影が薄くてもダンジョンを攻略する。のは間違っているだろうか?   作:ガイドライン

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影が薄いからこそ登場シーンがカッコいいです。

「霧……」

 

「気を付けてくださいベル様。離れると合流が難しくなります」

 

「うん、リリも気をつけて」

 

 

10階層

深くない、けれど視界を妨げるには十分の白い靄がダンジョン中に立ち込めていた。

10階層のダンジョンの作りは8~9階層の形態をそのまま引き継いでいる。

 

 

(それにしても…案外としっくりとくるなぁ、コレ)

 

 

見失わないようにリリの気配を割くのと並行して、手の中にある《バゼラード》を見やった。

使い勝手は上々で、リーチの長さあり安全地帯から楽に攻撃を仕掛けられる気分になる。しかし威力はやっぱり《神様のナイフ》ほど見込めないが十分である。

ベルが《バゼラード》に意識していることに気づいたらリリは、

 

 

「ソレ、気に入ってもらって良かったです」

 

「うん、ありがとうリリ。でも良かったの貰っても?」

 

「はい、言ってしまえば慰謝料みたいなものですから」

 

「慰謝料って、なにを…」

 

「ベル様!!来ました!!」

 

 

リリの言葉の真意を聞こうとしたがモンスターは待ってはくれない。低い呻き声とともに大型級のモンスター『オーク』が姿を現した。

 

 

「はぁ……大きいね……」

 

「逃げてはいけませんよ、ベル様?」

 

「もちろん、ここで逃げたらガレスさんに怒られるよ!!」

 

 

そうガレスさんが言っていた、いつかは当たるだろう大型級のモンスター。一度怯んでしまうと懐に踏み込むのに躊躇してしまい、その一瞬が命取りになると。

そしてリヴェリアが教えてくれた。この10階層のオークは『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』を使うということを。迷宮の自然の一部を武器に変えてしまうダンジョンの厄介な特性を。そして『迷宮の武器庫』を使わせる前に倒すか『迷宮の武器庫』事態を破壊するということを。

 

だからベルはまず距離的に近い『迷宮の武器庫』を破壊することにした。《バゼラード》で一閃による攻撃で『迷宮の武器庫』は半分になり追い討ちをかけるように連撃をする。その間に近づいてきた『オーク』はベルに近づこうとするがリリがボーガンによる牽制をして近づかせないようにしている。

その状況を見て判断したベルはオークに近づき、首筋に深く切りつけた。全く反応出来なかったオークは訳も分からないまま絶命した。

 

 

「ありがとうリリ、助かったよ」

 

「私は何も…」

 

「そんな事をないよ。よし!今のうちに『迷宮の武器庫』を減らせるだけ減らして……」

 

 

そう言いながらベルは周りの『迷宮の武器庫』を破壊しようと動き出す。もちろんリリとの距離を考えて範囲を決めて

 

 

(……やはりベル様は、他の冒険者とは違う……)

 

 

あの状況でまず『迷宮の武器庫』を壊すことはしない。壊している間にさっきのようにオークが近づいて攻撃をしてくるからだ。ならまずはオークを倒して『迷宮の武器庫』を破壊するのが定石である。

しかしベルは違った。まるで「リリを信用しきっている」ようだった。さっきまでいた8~9階層とは違いこの10階層は初めてなのだ。出てくるモンスターも初めて。なのに完全に任せたのだリリに。

 

 

(……だから、ダメなんですよ…ベル様……)

 

 

ベル様は今までの冒険者とは全然違う。冒険者としても、人としても……

だから辛かった。私がしていることが知られたらきっと幻滅する。いや、それならまだいい。一番耐えられないのは……

 

 

(……私を、恨んでもいいです…ですから……)

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「ふぅー。これだけ削れば」

 

「お疲れさまです、ベル様」

 

 

粗方の『迷宮の武器庫』を破壊し、その間に出てきたオークはまず機動力を削ぎとっていった。そして後で脳天を《バゼラード》で貫っていった。普通は頭蓋骨もあり簡単ではないが、力の入れ方・角度などでかなりやり易くなる。絶命したオークの後には魔石が残り回収をしようと思っていたが

 

 

「ちょっと休憩しませんか??

魔石はリリが回収しますので、少し休んでいてください」

 

「でもまだオークが…」

 

「離れた所にはいきません。ベル様が見える範囲内だけですから」

 

 

そういって魔石を回収に向かったリリ。ベルは近くの岩に腰かけてダンジョンに入る前にリリから渡された飲み物を手に取った。

流石に疲れて喉がカラカラだったのかその飲み物をイッキ飲みして喉を潤した。その間もリリが遠くに行っていないか気配を感じながら視界に入れながら注意をする。

 

 

(今日のリリ、なんか様子が変だよな……)

 

 

こうして休憩して思った。

モンスターと戦っていたときは気づかなかったが、何だか自分から避けているように感じてきた。いつもは自分の近くで戦っていたのに複数との戦いになると一番遠いモンスターと戦おうとする。その時はリリの元へいち早く向かおうとして《ファイアボルト》を使い一掃したり、スピードを生かしてリリの近くに向かい一緒に戦うことにしていた。

 

でもそんな事をリリがするなんておかしい。

そんな効率の悪いことをするなんて……

ましてやサポートが、冒険者のサポートを避けているみたいで……

 

 

(……あ、あれ……??)

 

 

すると突然眠気がベルを襲う。

疲れたといっても軽い運動が続いた程度。眠気が襲うほど身体も心も疲れていない。

 

 

(……ど、どうして……)

 

 

考えもできずにベルはそのまま眠りに落ちた。

そしてそれを見計らってリリがベルの元へ戻ってきて、大胆にベルから『神様のナイフ』を抜き取る。ついでに金目になるものは全部抜き取り、《バゼラード》と防具だけの状態になってしまった。

 

 

「…もし、これでもまた会えたら……」

 

 

それ以上の言葉は言わずにリリはその場にベルを残して9階層へと戻っていった。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「……な、何だ…この臭い…は……」

 

 

何かしらの強い異臭により目が覚めたベル。それは本当に運が良かったとしか言えない。あの【睡眠薬】を通常の二倍に濃くされたモノを飲んだのに関わらず短期間で目覚めたのだから。

そして目覚めて脳が未だに覚醒してない中で、細めた目で見えたものは拳を振り下ろそうとした【オーク】だった。

 

 

「!!?」

 

 

頭で考えずに反射神経で行動出来るようにとベートから仕込まれた緊急回避。何が起きたのか頭で考えるよりも早くに身体が動きだし【オーク】からの攻撃を間一髪で真横に転がり回避した。

やっと思考が追い付いて来たときには状況が最悪であることに気づいたベル。周りには10体以上の【オーク】がベルを狙って来ていた。いやベルではない、正確にはベルの足元にある生々しい血肉。狩りの効率を上げるためにモンスターを誘き寄せるトラップアイテム……。

そうこれがここに集まった【オーク】を引き寄せたのだ。

 

 

「━━━━━」

 

 

こんな最悪な、死にも繋がる状況。

それでもまだベルは絶望はしていない。

すぐに自分の持っているものを把握する。

どうやら持っているのは防具とこの《バゼラード》の2つだけ。金品もドロップアイテムもマジックポーション

も、そして『神様のナイフ』も持っていなかった。

 

それでもまだ絶望はしない。

【オーク】は10体以上いるが全て倒す必要はない。いまはここにいないリリを探し出すことが先決である。ならこの場から逃げ出せればいい。そして【オーク】の周りには『迷宮の武器庫』はなく天然武器(ネイチャーウェポン)を持っている【オーク】もいない。

 

なら、まだ絶望よりも希望が大きい。

フィンがよく言っていた。どんな絶望があっても小さなものが大きな希望にもなりえる。だから常に頭を働かせて僅かでなものでも見過ごしてはいけないと教えてくれた。

 

 

「………ど、け……」

 

 

手に持った《バゼラード》を強く握る。

朝からリリの様子がおかしかった。でもそれを知らないフリしていた。例えこういう状況がリリが起こしたとしてもそれは自分が止めれたことはず。

ならリリはきっと苦しんでいる。苦しまなくてもいいのにきっと苦しんでいる。ならそこから助けないといけない。もうリリを苦しませないためにも僕は、

 

 

「そこを、どけええええええぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

リリの元に行かないと行けないんだ!!

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

「人が良すぎですよ、ベル様」

 

 

リリは9階層へ戻り一人呟いていた。

荷物の中にはベルから盗んだ金品とドロップアイテムと『神様のナイフ』が入っている。これを質に入れればきっと目標金額に届くはず。

 

リリは最初からベルのお金と『神様のナイフ』が目当てだった。いまいる環境から抜けだすために、ソーマファミリアから脱退するために売り払い金を集めていた。

それならひったくりだけでいいのだが、自分をこんな風に陥れた冒険者に仕返しがしたくてあえてサポーターとよそい盗みを働いていた。

 

しかし、ベルと出会ってしまい罪悪感が生まれた。

どうしてリリを蔑んだりしないのか?

どうしてリリをもの扱いしないのか?

どうしてリリをこんなに信じてくれるのか?

 

一緒にいればいるほどその罪悪感は募っていき、もうリリの心は限界に近かった。だから選んだのだ、ベルから離れようと。ただのお別れではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() を選んで。

 

 

「これで、良かったです。こうしないとリリは……」

 

「何が良かったんだよ、この糞パルゥムよ!!」

 

 

突然の声に振り向いたリリの身体に衝撃が走る。どうやら相手から腹に向けて殴れたようであまりの痛さにその場に踞ってしまった。

 

 

「そろそろあのガキから離れるころだと思ってよ。てめえが使える道は限られている。仲間と網を張っていたがオレの所に来てくれるなんてな。」

 

「……… (ァ…ッ)………」

 

「コレも旦那が色々教えてくれたお陰ですわ」

 

 

その冒険者の視線の先、リリも苦しみながらも向けた視線の先を見てみるとそこには

 

 

「よぉ、アーデ。元気にしてたか?」

 

「……カヌゥ様……」

 

 

そこには同じ()()()()()()()()である中年の獣人カヌゥだった。そう全てバレていた。ベルから盗みを働くのもそしてリリがどうして盗みをしているのかという理由も。

 

 

「最近えらく調子いいみたいだな。だからよ、オレにもちょっと分けてもらえねぇか?」

 

「リ、リリは別に調子いいわけじゃ……」

 

 

するとカヌゥは有無も言わさずにリリの腹におもいっきり蹴りを喰らわせた。喘ぎ声も出ないほどの苦痛にのたうち回るリリを尻目にカヌゥは持っていた荷物を奪い取り

 

 

「ほう、なかなかの金額じゃねえか。それもこんなにドロップアイテムもある。これのどこが調子が悪いんだ、ええ??」

 

「……か、かえ……」

 

「それにてめえ魔剣まで持ってやがったのか!!これどうしたんだ?冒険者から盗みとったのか!!」

 

 

次々に持っていかれる荷物にリリは何も出来なかった。

いつの間にか他の冒険者も集まっており、どうやってもどうすることも出来ない。そんな中冒険者同士で山分けを始めており、それを見たリリはあるものだけは守ろうとした。

まだ気づかれていない。ただあれだけは、この懐にある()()()だけは渡せない。そう力んでしまったのかナイフがある所を無意識にギュッと握ってしまったリリの姿を冒険者が見てしまった。

 

 

「旦那、こいつまだ何か隠してますぜ」

 

「だろうな。おいアーデ、お前が溜め込んだ大金どこにある?」

 

「な、なんのこと……」

 

 

するとリリから奪ったボーガンを手にしたカヌゥは、リリの肩に向けて矢を放った。あまりの激痛に声を上げるリリに対して静かにさせようと再びカヌゥがリリの腹を蹴り上げる。

 

 

「惚けるんじゃねぇ、こっちは分かってるんだよ。てめえがソーマファミリアから脱退するために貯めている大金があることをな。そうじゃなきゃわざわざてめえみたいなパルゥムの相手なんざしねえよ!!持っているだろ、大金を隠している鍵をよ。さっさとだせ!!!」

 

 

出すわけにはいかなかった。確かに鍵は首からかけて持っているがこれを渡したら今までの苦労が……

 

 

「なるほどな、出さねえつもりか。ならこっちにも考えがある」

 

 

そういってカヌゥが大きな袋からあるものを取り出してリリの元へ放り込んだ。それはキラーアントの子供でありすでに死にかけていた。ただそれだけならなんの脅威にもならないがキラーアントにはある習性がある。

 

瀕死のキラーアントは仲間を呼び寄せる。

 

 

「分かってるだろう、もう少しでここにキラーアントの大群が現れる。どうやってもてめえじゃ勝てねぇ。さていまここで俺達が離れたらどうなるか分かるよな?」

 

「……そ、そんな……」

 

「さぁ出せアーデ。別にてめえが喰われた後にキラーアントを片付けて鍵を取ってもいいんだぜ。それをあえてこうして選択させてるんだ。答えは分かるはずだ」

 

 

そうリリに残された選択は1つしかない。

それを逃したら間違いなく死んでしまう。

震える手で首からかけた鍵を外してゆっくりとカヌゥへと渡す。

 

 

「それでいいんだよ、アーデ。所詮てめえは道具なんだからよ」

 

「ッ!」

 

「ほらよアーデ。これでてめえは助かるぜ」

 

 

そういってカヌゥはもうひとつの袋をリリの前に放り込んだ。それはここから抜け出すためのアイテムかと思ったが、それは()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ま、まさかこれって……!?」

 

「助かるぜ。もう何にも縛られなくてすむんだからな!!!!」

 

 

袋の中身を見なくても分かる、この中身は瀕死のキラーアント。ただでさえ大群がくるというのにその二倍がいまここに向かっているのだ。

 

 

「長居は無用だ。さっさと離れねえと巻き添えをくらうぞ」

 

「そうですね旦那」

 

「リリを!!リリを助けて下さい!!!なんでもしますから!!お金も何とか渡しますから!!!」

 

「そりゃ魅力的だが、もうパルゥム(道具)には用はねえよ」

 

 

その言葉で気づいた。最初からリリをここで殺すつもりだったと。その絶望に血の気が引くリリの表情を見て笑い出す冒険者達。

いつもなら悔しくて恨んで憎しみで心が張り裂けそうになるのに、もうなにも考えられないくらい頭が真っ白になっていた。

そして笑っていた冒険者達の一人があることに気づいた。さっきまでいたカヌゥがいないことに。

 

 

「お、おい。旦那はどこにいった!!」

 

「し、知らねえよ!!」

 

「やべぇぞ…もうキラーアントが近くまで来てるはずだ」

 

「に、逃げろおおぉ!!!」

 

 

突然慌てて駆け出す冒険者達。この冒険者達もカヌゥ無しではキラーアントの群れから切り抜けないと言うことが分かっていたようであり、そして走りだした先で

 

 

「ぎ、ぎゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

「や、やめがぁぁぁぁぁ!!!」

 

「誰か助けてくれ!!!」

 

「………だれ………か……」

 

 

断末魔が聞こえてきた。ついさっきまでリリをバカにしたいた冒険者が次々に死んでいったのだ。そしてカサカサと多くの重なりあった音が近づいてくる。

 

 

「………………」

 

 

声もあげられなかった。目の前に大量のキラーアントがいるのにも関わらずに。もう少しで死んでしまうかもしれないというのに不思議と恐怖がなかった。

そういまリリが感じているのは恐怖ではなく、諦めだったから。

 

 

「……やっぱり、天罰ですかね……そうですよね。こんな悪いことをしたリリが…最後を向かえるには丁度いいかもしれません……」

 

 

自分の死を受け入れていた。これまでやってきた悪行を考えると仕方ないと、受け入れるしかなかった。

 

だけど一つだけ後悔があった。

この懐にある『ナイフ』、そしてこの持ち主に対してどうしても後悔しか思い浮かばないのだ。

 

 

「……べ、ベル様……ごめんなざい……リリは…リリは……とても悪いパルゥムでしだ……でも、でも、もう一度……会えたら……生まれ変われたら……リリは……」

 

 

リリの周りを取り囲むキラーアント。すでに狩れる範囲まで迫っていた。リリは死を覚悟して目を瞑り、

 

 

「……もう絶対に嘘は…つきまぜん……裏切りまぜん……だがら……リリをもう一度……」

 

 

キラーアントの牙がリリの身体を、

 

 

「……仲間とよんでぐれまぜんか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら本人に聞いてみないといけませんね」

 

 

声が聞こえた。まだ身体に痛みはこない、まだ死んでない。誰かは分からないがその声が気になってゆっくりと目を開けるとそこにはキラーアントが襲いかかろうとしていた。

 

 

「き、きゃああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

命が助かったと安心したため、襲いかかろうとするキラーアントに対して命が欲しくなったリリは本能的に離れようと後退する。しかし後退してもキラーアントは襲ってこない。それどころか襲いかかろうとしたところで動いていないのだ。

 

 

「……一体、なにが……」

 

 

よく周りを見るとキラーアントの群れの一番前の個体だけが同じように固まっている。まるで作り物のように。

 

 

「僕の姿は見えないと思いますが声は聞こえますよね」

 

「だ、誰ですか!!あなたがこれをしたんですか!!

なにが目的ですか!!リリのお金ですか!!!」

 

「さっきまで死にかけていた人がいう割には元気がありますね。意外や意外にベルベルは人を見る目があるんですね」

 

「……ベルベル…って、……もしかしてベル様………」

 

 

姿は見えない。見えないけど確かに()()ことは感じる。そして何故だがそれに対して恐怖心がない。もしかしてベル様の関係者だから……

 

 

「初めまして。ヘスティアファミリアのトキサキ (ハジメ)といいます」


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