影が薄くてもダンジョンを攻略する。のは間違っているだろうか? 作:ガイドライン
「どうして……ここに……?」
ベルの目の前にはアイズ・ヴァレンシュタインがいた。
どうしてこんな所にいるのか?遠征はどうしたのか?と考えているとベルの肩にトンと何が触れた。その方向へ視線をやるとそこにはフィンとリヴェリアがそこにいた。
「遅くなってすまないベル」
「フィンさん、リヴェリアさん…」
「後は私達に任せてベルは休んでいなさい」
そう言いながらリヴェリアはハイ・ポーションと取り出してベル渡した。そして体を動かすのが難しい椿には瑞からハイ・ポーションを飲ませてリリの元へ連れていきレフィーヤと共に前線から離れた。
その時ベルが見たのはロキ・ファミリアの一級冒険者の面々がそこにいた。
「皆さん…」
「あらー派手にやられたみたいだね」
「でも無事で何よりだわ」
「てめぇが殺られたら教えた俺も下で見られるってことを分かってのかてめぇは!!!」
「すまんの、ベートは素直に心配だったと言えないからの」
ティオナにティオネが両サイドからベルの腕を取り立ち上がらせ、ベートがベルに接近して睨み付けたあとガレスがそんなベートを拳骨してベルに謝る。
こんないつものやり取りみたいな雰囲気があるのに、次の瞬間には全員がミノタウロスに向けて戦闘体勢に入った。こんな会話をしている中でもアイズはすでにミノタウロスを討伐してついさっきミノタウロスの胴体が真っ二つに別れて絶命したとこだったのだ。
「!!!??」
しかし次の瞬間にはベルと椿が感じ取ったあの異常な殺気が放たれたのだ。そして別れた筈の胴体から吹き出す血がまるで糸のように別れた胴体を繋ぎ始めた。そしてまるで磁石に引き付けられるように再び重なった胴体。その切口はグツグツと血が溢れては肉となり凄まじい勢いで切口を塞いでいく。完全に元に戻るまでに5秒ほどかかったというのに何倍もの時間を過ごしたと錯覚した。
思わずその光景に固まるアイズ。だがすぐに思考を変えて再びミノタウロスの懐へと入る。ミノタウロスもすぐさま攻撃を仕掛けるがやはりアイズの方が上手であり、振り落とされる腕を切り落としすぐさまミノタウロスの頭部を切り飛ばした。
そしてすぐさま距離を取り様子をみようとすると、ベル達が見たように切られた腕と首から血が溢れては肉となりあっという間に元の姿に戻った。そして再生を繰り返す度に凄まじい殺気が膨れ上がる。
「フィン、これって……」
「間違いなく突然変異したミノタウロス。しかしこの再生速度は見たことがない。だが、もしかして…」
そこで考え込むフィンの姿にリヴェリアもいま自分が考えている事を口にした。恐らく考えていることは同じであると確信して。
「今回の遠征に関係がある。と言いたいのかフィン」
「あぁ、そう感じるんだリヴェリア。全く関係出来事だけど、何か裏で繋がっているような……」
「この手の勘はよく当たる。しかしあっちは大人しくしてくれそうにもないようだが」
「ミノタウロスはここで討伐する。元より……捕らえるなんて冒険者には似合わないからね」
冗談を言っているような口調だったがその目は間違いなくミノタウロスを刈る目だった。
それを見て聞いたティオネとティオナはアイズの隣に立ち、ベートとガレスはいつでも追加攻撃出来るようにすぐ後ろで控えている。
「アイズ、ティオネ、ティオナ。普通ミノタウロスと思わないようにするんだ。あれは未知のモンスター、まだ何かあるのかもしれない、油断せずやってくれ」
「大丈夫ですって団長!私がサクッと倒しますから!!」
「ちょっとティオナ!!?」
ニコッと笑いながら大剣を手に駆け出すティオナ。「あぁーもうー!!」と愚痴りながらもすぐさまティオネも走りだし後ろからアイズも追いかけるように走り出す。
そしてこの異常なミノタウロスも普通のミノタウロスではあり得ないスピードでティオナ達に向かって駆け出し
『ヴォオオオオオオオオオオウッ!!!!』
雄叫びを上げながらミノタウロスはまず先頭にいるティオナにその拳を振り下ろした。
確かに普通のミノタウロスよりも速い攻撃ではあるがティオナはその振り下ろされる右の拳をギリギリで避けたあとすぐさま機動力である
そしてティオネは繰り出された右手の
「よし、このままやっちゃ……」
普通なら一級冒険者にとってミノタウロスは簡単に倒せる相手。例え普通ではなくとも三人も束になれば楽に殺れるだろう。しかし普通でも普通ではなく、異常なミノタウロスは先程のスピードよりも早く受けた傷を再生させた。
腱は一瞬で、足は1秒で、頭部は3秒で。
異常ではあるが余裕で倒せると思っていたティオナ達。あまりの再生速度に驚いていた所をミノタウロスは一番早く再生した腕を使い間合いにいたティオネを吹き飛ばした。次に再生した足を使い強烈な一撃を、地面を踏みだことにより地震のような揺れが起きてティオナはその場から動けなくなってしまい、そこへミノタウロスは足蹴を喰らわせてティオナを吹き飛ばす。
アイズはすぐにミノタウロスの四肢を切り落として攻撃をさせないようにしたあと距離を取るために後退するが、更に速まった再生速度により切り落とされ宙に浮いている両腕を再生した手が掴みそれをアイズに向かって投げ込んだ。
これには流石のアイズもあり得ない状況に頭が追い付かずに防御した取ることが出来ずモロにミノタウロスの両腕が激突した。
吹き飛ばされると思っていたアイズだが後ろで控えていたガレスがアイズの肩を掴かみ飛ばされないように止めてくれた。同様にティオナ・ティオネも壁に激突することなくガレスが止めてくれたようで大した怪我はなかったようだ。
しかし、アイズが吹き飛ばされ正常でいられなくなった奴がいる。
「このくそ牛が!!!」
そう、ベートである。
怒って我を忘れているようだが頭の中は冷静なようで真っ正面からではなくミノタウロスの周りをウロチョロと動き周り隙を伺っている。
そこでガレスも加わり、ガレスは正面からやり合うために真っ直ぐに突き進む。それを利用しようとベートも範囲を両サイドと背後に絞り動き回る。
しかしまたそこで予想外のことが起こる。
残っていた自分の足を手に取るミノタウロス。さっきのように投げつけてくると思い警戒する二人だったのだがその足はぐねぐねと形を変えていき、
その足は、大剣と姿を変えた。
「「!!!??」」
僅かな動揺が、動き回るベートの体に影響を与えた。
ミノタウロスは自分の周りに動き回るベートを刈るかのように大降りで、大剣を横殴りの攻撃として打ってでた。ベートもそれをギリギリで避けることは出来たのだが回避直後、思いもよらない行動に体がついていかなかった為か僅かな時間足が硬直してしまった。そこを逃さなかったミノタウロスは大剣の先をベートに向けて大砲のような突きを放ってきた。
その一撃を喰らったら無事ではすまない。死ぬ可能性がある一撃をだと判断ししていたのかガレスは、自分の斧を盾にベートの前に立つ。そしてミノタウロスの突きはガレス、ベート共にかつて無いほどの衝撃が撃たれて吹き飛ばされた。
「ガレス!!ベート!!!」
「なんだアレは……自分の体を…武器に変えただと……」
只でさえあの再生速度に驚かされていたのにまさか『
壁に叩きつけられヒビが入り崩れ落ちた瓦礫が二人を襲う。その姿にフィン、リヴェリアは近づこうとするが瓦礫に埋もれた二人はすぐさま出てきた。だがその体は明らかにダメージを受けていることが分かった。
「……くそ、が……」
「やられたわ。まさか自分の一部を武器に変えるとは……」
まだ戦うつもりである二人を理解したのかミノタウロスはすぐさま二人に向かって駆け出す。
しかし、進行方向を妨げるようにアイズ達が妨害しようとするがミノタウロスはそれにより更に興奮しているようだ。大剣を振り回し防御するアイズ達も吹き飛ばす。
「アレは……本当にミノタウロスなのか?一級冒険者があそこまで追い詰められるなど……」
「突然変異にしても異常すぎるね……さて、どうしたものか……」
追い詰められる。という表現の割にはその場から動こうとしないフィンとリヴェリア。その後ろにはベルや椿がいるため離れないというのもある。しかし勝てないかもしれないというだけで
だからミノタウロスを倒すための算段を考えているのだがあの再生速度を上回る攻撃をするためにはどうすればいいのか?
リヴェリアの魔法を使えばと思ったが即死レベルの攻撃でないと意味がないだろう。ならいま無駄打ちをするわけにはいかない。それにあのスピード、避けられる可能性が最もある。
次にアイズ達の総攻撃でミノタウロスを微塵に切り落とす考えもあった。だがさっきのように己の一部を武器にするならただ敵に攻撃手段を与えるだけになる。それにますます攻撃速度を増してきたミノタウロスを微塵に出来るほどの余裕はない。
決定的なものがないまま戦闘は続いている。
攻撃が当たらないわけではないのに、その攻撃された箇所は急所ではないかぎりすでに瞬時に治る。
そんな様子を見ていたベルや椿、そしてリリを見ていたレフィーヤから声がかかる。
「リヴェリアさん。ベルがミノタウロスの倒し方があるようで……」
「本当か!!?」
ベルに詰め寄るリヴェリア。普段はこんなことをしないリヴェリアに驚きあたふたするレフィーヤ。それもそうだろう、リヴェリアはベルの顔に近づいてその唇と唇がくっつきそうにみえるのだから。
だからベルの顔も真っ赤になり離れようするがダメージは回復しておらず離れることも出来ない。
「リ、リヴェリア!!!ち、近いです……」
「す、す、すまない……」
「珍しいね。リヴェリアがそこまで取り乱すなんて……」
「こんな状況の中でも冷静すべきなのだろうが、私もまだまだ甘いな……」
「反省は後にしよう。それでベル、ミノタウロスの倒し方とはなんだい?」
「コレを使えば……倒せると思います」
ベルが差し出したのは1つの小さな箱。
フィンやリヴェリアは一体何を言っているのかと疑問を持っていたがそれを見た椿は驚いた様子だった。
「お、おいそれは!!?」
「椿さん、これしかありません。
フィンさん、これはとても扱いが危険なものなんですけど…」
「……状況が状況だ。どういうものか分からないがこの状況を続かせるわけにはいかない。手段を選んでいる場合ではないだろう」