影が薄くてもダンジョンを攻略する。のは間違っているだろうか? 作:ガイドライン
『豊穣の女主人』。ドワーフの女性が店主をやっている冒険者の間では人気の酒場だ。そこでは様々な種族がウェイトレスをしている。その中で、
「勝手に3日も休むなんて……いい度胸してるじゃないかハジメ」
「すみません」
「謝る気持ちがあるなら休むんじゃないよ!!!」
ドワーフの店主、ミアがハジメの頭上に思いっきり拳を叩きつけた。その瞬間誰もがダメだと、周りからしたら死んでしまうかと思われる一撃だった為に目を閉じてしまったが、一向に響くような、壊れるような音がしなかったのでゆっくりと目を開けると
「危ないですよ、僕じゃなかったら死んでます」
「なに平然な顔をして言ってるのさ。さっさと着替えて仕事しな!!!」
その拳は確かに頭にあったがこれ以上は無意味だと分かったミアはその手を引っ込めてさっさと厨房へと戻っていく。
それを確認したウェイトレスの皆さんが駆け寄ってきて
「ハジメさん!!大丈夫ですか!!?」
「はい、問題ありません」
「全く貴方って人は……ミア母さんが怒るのを分かってやってますよね」
「仕方ありません、ダンジョンに向かうのは衝動ですから」
それを聞いたシル、リュー達ウェイトレスはハァ~とため息を付いた。これはこれ以上何を言っても無駄だと分かったからだ。とにかくここでクダクダと話していると自分達にも被害が及ぶと思ったリューは
「とにかく仕事をしてください。そうすればミア母さんも許してくれるはずです」
「分かりました」
素直に言うことを聞いたハジメはお店の奥へと向かった。そこで動きやすい服装へと着替えてまず倉庫の整理を始めた。ハジメがこのバイトをする前までは力のあるミアかリューなどがやっていたが、 ハジメがダンジョンで稼げないと分かってからここへバイトとして入った日から「男なら力仕事を進んでやりな!!!」とミアに一喝されてやっている。
まずは酒ダルや酒ビンを移動させた後に、小麦粉など重たいものから軽いものへと順番ずつに整理をしていく。二時間ぐらいかけて大まかな整理が終わったところで、
「トキサキさん、そろそろ開店の時間です。ウエイターの服装へ着替えてください」
「分かりました」
「それとあとでクラネルさんも来られるそうですのでその時間に休憩を取ってください」
「ベルベルが来るんですか、何も聞いてませんでした」
まぁ、ヘスティアにあの後ステイタスを更新してもらったが結局は変わらなかった。するとこの神様はまるで自分のように「もうーどうして変わらないんだ!!!」と怒りだし、バイトの時間になったのでヘスティアをそのままにして出てきたのだった
「………トキサキさん、一つよろしいですか?」
「なんですか」
「魔法やスキルを教えるのはタブーだとわかっています。ですがあえて聞きます、貴方は一体どんなものを持っているのですか?」
「そうですね、どちらも教えても問題はないんですけど神様に「絶対に教えたらダメだぞ!!!」って言われましたので………スキルだけ教えますね」
「……いや…聞いておいてなんですが、教えたらダメなのでは……」
「大丈夫です、僕が怒られるだけですから」
それがダメなのではと思ったが言うのを止めた。ハジメがバイトに来てから不思議なことは何度もあった。もちろんそれが魔法かスキルだとは思ったがそれが何なのかさっぱり分からない。もちろんただの興味本心なのでダメだと言われればそれまでと割りきっていたのだが、案外普通に教えてもらえることになった
「簡単に言えば自分と神様が認めた人しか僕は見えません」
「………そう、ですか……」
あまりのことに言葉を無くしたリュー。簡単に、まるで他人事のように喋るハジメに対してどういったらいいのか分からないからだ。確かにこの店でウエイターらしいことはほとんど出来ていない。注文を取ろうにもお客様には気づいてもらえず、だから仕方なく料理を運んだり皿を片付けさせると「いつのまに!!!!」とそのテーブルで物が増えたり減ったりして不気味と言われていた。
と、不気味だと言われていたのは初めだけでそれさえもお店の趣向だと思われ始め、今では名物だと言ってもいいほどそれを見たいとお客様が来て売り上げがグーンと上がった。つまりミアがハジメに対して怒った真の理由は売り上げ貢献であるハジメがいなくなった為である。
しかし、それはてっきりハジメの技術的なものだと思っていた。それはそうだろう、お店にいる皆はハジメを認識しているのにお客様は誰も気づかないのだ。何かあるとは思っていたがまさか、
(確かにトキサキさんがお店に初めて来たときは、神ヘスティアと一緒に来ていた。その時に私達は二人に認められたということですか)
なら説明がつくが納得というか理解というか現実を認めたくない。ハジメのスキルは本人だけではなく神ヘスティアが認めなければ認識されない。つまりはヘスティアが知らないもの、そしてヘスティアが嫌いなものに対してハジメは誰一人認識されないのだ。ここでリューには言っていないがヘスティアが
「教えてくださいましてありがとうございます」
「いえ、職場の仲間ですから」
「そう言ってくださると助かります」
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「ベルベル、楽しんでますか?」
「えぇっ!!なんでハジメがここに!!!」
「ハジメさん、教えてなかったんですか……」
「バイトしてますとは言いました」
それは言っているとは言いませんよ…とシルとベルが嘆きながらハジメは首を傾げる。『豊穣の女主人』が開店し賑やかになったところでベルが入店し、ミアから大量の食事とシルの巧みな戦略を喰らい驚いていた所にハジメが現れ、もう疲れきっている様子のベルに対してハジメは
「そんなにダンジョン大変でしたか」
「……いや、確かに大変だったけど…今ほどじゃないよ」
「よく分からないことを言いますねベルベルは」
同じファミリアなのにどうしてこう話が合わないのかとハジメと出会ってから思っていた。なんか上手く掴めないような感じでキャッチボールをしているのに別のことをやり始めるような……
「ミア母さんから休憩取っていいと言われてますし、ハジメさんもベルさんと一緒に食事なんてどうですか?」
「元々そのつもりです。ベルベル、ゴチになります」
「なんで僕が払うの!!!??」
「………お客だから?」
「二人分も払うお金がないことぐらい分かってるよね!!!!」
どうやら冗談が通じないようなので「ベルベルの食べているものを少しもらいます」というとホッとした表情を見せる。しかし厨房からはミアの鋭い視線が向けられていたが無視することにした
「ってか、ハジメはこんな所で食べてて大丈夫なの?」
「お客の反応なら問題ないですよ。僕が知ってても神様が知っている人はいない。それに別々に認識して僕を認識した人はいないから見えてませんよ」
「それは気にしてないけど……あの店長に怒られないの?なんかすごくこっちを睨んでるけど…」
「あぁ、ベルベルが奢ってくれなくてお店に貢献できなかったから」
「それ僕のせいなの!!!?」
完全に被害者なのに可哀そうなベル。とハジメの同僚達は同情していた