迷宮都市の投影者【ストーリー修正中】   作:ドライグ

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それぞれの思惑

 

神の宴から2日が経過した。彼らの主神であるヘスティアがいまだホームに戻らぬまま時間が経っていた。宴に出かける際に、数日留守にするということを伝えられていた彼らは、若干の心配はあるもののいつも通りダンジョン探索に励んでいた。

徐々に――といっても一般の冒険者とはかけ離れたスピードだが――攻略階層を伸ばしている彼らは確かに自分の実力が向上していると感じつつ、攻略を終え帰路につく。途中、モンスターが入っているであろうカーゴや聞きなれない単語、普段お世話になっているギルドのアドバイザーを見かけたり、更にはミヤハという神に出会ったりしたがとある場所へと足を運ぶ。ある場所とは、彼らのホーム、ではなく一つのお店だった。最近ここに立ち寄るのが日課となっている。

一人は羨望を目に浮かばせながら煌めく数々の一級品を眺め、一人は蒼色に染まった眼差しで数多の武器、特に剣類(・・)に目を走らせる。その二人の表情は正反対であった。

 

 

それと同時刻、偶然か必然か場所は違うが同じ店のいわば執務室と呼ばれる場所に――こちらは表情が見えないが――一人が鎮座していた。...いや、土下座(ちんざ)していた。

そしてその態度に疲れた溜め息を零す女神へファイストス。それもそのはず、丸一日彼女はこの体制を続けているのだ。丸・一・日。

いくら拒否しても、いくら嫌味を放っても彼女は微動だにしない。変な所で頑固な彼女の性格をヘファイストスは知っている。今回も折れることはないということも重々理解している。

そのことにもう一度溜め息をすると、諦めたように、だがまっすぐな声で彼女――ヘスティアに問いかける。

 

――どうしてそこまでするのか、と。

 

変わらぬ姿勢の彼女から零れたのは、熱く厚い自身の眷属への愛情(おもい)。そして、自身の無力さへの嘆き。

今にも消えそうな、それでいて偽らざるその言葉は.....ヘファイストスを動かした。

お金は必ず何年、何十年かかっても返済することを釘を刺して約束させ、ヘファイストスは作業を始める準備を整える。これは、(ヘスティア)と (ヘファイストス)と個人的なやり取りなので自らの団員を巻き込むわけにはいかないという彼女なりの配慮だ。天界と違い特別な力のないへファイストスだが、ヘスティアはひどく喜ぶ。その態度にまんざらでもないような表情を浮かべつつ、要望を聞く。

一人はナイフとすぐに返答が来たのだが、もう一人の得物の返答がすぐに帰って来ない。疑問が浮かび、自分の眷属の得物も知らないのかと呆れたようにヘファイストスは問いかける。

それに対してヘスティアは慌てて否定する。【ソードフル】(魔法)のことは控えながら、得物が一定でないことを伝える。

片や駆け出しの冒険者に持たせる一級品装備、片や同じく駆け出しの冒険者に持たせる一定ではない武器、もしくは防具。二人とも難しい注文ね、と呟きながら、まずはナイフからだと製作に乗り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主神不在のホームに、朝日が照らされる。昨日から一日、通算三日目がたった。

ヘスティア様はいまだ帰ってきていないが、背中の神聖文字(ヒエログリフ)は消えていないので一応大丈夫だろう。流石に一週間も帰ってこないとなると探すだろうが。

だが、自分――アッシュはそう思っていたがベルは心配なようで少しだったが気持ちが沈んでいた。まあ、途中で切り替えたみたいだが。

 

「あのさ、アッシュ」

 

「ん?」

 

ダンジョンに行く身支度をしていると、ベルに声を掛けられた。なんでも5階層に進みたいとのことだ。先日のダンジョンの突入のことでまだ罪悪感があるようで、恐る恐るという感じだが俺は一向にかまわなかった。ここ2日間はなにか物足りないと思っていたし、丁度師匠たちとの修行の成果がどれほど出ているか知りたかったのだ。

その返答にベルは嬉しそうな顔を浮かべ、そんなベルを尻目に俺は残りの支度に取り掛かった。

 

 

連携を今一度確認しながら西のメインストリートを進んでいると俺にとっては聞きなれた活力のある声が聞こえてきた。

 

「アッシュと白髪頭!待つニャ!」

 

声から予想していた通り発信源は豊饒の女主人で猫娘(キャットピープル)のアーニャだった。

彼女は店先で俺たちが止まると手に誰かの財布を持って近づいてきた。

 

「どうしたんだ、アーニャ?」

 

「これをシルに渡して欲しいのニャ.....ってまたタメ口ニャ!なんでミャーだけそんな雑なんだニャ!」

 

「.....あー、なるほど。分かった、渡しておく」

 

「よろしくニャ.....って無視するニャー!!!」

 

なんだか猫が騒いでいるようだが、いつもの如くスルーする。基本的に誰であろうと目上か年上であれば敬語を使う俺ではあるが、なぜだかアーニャには適応されなかった。一番最初の方は、使っていたのだが...解せぬ。

ふと隣を向くとベルがわたわたしていた。どうやら状況についていけてないらしい。そんな何ともカオスな空間に一人のエルフがやって来た。

 

「アーニャ、それでは説明不足です。もっともアッシュさんは理解できたようですが...アッシュさんもほどほどにしてください。アーニャなので仕方ないとは思いますが」

 

「あはははは、すみませんリューさん。助かりました。ベル、端的に言うとシルさんが財布を忘れたから届けて欲しいって意味だ」

 

「ああ、そういう事だったんだね。理解したよ」

 

リューもひどいニャ!と騒ぐ声を無視し、話を進める。なんでもシルさんは今日開かれる怪物祭(モンスターフィリア)なるものに出かけているらしい。最近町が騒がしかったのはそれが理由かと自分で納得する。俺はもちろん、ベルも最近オラリオに来たばかりだったのでそういった情報に疎いのだ。無視され続けてしょぼくれていたアーニャに少しかわいそうだと思い、祭についての説明を求めると、嬉々とした顔で説明を始めた。チョロい。(なんだか手なずけていますね、とリューさんに若干のジト目をもらった)

怪物祭とはダンジョンから連れてきた怪物(モンスター)を闘技場で調教する年に一度の催しなのだそうだ。主催は、闘技場を管理する【ガネーシャ・ファミリア】という実力・構成人数ともに迷宮都市屈指のファミリアだ。この都市に疎い俺達でも、聞いたことのある名だ。

また、調教(テイム)とは確立された技術らしく、通常は地上のモンスターを手なずけるらしいが、実力があればダンジョンのモンスターでも可能らしい。

 

とまあ、一通り事情を把握した俺たちは、シルさんに財布を届けるため出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻、とある場所にて二柱の神が同席していた。

ここオラリオにて最強とうたわれる二対のファミリア――『ロキ・ファミリア』『フレイヤ・ファミリア』。その両主神が大通りに面する喫茶店の二階にて対面している。また、片方の神――ロキの傍には『剣姫』の二つ名をもつ、アイズ・ヴァレンシュタインが隣席していた。と言っても、二人の会話には参加せず、傍観という形で座っている。

傍から見れば、ただ会話をしているようにしか見えない二柱の神ではあるが、店内には形容しがたい圧力感が充満していた。それは、紛れもなくこの神たちから発せられていた。

だれもが息を止め、行動を止め、しかし、二人の会話を聞こうとするものなど誰もいなかった。その沈黙を破るように、ロキが口火を切った。

 

「何を企んどるんや、フレイヤ?」

 

「何のことかしら?」

 

「何を惚けとんのや。興味なかったくせして、宴には出てくるわ。出てきたとおもたらすぐに帰るわ.....企んどる以外何があるっていうんや」

 

「あら?私だって、それくらい出るわよ?」

 

「じゃかしい。んで、なんや?男か?」

 

「..........」

 

「図星やな」

 

と、ロキは呟き、全く.....、と息を吐きながら背中を椅子に預けるように深く座り込んだ。そして、一息つくと、さらなる言及を始めた。

 

「その男はどこのファミリアなんや?いつ見つけたんや?いつもこっちは面倒な気を使ってるんや。聞く権利くらいあるやろ」

 

「そうね.....強くはないわ。まだまだ駆け出しって所かしら。今はまだとても頼りないわ......でも」

 

細い唇が震え、頬にわずかな朱がさし、声に熱が帯びる。

 

「綺麗だった。透き通っていた。眩しかった。今まで見たことのないような、そんな子」

 

そう言いつつ、視線を窓の外に移す。

 

「あの時は本当に偶然目に入ったの。そして、目を奪われた」

 

思い出すように目を瞑り、そして、目を開け、言葉を新たに口にする時、さらに頬を緩めた。

 

「そう、そして、不思議な子を見てしまったの」

 

その言葉にロキはその細い目を見開き、椅子から立ち上がった。

 

「おま、まさか、二人も.....!!」

 

ロキが詰め寄るのと同時に、フレイヤもすくりと立ち上がった。

 

「ごめんなさい。急用を思い出したわ。それじゃあ」

 

「まてや、フレイヤ!まだ、話は終わっとらんで!」

 

ロキの静止する声を無視し、フレイヤは足早に去って行った。

 

「なんなんやあいつ.....なあ、アイズたん」

 

フレイヤが去って行った方向をにらみつつ、再び椅子に腰かけ、隣に座るアイズに話しかけた。当のアイズは、目線を窓に向けていたようで、反応に遅れながらも首を横にふるう。

なんやなんやー何見てたんやーとロキに絡まれつつ、アイズは先程通った二人の冒険者を思い出す。

奇しくも同じ冒険者も見つめていたとは、誰も知りえない偶然であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんな因果か、時同じく【ヘファイストス・ファミリア】にて一つの武器(短刀)が完成した。一神(ひとり)少しの疲労を含ませた息を吐き、もう一神(ひとり)は感嘆の息を吐いた。

一神――ヘスティアは、もう一神――ヘファイストスから渡された箱の蓋を開け、もう一度ほぅ、と息を漏らした。

漆黒の鞘に納められた黒柄の短刀。銘を、『(ヘスティア)のナイフ』。彼女を形容した(・・・・・・・)と言える武器。それが、一日という時間を掛け、出来上がった。

 

「やっぱり、最高だよ君は!ヘファイストス!文句なしだ!」

 

「はいはいありがとう。そんなに褒めても、値切ったりしないからね」

 

「わかってるさ!」

 

そんな彼女の感情を示すように波打つ。ヘファイストスも満足のいくものが出来たのか、それともヘスティアの要望に応えられたのかは分からないが、髪をおろし、微笑を浮かべる。緩まった雰囲気を見計らったように二人がいる部屋に一人の鍛冶師がやって来た。

 

「こんなところに居ったのか、主神様よ...っと、ヘスティア様もおられたの...か.....それは?」

 

その鍛冶師の名は、椿・コルブラント。【単眼の巨師(キュクロプス)】の二つ名を持つ【ヘファイストス・ファミリア】団長にしてLv.5のドワーフとヒューマンのハーフ。そして、数々の名作を作り上げてきた名匠。

そんな彼女は、脇に小箱を抱え、訪ねてきた。ヘファイストスからヘスティアに視線を移すのと同時に、ヘスティアが持つ箱に納められた短刀に目が留まり、驚いた声を上げた。

 

「それは、主神様が作ったのか?」

 

その言葉に、ヘファイストスははぁーと手で顔を覆い、ヘスティアはあわあわと汗をかいた。そんな二神(ふたり)の様子に疑問符を浮かべる椿に、仕方ないか、と観念したヘファイストスが経緯を説明することにした。

 

 

 

 

「なるほどのう.....」

 

話を一通り聞いた椿はそう呟き、うーむ...、と何やら唸りだした。

その様子を見た、ヘスティアとヘファイストスは慌てはじめた。

 

「ま、まって椿。これはね、その、あくまで私個人が受けた依頼だから、ええと」

 

「待ってくれ椿君。これはその、ボクが依頼したんだ。だから、ヘファイストスは何も悪くなくて、その」

 

その二人の慌て方と、言葉にまたもや疑問符を浮かべ、そしてああ、と納得した声を出した。

 

「手前はそのことについてどうこう言うつもりは全くない。むしろ、友神、それも神友ともなればあってもいいことであろうしな」

 

と、椿の大人な対応に二人はそろって息を吐く。第三者からみればかなり滑稽な場面である。

落ち着きを取り戻した、二人のうちヘファイストスは、先程椿が唸っていた訳を求めた。

 

「うむ。そのことなのだが.....主神様とヘスティア様。話を聞いた限り、二人のうち一人はいまだ完成しておらんのだな?」

 

「ええ、そうね。そもそも何を作るかもあまり決めてない状態よ。それがどうかしたの?」

 

ならば、と椿は抱えていた箱をずい、と二人に差出し、驚くべきことを言い放った。

 

「手前の作った作品、そのもう一人に渡そうではないか」

 

第一級の鍛冶師(椿・コルブラント)とのちに世界に名を轟かせる下級冒険者(アッシュ・ペンドラゴン)を紡ぐ火種がまかれた瞬間であった。

 





長らくお待たせしました。
以前から、そして今から閲覧してくれている方々、本当にありがとうございます。

次回は、怪物祭のメインに入ります。
また、前話時に更新できなかった活動報告でのデータファイルも更新しましたので、見たい方はどうぞ。

※1
主人公の裏設定を大きく変更。それに伴い、名前を『アッシュ・セイバー』から『アッシュ・ペンドラゴン』に変更しました。
理由の説明は、ネタバレになるのでお答えできません。

※2
データファイルNo.1を更新。

※3
ヒロインについて現段階の考えをデータファイルNo.2として投稿しました。
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