルに狙いを定める。
「・・・どうやら靖人さんはここでリタイアのようですね。」
4基のビットでラウラを追い詰めながら、セシリアが冷たく笑った。
「・・・・・・・・。」
ラウラは何も答えない。その表情も全く崩れる事なく、迫り来るレーザーを視線に捉え続けていた。
(例え1人になっても、わたくしたちを倒すつもりですね。)
ラウラの力量は1年生の中でも群を抜いている。現にセシリアのこれまでの射撃も彼女に決定打を与えられていなかった。やはり軍隊所属のIS操縦者は侮れない。だが―
「いくら戦い慣れたあなたでも、わたくしと鈴さんの2人相手にどこまで立ち回れますかね?」
セシリアの視線の先には、鈴の一撃で吹き飛ばされた靖人の姿。彼のISの装甲の表面を、幾つもの傷が覆っている。つまり不知火の摩利支天のエネルギーが切れ、シールドエネルギーが削られているのだ。
靖人が倒されれば、ラウラ相手に2vs1に持っていける。そうなれば此方にも勝機はある!
もうすぐ手に届きそうな位置に勝利が迫り、セシリアは自信に満ちた表情をしながらスターライトmk-Ⅲの引き金を引いた。
その時、ラウラの冷静な声がオープン・チャンネル越しにセシリアの耳に響いた。
「・・・肝に命じておけ。戦場において、一瞬の油断が命取りになる事をな。」
甲龍の非固定浮游部位の装甲が開き、中央の球体が光を放ち始める。それは、衝撃砲から今正に見えない火球が吐き出されようとしている証拠だ。鈴の瞳は、今彼女の目前に迫っているミサイルをしっかりと捉えていた。
(撃ち落とされる・・・!)
靖人が自身の攻撃が鈴に届かないのを悟ると同時に、輝きが更に増した。
そして、大気を揺るがす衝撃が甲龍から放たれた瞬間―
「―かかった。」
靖人の顔から焦りの色が消え、その口角が僅かに上がった。
靖人の秘策は何でしょうかね。