迷宮都市の投影者【ストーリー修正中】   作:ドライグ

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※1変更点:『セイバー』→『ペンドラゴン』


悔しさを胸に

メインストリートから外れた裏道を通り一帯が静けさに包まれた頃、現れたのは一つの教会だった。ココこそが我らがファミリア、ヘスティア・ファミリアの本拠地である。

地下へと続く階段を降り、現在使用している部屋に挨拶と共に入り込む。

 

「ただいま」

 

するとすぐ近くでベルが申し訳なさそうに立っていた。俺を置いていった事を悔いているのだろう。その様子が見受けられただけで満足だ。

 

「ごっ、ごめんね、アッシュ」

 

と正直に頭を下げてくる。

 

「大丈夫だ、心配すんな。...まあ、これで悪びれずにステイタスの更新とかしてたらブッ飛ばしてたかもな」

 

「じょ、冗談だよね」

 

「まあな」

 

1割ぐらいは」

 

「殆ど全部本気じゃん!?」

 

おっと、口に出ていたようだ。今日もベルのツッコミが冴え渡る。

そんな会話を繰り広げていると、奥から幼女...もといヘスティア様がやってきた。

 

「アッ君もお帰りー。2人して早かったって事は稼ぎはあまり見込めないかな?」

 

「そうですね」

 

「神様はどうでしたか?」

 

「ふっふーん、売り上げに貢献したという事で大量のジャガ丸くんを頂戴したんだ!どうだ!」

 

「神様すごい!」

 

「すごいすごーい」

 

「ちょ、アッ君、なんでそんな棒読みなんだい!?」

 

「そんなことないですよー」

 

「絶対そうだよ!?」

 

とまあ、棒読みをしてからかっているが、正直ありがたいところだ。少しでもお金を稼いで明日を生き抜かなければならないからだ。食費は二番目にかかる(一番かかるのは武器・防具)ので、夜飯がタダなのはかなりいい。

 

「もうっ、アッ君。それにしても、マスコットキャラとして可愛がってくれるけど、ボクのファミリアに加わりたいっていう子は相変わらずいないね...ボクが無名だからって、みんな現金なんだからっ」

 

「授かる恩恵はみんなどこも一緒なんですけどね.....」

 

「始まって半月しか経っていないのに高望みしすぎじゃありませんか?こんな新米ファミリアにもう既に2人も居る時点で十分だと思うのですが...」

 

「そ、そうだよね!ボクは2人が居れば幸せさっ!」

 

「神様...」

 

「わーうれしいなー」

 

「また棒読みだよ、アッ君!?」

 

またもや棒読みで返されたので、ヘスティア様は目に涙を浮かべ俺に向かってポカポカとパンチをしてくる。うん、全然痛くない。

あしらっていると、途中で敵わないと気づいたのか殴るのをやめ、やれやれ.....と溜息をつく。

 

「.....さて!無駄話はもう終わりにして、ボク達の未来のためにステイタスを更新しようか!どっちから更新する?」

 

ベルに顔を向けると、先でいいよ、と言ってきた。さっきのことを気にしているのだろう。その意図を汲みお先に失礼し、上半身を裸にしてベットに寝転ぶ。

ヘスティア様は取り出した針を指に刺し、神血を滲ませ背中に垂らす。そして手慣れた手つきで刻印を刻み込む。更新が終わると神聖語を共通語に翻訳し、紙に書き写し終えると俺に渡してきた。

 

 

アッシュ・ペンドラゴン

Lv.1

力:I73→I79

耐久:I26→I41

器用:I91→H105

敏捷:I95→H107

魔力:H124→H137(C737)

《魔法》

【ソードフル】

 

《スキル》

解析の魔眼(アナライズ)

 

魔術回路(マジックライン)

 

剣の楽園(レジェンダリー・クリスタル・ソード)

 

 

「全体的に大きく伸びてるね。そういえばベル君が『死にかけました.....』って言ってたけど、何があったんだい?」

 

そう聞かれたので、5階層であったことを素直に全て口にした。話しているうちにヘスティア様はみるみるうちに顔を青くしていった。

 

「そそんなことがあったのかい!?君たちに死なれたらショクで泣き崩れてしまうよ」

 

「大丈夫です。神様を路頭に迷わせることはしませんから.....ベルが」

 

「ボクなの!?」

 

「ハハッ、冗談だよ」

 

そう言って、改めて紙に目線をを落とす。耐久が15も上がっているのはミノタウロスの攻撃を何度か受けたからで、器用が14も上がっているのは何度か受け流したりしたため、そして敏捷が12も上がっているのはミノタウロスを追いかけたから、と推測する。生死を分けるような厳しい戦いだったからこそ、得られたものも多かったのである。

そんな思考を巡らせている間にベルも自分が感じた出来事を話しながら、ステイタスの更新に移っていた。一瞬ヘスティア様がピクリと止まったように見えたが、そのまま終えたので何事も無かったのだろう。

その後、ベルは何だかやる気をみなぎらせながらキッチンへと歩んでいった。横目でヘスティア様を見ると頭を抱えて、唸っていた。

どうしたのかと聞いてみたが、慌てて誤魔化された。

絶対ベルになんかあったでしょう。バレバレですよ、と思いつつもヘスティア様の考えを尊重しようと決め、ベルのことを手伝うためキッチンの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........んっ、んんー」

 

光の届かない場所で、俺は目を覚ます。豊饒の女主人で働いていた頃、5:00起床が規則だったので自然に5分前に起きることが染み付いていた。最初の頃は起きれずにミアお母さんに叩かれて起こされていた。そこから叩かれないように必死に起きるよう努めた。だってミアお母さんの打撃、マジで痛い。初めてやられた時は、木槌で殴られたのかと思った。

そんなちょっと昔のトラウマ(思い出)を思い出しつつ、起き上がろうとした時、俺とベルの間に丸いものがいるのを視認する。そっと覗き込むと案の定、ヘスティア様がいた。

 

「(また寝ぼけたのか?)」

 

二回目(一回目は、俺がファミリアに入った時の夜)のことだったのでスルリとすぐさま体をずらし、床のベット(と言えるのか分からないもの)から脱出する。そしてしっかりと意識を覚醒させるため、キッチンへと顔を洗いに向かった。

5分後、ベルが目を開き、ヘスティア様を認識した時に声にならない叫びをあげたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝からとんだハプニングだったね」

 

「ああ.....2回目だったからなんとかなったけどな」

 

「ほんとアッシュの適応の速さってすごいよね...」

 

朝特有の冷気に包まれながらメインストリートを二人で歩く。

あの後、ベルが逃げたそうにしていたので二人でダンジョンに行く準備をして部屋から出てきたのだ。しかし、急いで出てきたので朝ご飯はまだである。このままだと碌に探索もできない。

何か買おうかなぁーと思案していると背後にねっとりとした視線を感じる。

 

「!!」

 

「!?」

 

瞬時に振り返る。ベルも感じたのかあたりをキョロキョロと見回していた。

 

「ねえ、アッシュ。今のって.....?」

 

「分からん。だが、視線は確実に感じた」

 

「だよね...「あの.....」!」

 

後ろからの声にベルはすぐさま反転し、構える。一方俺は、聴き慣れている声だったので身構えることなく、ゆっくりと振り返る。

そこにいたのは、『豊饒の女主人』で働いているヒューマンの少女、シルさんだった。

ベルはシルさんの姿を視認すると慌てて頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい!ちょっとびっくりしちゃって.....」

 

「い、いえ、こちらこそすみません.....」

 

両者ペコペコ頭を下げている。三人称で見ると、なんだか面白い。

頭を上げた後、シルさんはこちらを向いて柔らかい笑みを浮かべた。

 

「無事入団できたんですね、アッシュさん」

 

「おかげさまで。今度報告に行こうと思ってたんですが.....」

 

「そうなんですか?じゃあ、みんなに伝えておきますね、近日中にアッシュさんが来るって」

 

「じゃあお願いします」

 

会話をしていると、ベルが不思議そうな顔をしてこちらを向いてきた。

 

「知り合いなの.....?」

 

「そういえば言ってなかったな。俺がオラリアに来てお世話になったヒトなんだ。名前はシル・フローヴァさん」

 

「シルって呼んでくださいね」

 

「よ、よろしくお願いします、シルさん。僕は、ベル・クラネルって言います」

 

「ベルさん、ですね。よろしくお願いします」

 

二人の自己紹介を済ませる。と、何を思ったかシルさんは店内へと消え、少しすると手にバスケットを持って帰ってきた。

 

「良かったらこれどうぞ。朝ご飯、まだ食べてないんでしょう?」

 

「ええっ!?そんな、貰えませんよ!」

 

「これって、シルさんの朝ご飯でしょう?大丈夫なんですか?」

 

するとシルさんは少しはにかんでずいっ、と俺の手に押し付けてきた。

こりゃ、断れないなと思い、素直に受け取ることにする。

 

「すみません。代わりに今夜店、に出向いて晩御飯食べますね。こうしようぜ、ベル?多分、というか絶対シルさんは引かないから」

 

「えっ、えーっと.....うん、そうしよっか」

 

「はい、お願いしますね」

 

そうしてシルさんに見送られながら、白亜の摩天楼を目指し歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ダンジョンへ向かった俺たちは、今夜外食に行く為、何時もよりも増してやる気を出してモンスターとの戦闘に挑んだ。(外食って高いものね)

何時もの1.5倍の稼ぎを出した俺たちはホクホク顏でホームに戻った。が、一転して豊饒の女主人に向かうベルの足取りは重い。理由は、まあ、御察しの通り神様に怒られてしまった。ベルが。

昨日と同じように俺・ベルの順にステイタス更新を済ませた。しかし、ベルの更新が終わるとあからさまに不機嫌なオーラを放っていた。初めは、俺たちに対してか、と思ったかが、目線で察した。

明らかにベルを見ている。というか睨んでる。

こればかりは全く見当がつかず、困惑してしまった。そうこうしているうちに、神様は何処かへ行ってしまった。捨て台詞を吐いて。

 

「ベルさんよ。元気出せ。あんまり気にしてるとこれから食べる飯が不味くなるぞ」

 

「..........うん」

 

ヤバい。ガチ凹みしてる。

と言っても俺に出来ることは他にない為、時間でどうにかしてもらうしかない。

そのまま歩みを進めていると見慣れた店が目の前に現れた。ベルが看板を見て顔を真っ赤してびっくりしている。

 

『豊饒の女主人』

 

その名から察せる通り、全て女性で構成している酒場だ。一時は裏限定で俺という男が入ったが、表のウエイトレスはずっと女性である。

 

「よし、入るぞベル」

 

「えっ、いや、ちょっと、心の準備を.....」

 

店の前で突っ立っているとシルさんがやって来た。

その様子を見て観念したのか、ベルは頷いた。

 

「お客様二名入りまーす!」

 

前と変わらず元気だなぁ、ここは。

そんな感想を抱きながらシルさんに着いて行く。その途中、見知ったウエイトレスに手を振られたので振り返しておいた。

案内されたのはカウンターの一番隅。ベルの為に気遣ってくれたのだろうか?

 

「アンタがシルのお客さんでアッシュの同僚かい?可愛い顔してるねえ!そんでもって、アッシュ。久しぶりだね。無事ファミリアに入れたようで安心したよ」

 

「はい、おかげさまで。後日、一様報告はしようと思ったのですが、色々と重なっていけるタイミングが合わなかったんです」

 

「良いよ良いよ。無事に入れたのならそれでいい」

 

本当マジミアお母さんいい人。

 

「でも、今日はジャンジャン食ってもらうからね。賄いは無しだよ!」

 

「了解です」

 

お世話になったところだし、しっかりお金は落として行かないとな。

するとベルがこちらをじっと見つめてきた。

 

「.....どういうご関係?」

 

そういえば話していないな。この際だから話してしまおう。俺は、オラリアに来た時からベルに合うまでの間のことを詳しく話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....っということなんだ。ほんと世話になった所なんだよ、ここは」

 

「へぇ〜そんなことがあったんだね」

 

俺の過去話を終えると、シルさんがこちらにやって来た。

 

「お仕事の方、大丈夫なんですか?」

 

「はい。今は、給仕の方は間に合っているんです。でも、キッチンは忙しいですね」

 

そう言ってこちらに目線を向けてきた。その視線の意味を理解すると、ため息が出た。

しかし、丁度飯も終わったので運ぶついでに行うことにした。因みにベルは、食事中。

 

「ミアお母さん、キッチン入りますね」

 

「流石アッシュさん。カッコいいです!」

 

「もともとそのつもりだったでしょうに...」

 

呆れながらも、ミアお母さんに了承を貰うと、一旦店を出て裏口から厨房に入る。

そこには見知ったヒトたちが忙しそうに仕事をしていた。

袖をまくり、手早く準備を済ませると一番忙しそうな料理場へ向かう。

 

「お手伝いしますね」

 

「ん?...って、おミャーはアッシュかニャ⁉︎」

 

「お久しぶりです、皆さん。忙しそうだったので手伝いに来ました」

 

「助かるニャー。おミャーがいれば、百人力ニャ!」

 

「そんなことないと思いますけどね。で、何故こんなにも忙しいんですか?何時もだったらもう少し余裕あると思いますし、今日は何時もよりも人が少ない気もしますが...」

 

「そーなのニャ!今日はあの馬鹿でかいファミリア(・・・・・・・・・・)が遠征から帰って来て、この店に来るんだニャ!」

 

「馬鹿でかいファミリア.....? ‼︎それってもしかして...」

 

入り口から沢山の足音が聞こえる。顔を上げると、とある一団が入店して来た。

 

「『ロキ・ファミリア』」

 

ミアお母さん曰く、ロキ・ファミリアは常連だそうで、遠征から帰還後、必ずやってくるそうだ。一週間働いていた俺だが、遂に会うことはなかった。アイズ・ヴァレンシュタインさんには、ダンジョンで会ったが、他のメンバーは名前を知っているだけで顔すら見たことがない。

だが、これで忙しい理由が分かった。この集団が一度に来て注文するとなると、あらかじめある程度用意して置かなければ間に合わないだろう。

理由が分かった所で、改めて調理の手を早めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間が経つと、注文が落ち着き、忙しさが減った。もう大丈夫だろうと思い、帰宅するための準備をしていると、一人の男の声が耳に聞こえてきた。

その声は、例のロキ・ファミリアからだった。

 

「そうだ、アイズ!あの話を聞かせてやれよ!」

 

「あの話.....?」

 

「あれだよ、あれ!帰る途中で取り逃がしたミノタウルス!最後の一匹、お前が5層で始末しただろう⁉︎あの時いたトマト野郎の!」

 

ピシリと空気が凍った。いや、正確に言えば俺の周り。恐らくベルもだろう。

頭が冷気を帯び、男の冒険者の声が明確に聞こえてくる。

 

「ミノタウルスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐに逃げ出していった?」

 

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に登って行きやがってよっ、俺たちが追いかけたやつ!」

 

話の流れはもう既に理解できた。が、俺にはどうすることもできない。

止まることは無い。

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇ冒険者(ガキ)が!」

 

「抱腹もんだったぜ、兎みたいに追い込まれていってよぉ!途中仲間が助太刀に入ったが、そいつも避けることが精一杯で一方的だったけどなぁ!結局二人ともビビって震え上がって、顔を引きつらせてやんの!」

 

何も、言えない。何故なら全て事実だから。恐怖に怯えたのは事実だから。

 

「ふむぅ?それで、その冒険者たちどうしたん?助かったん?」

 

「アイズが間一髪のところでミノを細切れにしてやったんだよ」

 

「.....」

 

「それで一方はあのくっせー牛の血を全身に浴びて.....真っ赤なトマトになっちまったんたよ!片方は浴びたやつの影になって全身には浴びなかったけどなぁ。くくくっ、腹痛えぇ!」

 

「うわぁ...」

 

「アイズ、あれ狙ったんだよな?そうだよな?」

 

「.....そんなこと、ないです」

 

「それにだぜ?そのトマト野郎叫びながらどっか行っちまってっ.....!うちのお姫様助けた相手の片方に逃げられてやんの!」

 

その言葉で笑いに包まれるロキ・ファミリアの団員たち。

だが、徐々にそれは聞こえなくなり、男の声だけが聞こえてくる。

 

「しかしまぁ久々にあんな情けねぇヤツラを目にしちまって、胸糞悪くなったな。仲間をかばったと思ったらそのまま野郎のくせに、べそかきやがった」

 

「ほんとざまぁねぇよな。ったく、泣きわめくくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁアイズ?」

 

「ああいうヤツラがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねぇヤツラを擁護して何になるってんだ?

それはてめえの失敗をてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミって言って何が悪い」

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎どもを。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ? あのガキどもと俺、ツガイにするなら誰がいい?」

 

「うるせぇ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどのの雄に尻尾振って、どの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

「黙れババアッ。……じゃあ何か、お前はあのガキどもに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねぇ。他ならないお前がそれを認めねえ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

ドタン、と何かが転がる音とシルさんの声が耳に入ってくる。固まっていた思考が氷解し、辺りの音が聞こえてくる。俯いていた顔を上げるとベルが外に走っていく様子が見えた。

 

「食い逃げか?」という声が聞こえてきたが、そうではないことを俺は知っている。そんなことをする奴じゃないということも。

無言のまま身支度を整える。ベルが行ったところは大体予想がつく。いや、あそこしかないだろう。あの会話を聞いた後では。

店を出る前にミアお母さんの元へ向かう。

 

「.....これ、お代です。ベルの分も入ってます。.....それでは、今日は失礼します」

 

心情を察してくれたのか、何も言わずに受け取ってくれた。一度に頭を下げ、外へと向かう。

店の外に出るとそこにはアイズ・ヴァレンシュタインさんがいた。こちらの顔を視認すると驚いたような、そして申し訳なさそうな表情をされた。

 

「...ごめんなさい」

 

「あなたが謝ることじゃない。それに...あの人の言葉は全て事実ですから。だからこそ、悔しい。俺も、ベルも」

 

それだけ伝え、一度お辞儀をし、ベルが向かった方向へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルは予想通りの場所にいた。

それは、ダンジョン。

既に5階層を突破し、6階層に突入していた。

 

「ベルっ!」

 

「!」

 

俺の声にピタリとベルの動きが止まる。

俺は歩みを進め、そばによる。

ベルの姿はもう既にボロボロで体の節々から血が滲み出ていた。

 

「付き合うよ」

 

「えっ...」

 

「何で驚くんだ?連れ戻されると思ったのか?」

 

その言葉にベルは頷く。

 

「強くなりたいんだろ?」

 

「!!」

 

「なら止めないさ。俺だって同じ気持ちだ。だから、止めるなんて野暮なことはしないよ」

 

「アッシュ.....」

 

「でも、一人だと心配だ。だから付き合うよ」

 

「...うん!」

 

ベルの元気が少し治ったことに笑みがこぼれる。そして、明かすことにした。例の魔法を。

 

「ベル。見てくれ」

 

「?」

 

「ーーー【投影、開始(トレース・オン)】」

 

短文の詠唱式を唱えると手に一本の短剣が現れる。それは、ベルが現在所持しているナイフを上回る業物の短剣だった。

突然短剣が現れたことにベルは驚きを隠せない。

 

「これが俺の魔法、投影魔法(グラデーション・エア)。剣に属するものであれば、複製し創り出すことができる魔法だ」

 

「それが、アッシュの、魔法...」

 

「...今まで隠していて悪かった。神様と相談したこととはいえ、悪いことをしたと思ってる」

 

俺の謝罪にベルは頭を慌てて横にブンブン振った。

 

「だ、大丈夫だよ!気にしてないから!ただ、凄いなぁと思っただけ!」

 

「...ありがとう」

 

ベルの寛容な心に感謝しつつ、模倣した短剣をベルに渡す。

 

「使ってくれ。ベルの持ってる短剣より数段上のものだ。それを使えば、より敵を倒せる」

 

「...うん、分かった。ありがとう、アッシュ」

 

お互い笑みを零した時、辺りから得体の知れない音が響く。しかし、俺たちは笑みを崩さない。俺たち二人なら負けることは無いと信じているから。

 

()ろうか、ベル。あと、その短剣は模倣品だ。切れ味は保証するが耐久は低い。でも、壊れたら俺が作ってやる」

 

「うん!」

 

彼らは合図した如く、同時に敵へと飛び込んでいった。




皆さまお久しぶりです。ドライグです。
二ヶ月間更新を停止してしまい本当に申し訳ありませんでした。
スマホをぶっ壊されたり、とある検定があったりとなかなか執筆時間が取れなかったのが理由です。
また、執筆停止中に感想をくださった名無し様。返信出来ず申し訳ありませんでした。理由としては、投稿出来るかも分からないのに変に返信してしまうと失礼だと思ったからです。一様、今話投稿後返信します。不快にさせてしまったのなら本当に申し訳ありませんでした。

『投影者』の方は今回のように二ヶ月あくというのはもうほぼ無いと思います。これからは不定期ながらも、時間を見つけ執筆したいと思います。私自身も妄想している部分を書きたいですしね。

ではまた!

※1 データファイルNo.1を編集しました。
※2 ※1に伴い、4話のステイタスを変更しました。
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