影が薄くてもダンジョンを攻略する。のは間違っているだろうか? 作:ガイドライン
どうも。
なんとか速めに更新できましたけど、次は……今年中に出来るかな…………頑張ります。
それではどうぞ。
パリンッ
その音が店内に響き渡った。
普段は賑わう店内も必死に駆けつけたベルを見てバカ騒ぎが収まり、そしてベルから語られた言葉に辺りが騒然として、そしてその中心にいたリューが持っていたお皿を落としてしまったのだ。
ここにいるものなら誰でも知っているイシュタル・ファミリア。
そしてその神であるイシュタルにハジメが捕まったという事実。
そのことを告げたベルは続けたこう話した。
「で、でも、安心してください!
ロキ・ファミリアと
「「「「「なっ!!なにいいいぃぃぃッ!!!!??」」」」」
今度は店全体がその驚きに満ちた。
あのフレイヤ・ファミリアが急上昇してきたファミリアとはいえ団員も経験も少ない弱小ファミリアを、たった一人の者の為に"最強"と言われる二大巨頭が手助けするなんて……
そんな前代未聞な出来事に一気に客達は騒ぎ
「五月蝿いよッッ!!!!!」
だそうとしていたが、ミア母さんの一言で一気に静まり返った。
そしてそのままベルの前まで歩くと、ベルの頭に手を乗せて
「ったく、逃がすにしても自分のことも考えろって話さ。
あんたはよくここまで帰ってきたね」
「い、いえ、僕は……」
「素直に受け取りな。まぁ、ハジメには迷惑料として飯をおごってもらいな。もちろんここでだよ」
「はいッ!!!!!」
ベルの頭を強く撫でたあと放心状態のリューの元へ向かい強くその背中を叩いた。
「ッ!!!!??な、なにをッ!!」
「さっさといきなッ!!!!!」
「し、しかし…私は……」
「今回はハジメもリューも被害者さッ!!
それでも店を抜けるのに躊躇いがあるなら帰ってきてからこき使ってやるよッ!!!!!」
その言葉に少しだけ生気を取り戻したのか顔色が良くなったリューは
「……いえ。ミア母さんのこき使いは修行よりもキツイ」
「だったらさっさとあのバカを連れ戻してきなッ!!!」
はい!とその場で前掛けを外したリューは改めてミア母さんに一礼をした。そのタイミングで、まるでリューが助けに行くのが分かっていたようにいつの間にかいなくなっていたシルがリューの武器を両手に抱えて持ってきた。
「これがないと。でしょう?」
「シル……ありがとう」
「顔が割れたらダメなんだニャー。このコートと布も持っていっくニャー」
「助かります」
アーニャからはウェイトレス姿を隠す為の丈の長いコートと、顔を隠す為の布を渡された。すぐさまそれを身に纏い
「――クラネルさん。先に向かいます」
「えっ。ちょっ」
突然の、いや、予測はしていたけどこんなにも速く飛び出すなんて予想出来ずにリューを引き留めることが出来なかったベル。
しかしそれを見てミア母さんとシルは
「ったく……リューをこんな風にしちまって……」
「ええ。責任、とってもらわないといけませんね♪」
「いいかいあんたらッ!!!ここで話したことを他言してみなッ!!!!!二度とこの店、いや、他の店でも飲食出来ないと思いなッ!!!!!」
その一言で一瞬静かになってものの、すぐさまに元の活気に戻った店内。まるで
するとシルは店の奥に向かい戻ってくるとその手にはバスケットが、それをベルに手渡して
「何処かで食べてください。無事に皆さんが帰ってこれることをここで祈ってますね」
「ありがとうございます!行ってきますッ!!!」
…………………………
「というわけじゃ」
「い、いくらトキサキ氏を奪還のためだとはいえそれはッ!!!」
「んなもんは分かっとるわ。
ワシらのファミリアも、フレイヤ・ファミリアも罰を受けることを分かってでも協力すると決めたんじゃ。
それでもちっとは軽くなるためにと、報告する必要があるとこうしてきたんじゃろうが」
いきなり現れたロキ・ファミリアのガレスに誰もが驚きビビる中で真っ正面から対応しているのだが、正直こんな大物が目の前にいるだけでエイナもかなりビビっている。
それでも冷静にいられるのはそれは担当しているハジメがイシュタル・ファミリアに拉致されたからである。
正直なところハジメなら大丈夫だと思うが、相手はイシュタル・ファミリアである。フレイヤ・ファミリアのフレイヤが持つ"魅力"は無くともその美貌はどんな男も落としかねない。
しかしそれはそれとしてファミリアによる抗争はギルドにおいて禁止されている。もしあるとするなら以前行われた戦争遊戯をすることになっているのだ。もし勝手な行動によって抗争が始まるとするなら……
「だ、だとしてもギルドとしては見逃せませんッ!!!!!」
「あぁ。なら構わん。
報告はした、それだけじゃ」
そういって立ち去ろうとするガレスに「待ってください!」とエイナは引き留める。振り返るガレスに息を飲みながら
「……どうして他のファミリアである貴殿方がトキサキ氏を……」
「それだけの価値がある男。ということじゃ。
それはお主も分かるはずじゃと思うがな」
するとエイナは決心したような表情でガレスに向き合い
「……トキサキ氏を、ハジメ君を、よろしくお願いします……」
「あぁ。任せとけい!!」
真っ直ぐに正した姿勢からお辞儀をして、ギルドではなく、個人的にガレスにお願いをした。何も出来なくてもその言葉だけでガレスは満足したのかその場を後にした。
…………………………
「なんやドチビ。戦力はそれだけなんか?」
「五月蝿いなッ!!!これでも集めた方だよッ!!!!!」
そこにいたのはヘスティア・ファミリアからヴェルフ・リリ・命。タケミカヅチ・ファミリアから桜花・千草。ヘファイストス・ファミリアからは椿。ロキ・ファミリアからアイズ・ベート・リヴェリア・フィン。そしてフレイヤ・ファミリアから"最強"と呼ばれるオッタルがこの場にいるのだ。
「ここで最強と呼ばれるオッタル殿に会えるとは光栄じゃ!」
「……………」
「やめろ椿ッ!!!目的は同じだが馴れ合う感じじゃないぐらい分かるだろうがッ!!!」
「五月蝿いのヴェル吉は。ちょっとした挨拶じゃ」
「頼むから大人しくしててくれよ……」
怖いもの知らずなのかあのオッタルに話しかける椿に、急いで引っ張って連れ戻したヴェルフ。同じようにリリ達もハラハラとしてここで何か始まるんじゃないかと恐怖さえ覚えた。
「ごめんなさいね。オッタルは少し人見知りなの。
それに私達は直接イシュタルに会いにいくわ。ロキもヘスティアも一緒に行くんでしょう??」
「読まれてたか……あぁ、いくで。こっちはフィンをつける」
「ふふふ。まさかそちらもトップを出すなんてね……」
「敵地に乗り込むんや。これぐらいはいるわ。
そっちとこっちが入ればヘスティアのほうは出さんでええやろ?」
「もちろん」
「聞いた通りや。ヘスティアはハジメ奪還に戦力を使えばええ」
「あぁ。よろしく頼むよ」
後はヘスティア・ファミリアの戦力が全て揃えばと思っているとこちらに向かって走ってくる人影が……一気に駆け抜けて抜き去っていった。
「……おいおい。さっきのは……」
「はい。間違いなくリュー様です」
「あっ。ベルさんですッ!!!」
そのあとを追いかけるように走ってきたのはベル。
こちらも全速力で走っているのだろうが、さっき駆け抜けたリューのスピードには全く追い付かなかったようだ。
「お、お待たせしました……」
「ベル様。さっきのはリュー様でしたが……」
「た、体力が切れる前にポーションで回復させながら…常にトップスピードで走って……追い付きませんでした……」
「後先考えずにやっとるな~。
まぁ、ハジメが捕まったんや。動揺せんほうがおかしいな」
…………………………
「お、おい……なんだアレ……」
「こっちに向かってくる、わね……」
逃げ出したベル・クラネルを探しているイシュタル・ファミリアのアマゾネス達。出入口付近で見張っていたのだが一向に見つからずにどうしようかと悩んでいたところであった。
土煙が上がるほどのスピードで迫ってくる何か。
それが人影だと分かったアマゾネス達は武器を取り警告した。
「これ以上来るんじゃないよッ!!!」
「いまはここに誰も入れ…」
「私の、邪魔を、するな」
一瞬の内に懐に入られ、その声を聞いた時にはすでに彼女達の体は宙に浮いていた。
気付かれない内に、持っていた武器で吹き飛ばされていたのだ。
そしてそれを理解したのは気絶して二時間後の話である。
…………………………
「来てくれて嬉しいわ」
「そうですか。僕もお話したかったので」
ハジメの目の前には妖艶な姿をした神イシュタル。
普通の男なら同じ部屋の中、至近距離にいられたら恐れ多い神だとしても、その人間の、動物的な性的本能に抗うことは出来ずに押し倒しそして行為に及ぶだろう。
しかし目の前にしても一向に変わらないハジメの態度に内心動揺するイシュタル。そしてそれと同時にハジメが欲しいという欲求と高揚感に包まれていた。
「私の美貌に靡かないなんて……あの子と同じなのね……」
「ベルベルと一緒なんて心外です」
「同じファミリアなんじゃないの?」
「だからといってヘタレベルベルと一緒してもらいたくないですね」
「へぇー。ならヘタレじゃない貴方は私を……楽しませてくれるのかしら?」
ゆっくりと、ゆっくりと、近づく。
焦らして焦らして、向こうから飛び付くように。
いくら欲求に耐えようとも全快で攻めてくる"美の女神"に抗うことなんて出来ない。
骨の髄まで魅力し、行為が終わったころには、指一本動かすにもイシュタルの指示がいるほどに……
しかしハジメの顔色は、いや、眉1つ動かさない。
これはあまりの魅力に体が動かなくなるほどに心奪われたのか、それとも……
真相が分からないとイシュタルはゆっくりとその手をハジメの顔に………
カンッ!!カンッ!!カンッ!!!!
突然鳴り響く鐘の音に引き戻されたイシュタル。
そしてそこで
いや、
(い、いま…何をしようと、したッ!!?
……私はこの子を、み、魅了しようと………
それなら…どうして………音が聞こえるまで
無意識にやろうとしていたことに動揺したイシュタルは一歩、二歩と後退をする。
それを見たハジメは首を傾げながら
「どうしましたか?顔色が悪いようですが」
「き、貴様……私に、何をしたッ!!!!!」
「何もしてませんけど…」
「嘘をいうなッ!!!神である私に嘘なんて………ッ!!!??」
そう。ハジメは嘘をついていない。
何もしていないのだ。何も。
それなのにまるでイシュタルがハジメに"魅了"されたような…
そのことが頭を過った瞬間、急にハジメの存在が怖くなり、そして自分が、女神である自分が、魅了しようとした自分が逆に落とされかけたことに恐怖し始めた。
「な、なんなの…何者なの……お前はッ!!?
こんなものにフレイヤは…手を出そうとしているというのッ!!!?」
「こんなものとは、失礼ですね」
全く底が見えないハジメにイシュタルは完全に怖じ気づいた。
そしてそんな二人がいる部屋に突然イシュタルファミリアのアマゾネスが慌てて入っていた。
「た、大変ですッ!!!」
「な、なんなのいきなりッ!!!!!」
「す、すみませんッッ!!!!!!
し、し、しかし、いまこの歓楽街に侵入者がッ!!!!」
「侵入者ぐらいでこの部屋に……ッ!!!」
許可もなく入ってきたアマゾネスに、さっきから溜まりに溜まっていた不安や恐怖などのストレスを発散させようと、その手をアマゾネスの頬に……
「たった1人のエルフに街が壊滅状態なんですッッ!!!!!!」
「な、………な、なに………」
あり得ない言葉に耳を疑うイシュタル。
すぐさま街が見える窓に移動して外を見るとそこには
「……な、なんなの……これは………」
華やかで、活気に満ち溢れていた街は、叫び声と、真っ赤な炎があちこちで見られ、冒険者の、男共の楽園と呼ばれる街は、戦場と化していた。
「それに、あの
「……は………は………」
今頃になって、気づいた。
自分がとんでもないものに手を出したのだと……
しかし時既におそい。街は壊滅状態。
そして自分は、手を出そうとしたものに、逆にやられそうに……
それを理解した瞬間に味わったことのない恐怖感が体を駆け巡り、みっともなく転んで倒れて、それでも立ち上がりながら、瞳に涙を貯めて声にならない奇声をあげながら逃げ纏うように部屋から逃げ出した。
「い、イシュタル様ッ!!!!!」
突然のことにアマゾネスは驚き動き出すのに遅れたがすぐさま追いかけた。そして残されたのはハジメだけ。
「なるほど。やっぱりリューを怒らせるのだけはダメですね」
うんうんとこんな状況でも冷静に判断し、暴れているリューを止めようと部屋から出ていったハジメ。
メラメラと燃えゆく街並みと
リューの愛の無双とハジメの無自覚巻き込み無双。
イシュタルファミリア、死す。
まだ本格的な戦闘もしてないのにね(笑)