影が薄くてもダンジョンを攻略する。のは間違っているだろうか?   作:ガイドライン

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影が薄いとゆったりとお酒を飲めるのです。

「最近は前よりも一段と騒がしくなったのに、明日には出ていくのか」

 

「なんか染々に言ってるとオジサンに見えますよ」

 

「ふふふ、まぁ年齢としてはそうだろうね」

 

 

寝静まった真夜中。

フィンとハジメはサシで飲んでいた。

前からフィンがハジメを誘っていたがその度に断っていたのだが、どういう風の吹き回しなのかいまはこうして対面して飲んでいる。

 

 

「でもどうして今日は一緒に飲んでくれるんだい?

君の性格上なら最後まで飲んでくれないと思っていたけど」

 

「どうしてですかね。気まぐれですよ、たぶん」

 

 

「そんな事いうとなにか裏があると思うよ」

 

「どうなんですかね」

 

 

妙にはぐらかすハジメにフィンは違和感を持っていた。

しかしこうして飲んでくれるのだ、無粋なことは聞かないようにと話題を変えた。

 

 

「発展アビリティ、本当に毎回君には驚かされるよ……」

 

「余談ですけどこの前御披露目した内容よりさらに使いこなせるようになりましたよ」

 

 

「……あまりこういうことは言わないけど、君を本当に敵に回したくないものだよ。()()()()()()()()

 

「それ本当に言わないほうがいいですよ。ダ・団長を慕っている人が聞いたら、僕に襲いかかってきますよで」

 

 

「ハジメなら問題ないだろ」

 

「問題あるなしの話じゃないですよ」

 

 

返しもいつもの刺が強いものではない。

人をおちょくるような返しでもない。

 

やはり今日のハジメには違和感がある。

 

 

「……聞かずにいようと思ったけど何かあったのかい」

 

「何がですか?」

 

 

「気づかないと思ったのかい?明らかにいつものハジメじゃないよ」

 

「??」

 

 

「あれ?本当に気づいてないのかい?」

 

「……そうですか、違いますか……」

 

 

どうやらハジメ自身気づいていなかったようだ。

フィンに言われてやっと自身の違和感に気づいたようで

 

 

「ダ・団長も普段言わないことを言いましたので自分も言ってみましょうか」

 

「何を……」

 

 

「これでも緊張してるんですよ僕、この空間に」

 

「…………君が、緊張………」

 

 

「まぁ、意外だと思われると思いましたけど。

そんなに驚くことですか?」

 

「君は神の前でも、それこそどんな危険な場所でも緊張なんてするとは思っていなかったからね……」

 

 

本当に驚いているらしくフィンは無意識にワインをイッキ飲みして気持ちを落ち着かせようとしていた。

 

 

「いや、あの神に緊張する意味が分かりませんし、危険な場所に行っても一時停止がありますから」

 

「さりげなく自分の神をディスるのはやめたほうがいいよ」

 

 

「ですけどダ・団長はどうしてか緊張するんですよね。

正直僕自身もどうしてか分からないですけどね」

 

「それは僕が怖いということかな?

 

 

「あっ、それはないです」

「ハッキリいうな……」

 

 

「多分ですけど、きっと僕はダ・団長を自分の上司的な感じで見てるかもしれませんね。こんなスゴいファミリアの団長にいるダ・団長のスゴさに緊張してるのかもですね」

 

「それは……ありがたいことだね……」

 

 

そんな風に思ってくれていたなんてフィンはなんかくすぐったい思いだった。少くてもハジメが他人に対してどんな風に思ってくれているのか分かりずらかった所があるからこうして言われると何だかくすぐったいのだ。

 

 

「こんな時間にまだ飲んでいたのか?」

 

「リヴェリア」

 

「リヴェ姉、どうですか一緒に」

 

 

扉が開き顔を覗かせたのはリヴェリア。

二人がサシで飲んでいる所をみて珍しそうな表情をしていたリヴェリアは

 

 

「どうやら貴重な時間のようだ。私は失礼するよ」

 

「気にしなくていいよリヴェリア。

せっかくだ、君もどうだい?」

 

 

「何か話があったんじゃないのか」

 

「いや、ちょっと意外なことが聞けたからね。今日はそれで十分だよ」

 

 

そういいながらクスクス笑うフィンに少し機嫌が悪そうに見えるハジメ。何かあったのか気になったところだが掘り下げないほうがいいだろうと何も聞かずにフィンのとなりに座る。

 

 

「ついに明日か…寂しくなるものだな」

 

「別に会えなくなるわけではないですよ?」

 

 

「それでもあんなバカ騒ぎが聞こえなくなるのも、その時は嫌でもいざとなると寂しくなるものだ」

 

「あぁ、リヴェ姉はツンデレでしたね」

 

 

「ツ、ツンデレ??…なんだそれは?」

 

「気にしないでください、誉め言葉ですので」

 

「………絶対に違うな、意味は分からんが……」

 

 

まったく…といいながらもそれ以上追及はしなかった。

三人ともここからしばらく会話をせずにこの空気を惜しむかのようにゆっくりとお酒を飲みながら過ごした。

 

そして次に言葉を出したのはハジメだった。

 

 

「………本当にお世話になりました。

色々返さないといけないものはありますので引き続きよろしくお願いします」

 

「そんな事を改めて言わなくてもいつも通りに来るだろ君は」

 

 

「来ますね。またベベートの相手をしてあげないといけませんから」

 

「まだ絡んできているのか……あれはもう向上心というよりもただのやけくそになってないか……」

 

 

「そうですね、昨日は『死ねぇコラアアァ!!』としか言わなかったので。いつもは『ぶっ殺すぞコラアアァ!!』なんですが」

 

「いや、それ何も変わってないしむしろいつもそんな事いっていたのかい……」

 

 

ここにきて仲間の不手際に頭を痛めるフィン。

リヴェリアは「アイツはいつもこんな感じだ」と分かっていて止めなかったようだ。まぁ暴走してもハジメならという安心感はあるが

 

 

「あまり苛めないでくれよ……あれでも他の仲間の見本となるんだ」

 

「………………ハッ、冗談ということに気づかずにリアクションが出来ませんでした」

 

 

「よくー分かったよ。君がベートに対しての態度が……

というか、どうしてベートに対してはそこまで毒つけるんだい君は……」

 

「ハッキリいえば合わないです、酷い表現だと生理的に無理です」

 

 

「……そ、そうだろうね……」

 

 

「……まあ、大丈夫だと思いますよ。

あれだけやられてもむしろ燃えてくるタイプですから。

それを見ている皆さん、なんかやる気に満ちてましたし、それに実際に強くなってるんじゃないんですかね?多分?」

 

「その疑問系はなんなんだ、まったく……」

 

 

そこまで嫌がっているのにハッキリと「嫌い」とは言わないハジメに、つくづく優しい奴だと思うフィン。ベートは口も悪ければすぐに手を出す性格の悪さ。そこでハジメが嫌いにならないのが少しでも後輩や実力者、成長の兆しがあるものには手を差しのべるというか優しくなれるというか……言葉にするのは難しいが根っからの「悪い人」だとは思っていない。

 

だから暴言を吐かれてもそうそう怒ったりはしない。たまに神様やリューについて吐いてしまうときは()()()に指導するので問題はない。

 

 

「あと一つダ・団長にお願いがありまして。せっかくですのでリヴェリア姉にも」

 

「なんだい?」

 

 

するとハジメはここに来るときに一緒に持ってきた袋を取り出して中身を出す。そこには前回使った短剣[時喰い(タイム・イーター)]とガントレット[時止め(タイム・アウト)]だった。

 

 

「これを預かってくれませんか?

()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……理由を聞いてもいいかな?」

 

 

「いやガントレットを使わずに短剣を使ってしまってツバッキーに怒られまして。「寿命を減らすような真似をするでない!!!」と。一時停止を使っていたのですがそんな分かっていてもヒヤヒヤするからと結局怒られました」

 

「それは間違いないなくハジメが悪い……」

 

 

「なのでしばらく預かってもらえませんか?

あっ、もちろん時喰いを使うときは時止めを装備してくださいね。あっという間に生気や寿命を奪われますので」

 

「………本当に恐ろしいものを……

……分かった、預かっておくよ……」

 

 

時喰いと時止めを預かったフィンは時止めを装備して時喰いを手にした。興味本心だったのかもしれない、それが間違いないだった。その鞘を抜いた瞬間

 

 

「ッ!!!!!??」

 

 

自分自身がその刀身に吸い込まれる感覚に襲われ、フィンの全てを、これまでの人生や存在全てを持っていかれるような感覚が襲ってくる。本能的にすぐさま鞘に納めた。しかし力が抜け全身に冷や汗をかき呼吸が荒くなる。

 

 

 

「どうしたフィン!!?」

 

「………なんだい…さっきのは………」

 

 

「すみません、どうやら時を奪う相手もおらずに短剣を抜いたのでダ・団長に狙いを定めたみたいですね」

 

「い、意思を持っているというのか……」

 

 

「いえ、それは流石に。

でも時止めを持たないと簡単に時を奪う短剣ですから……あまり無闇に抜かないほうがいいかもです」

 

「あぁ、……身をもって分かったよ……」

 

 

こんな恐ろしいものを椿が作った。いやハジメの血が、存在がそれを作ったといったほうがいい。つまりはこの武器は()()()()()()のようなもの。

 

 

(改めて…分かった……

ハジメを野放しにするわけにはいかない。最低限今の状況を保たないと……もし、ハジメが時を奪うと決めた時は……)

 

 

簡単にその命を、時を奪われるだろう。

この時喰いや時止めがなくてもハジメ一人でも簡単に。

 

 

「それではお願いしますね」

 

 

そういって部屋を出ようとしたところをフィンが慌てて引き留める。

 

 

「ま、待ってくれ!

……どうしてこれを渡したんだい?」

 

「?? さっき言った通りですが」

 

 

「君がそれだけでこれを、危険なものを預ける訳がない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ハジメ、君は一体これから何をしようとしてるんだい??」

 

 

その問いかけにも振り向こうとせずに背を向けたままハジメはこう答えた。

 

 

「明日は新しいホームに行くわけなのでまずは心機一転、新しいことにチャレンジですかね

あと、それは()()ですかね?」

 

 

それじゃと言い残し扉が閉まり、残された二人をしばらく言葉が出なかった。

そして始めに話始めたのはフィンだった。

 

 

「……どう思うリヴェリア?」

 

「確証はないが……今まで以上の事が起きる…と考えたほうがいいかもしれないな」

 

 

「…まだ他の団員には話さないようにしよう。

憶測で動くにはまだ早い」

 

「そうだな……」

 

 

…………………………

 

 

「フィン!!リヴェリア!!!!

ウチの秘蔵の酒が無いんやあぁ!!!!!!!!」

 

「………これって………」

 

「一つは分かったが……面倒なことを…………」

 

 

そういえばこの館に来てからハジメが酒飲みになっていた。飲み仲間としてロキ達と飲んでいるうちにその美味しさに魅力されたようだ。

いやきっかけである神の酒(ソーマ)を飲んでからのようだ。一時停止により酔わないことがハッキリ分かってから上手い酒を探していたような………

 

そこら辺は分からないけど「前金」という言葉はきっとこれを指す

 

 

「ウチの酒がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」


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