ウルトラマンゼロ物語(ストーリー) in RED ZONE STAGE   作:剣音レツ

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 お久しぶりです。約5か月ちょっとぶりの投稿になります。

 2019年になってから一気に忙しくなり、気が付いたら平成が終わり、令和が始まっていました(笑)

 とまぁ、言い訳もここまでにして、長い間お待たせして申し訳ございません。

 そして、新元号開始おめでとうございます!(つまり今回は、令和最初の投稿でもあります。)


 というワケで、今回は前後編に渡って展開する、新たな強大な敵との激闘の前編です!

 今回は新キャラが一気に4人も登場し、更に、過去に本作に登場した“ある人物”や“あるウルトラ戦士”も再登場します!


 また、今回からOP・メインEDが変わります。

 そして、サブタイトルも一つ隠れています。


 それでは、どうぞ!


ウルトラマンコスモス&ウルトラマンジャスティス~High HOPE~
第34話「ヒカルとひかる」


 (BGM:ULTRA BRAVE)

 

 

 これは、8月23日のある日、一つの何気無い出会いから始まった、強大な敵との戦記である。

 

 

 やぁ、みんな! 俺は礼堂ヒカル。 俺は今、パトロールの真っ最中だ。

 

 

 先日の八幡那須岳村での怪獣軍団の目覚め、赤と白のアイツらの襲撃と、最近敵の攻撃は勢いを増しつつある。

 

 だから俺達ウルトラマンも、この世界での警戒態勢を強化しつつあるんだ。

 

 

 早速、ギンガスパークで謎の異変をキャッチした俺は、霞ヶ崎から少し離れた街・潮風町を訪れ、徘徊している。

 

 

 潮風町のビル街を歩きながら、辺りを見渡すヒカル。

 

 しかし、見渡す感じその町は、道路を目まぐるしく走る大勢の車、忙しく歩き回るスーツ姿の人々、仲良く手を繋いで歩く親子などと、特に変わった所は無い、いつも見る平和な街の光景そのものであった。

 

 

 「異変を感じるのはこの辺だが、今の所特に何も無いな…寧ろ平和そのものだ。」

 

 確認としてギンガスパークを取り出しながら呟くヒカル。案の定、ギンガスパークのクリスタル部分は一定の音声と共に点灯していた。

 

 

 「ま、闇雲に探しても仕方ないか。 始めて来る街だし、少し徘徊してみるか。」

 

 一旦楽観的になったヒカルは、ギンガスパークをしまい、潮風町を徘徊し始める。

 

 

 

 その頃、宇宙空間にて。誰も知らない戦いが繰り広げられていた。

 

 

 対峙している二体の影の一人は『ウルトラマンジャスティス(スタンダードモード)』。

 

 

 そしてもう一体は、一見『宇宙恐竜ゼットン』のようだが、それよりもスタイリッシュで人間に近い姿をしており、剣の様な突起状の腕、背中に生えた翼、細長い尻尾も備えているのが特徴であり、鳴き声も従来のゼットンよりも野太い。

 

 ジャスティスが戦っているのは、これまでのゼットンの優れた部分だけを抽出して作り出された、ゼットンの強化体『宇宙恐竜ハイパーゼットン(イマーゴ)』である!

 

 

 ハイパーゼットンは、両腕の肘から先を立てた状態で、首を回した後構えを取り、ジャスティスもファイティングポーズを取る。

 

 

 「フッフッフ…我がハイパーゼットンに一人で勝てるかな? ウルトラマンジャスティス。」

 

 ハイパーゼットン内の空間でそう嘲笑うのは、歪な形で、白い筋の入った黒い頭部に、頭頂部の触角、一つ目が付いているのが特徴の宇宙人。

 

 かつて様々な個体が、侵略のためにゼットンを地球に送り込んで来た『変身怪人ゼットン星人』の同族『ゼットン星人ゼボス』である。

 

 

 「宇宙の正義のために、お前を倒す。」

 

 そう言いながらジャスティスは、ハイパーゼットンに向かって行く!

 

 

 「ならば、やってみろ!」

 

 ゼボスのその言葉と共に、ハイパーゼットンもジャスティスに向かって行く!

 

 

 果たして、突然にして“滅亡の邪神”の異名を持つ強敵・ハイパーゼットンを引き連れて来たゼボスの企みとは何か?

 

 そして、ジャスティスは何故再びコスモスペースからこの世界にやって来たのか…?

 

 

 

 場所を地球に戻そう。

 

 

 ある程度町を徘徊したヒカルは、晴れた青空を見上げながらビル街を歩く。

 

 「この街も、霞ヶ崎に負けずいい街だな。 空気も美味いし、色んな形のビルがあって、ショップも色んなジャンルが揃っている。」

 

 そして、ヒカルはある事を思い出す。

 

 「そう言えばこの街、ちょっと歩いた所に“潮風広場”という高原があるみたいだが…そこも行ってみよっかな。」

 

 

 そう呟いたその時、ヒカルは何かに気づく。

 

 

 「…ん?」

 

 視線の先にあるモノは、とある駐車場で停車している一台の車だった。

 

 その車のタイヤは白線から完全にはみ出ており、車体も他の車よりも前に突き出た状態で停車していた。

 

 

 …更に、車窓越しに中を見てみると、セミロングの黒髪に、透明感溢れる色白の肌、彫刻のように整った可憐な顔、そしてピンクのカーディガンを着ているお洒落姿の一人の女性が、何やら運転席に座ってハンドルを握った状態で俯いている。

 

 そしてその女性の顔をよく見てみると、涙を流している。彼女はすすり泣きをしているのだ。

 

 

 「どうしたのですか!?」

 

 いきなり、車を不安定に停めた状態で泣いている女性を目の当たりにしたヒカルは、驚きと共に思わず駆け寄る。

 

 

 …どうやら彼女は、何度やっても上手くバックで駐車できない事への不甲斐なさに泣いていたみたいであり、それを知ったヒカルは、代わりに上手く駐車してみせた。

 

 元の世界で特捜チーム『UPG』の隊員として活躍しているヒカルは、入隊する前からそのチームの車両『シュナウザー』を難なく運転してみせた程のスキルを持っているため、今回も難なく一般車両を駐車する事に成功したのである。

 

 

 女性は、少し笑顔を取り戻した状態で、涙を拭きながらヒカルにお礼を言う。

 

 「本当に、ありがとうございます。 本当に…申し訳ないです。」

 

 「ヘヘ、いいって事よ。 それにしても驚いたよ。車停めた状態で泣いてるから、猫でも轢いたのかなって。」

 

 「すいません。 私、車の免許取って間もないですから、まだバックが上手く出来なくて…。」

 

 「そっか…でもこんなの、練習すれば出来るもんだぜ? 何なら俺が教えよっか?」

 

 「え? いいんですか? まだ初対面なのに…。」

 

 「関係ないって。同じこの空の下で住んでる者同士に、初対面とか知り合いとか。」

 

 彼女はヒカルの提案を受け、バックの練習をする事にした。幸いにもこの駐車場は、車の停まる頻度が他の駐車場よりも少ないため、練習するには最適の場所であった。

 

 

 「俺は礼堂ヒカル。君は?」

 

 「“ひかる”? …ぷふっ。」

 

 ヒカルの自己紹介を聞いた彼女は、何故か軽く吹き出して笑う。

 

 

 「どうしたんだ?」

 

 「実は、私も“ひかる”なんです。 名前は八橋ひかる。」

 

 「おぉ!マジで!? スッゲー偶然!」

 

 

 彼女の名前は『八橋ひかる』(やつはし ひかる)。 そう、この出会いは、“二人のひかる”の出会いでもあった。

 

 実際、“ひかる”のように男女共通の名前は数多くあるため、このように名前が被るのも珍しくない事である。

 

 

 下の名前が同じなのがきっかけで、早速ヒカルとひかるの親睦が深まりつつあるようであった。

 

 

 きっと、ヒカルの出身の世界に住む石動美鈴という名の少女は、今頃突然来たムカつきにペンをへし折るか、苺を握り潰すかしているであろう(笑)

 

 

 ヒカルの付き添い&指導の下、ひかるはバック駐車の練習を始めた。

 

 

 

 その頃、宇宙では、ジャスティスとハイパーゼットンの激闘が繰り広げられていた。

 

 

 ジャスティスはハイパーゼットンの右ストレートを左膝で防ぎ、胸部に右拳を打ち込んで後退させ、続けて上段回し蹴りを放つが、上半身のみを瞬間移動させてかわしたハイパーゼットンは、逆にジャスティスを蹴り飛ばす。

 

 次にジャスティスは、ハイパーゼットンの右フックをかわしながら後ろに回り込んだ後、後ろ蹴りを放つが、ハイパーゼットンは『ハイパーゼットンテレポート』でその場から一瞬で姿を消す事でかわす。

 

 

 辺りを見渡すジャスティスはやがてハイパーゼットンを見つけ、腕を突き出して光の矢『ダージリングアロー』を連射する。

 

 ハイパーゼットンは迫り来る光の矢をテレポートでかわしながら飛んで向かって行き、やがて全てかわし切った後に飛び蹴りを放ち、ジャスティスはそれを即座にクロスさせた両腕で防ごうとするが、受け止めきれずにそのまま吹っ飛び、ある小惑星に落下する。

 

 

「どうした? ウルトラ戦士の力はその程度か?」

 

 ゼボスの言葉に臆する事なく、ジャスティスは即座に立ち上がり、浮遊するハイパーゼットンを見上げて再び飛び掛かる!

 

 

 

 場所を地球に戻そう。

 

 一生懸命練習をするひかる。彼女自身、不器用なのと、バック以外の駐車方も練習し、時に上手く行かず泣き出しそうになる事もあったため、約1時間はかかったが、ヒカルが懲りずに親切に教えて行った事もあり、なんとか出来るようになるまで上達した。

 

 「やったじゃん。」

 

 上手く駐車できるようになったひかるを褒めるヒカル。

 

 「ありがとうございます。 でも…1時間もかかっちゃいましたね。 …すいません。」

 

 「結果論だよ結果論。終わり良ければ総て良し! 君は駐車が出来るようになった。それだけでも凄ぇ事さ。」

 

 ヒカルの言葉に、ひかるは再び笑顔になる。

 

 

 (ヒカル…また一つ、立派になってるな。)

 

 ストリウムブレスから見守っていたタロウは、以前会った時よりも進歩しているヒカルの様子に感心する。

 

 

 「あの…ヒカルさん。 お礼に何か奢らせてください。」

 

 「え?」

 

 ひかるの思わぬ誘いに少し驚くヒカル。心なしか、少し頬が赤らめていた。

 

 「そうだな…もっと君といろんな話してみたいし、お言葉に甘えて。」

 

 「ありがとうございます。じゃあ、早速行きましょう。」

 

 

 ひかるからのお礼として、奢ってもらう事にしたヒカル。 …おっと、美鈴は今頃、二本目のペンをへし折っている所かな?(笑)

 

 

 

 ヒカルとひかるは、駐車場からすぐ近くにあるコーヒーのチェーン店『スターボックスコーヒー』(略:スタボ)で一息していた。

 

 二人はそこで、窓からの景色を眺めつつ、ストロベリーフラペチーノをすすっている(ヒカルの分はひかるの奢り)。

 

 「ちょうど冷たいモノが飲みたかったんだ。ありがとな。」

 

 「いえいえ。私の方こそ、本当にありがとうございます。」

 

 

 「にしても、この世界にはこんなにいい店があるんだな。」

 

 「…この世界?」

 

 「ぁ…じゃなくて、この街! 俺、この街に来るの初めてだからさ。」

 

 思わず口走ってしまったヒカルは、慌てて訂正する。 最も、潮風町に来た事が初めてであるのは確かなのだが。

 

 「私も初めてなんですよ。今は、大学の関係で霞ヶ崎に住んでいるもので。」

 

 

 実はひかるは、竜野櫂や新田真美、眞鍋海羽らと同じ、霞ヶ崎の麟慶大学の学生なのである。

 

 今年、真美と同じ医学部に入学したばかりの一年生であり、初めての上京により右も左も分からない彼女は、霞ヶ崎及びその周辺の街の事をもっと知りたいと思い、この夏休み、色んな場所に出掛けているのだという。

 

 

 「そっか。結構行動力あるんだな。」

 

 「い、いえいえ。私はただ、知らない場所を知りたいだけなので…。」

 

 「でも分かるぜ。知らない場所に行ってみたいというその気持ち。」

 

 「…ぇ?」

 

 「俺も今、いろんな場所を旅しているんだ。 潮風町、いい街だよな。空気は美味いし、景色もいいし、海も近いし。」

 

 ヒカルは、引き続き話す。

 

 「世界には、俺たちのまだ知らない場所が沢山ある。 いろんな場所を旅して来た俺も、まだ行ったが事ない場所はいっぱいある。 でもいつかそこに行って、その場所の人々にも会うつもりだ。」

 

 「そのような事が、出来るのですか?」

 

 「出来るさ。同じ地に立って住む、地球人だから。 遠い地球の反対側の人だって、この空の下で繋がっている。 みんな、同じ空の下で暮らす仲間なんだぜ。」

 

 

 ヒカルの話を聞いたひかるは、少し笑った後、ゆっくりと俯いて呟く。

 

 「ヒカルさんって、とても前向きなのですね。」

 

 「え?」

 

 「私は、とてもなれないな…。 すぐ卑屈になりがちだから…。」

 

 「何かあったのか?」

 

 「いや…何かあったワケじゃないんですけど…私、自分に自信が持てない事があるんですよね…。」

 

 ひかるは、引き続き話す。

 

 「自分は自分で出来る事があって、それに自信を持っていいんじゃないかと、頭では思うんですけど…。 他の分野とかで自分より出来る人を見ると、それだけで自信が無くなってしまう事があるんですよね…。 他にも、自分の好きなアーティストよりも売り上げのいいアーティストを見た時とか、自分が応援していたスポーツ選手が、試合で負けてしまった時とか…。 とにかく、自分に関係する事で何かあると、途端に自信が無くなってしまうんです。」

 

 

 ひかるの話を聞いたヒカル。彼女の意外な一面を知り、軽く何度も頷く。

 

 「そっか…結構苦労してるんだな。」

 

 「はい…。」

 

 「でも、音楽やスポーツ選手に関しては、大事なのは売り上げや、戦績とかじゃなくて、いかに人々の心を響かせるかだと俺は思うけどな。」

 

 「…心に、響く?」

 

 「あぁ。ひかるにとって、その好きなアーティストやスポーツ選手が一番なら、それでいいじゃないか。 大切なのは、同じそれらが好きな人達と一緒に応援する事。 売り上げや戦績で、それらの良さが廃れるワケじゃないんだから。」

 

 いかにも、ロックミュージシャンの両親を持つヒカルらしき持論である。

 

 

 「そう…なんですかね。」

 

 「ひかる自身もそうさ。その礼儀正しさ、好奇心だけでこの街に来れる行動力。 これらも自信持っていいと俺は思うけどな。」

 

 「ありがとうございます。 でも、本当に何の目的も無くふらっと来ただけですから…。 今こうやってスタボで一服しましたけど、この後何をしようか全く分からなくて…。」

 

 

 「よし分かった。とりあえず、ジム行くか?」

 

 「え? ジムですか?」

 

 ひかるはヒカルが出した思わぬ発言にやや困惑気味に返す。

 

 「あぁ、さっき街を徘徊した際、良さげなジムを見つけたんだ。ちょっとそこで体動かそうぜ。」

 

 ヒカルが出した提案とは、気持ちがモヤモヤするなら、一旦運動してスッキリしようぜという事だった。

 

 「…確かに…ここ最近あまり運動出来てないし…行ってみようかな。」

 

 ひかるは笑顔でそう答えると、残りのフラペチーノを飲み干して立ち上がる。

 

 

 「んじゃ、行くか。」

 

 「はい。 あ、その前にちょっと…。」

 

 ひかるはスマホを取り出し、SNSを開く。先程フラペチーノを飲む前に、それで所謂“映え”の写真を撮ったため、それを投稿しているのである。

 

 いかにも現代の女子らしい行動である。

 

 やがてひかるは投稿を終えると、ヒカルと共に店を後にし、ジムへ向かいだす。

 

 

 

宇宙空間での戦いは、激しさを増していた。そして飛び回りながら戦っていく内に、両者は地球の目の前までに来ていた。

 

 ジャスティスとハイパーゼットンは、宇宙空間を飛び回りながら激しいパンチやキックの応酬を展開するが、ハイパーゼットンは一瞬の隙を突いてジャスティスを殴り飛ばす。

 

 ジャスティスは体勢を立て直した後、ハイパーゼットンに向かって飛んでパンチを放つが、ハイパーゼットンはテレポートでそれをかわすと同時に後ろに回り込み、辺りを見渡している隙を突いてジャスティスを後ろからチョップで吹っ飛ばした後、テレポートで吹っ飛ぶジャスティスの前方に回り込んで両腕のパンチを打ち込み、更にテレポートで背後に回り込んで背中に跳び蹴りを叩き込んで再び小惑星の地面に叩き付ける。

 

 

 ハイパーゼットンは、胸部の発光器官に作り出した火の球から、一兆度を超えると言われる火球『暗黒火球』を地上のジャスティス目掛けて連射する!

 

 すぐさま立ち上がったジャスティスは、両手を突き出して光のエネルギー波動『ライトエフェクター』を連射し、迫り来る火球を相殺していく!

 

 

 火球と光弾の激しい打ち合いにより連続で発生する爆発が、両者の視界を遮って行く。

 

 そして、打ち合いが終わって晴れた爆発の中から、既にガッツポーズの体勢でエネルギーのチャージが完了したジャスティスが現れ、両腕を突き出して必殺光線『ビクトリューム光線』を放ち、その直撃を受けたハイパーゼットンは大爆発した!

 

 

 光線の体勢を解いたジャスティスは、「やったか?」とばかりに爆発したハイパーゼットンを見つめる。

 

 …ところが、爆発が晴れた時、そこにハイパーゼットンの残骸が無い事に気づき、僅かながら動揺を見せる。

 

 

 そしてハイパーゼットンは、いつの間にかジャスティスの背後に立っていた…!

 

 

 実はハイパーゼットンは、次の瞬間、ジャスティスが必殺光線を撃って来る事を想定に入れ、テレポートで回避すると同時に、その残像で作った分身をその場に残すという離れ技を決めたのである!

 

 つまり、先程ジャスティスのビクトリューム光線を受けて爆発したのは、残像で作った分身に過ぎなかったのだ!

 

 

 ようやく背後のハイパーゼットンに気付いたジャスティスだが、その直後に相手の蹴りを腹部に喰らい、地面を滑るようにして吹っ飛んだ後、その先の岩山に激突する!

 

 

 ジャスティスは、土砂や石を振り落としながら立ち上がるが、ダメージにより、既に息切れを起こしている。

 

 「フッフッフ…どうした? これでも我がゼットンの力は、まだ不完全なのだよ?」

 

 「何だと?」

 

 ゼボスの思わぬ発言に、ジャスティスは驚きの仕草を見せる。

 

 

 「あと少しで完全となる。そろそろあの地球では、それの最終段階が始まるはずだ。」

 

 

 ゼボスが気になる事を言ったその時、ハイパーゼットンは何処からか飛んで来る光線に気付き、即座にバリヤーを張って防ぐ。

 

 光線を防いだハイパーゼットンはバリヤーを消滅させたが、その直後にその方向から超高速で飛んで来た者の飛び蹴りを喰らって吹っ飛ぶ!

 

 ハイパーゼットンは地に足を付けたまま吹っ飛びながら踏ん張り、やがて止まった後に前を振り向く。

 

 

 「誰だ!」

 

 ゼボス、そしてハイパーゼットンの視線の先には、ジャスティスの隣にもう一人、銀と紫の巨人が立っているのが見える。

 

 

 現れたのは『ウルトラマンコスモス(スペースコロナモード)』だ!

 

 コスモスは今回も地球周辺の宇宙を探索していて、やがてジャスティスの反応を感じて駆け付けたのであろう。

 

 先程ハイパーゼットンが防いだ光線は、コスモスの撃った『オーバーループ光線』であり、喰らった蹴りは『テンダーキック』である。

 

 

 「コスモス…!」

 

 突然の思わぬ再会に少し驚きを見せるジャスティス。

 

 「ジャスティス、共に戦おう。」

 

 ジャスティスはコスモスの言葉を受けて頷いた後立ち上がり、共に構えを取る。

 

 

 「面白い。だが、我がゼットンに勝てるかな?」

 

 ゼボスのその言葉と共にハイパーゼットンは飛びかかり始め、コスモスとジャスティスもそれに向かって行く…!

 

 

 果たしてコスモスとジャスティスは、ハイパーゼットンの侵攻を食い止められるのか…!?

 

 

 

 場所を地球に戻して。

 

 

 しばらく歩いて、『潮風スポーツジム』というスポーツジムに到着したヒカルとひかるは、受付を済ませた後、二階のトレーニングルームに入る。

 

 このスポーツジムは大きめの建物であり、中には大きめのトレーニングルームの他に、子供専用エリア、更にはバッティングセンターやボウリング場などもある、非常に充実した施設なのである。

 

 ヒカル達が入ったメインのトレーニングルームは、室内はとても広く、マシンも10種類以上あり、他にもたくさんの人々が利用している。

 

 

 「わぁ…すごい人ですね。」 「あぁ、みんな精が出てるな。」

 

 二人は一生懸命トレーニングしている人々を見て感心する。

 

 

 …その時、ヒカルはある事に気づいた。

 

 

 それは、ひかるは、他の女性に比べて、一際大きいという事である。

 

 実は彼女は、178㎝とかなりの長身であり、ある程度運動も出来るという事から、麟大ではバレーボール部に所属している。

 

 その長身に加え、黒髪に隠れるんじゃないかという程の小顔、細長い手足、モデルのようにスラリとした体格と、スタイルも抜群である事から、一年生ながら早速、大学内の女子では真美や海羽に迫るんじゃないかという勢いで注目を集めている。

 

 実際、ヒカルも180㎝以上とかなりの長身の筈なのだが、ひかるの場合、彼よりも数センチ程度低いようにしか見えないというのだから驚きである。

 

 

 (しかし…こんなにでっけえ女子、初めて出会ったかも?)

 

 「…ん? どうしたのですか? 私の顔に、何か付いていますか?」

 

 「い、いや…とにかく、何か始めようぜ。」

 

 

 既に、運動用の服に着替えている二人は、早速何かトレーニングをしようとしたその時、あるモノを見つける。

 

 

 それは、ある一人の女性が、束ねた髪を靡かせながら一定のペースでルームランナーで走っている姿である。

 

 綺麗なフォームで走る彼女の姿格好は、ランニングウェアにショートパンツと非常にラフな格好であり、それにより、スレンダーな体や長い手足がよく映えている。

 

 

 「あの人、なかなかよく走るな。」

 

 「えぇ…。」(あの後ろ姿…もしかして…?)

 

 ヒカルが感心する一方、ひかるは走っている彼女に見覚えがあるようであった。

 

 

 やがて走り終えた彼女は、呼吸をしながらルームランナーから降り、タオルで程よくかいた汗を拭き取り始める。

 

 すると、そんな彼女の元に、一人のピンクのスポーツウェアを着込んだ小柄な女性が歩み寄り、スポーツドリンクを手渡す。

 

 

 「真美ちゃん、お疲れ。」

 

 「ありがとう。」

 

 

 そう、ルームランナーで走っていた彼女は真美であり、スポーツドリンクを渡しに来た彼女は海羽だったのである!

 

 

 「あれ、海羽?」 「新田先輩。」

 

 それぞれヒカルとひかるに声を掛けられた海羽と真美は、それに気づいて振り向く。

 

 

 「あれ?ヒカルさんじゃない!」 「ここで会えるなんて、奇遇ですね。」

 

 海羽は思わぬ遭遇に嬉しさと同時に驚き、スポーツドリンクを飲んでいた真美は一旦口を離して驚く。

 

 

 「ホントスッゲー偶然。 何故このジムに?」

 

 「なんとなく、海羽ちゃんと潮風町に出掛けたいなと思って、ちょっと立ち寄り感覚で来たのです。」

 

 ヒカルの問いかけに、真美は笑顔で答える。

 

 

 実は真美は、休日にたまにジムでトレーニングをするのも密かな趣味であり、普段は霞ヶ崎のジムを利用しているのだが、今は夏休みという事もあって、まだ行った事の無い街・潮風町のジムを利用するついでに、その街でお出掛けしようと考えたのである。

 

 毎日ランニングもしているというのだから、大食いながらこれだけ抜群なスタイルを保てるのも納得である。

 

 

 海羽も、マネージャー的役割として自らそれに付き添いつつ、自身もそれなりにトレーニングとかをしたりしている。

 

 「やっぱり真美ちゃん凄いな~…私も見習おっかな。 私、休日はショッピングとかお菓子作りとかばかりしているから。」

 

 無邪気にそう話す海羽。海羽のプライベートは正に“女の子”って感じで実に可愛らしいモノである。

 

 

 「海羽ちゃんが一緒に来てくれて、とても助かってるよ。いつもありがとう。」

 

 真美は、タオルで汗を拭きながら海羽に感謝の意を表し、それを受けた海羽は嬉しそうな表情になる。

 

 

 「俺も、なんとなくこの街に来てみたんだ。良い街だよな~、潮風町。」

 

 「そうだね。」 「いい街ですよね。」

 

 ヒカルの言葉に、海羽と真美は笑顔で共感する。

 

 

 やがて真美はひかるにも気づき、愛想良く話しかける。

 

 「ひかるちゃんも来てたのね。」 「ぇ…あぁ…。」

 

 何やら、後ろめたさも感じる素っ気ない返事をするひかる。

 

 

 「それにしても、“ひかる”が二人か~…似た者同士かもね?」

 

 海羽は二人の“ひかる”を見ながら冗談交じりに話す。

 

 

 「そうかもな。彼女、なかなか行動力あるし。」

 

 「えへへ…そう…かもですね…。」(そんな…私と一緒だなんて、寧ろ申し訳ないよ…。)

 

 ひかるは笑顔を見せながらも、やはり心の中では後ろめたさがあり、少し俯く。

 

 

 「どうかした?」

 

 ひかるの表情に気付いた真美は、覗き込むように優しく話しかける。

 

 「ぃ…いえ、何でもないです。」

 

 ひかるは笑顔を作って返した。 しかし、何があって、彼女はここまで卑屈になってしまっているのであろうか…?

 

 

 「ほら、ひかるちゃんも一緒にやろうよ!」

 

 海羽は元気よくそう言いながら、促すようにひかるの服の袖を引く。

 

 「そうですね。やりましょう、眞鍋先輩。」

 

 海羽とひかるはエアロバイクの方へ向かって行き、ヒカルと真美は笑顔でそれを見届ける。

 

 

 ひかるは、海羽と共にエアロバイクに向かいながら何やらあどけない笑顔の海羽をじっと見つめる。

 

 (…眞鍋先輩…ヤバい、超可愛い…! すりすりしたい~!)

 

 …実はひかるは、“可愛いモノが大好き”という一面もあるのである。

 

 小っちゃい体で、いつも元気一杯の海羽は、正に彼女にとって格好の癒し対象なのであろう。

 

 「どうかしたの~?」 「いっ…いや、なんでもないです。」

 

 あどけない顔で問いかける海羽に、ひかるは頬を赤らめながら答える。

 

 

 …因みに皆さんご存知のように、海羽は小柄であるため、長身のひかると並ぶといよいよ“大人と子供”のように見えてしまい、更に真美も、ひかると並ぶと小さく見えてしまうのだから不思議である。

 

 

 「じゃ、俺達も始めるか。」 「えぇ、そうね。」

 

 ヒカルはクロストレーナー、真美はアブドミナルの方へ向かい、それぞれトレーニングを始める。

 

 

 約1時間後、レッグプレスでのトレーニングを終えたひかるは、カウンター席付きの窓際で休憩を始める。

 

 そして、その隣には喘いでいる海羽もやって来る。

 

 「ハァ…ハァ…やっぱ凄いね、ひかるちゃん。 私なんてもうあちこち筋肉痛~。」

 

 「ありがとうございます。でも、そうでもないですよ。私も、そろそろ疲れて来た感じで…。」

 

 スポーツドリンクを飲みながら会話をする海羽とひかる。

 

 

 「本当に凄いよ、ひかるちゃん。スラっとしてて、運動も出来るし、実際、医学部での成績良いみたいだし、バレー部でも活躍してるらしいじゃん!」

 

 「いえ、それ程でもないですよ…成績に関してはあくまで医学部1年生内ですし…。」

 

 「それでも十分凄いよ! 私なんて商学部内で平均的だし…はぁ、その体格や才能、分けて欲しいな~。」

 

 「(小声で)そんな…。」

 

 海羽は素直にいい所を言っているのだが、ひかる本人は褒めちぎり過ぎじゃないかという思いがあった。

 

 

 「私、入学した時から、竜野櫂先輩? その人が凄いなと思っているんです。」

 

 「ほえ?」

 

 ひかるの突然の思わぬ発言に、少し驚く海羽。ひかるは話を続ける。

 

 「竜野先輩は、スタイル良いし、イケメンだし、運動も勉強も学園内でトップクラス…おまけに周囲を惹きつける人間性とカリスマ性がある…ホントに素晴らしい人ですよね。」

 

 

 ひかる…アンタ、彼の本性を知らない今だからこそ、そんな事が言えるのだぞ!?(汗)

 

 

 「櫂君は格が違うよ~。私、今じゃ友達であると同時に、尊敬もしちゃってるんだから。もちろん真美ちゃんも!」

 

 どうやら海羽にとって櫂と真美は、友達であると同時に、尊敬に値する存在でもあるようだ。

 

 「竜野先輩はカッコいいし万能だし、新田先輩は優しいし何でも出来るし…それに眞鍋先輩も、明るくて、誰にでも元気を与えてくれる。 それに比べて私は、はぁ…。」

 

 

 その時、休憩に入った真美が歩み寄る。

 

 「ひかるちゃんも魅力的だと思うよ。」

 

 「…え? 私が?」

 

 「うん。スラっとしてて健康的だし、勉強も運動も出来るし…それに、何よりその素直さと礼儀正しさ。」

 

 「そんな…私は、人として当然の事をしているだけですよ。それに、勉強とか運動とか、先輩たちに比べたらまだまだ…。」

 

 またしても後ろ向きな発言をするひかるに、海羽は語り掛ける。

 

 「その“人として当然の事”が出来ている時点で、十分凄い事なんだよ。」

 

 「出来ている時点で…?」

 

 続けて真美が語る。

 

 「うん。残念な事に、それすら出来ない人も、世の中結構いたりするの。 でも、ひかるちゃんはそれが出来ている。それだけでも、十分誇っていい事なんだよ。」

 

 ひかるの肩に手を置きながら、真美は話を続ける。

 

 「私、こないだ偶々バレー部の部長さんと話す機会があったんだけどね、その時、言ってたの。 「将来、キャプテンを任せられるかもしれない人がいる」ってね。 あれ、ひかるちゃんの事じゃないのかな?」

 

 「そんな…私なんて、まだまだですよ。部の中で飛び抜けて上手いワケじゃないし、私より出来る人、他にもいると思うし…。」

 

 その時、今度はヒカルが歩み寄る。

 

 「何言ってんだ。君は出来る人だよ。 だからさっき、車の駐車も出来たんじゃないか。」

 

 「はっ…。」

 

 ヒカルの言葉でひかるは思い出す。 先程、ヒカルの教えにより、今まで出来なかった車のバック駐車が出来るようになった事を。

 

 「一度じっくり自分を見てみようよ。 絶対、自信持てる事がまだ見つかるはずだよ。」

 

 「…そう…ですかね…?」(新田先輩…良い匂いだなぁ…。)

 

 

 その時、ある一人の女性が話しかけて来る。

 

 「あれ、ひかるちゃん?」

 

 話しかけられたひかるを始め、一同は振り向く。そこには、笑顔が似合う可憐な顔に、丸みのあるショートヘアが特徴で、水色の半袖のスポーツウェアを着こなしている、全体的にさっぱりした印象の女性が立っている。

 

 

 「…愛紗…ちゃん?」

 

 「やっぱり! ひかるちゃんもここに来てたんだ!」

 

 「奇遇だね。」

 

 

 彼女の名は『渕上愛紗』(ふちがみ あいさ)。彼女も今年、麟大(文学部)に入学したばかりの一年生であり、ひかるとは、大学で知り合って友達になった仲である。

 

 彼女はテニス部に所属しており、その高い腕から、部長からは将来キャプテンを任せられるかもしれないと見込まれている。

 

 更に言うと彼女は友達思いで、常に笑顔を振りまく元気少女でもあるため、ある意味“ポスト眞鍋海羽”的な存在であろう。(海羽と違って小柄ではないが(笑))

 

 

 「愛紗ちゃんも、このジムに来てたなんてね。」

 

 「なんとなく、出掛けたついでに一汗かきたいなーと思ってね。 それにしてもその運動着、とても似合ってる~。アスリートみたい!」

 

 「愛紗ちゃんも、とても爽やかでいい感じだね。」

 

 「嬉しい!ありがとう。このスポーツウェア、最近買ったばかりなんだ~。」

 

 出会って早速、楽しそうに話し合うひかると愛紗を、ヒカルと真美、海羽は笑顔で見つめる。

 

 

 やがて愛紗は、真美と海羽にも気付く。

 

 「新田先輩に眞鍋海羽も来てたのですね。 そして…この方は?」

 

 「俺は礼堂ヒカル。 真美達とは、最近知り合いになってな。」

 

 「ヤバい!?超イケメンかも~! …おっと失礼。よろしくお願いします。」

 

 「おぅ!」

 

 愛紗はヒカルと握手をする。

 

 「あんた、元気がいいな。」

 

 「えへへ、眞鍋先輩の明るさには、敵いませんけどね!」

 

 「えぇ?そうでもないよ~。 愛紗ちゃんの明るさも、周りに元気をくれるよ。」

 

 「ありがとうございます! まさか眞鍋先輩に褒めてもらえるなんて。」

 

 

 仲良く話し合う海羽とひかる、愛紗を見つめるヒカルと真美。

 

 「先輩後輩関係なく、仲良いんだな。麟大って。」

 

 「うん。合言葉でもあるように、先輩とか後輩とか、男子とか女子とか関係なく。仲が良くて、助け合うことが出来る。」

 

 真美は笑顔で、麟大の良さを語る。(最も、その良さから外れ、闇に落ちてしまった人(桜井敏樹)もいるのだが…。)

 

 

 「それにしてもいいな~、愛紗ちゃんって。 1年生にしてもうテニス部のエースなんでしょ?」

 

 「そんな事ないよ。ひかるちゃんも、バレー部で活躍しているみたいじゃない。」

 

 「私はそんな…。私より出来る人も結構いる気がするし…私自身、全力でやっている筈なのに、部長からは「まだ己の力を引き出せてない」とか言われたし…私、全然だわ。」

 

 「そうかな~。 何回か練習見て思ったけど…私、ひかるちゃんなら、将来バレー部のキャプテン務められると思うけどな~。」

 

 「…え?」

 

 愛紗から思わぬことを言われ、ひかるは少し困惑する。 因みに愛紗は、テニス部が休みの日は、バレー部の練習を見学に訪れる事も多々あるのだ。

 

 「多分後は、ちょっとしたキッカケ…じゃないのかな?」

 

 「ちょっとした…キッカケ?」

 

 「うん! それさえあれば、きっともっと自分の凄さに気づけると思うよ!」

 

 愛紗からの励ましの言葉に、ひかるは再び考え込む。

 

 

 そこに、ヒカルと真美達も歩み寄る。

 

 「ひかるちゃんなら出来るよ。だってまだ1年生だもん。可能性のかたまりだよ!」

 

 「困った時は、私達も力になるわ。」

 

 「だから頑張ろうぜ。自分の力を信じてみろよ。」

 

 

 「愛紗ちゃん…皆さん…。」

 

 ヒカルや大学の同期、先輩達からの励ましの言葉を受けたひかるは、嬉しくなると同時に嬉し涙が出そうになる。

 

 

 海羽はひかるに元気よく歩み寄り、背中に手を当てる。

 

 「ねぇ、後でチーズドッグ食べに行かない? さっき駅前で美味しそうな店見つけたの!」

 

 「チーズドッグ!? 食べたい! 行こうよひかるちゃん!」

 

 海羽の誘い、更に愛紗に背中を押されたひかるは、笑顔で答える。

 

 「…はい。 先輩達と食べに行くの、初めてかも。」

 

 

 海羽達のやり取りを見て、ヒカルは呟いた。

 

 「いいな、これぞ青春!って感じで。」(美鈴達と過ごしたあの時を思い出すぜ。)

 

 

 「ヒカルさんも、一緒にどうですか?」

 

 「え? …じゃあ、俺も女子会にお邪魔しよっかな。」

 

 真美からの誘いに、ヒカルは少し照れ臭そうながらも了解した。

 

 「寧ろイケメンなら大歓迎だよー!」

 

 「やめろよ!恥ずかしいなー。」

 

 愛紗の発言にヒカルは顔を赤らめ、それにより一同は笑い合う。

 

 

 偶然の出会いを繰り返した事により集まり、より親睦が深まったヒカルと麟大の同期コンビ2組。

 

 

 

 しかし、そんな彼らの絆を引き裂くように、怪獣が現れる!

 

 

 

 突然、大きな地震が襲い掛かる!

 

 ヒカル達は勿論、ジムの人々もパニックになり、大きな揺れにより倒れるマシンも出始め、バーベルやスポーツドリンクのペットボトル等も床に落ちて転がって行き、蛍光灯も点滅する!

 

 「ひゃっ!? 何?これ。」 「何が起こってるの?」 「きゃ~っ!」 「ひかるちゃん大丈夫!?」

 

 海羽、真美、ひかる、愛紗が口々に言う中、ヒカルは窓越しに何かに気づく。

 

 「あれは!」

 

 

 ヒカルと同じ方向を真美達も見つめる。そこには、少し離れた場所で、地面が激しく土砂等を巻き上げ、道路や車等を巻き込みながら割れて行く!

 

 そしてそこから、一体の巨大生物が現れる!

 

 

 現れたのは、恐竜型の外見に、黒い棘で覆われた体、頭部の長い一本角が特徴の怪獣『吸血怪獣ギマイラ』だ!

 

 

 かつて、『ウルトラマン』が追っていた怪獣『宇宙怪獣ベムラー』は、“宇宙の平和を乱す悪魔のような怪獣”と言われていた。

 

 ギマイラは正に、その言葉が似合うのではないかという程凶悪な怪獣であり、かつて地球に飛来した際に『潮風島』を支配し、そこで島民の生き血を吸って力を蓄えた事がある。

 

 その時は、不完全な状態で目覚めたのだが、それにも関わらず当時戦った『ウルトラマン80』を終始圧倒しており、そのパワーに加え、高い知能や数々の恐ろしい能力も持っているため、正に凶悪な怪獣である。

 

 

 現れたギマイラは、自身の体に付いた土砂を振るい落とした後、上を向いて大きく咆哮を上げ、その衝撃により、ジムの窓ガラスが一斉に割れて破片が飛び散る!

 

 「きゃーっ!!」

 

 ひかるは恐怖により、悲鳴を上げながら耳を塞ぎ、その場に崩れ落ちるように蹲る。

 

 

 ギマイラは尚も咆哮を上げ続け、それが潮風町全域に響き渡るようであった。

 

 威圧感のある外見、凶悪な面構え、そして、遠くの建物にも影響を及ぼす程の衝撃を与える咆哮…正にこれらだけでも、凶悪な怪獣である様子をひしひしと感じる。

 

 

 激しく地響きを立てながら進撃を始めたギマイラ。それを見たジムの人々もパニックになり、ダンベルを落としたり、マシンから慌てて降りたりした後、足早に外に出て逃げようと出口のドアに我先にと押し寄せる!

 

 「ひとまず、俺達も出るぞ!」

 

 ヒカルの言葉を受け、真美達も人混みの中を駆け始める。

 

 

 …だが、その途中のキッズコーナーの前にて、恐怖で覚束ない足取りで走っていたひかるは、後ろから勢いよく走って来た人にぶつかって転倒してしまう!

 

 「きゃっ!!」 「はっ、ひかるちゃん!」

 

 それに気づいた真美は急いでひかるの元に歩み寄り、肩を貸して立ち上がらせようとする。

 

 「大丈夫?」 「ぁ、はい…すいません。」

 

 

 「真美ちゃん!!」 「ひかるちゃーん!!」

 

 海羽と愛紗は振り向いて二人に呼びかけるが、波の様な人混みに押され、徐々に離れて行く…!

 

 「俺が行く!二人は先に逃げろ!」

 

 ヒカルは必死に人混みをかき分けながら真美たちの元へ向かい始める。

 

 

 だがその時、暴れるギマイラは、角から稲妻状の破壊光線を発射し、それがスポーツジムにも命中して爆発する!

 

 「ぐっっ!!」

 

 爆発した建物は、爆風と共に砕けたセメント等を飛び散らしながら真っ二つに割れ、それによりヒカルと真美達は引き離されてしまう!

 

 ヒカルの向こう側には、真美とひかる、そしてキッズコーナーにいた子供たちが取り残されており、周りには逃げ道が一つも無い!

 

 「真美! ひかる!」

 

 ヒカルは呼びかけるが、真美は怯える子供達をあやしながらヒカルに声を掛ける。

 

 「ヒカルさん、私達は大丈夫ですから、早くあの怪獣を!」

 

 

 「…分かった。必ず、助けに行くからな!」

 

 ヒカルは少し躊躇った後、真美に約束し、出口へと急行する。

 

 

 一方、ジムの外に出た海羽達は急いで逃げようとするのだが、咆哮を上げながら、破壊光線を乱射したり、怪力でビルを崩したり等して暴れて行くギマイラ。

 

 それにより発生する瓦礫やガラスの破片などが彼女達の周囲に降り注ぎ、徐々に逃げ場が無くなりそうになっていた!

 

 「私達、もうダメなの~!?」 「しっかりして愛紗ちゃん! さ、早く!」

 

 諦めかけている愛紗に懸命に呼びかける海羽。ギマイラはそんな必死な人々を嘲笑うかのように進撃を続ける。

 

 

 

 「絶対に許さねぇ!」

 

 遂に、ジムの外に出たヒカルは、ギマイラを睨み付けるように見つめて呟いた後、ギンガスパークを取り出して構える。

 

 

 《ウルトライブ! ウルトラマンギンガ!》

 

 

 「ギンガー!!」

 

 

 現れたギンガのスパークドールズをリードしたヒカルは、ギンガスパークを揚げて叫び、銀河状の光に包まれる。

 

 

 暴れるギマイラは、遂に海羽達に光線を浴びせようとエネルギーを溜め始める!

 

 「こうなったら行くしか…!」

 

 もうダメだと諦める人々。それを見た海羽が、バレ覚悟で変身しようと決めたその時、青い光球が飛んで来てギマイラに体当たりをする!

 

 ギマイラはその場に転倒し、顔を背けていた人々は徐々に顔を上げて行く。

 

 

 青い光球は着地すると徐々に人型になり、やがてその中から徐々に立ち上がりながら光の巨人が現れる。

 

 

 『ウルトラマンギンガ』の登場だ!

 

 

 「あれが…この世界に来た、ウルトラマン?」 「うん!ギンガって言うんだよ。 (小声で)ヒカルさん…頑張って。」

 

「カッコいいかも〜!」

 

 愛紗は初めて見るギンガの姿に見惚れて、海羽は安心の表情になる。

 

 

 ギンガは構えを取り、ギマイラと対峙する。

 

 「行くぞ!」

 

 ヒカルの掛け声と共にギンガが向かおうとしたその時、ギマイラは何やら上を向いて、普段の鳴き声を違った咆哮を上げる!

 

 その不気味な咆哮は、潮風町全域に響き渡っているようであった。

 

 

 「…何なんだ?」

 

 ヒカル及びギンガが困惑していたその時!

 

 

 「ぐあっ!?」

 

 

 突然何かに首を挟まれ、驚きと共に苦しみだすギンガ!

 

 横を見ると、そこには別の怪獣が現れていた!

 

 ギンガの首を絞めているのは、その怪獣の特徴でもある左腕の巨大な鋏である。現れたのは『ラブラス』という怪獣だった!

 

 

 「もう一体怪獣が!?」

 

 ヒカルの困惑を他所に、ラブラスは左腕の鋏で首を挟んだまま、ギンガを放り投げる!

 

 

 「このヤロー!」

 

 海の近くに落下したギンガはすぐさま立ち上がり、再び向かおうとするが、今度は海から現れた黒い触手に足を絡まれてしまう!

 

 触手はそのままギンガを引いて転倒させた後、その本体も、激しく水しぶきを上げながら海から現れる!

 

 次に現れたのは、黒い蛸のような外見に、無数の触手が特徴の怪獣『タコ怪獣ダロン』だ!

 

 

 「どういう事だ!? 一気に二体も現れるなんて…!」

 

 ヒカルは更に困惑する。ギンガは三方向から怪獣に囲まれた。

 

 ラブラスもダロンも、ギマイラが妙な咆哮を上げた直後に現れたのだから、恐らくギマイラの配下の怪獣達なのだろう。

 

 

 新たな二体の怪獣の出現により、人々は更なる恐怖に駆られる。

 

 「三対一になっちゃったよ…大丈夫かな…。」

 

 「大丈夫!ギンガは超強いんだから。」(それに、三対一じゃない…ヒカルさんとギンガで、三対二だよ!)

 

 不安になる愛紗に、ヒカル及びギンガの事をよく知っている海羽は前向きな言葉を掛ける。

 

 

 緊張感を煽る沈黙の中、対峙する三体の怪獣と一人の巨人。やがてギマイラは、自分は高みの見物をするかのように少し離れた場所に移動すると、再び奇妙な咆哮を上げる。

 

 そして、ラブラスとダロンはその咆哮に操られるかのように一斉にギンガに向かって行く!

 

 

 間違いない。この二体はギマイラの支配下にある怪獣なのだ。

 

 

 ギンガはまずは向かって来たラブラスの両腕を掴み、そのまま一回転して遠心力を加えて地面に投げつける。

 

 次に振り向き様にダロンに組み付き、膝蹴りを二発腹部に打ち込み、続けて左拳のパンチを撃とうと左腕を振り上げるが、ダロンは触手の一本をそれに巻き付けて封じる。

 

 左腕を掴まれた状態でギンガは、ダロンの鞭の様な触手攻撃をかわしつつ右拳でのパンチを撃ち込んで行き、そのまま後ろから迫って来たラブラスの腹部に振り向き様に左脚蹴りを叩き込んで後退させる。

 

 だが、ギンガは一瞬の隙を突かれてダロンの触手攻撃を背中に喰らい、怯んだ隙にラブラスの左腕の鋏でのパンチを胸部に受けて吹っ飛び、地面に転倒する。

 

 

 流石のギンガも、ギマイラに操られる二体の怪獣の連携に苦戦を強いられていた…!

 

 

 

 一方、先ほどギマイラに壊れたスポーツジムの建物内に取り残された真美とひかる、そして子供達5名(男の子2人、女の子3人)。真美は脱出しようと瓦礫等を動かそうとするが、彼女の力だけでは少し動かすのがやっとであった。

 

 「駄目だわ…ビクともしない…。」

 

 

 子供達は恐怖で泣き出しており、ひかるは彼らを宥めようと呼びかけている。

 

 「みんな、大丈夫だよ。 泣かないで。 どこか痛い?」

 

 一向に返事をせず泣き続ける子供達。すると、女の子の一人がひかるに抱き付く。

 

 ひかるは少し驚きながらも、その子の頭を撫でながら言い聞かせる。

 

 「そうだよね…怖いよね…分かるよ…。」

 

 実際、自分自身も恐怖を感じているひかるは、彼女達に同調して、そう言い聞かせるしか出来なかった。

 

 何も出来ない自分に不甲斐なさを感じたひかるは、再び自信を失いそうになった。

 

 

 その時、真美は瓦礫を動かすのを一旦止め、子供たちの元に歩み寄ってしゃがみ、男の子の一人の頭にそっと手を当てて優しく話しかける。

 

 「ねぇ、ボク達は、今何が食べたい?」

 

 「新田…先輩?」

 

 真美の思わぬ質問に困惑するひかる。

 

 

 その時、真美の声を聞いた子供達は、少し落ち着いて顔を上げる。

 

 それにより、優しい表情で見つめる真美の顔を見た事により安心感を覚えたのか、口々に答え始める。

 

 「…ハンバーガー」 「フライドチキン」 「アイスクリーム」 「プリン」 「クレープ」

 

 

 子供達の返答を聞いた真美は満面の笑顔になる。

 

 「そっか。 因みにお姉ちゃんは…ラーメンでしょ、お寿司でしょ、オムライス、かつ丼、ステーキ、焼き肉、ケーキ…食べたいものがいーっぱい。」

 

 「…ははは、あり過ぎだよ。」 「欲張りだねお姉ちゃん。」

 

 「えへへ…。」

 

 子供の一人がそう言ったのを皮切りに、周囲は笑いが溢れ始める。

 

 

 「新田先輩…やっぱり凄いな。」

 

 真美の、人を安心させる凄さを目の当たりにしたひかるも、徐々に元気が戻り始める。

 

 

 「私は…ドーナツが食べたいです。」

 

 真美は、そう言ったひかるの方を向いて微笑みかける。

 

 

 「ひかるちゃん、ドーナツ好きだもんね。」

 

 

 「はっ…!」

 

 

 真美の言葉を聞いたひかるは、心に何かの衝撃を受け、自然と嬉しさが込み上がって来る。

 

 

 (新田先輩…覚えててくれたんだ…!)

 

 

 実はひかるは、入学式の新入生の自己紹介の時にドーナツ好きである事も公言しており、その事を真美はあまり絡みが無いにも関わらず覚えていたのである。

 

 

 それを知ったひかるは、失いかけていた“自信”を、徐々に取り戻し始めていた…。

 

 

 真美は全員に語り掛ける。

 

 「今頑張って、助かったら、食べたいもの、美味しいものも食べれるようになるんだよ。」

 

 その言葉を聞いた子供達は、表情に明かりが戻り始める。

 

 「お姉ちゃん達も力になるわ。だから頑張ろ。ね。」

 

 「「「「「うん!」」」」」

 

 満面の笑みで語り掛ける真美に、元気を取り戻した子供達は返事を返す。

 

 

 『自信持っていいと俺は思うけどな。』

 

 『“人として当然の事”が出来ている時点で、十分凄い事なんだよ!』

 

 『きっともっと自分の凄さに気づけると思うよ!』

 

 真美の言葉を聞き、そして、先程のヒカルと海羽、愛紗の言葉を思い出した事により、元気を取り戻した子供達を見たひかるも、決心を始めていた。

 

 (希望を取り戻した子供達…私達が支えてあげなきゃね。)

 

 

 同じく望みを取り戻したひかるは、真美が自分を覚えてくれていた事を知った事で自信を取り戻し、諦めずにここから抜け出し、子供達も助けたい…そういう思いが強くなっていく…。

 

 

 「まずはこの瓦礫をどかさないとね…ボク達、手を貸してくれる?」

 

 真美が子供達にそう語り掛けたその時、

 

 

 「私に任せてください。」

 

 

 「…ひかるちゃん?」

 

 自信ありげに申し出るひかる。真美は子供達と共に彼女の方を振り向く。

 

 

 真美達が困惑と共に見つめる中、ひかるは腕捲りをすると、目の前にある、自身の背丈よりも大きく、分厚く、下手するとtありそうな、コンクリート製の一つの瓦礫の欠片を両手でしっかりと掴む。

 

 

 「ふんにゅっ!!」

 

 

 そして、何処か可愛らしい掛け声と共に力を入れ、なんとその大きな瓦礫の欠片を持ち上げたのである!

 

 

 「…ひかる…ちゃん?」

 

 「あんな大きい物を軽々と!」

 

 「スゲェ!!」 「怪力だ!怪力姉ちゃんだ!」

 

 それを目の当たりにした真美は驚きで目を見開き、子供達は驚きと同時に興奮し出す。

 

 

 ひかるは持ち上げてどかした瓦礫を置いた後、どこか照れ臭そうに微笑みかける。

 

 「えへへ…。」

 

 

 「ど…どうしたの?その力…。」

 

 「新田先輩…今まで黙ってたのですが…私、力が強いんです。」

 

 右腕を曲げてポーズを取りながらにこやかにそう言うひかるは、引き続きワケを話す。

 

 

 実は彼女は、“馬鹿力”と言われる程の怪力を有しているのである!

 

 その力は凄まじく、一説では十数㎏の牛乳缶を片手でひょいと持ち上げたり、投げた野球ボールが約60m先の金網にめり込んでしまったり、突然絡んで来た自身よりもガタイのいい男性を、恐怖で悲鳴を上げながら咄嗟に手を突き出しただけで数十メートル先まで突き飛ばしてしまったりした事があると言われている。

 

 過去にこの怪力を活かして自動販売機の下に小銭を落とした子供のお助けをした事があるのだが、その時にその子供に怖がられ、それと同時にその近くにいた子供達も怖がって逃げて行ったのがキッカケで自信を無くし、それ以降この特徴を隠すようにして来たのである。

 

 しかし、今回の真美とのやり取りという“ちょっとしたキッカケ”で“自信”を取り戻した事により、再び人のために怪力を活かそうと決心したのである。

 

 つまり彼女は、“お洒落女子”であり、“怪力女子”でもあったのだ!(下手をすると、純粋な力だけでは櫂よりも上かもしれない…?)

 

 

 ひかるの話を聞いた真美は、ふと何かを思い出し始めていた…。

 

 (…そういえば、さっきジムで30キロのダンベルを軽々と上げ下げしてたような…。)

 

 

 ワケを聞いた後も驚きを隠せない表情の真美だったが、やがてそれが微笑みに変わる。

 

 「…凄いわ、ひかるちゃん。 ありがとう。お陰で助かりそうだわ。」

 

 「凄ぇよ姉ちゃん!」 「かっこいい!」 「ありがとう!」 「どんどんやっちゃって!」 「行け~!」

 

 真美の感謝の言葉、そして子供達の元気のいい言葉を聞いたひかるは、彼らに微笑みかける。

 

 「ありがと、ボク達。 さ、もうひと頑張りしますか。」

 

 そう言うとひかるは、引き続き瓦礫の除去に取り掛かる。真美達もそれを手伝い始めた。

 

 

 一方、ギンガはと言うと、ラブラスと接近戦を展開するが、一瞬の隙を突かれて正拳突きを胸部に喰らい、その後繰り出して来た上段蹴りを咄嗟に両腕で防ごうとするが、その威力に吹っ飛んでしまう。

 

そして、吹っ飛んだ先に待ち構えていたダロンに両腕、両脚、胴体に触手を巻き付けられる形で羽交い締めにされてしまう!

 

 その力は凄まじく、もがいても解ける様子は無い。前方からは鋏を構えたラブラスが迫っていた!

 

 

 「クソっ…こうなったらギンガストリウムで…!」

 

 そう言っている間にも、ラブラスは広げた鋏をギンガの首目掛けて突き出し始めていた!

 

 

 その時!

 

 

 《ウルトランス! サドラシザーズ!》

 

 

 聞き覚えのある音声と共に、1人の巨人がギンガとラブラスの間に滑り込む。

 

 現れたのは、右腕をウルトランスで岩石怪獣サドラの鋏・サドラシザーズに変形させた状態の『ウルトラマンビクトリー』である!

 

 ビクトリーはラブラスの鋏をサドラの鋏で挟む事によって防ぎ、力比べの末にそれを張り飛ばし、それと同時に一回転しての上段回し蹴りを頭部に叩き込んで吹っ飛ばす!

 

 

 「ショウ!」

 

 ビクトリーの加勢に嬉しそうに反応したヒカル。それに同調するようにギンガも気力を取り戻し、クリスタルを黄色く輝かせ、自身に巻き付いた触手を通じて黄色の電撃をダロンに流し込む!

 

 体が痺れたダロンは、たまらずギンガを解放してしまい、それにより自由の身となったギンガはビクトリーと合流する。

 

 

 「大丈夫か?ヒカル。」

 

 「平気だ。しかし、何故お前までここに?」

 

 「何故は無い。俺達、どれだけ一緒に戦って来たと思っている?」

 

 「…そうだったな!」

 

 長年共に戦った絆の深さにより合流した二人の戦士は、互いに腕をクロスさせる。

 

 

 その時、ギンガ及びヒカルはあるモノに気付く。

 

 

 それは、先程閉じ込められていた真美とひかる、子供達が、無事に脱出出来ていた事であった。

 

 一同は笑顔でギンガ達を見上げながら手を振り、無事を知らせる。

 

 「ギンガさん!ビクトリーさん! 私達はもう大丈夫です!」 「無事に脱出出来ました!」

 

 真美とひかるの言葉を聞き、更にひかるの満面の笑みを見たヒカルは、確信する。

 

 「彼女、どうやら失っていたモノを取り戻したみたいだな…上出来だ!」

 

 ギンガは、自信を取り戻したひかるにサムズアップを向け、それを見たひかるも元気よくサムズアップを返す。

 

 

 「真美ちゃーん!」 「ひかるちゃん!」

 

 真美とひかるの安全に気付いた海羽と愛紗は、2人の元に駆け寄り、真美達もそれに気付く。

 

 「良かった、無事で。」 「えぇ、ひかるちゃんのお陰だよ。」

 

 嬉し涙を出しながら抱き付く海羽の頭を撫でながらそう言う真美。それを聞いた愛紗は少し驚く。

 

 「えっ? …もしかしてひかるちゃん…力、解放しちゃったの?」

 

 「えへへ」 ひかるは笑顔で、少し照れ臭そうに頭の後ろに手を当てる。

 

 「そんな…ひかるちゃん、あんなに力を人に見せるの嫌がってたのに…。」

 

 心配する愛紗に、ひかるは変わらず笑顔で語る。

 

 「確かに、私はこの馬鹿力がコンプレックスで、今まで隠していたわ…。 でも、ようやく思えるようになったの。この力を持ってる私にしか出来ない事がある。この力を、人の為に使って行きたいと。」

 

 「ひかるちゃん…。」

 

 「そして、みんなの言葉、そして、新田先輩が私の事を覚えてくれていた事が、その自信を取り戻させてくれた。 本当にありがとう。」

 

 自信を取り戻したひかるの先ほどとは違う晴れ渡った笑顔を見た一同は、安心と嬉しさから同じく笑顔になる。

 

 

 

 ひかるが自信を取り戻した事により、より深まった彼女達の仲を確信したヒカルも、勇気が漲って来る…!

 

 「彼女達は勇気を出した…今度は俺達の出番だぜ!」 「おぅ!」

 

 ギンガとビクトリーは、威嚇するように触手を広げて構えるダロンの方を向き、同時にファイティングポーズを取る。

 

 「まずはコイツからやろうぜ!」 「あぁ、行くぞ!」

 

 

 (BGM:キラメク未来~夢の銀河へ~)

 

 

 一斉に駆け出すギンガとビクトリー。ダロンは無数の触手を四方八方から突き出し始めるが、ギンガは『ギンガスパークランス』による打撃や頭部のクリスタルからの紫の光弾『ギンガスラッシュ』、ビクトリーは脚のクリスタルからの光弾『ビクトリウムスラッシュ』や頭部のクリスタルからの光線『ビクトリウムバーン』で、触手を次々と弾き返しながら接近して行く!

 

 まずは接近したビクトリーが、連続回し蹴りの要領でビクトリウムスラッシュを打ち込んで行き、次にダロンが反撃で伸ばして来た一本の触手を掴むとそれを伝って一回転しながら接近して左肘を胸部に打ち込み、更に跳躍してダロンを飛び越えながら、ビクトリウムスラッシュを纏った蹴りを頭部に叩き込む!

 

 次にギンガが接近すると、ギンガスパークランスにより火花を散らしながら左右斜めと斬撃を決めた後、ランスの先端を胸部に突き立てて後退させる。

 

 そしてダロンの触手攻撃を避けながらすれ違い様に一直線の斬撃を決めた後、後ろ蹴りを背中に叩き込んで吹っ飛ばす。

 

 

 《ウルトランス! ウルトラマンヒカリ!》

 

 《ナイトティンバー!》

 

 ショウは『ウルトラマンヒカリ』のクリスタルスパークドールズをリードして『ナイトティンバー』を召喚して掴み取る。

 

 そして、ティンバーモードでメロディを奏でた後、カバーを展開してソードモードへと変形させて揚げる!

 

 《放て!聖なる力!》

 

 ビクトリーはヒカリの音声と共に、周囲に現れた結晶体から注がれるエネルギーを浴びて、青い光と共に『ウルトラマンビクトリーナイト』へと変身を完了する!

 

 

 ショウはナイトティンバーのポンプアクションを1回行う。

 

 《1(ワン)! ナイトビクトリウムフラッシュ!》

 

 ヒカリの音声と共に、ショウはトリガーを引いて刃先を青白く発光させる。

 

 

 「ナイトビクトリウムフラッシュ!」

 

 ビクトリーナイトは高く飛んだ後、急降下しながら必殺の回転斬り『ナイトビクトリウムフラッシュ』を放つ!

 

 高速回転をするビクトリーナイトは、迫り来るダロンの足をことごとく切り落としながら突っ込んで行き、やがて本体に回転斬りを決めて吹っ飛ばす!

 

 

 ダロンはだいぶ弱って来たようだ。今こそトドメである!

 

 

 「一気に決めるぞ!」

 

 ヒカルは、ストリウムブレスを変身モードにしてギンガスパークでリードする。

 

 「今こそ、一つになる時! ウルトラマンタロウ!ギンガに力を! ギンガストリウム!」

 

 ギンガはタロウの掛け声と共にタロウと一体化して『ウルトラマンギンガストリウム』となり、眩い光から現れる!

 

 

 ヒカルはディスクを回してスイッチを押し、『ウルトラマンジャック』の力を発動させる!

 

 「ウルトラマンジャックの力よ! ウルトラショット!」

 

 タロウの掛け声と共に、ギンガはジャックと同じポーズを取った後、右腕に左手を添えた状態で右手の先から必殺光線『ウルトラショット』を発射する!

 

 光線を浴びたダロンは、その場で大爆発して砕け散った…!

 

 

 (BGM終了)

 

 

 「やったー!」 「あとは、あのトゲトゲ怪獣とハサミ怪獣だけだね!」

 

 ダロンを撃破したギンガ達を見て、愛紗とひかるは純粋に喜ぶ。見守っている人々も歓声と声援を上げる。

 

 

 …しかし海羽は、ラブラスの方を見て何やら違和感を感じていた。

 

 (さっきのあのハサミ怪獣ちゃんのパンチとキック…何処か空手っぽかったような…?)

 

 

 ギマイラは、ラブラスに指示を出すように腕を振るう。

 

 …しかし、妙な事に、ラブラスの動きはさっきよりも勢いが無いような感じであった…。

 

 

 ギンガストリウムはラブラスに果敢に向かって行き、ヘッドロックをかけてそのままジャンプした後、落下スピードを利用して地面に叩き付ける!

 

 地面を転がったラブラスは立ち上がるが、豪快な投げ技を喰らったためか、既に動きが鈍っていた。

 

 

 ギンガストリウムはトドメの『ギンガクロスシュート』を放とうと、クリスタルを青く輝かせながら、両腕を前方でクロスさせた後、S字を描くように左右に大きく広げて構える事でエネルギーを溜めて行く…!

 

 「ギンガクロスシュート!」

 

 ヒカルの掛け声と共に、ギンガは腕をL字に組んで光線を発射しようとする!

 

 

 その時!

 

 

 「やめてーっ!!」

 

 

 突然、真美達の前に一人の女性が走りながら立ち塞がり、ギンガストリウムに渾身の叫びを上げる!

 

 

 それを聞いたギンガストリウムは咄嗟に構えを解き、その女性の方を振り向く。ヒカルは困惑を始めている。

 

 「一体何なんだ?」

 

 

 突如現れた、赤いラインの入った黒のジャージを着込んでおり、輪郭が整った可憐な顔に、ショートの茶髪が特徴の一人の女性。困惑する真美達。愛紗とひかるは彼女が誰なのかすぐさま気付く。

 

 「…スミちゃん?」 「どうしたのよ?」

 

 

 “スミちゃん”と呼ばれる彼女の名は『小河寿美江』(おがわ すみえ)。

 

 ひかるや愛紗と同じで現在麟大1年生であり、農学部に所属しており、部活は陸上部に所属している“スポーツ女子”である。

 

 ひかる達とは顔見知りだが、真美達とは今回対面するのが初めてである。

 

 

 「どうしたの?」 「どうしてギンガさんに攻撃を止めさせたの?」

 

 落ち着いて問いかける真美と、あどけない顔で問いかける海羽。だが寿美江は、初めての人達に対する人見知りの他に、言いたくても言いづらい気持ちもあるのか、出ようとする言葉を押さえ込むように俯いて黙り込んでしまう…。

 

 

 「もしかして、あの怪獣の事、何か知っているのか?」

 

 そう言いながらヒカル(ギンガ)はラブラスの方を振り向く。 するとその視線の先には、何やら頭を抱えながら必死にもがくような仕草を見せるラブラスの姿が!

 

 「何だと?どうしたんだ?あの怪獣は…。」

 

 ヒカルは驚きを隠せず、ショウもラブラスの異変に気付く。

 

 「あいつ…自分の中の何かと戦っているのか?」

 

 

 「どうしたんだろう?あの怪獣…。」 「スミちゃん、何か知っているの?」

 

 ひかると愛紗は改めて寿美江に問いかけるが、寿美江は変わらず渋い表情で俯いたまま答えようとしない…。

 

 

 その時。

 

 

 「俺が話そう。」

 

 何処からか男性の声が聞こえ、一同は振り向く。

 

 特に海羽は、聞き覚えのある声だったためか、一番反応が素早かった。

 

 

 そこには、一人の長身かつガタイのいい、端正な顔立ちの男性が歩いて来ている。

 

 それを見た海羽は思わず名前を呟いた。

 

 

 「宏隆君?」

 

 

 彼はかつて海羽と、鬼怪獣オニオンを巡る騒動を通じた交友経験のある『佐藤宏隆』である(番外編『眞鍋海羽物語(ストーリー 如月~きさらぎ~)』参照)。

 

 彼は海羽と同じく麟慶大学商学部2年であり、今では県大会優勝の実績を認められ、空手部の主将を務めている。

 

 因みに真美も彼とは面識があり、あの一件から自信を取り戻した彼は、あれから真美に勉強を教えてもらったり等もしており、ひかる達も入学時にあいさつ程度で声を掛けた事があるという。

 

 

 しかし、彼と寿美江は一体何の関係があるのだろうか?

 

 

 「久しぶりだな、海羽。」 「宏隆君も、相変わらず元気そうね。」

 

 二人はとりあえず再会の声を掛け合った後、本題に入る。

 

 

 「宏隆君は何か知ってるの? あの怪獣の事…。」

 

 

 海羽の問いかけを聞いた宏隆は、少し躊躇うように首を横に向けた後、重い口を開くように話し始める。

 

 「まず、寿美江は、今年入部したばかりの空手部のマネージャー。 そして…。」

 

 

 次に宏隆は、ラブラスの方を向く。

 

 

 「あの怪獣は…同じく今年入ったばかりの、俺の後輩なんだ。」

 

 

 宏隆の思わぬ発言に、一同は動揺を隠せなかった。

 

 「ぇ…一体どういう事?」

 

 「あの怪獣が…?」 「佐藤先輩の…後輩?」

 

 「つまり…元は人間って事なの?」

 

 海羽、愛紗・ひかる、真美は口々に発現する。

 

 

 宏隆は更に詳しく話す。

 

 彼の所属する空手部に、今年新しく二人の新入部員が出来た。その一人が寿美江。

 

 そしてもう一人は、『道枝真』(みちえだ まこと)という社会学部に所属する男子生徒である。

 

 

〈回想〉

 

 今朝、宏隆、真、寿美江の三人は、気まぐれに朝のランニングをしていた。

 

 だがその時、突然何処からか謎の霧が発生したのである。

 

 張り切って1番前を走っていた真は、それをモロに浴びたかと思えば突然苦しみ出し、それを見た宏隆と寿美江は即座に回避しながら真に声をかけた。

 

 …しかし、時は既に遅く、霧を全身に浴びた真はしばらく苦しんだ後、まるで思考が停止したかのように脱力する。

 

 

 そして次の瞬間、何処からか飛んで来た青い光線が真に降り注ぎ、それを浴びた真は苦しみながら、おぞましい光を放ちながら徐々に姿が変わって行き、やがてあの変わり果てた姿(ラブラス)になってしまったのだという…。

 

 怪獣になった後、ある程度自我を取り戻したのか、真は自分の姿に動揺しながらも、宏隆達のためを思ったのか、その場からトボトボと姿を消したのだという…。

 

 〈回想終了〉

 

 

 ラブラスの正体は人間だったのだ!この事から、肩書きはさしづめ『人間怪獣』と言った所であろう…。

 

 宏隆の話を聞いた海羽達は、驚きを隠せないと同時に信じられないと言わんばかりの表情になっていた。

 

 「そんな…まさか…。」 「あの怪獣が、マコちゃんだなんて…。」

 

 真とある程度仲の良いひかると愛紗も、激しい動揺を隠せない。

 

 「信じられんかもしれんが、俺も寿美江も目の前で、この目で見たんだ。真は…怪獣にされちまった…!」

 

 宏隆は、悔しさから下げた拳を強く握る。

 

 「私も、あの時何も出来なかった…。苦しむ仲間に…何も出来なかった…。」

 

 「あまり自分を責めるな寿美江。実際、何が起こるか分からない状況だったのだから…。」

 

 寿美江はショックと不甲斐なさで泣き出しそうになるが、宏隆がそれを宥める。

 

 

 「一体誰なの? 宏隆君の仲間に、そんな事をしたのは…。」

 

 海羽も、心の痛みから泣き出しそうになりながらも問いかける。

 

 

 「それなんだが、あの時真が怪獣になったと同時に、何処からか、真の怪獣とは違う鳴き声が聞こえたんだ。 それは、アイツの鳴き声だ!」

 

 そう言いながら、宏隆はギマイラの方を指差した!

 

 

 どうやら、あの時聞こえた鳴き声が、今出現しているギマイラと同一であった為、即座に特定出来たたようである。

 

 それに、どうやらギマイラは潮風町に来る以前にも、各地で猛威を振るっていたようであり、それが最近ニュース等で取り上げられていたというのもあるらしい。

 

 

 そして、宏隆の特定は正しかった!

 

 ギマイラの能力の中には、角から浴びた対象を怪獣化させる光線を放ち、自分の支配下にするという恐ろしいモノがある!

 

 先程のダロンも、恐らく東京湾のタコが怪獣化した存在なのだろう。

 

 

 更にギマイラは、口から吸いこんだ相手の思考能力を低下させ、思いのままに操る事の出来る、宇宙のカオスで出来た霧を吐き出す事も出来、先程の回想から、真を怪獣化させる前も使用したと考えられる。

 

 この霧は無機物を破壊するという二重の効果を持つ事で武器としても使用可能であり、なんと地球のあらゆる薬品でも分解が不可能というとんでもないモノなのである!

 

 

 ラブラスの正体が、ギマイラによって怪獣化された仲間だという事が判明した事により、一同の動揺は深まる。

 

 先程ラブラスが苦しむような素振りを見せていたのは、恐らくある程度理性が戻った事により、ギマイラの支配と必死に戦っていたのであろう。

 

 真という人物は、相当精神力がある人物だと思われる。

 

 

 「一体、どうすればいいの…?」

 

 寿美江はその場で崩れるようにうずくまってすすり泣き始め、ひかるはしゃがんで彼女の背中を摩る。

 

 

 「なんてこった…コイツ(ギマイラ)、半端じゃねぇ程ヤバい奴だな!」

 

 「まずはアイツ(ラブラス)を元に戻す事が先決だ。」

 

 ギンガストリウムとビクトリーナイトは、ラブラスを元に戻す事を優先する事にした。

 

 

 「こうなったら、ギンガさんのギンガコンフォートと、ビクトリーさんのナイトティンバーのメロディと、私のゴッデスピュアリファイを合わせて…。」

 

 そう言いながら『ハートフルグラス』を取り出して、ひかる達に見えない場所に隠れて変身しようとする海羽。

 

 

 …しかし、この時は誰もまだ知らなかった…。

 

 

 ギマイラによって怪獣化されたモノは、“死ぬ”意外に戻る方法が無いというあまりにも残酷な真実を…!

 

 

 次の瞬間、海羽は、ふと変身の手を止めて上空を見上げる。

 

 

 ギンガストリウムとビクトリーナイト、そして真美達も、それにつられて見上げてみると、そこには何かが隕石のように発火しながら落下して来る…!

 

 

 そしてそれは、地面に激突すると同時に大爆発し、それにより発生した強風に一同は思わず顔を腕で隠しながら背ける。

 

 

 やがて煙が晴れて行き、そこに現れたのは信じられないモノであった!

 

 

 ハイパーゼットンが、コスモス(スペースコロナモード)とジャスティス(スタンダードモード)を、それぞれ右足、左足で踏みつけた状態で立っているのである!

 

 二人のカラータイマーは、既に赤く点滅を始めていた!

 

 

 「何!?あれは…。」 「新しい敵が…来たと言うの?」 「私、怖いわ。」

 

 愛紗とひかるは驚愕し、寿美江は恐怖でひかるに縋り付く。

 

 

 「コスモスさん…?」「ジャスティスさんもいるわ!」

 

 真美と海羽は、コスモスとジャスティスに気付く。

 

 

 「ハイパーゼットンだと!」 「こんな時に!」

 

 かつてハイパーゼットンと交戦経験のあるギンガとビクトリーも警戒態勢に入る。

 

 

 そしてハイパーゼットンは、その場からテレポートしてコスモス達よりちょっと前に現れる。

 

 「やれやれ…我がハイパーゼットンに勝とうなど、愚かな考えです。」

 

 ハイパーゼットンを中で操っているゼボスは余裕そうに呟く。

 

 

 そしてハイパーゼットンは、すっかりくつろいでいるギマイラの方を振り向く。

 

 「ギマイラも、よくやってくれた。お陰で我がゼットンの力は、最高潮目前までに溜まった。」

 

 

 「その怪獣は、貴様の差し金だったのか!」 ショウは啖呵を切る。

 

 

 「その通り! 我が名はゼットン星人ゼボス。 あるお方のために新たに派遣された、ゼットン星人随一の、ゼットン使いさ。」

 

 

 (あるお方って…トシ君(桜井敏樹)の事なのかな…?)

 

 ゼボスの言葉を聞いた海羽は、心でそう呟く。

 

 

 ゼボスはテライズグレートから新たに派遣された刺客であり、ゼットンを使って破壊と殺戮を好む凶悪な宇宙人である。

 

 海羽の察し通り、桜井敏樹のためにマイナスエネルギーを集めるために暗躍して来て、まず手始めにコスモスペースを襲撃しようとしたのだが、そこでジャスティスとグローカーの妨害を受ける。

 

 そして、マルチバースを移動しながらジャスティスと追撃戦をしていく内に、この世界に戻り、この世界の地球を襲撃しようと変更したのである。

 

 更に、マイナスエネルギーはハイパーゼットンのエネルギー源にもなるため、まだ力が不完全だったハイパーゼットンを完全にするためにも、地球に怪獣墓場から連れたギマイラを放って人々にマイナスエネルギーを発生させようと企んだ。

 

 企み通り、ギマイラが地球の各地で暴れたり、人を怪獣化させたりなどして暗躍した事により順調にマイナスエネルギーは集まって行き、ジャスティスや加勢したコスモスと交戦しながらそれを吸収して行った事により、強さも完全目前にまで溜まって行ったのである!

 

 それにより、コスモスとジャスティスを返り討ちに追い込んだと同時に地球に飛来したという事である。

 

 

 ゼボスの説明により、彼の企みを知った一同。

 

 「そんな…そんな事のために、マコちゃんを怪獣にするなんて…。」

 

 寿美江はより悲しみと絶望が深まって行き、再び膝から崩れ落ちる…!

 

 

 「いい感じに絶望してるね~。その調子でもっと絶望したまえ。我がゼットンのために!」

 

 

 「ふざけるな!お前だけは許さない!」 「俺達が、アイツ(ラブラス)を元に戻すまでだ!」

 

 ヒカルとショウはゼボスの言葉に怒りを露わにし、ラブラスを救おうとする。

 

 

 しかし、ゼボスは無情にも真実を告げる!

 

 「無駄だよ? ギマイラに怪獣にされたモノは、死ぬまで元に戻れない!」

 

 

 …その言葉はウルトラマン達に衝撃を与え、そして真美達の心に突き刺さる…!

 

 「死ぬまで…戻れない…?」 「じゃあ、真君は…一生あの姿で…?」 「もう…どうする事も出来ないの…?」

 

 特にひかる、愛紗、寿美江の同級生三人のショックは大きく、三人とも膝から崩れ、もはや絶望に等しいほどに項垂れる…。

 

 

 「みんな、気を確かに。」 「きっと何か方法はあるわ。」

 

 海羽と真美は三人に、肩に手を置きながら優しく呼びかける。

 

 

 「ふざけた事を言うな!!」とショウ。

 

 「お前を倒し、絶対に彼を元に戻す!!」とヒカル。

 

 

 ギンガストリウムとビクトリーナイトは構えを取るが、エネルギーの消耗と同時に活動の限界が近づいて来たのか、カラータイマーが赤く点滅を始める!

 

 「くっ…こんな時に!」

 

 

次々とウルトラ戦士達が弱って行く中、ゼボスはここぞとばかりにハイパーゼットンと共に攻撃に入ろうとする!

 

「フッフッフ…次はお前らの番だぁ…!」

 

 

 ハイパーゼットンは首を一回ししながらギンガストリウムとビクトリーナイトに歩みを進めて行くが、その時、最後の力を振り絞ったコスモスが後ろからしがみ付く!

 

 そして、続けて立ち上がったジャスティスも向かって行く!

 

 

 「ギマイラ!ジャスティスにトドメを刺せ!」

 

 ゼボスは慌てる事無くギマイラに指示を出し、ギマイラは咆哮を上げた後、尻尾を大きく振ってハイパーゼットンに向かって行くジャスティスの首元に叩き込んで吹っ飛ばした!

 

 

 ハイパーゼットンはしがみ付くコスモスの腹部に左肘を打ち込み、更に左腕の裏拳を顔面に打ち込んで引き離した後、振り向き様に右腕のラリアットを叩き込んで地面に叩きつけると、再び腹部を踏みつける!

 

 ジャスティスはギマイラの突進をなんとか受け止めると、右拳を頭部に打ち込んでかち上げるが、その直後にギマイラの頭突きを腹部に喰らい、続けて剛腕と爪を活かしたパンチを胸部に二発喰らう。

 

 ジャスティスは後退した後体勢を立て直し、反撃の右脚蹴りを打ち込むが、ギマイラはそれをあっさり腕で撥ね返した後、両手の爪を活かしたパンチを叩き込んで吹っ飛ばした!

 

 

 「俺達も行くぞ!」

 

 ヒカルの掛け声と共に、ギンガストリウムとビクトリーナイトはコスモス達に加勢しようとするが、その時、背後から無数の火球が襲い掛かる!

 

 激しい火球の雨あられはギンガ達、そして周囲の地面を直撃して爆発して行き、やがて二人は吹っ飛んで地面に叩き付けられると同時に、ダメージにより変身が解除されてギンガとビクトリーの姿に戻る!

 

 

 「今度は何だ!?」

 

 ギンガはうつ伏せに倒れた状態で後ろを振り向き、ビクトリーもそれに続く。

 

 

 煙が晴れた先に現れたのは、外見はゼットンに似ているが、全体的に体型がごつくなっており、より大きく頑丈になった甲殻に両手の鋭利なクロー、顔面の発光体はT字に変形しているのが特徴である。

 

 新たに現れたのは、ハイパーゼットンと同じくゼットンの強化形態『EXゼットン』である!

 

 

 「ゼットンがもう一体だと!?」

 

 新たな敵の出現に驚愕する二人。

 

 

 「言っただろ? 我はゼットン星人随一のゼットン使い。 侵略のために育てたゼットンは、ハイパーゼットンだけではないのだよ。 やれ!EXゼットン!」

 

 

 ゼボスの指示を受けたEXゼットンは両腕を広げてギンガとビクトリーに襲い掛かる!

 

 ギンガとビクトリーも立ち向かい、組み付いて押さえようとするが、EXゼットンはそれをあっさり振りほどくと、ギンガ、ビクトリーと順に引っ掻き攻撃を打ち込み、それにより二人が後退して膝を付いた所で、ビクトリーの腹部を蹴って飛ばし、ギンガの胸部に爪を活かしたパンチを叩き込んで吹っ飛ばす!

 

 二人が消耗しているという側面があるとはいえ、従来のゼットンよりも格段とパワーアップした圧倒的な力で圧倒して行くEXゼットン。

 

 

 ハイパーゼットンは踏みつけていたコスモスを、腹を蹴って転がす。

 

 コスモスはすぐさま右足、左膝を付いて体勢を立て直すと、両手を突き出してオーバーループ光線を放つ!

 

 だが、ハイパーゼットンは仁王立ちしたまま『ハイパーゼットンアブゾーブ』を発動させ、迫り来る光線を吸収・増幅し、波状光線として撃ち返す!

 

 撃ち返された光線を浴びて行くコスモスは、苦しみながらも手を伸ばし、覚束ない足取りで近づこうとするが、やがてカラータイマーが先程よりも早く点滅した後、止まってしまう…!

 

 遂にエネルギーが尽きてしまったコスモス!カラータイマーが止まった後、目の光も消え、やがて全身が銅像のように変色した後、光の粒子を散らしながら消滅してしまった…!

 

 

 「コスモス!」

 

 動揺するジャスティス。ギマイラはその隙にジャスティスの背中にパンチを叩き込んで殴り倒し、更に胸部を蹴って飛ばす!

 

 ギマイラは上を向いて咆哮を上げながら、頭部の角にエネルギーを溜めて行き、やがて突進してそれをジャスティスの胸部に突き立てる!

 

 そしてそのままジャスティスの体に強力なエネルギーを流し込み、それを受けたジャスティスは苦しんだ後、カラータイマーの点滅が止まり、目の光が消え、その場で消滅してしまう!

 

 

 コスモス、ジャスティスと立て続けに力尽きて行く中、ギンガとビクトリーは諦めずにEXゼットンに立ち向かう!

 

 ビクトリーは右脚蹴りを繰り出すが、EXゼットンそれをあっさり弾いた後、胸部に引っ掻き、頭突きを続けて打ち込んで吹っ飛ばす。

 

 今度はギンガがパンチを打ち込むが、EXゼットンはをそれを片手で掴んで受け止めてねじ込んだ後、ギンガの胸部に右手、左手とパンチを打ち込み、腹部に右足蹴りを打ち込んだ後、アッパーカットの要領で引っ掻き攻撃を胸部に叩き込んで吹っ飛ばした!

 

 

 「ギンガサンダーボルト!!」 「ビクトリウムバーン!!」

 

 ギンガとビクトリーは体勢を立て直しながら、即座に『ギンガサンダーボルト』と『ビクトリウムバーン』を放つが、EXゼットンは背中のジェット噴射でその場から飛び立つ事でそれらを回避する。

 

 そして高く飛んだ後、急降下して体当たりしながら100兆度の火球『100トリリオンメテオ』を放つ大技『ゼットンバックファイア』を放つ!

 

 「「ぐああああぁぁぁぁ!!」」

 

 灼熱の炎がギンガとビクトリーの周囲を取り囲んで大爆発した!

 

 EXゼットンは着地した後、ドラミングのような仕草で勝ち誇るように咆哮を上げる。

 

 

 見守っていた真美達、そしてその他大勢の人々がじっくりと見つめる中、爆発により発生した煙は晴れて行くが、その先に見えたのは廃墟となった土地のみであり、ギンガとビクトリーの姿は跡形も無かった…。

 

 彼らもまた、力尽きて消滅してしまったのである…!

 

 

 真美達、そしてその他人々の声援も空しく、強大な敵の前に敗れてしまったウルトラ戦士達…。

 

 人々の中には膝を付いたり、泣き出したりなどして、絶望に暮れそうになっている者も出始めていた…。

 

 

 そして海羽は、なにやら悔しそうな表情で下を向いたまま、ハートフルグラスを握る手を震わせていた…。

 

 

 「…ヒカルさん!」

 

 思い出したかのようにヒカルが心配になったひかるは走り出し、真美達もそれに続く。

 

 

 廃墟となった土地までに走って行き、必死に名前を呼びながら探して行き、やがてボロボロの姿で横たわる二人を発見する。

 

 コスモスに変身する『春野ムサシ』と、ジャスティスの人間体『ジュリ』である。

 

 

 「ムサシさん!」 「ジュリさん!」

 

 真美はムサシに、海羽は宏隆と共にジュリに寄り添い、「大丈夫ですか?」等と声を掛けて行く。

 

 二人は辛うじて意識があるみたいだ。

 

 「真美…ちゃんか…来てくれたんだね。」 「ムサシさん…。」

 

 「海羽か…まさかこういう形で…再会するとはな…。」 「ジュリさん…。」

 

 

 「はっ、ヒカルさん!」

 

 ひかるは、少し先で横たわっているヒカルとショウに気付き、愛紗と寿美江と共に駆け付ける。

 

 「ヒカルさん!大丈夫ですか?」 「(ショウに向かって)あなたも!」 「しっかりしてください!」

 

 必死に体を揺すりながら呼びかけるひかると愛紗、寿美江。やがてヒカルとショウはゆっくりと目を開ける。

 

 「ひかるちゃん…みんな…俺は一体…。」

 

 心配そうに自身を見つめるひかる達を見渡しながら、ヒカルは先ほどEXゼットンに敗れた事を思い出す。

 

 (…そっか…俺達は…アイツに…!)

 

 

 その時、ゼボスは街の人々に呼びかける!

 

 「見たか!!人間ども!! 我が配下達の圧倒的な力!!そしてそれらを育てた我の、驚くべき才能!!」

 

 

 「自分で驚くべき才能とか言いやがって…!」

 

 悔しそうな表情で睨みながら呟くショウ。ゼボスは続けて呼びかける。

 

 

 「引き続き絶望するがいい!! そうすればあるお方のためにマイナスエネルギーが集まり、それと同時に我がゼットン達も完全になる!! しかし、一気に絶望させるつもりは無い!じわりじわりとやってやる…!」

 

 ゼボスの意思で動くハイパーゼットンは、ギマイラの方を振り向く。

 

 「ギマイラは引き続きこの街に居座れ。 そして休むなり暴れるなり、好きにするがいい。」

 

 その言葉に真美達、そして人々は驚愕する! ギマイラは自由を与えられた。つまり、いつ休み、いつ暴れるか分からないのである!

 

 「ハイパーゼットンもEXゼットンも、完全な強さを得るまであと一歩となった。その仕上げと行こうじゃないか。引き続き絶望し、マイナスエネルギーを出すがいい! 明日の夜明け頃には完全になるだろうから、総攻撃はその時だな。 ま、せいぜい頑張りたまえ人間ども。 フハハハハハァ!!」

 

 ゼボスの響く高笑いを残し、ハイパーゼットンはその場からテレポートして、EXゼットンは飛び立って去って行った…。

 

 

 ギマイラは近くのビルを枕にするようにしてくつろぎ始め、その場には虚しく立ち尽くすラブラスのみが残された…。

 

 「真!!」 「マコちゃん!!」

 

 宏隆と寿美江はラブラスの姿の真に呼びかける。

 

 辛うじて真の意識が残っているのか、ラブラスも二人を見下ろす。

 

 だが、ラブラス(真)は、自身を心配そうに見つめる彼らを見渡した後、後ろを振り向いてトボトボと歩き去り始める。

 

 「はっ…待って!!」

 

 寿美江の叫びも空しく、やがてラブラスの姿は潮風高原の向こうへと見えなくなってしまった…。

 

 ラブラス(真)が去ってしまった事により、寿美江はその場で崩れるように膝を付き、顔を覆って泣き始め、愛紗は彼女の元に歩み寄って優しく背中を摩る。

 

 

 ヒカルが謎の反応を感知して駆け付けた平和そうな街に訪れた脅威は、想像を絶するものであった…。

 

 

 ビルを使って一休みをしているギマイラだが、いつ暴れ出すか分からない状況なため、一部の街の人々はとある隣接する二つの廃工場への非難を余儀なくされてしまった…。

 

 その廃工場には、潮風町及びその近郊でギマイラの被害に遭って怪我を負った人々も、医療ボランティアの人達と共に非難をしていた。

 

 

 真美は、海羽やひかる、愛紗の助けを借りながら、廃工場から少し離れた場所で傷ついたヒカル達の手当てをし終えた後、医療ボランティアに参加し始める。

 

 白衣の姿でボランティアの人達と共に懸命に治療作業をしていたその時、真美の元に一人の少年がやって来る。

 

 

 それに気づいた真美、同時に誰なのかに気付く。

 

 「あれ?裕君?」

 

 「真美さん…。」

 

 彼は、今年の正月に、スペースビースト騒動を通じて真美と親しくなった少年『佐久間裕』であった(番外編『新田真美物語(ストーリー) 私のお正月』参照)。

 

 

 「久しぶり。裕君もこの街に来てたのね。」

 

 笑顔で話しかける真美だが、裕はどこか暗い表情をしている。

 

 「どうしたの?」

 

 裕の目線までしゃがんで優しく話しかける真美。彼女の柔らかい笑顔を見て彼女の優しさを思い出した裕は、ワケを話す決心をする。

 

 

 彼は母、妹と一緒に飛行機に乗って東京へと旅行に出掛けていた。

 

 だがその時、突如黒いトゲトゲの怪獣が襲って来て、乗っていた飛行機が攻撃されたのだという。

 

 幸い大破を逃れた飛行機は、急遽近くの潮風町の空港になんとか不時着する事に成功したのだが、多くの怪我人、そして数名の死者を出してしまったのだという。

 

 よく見たら裕の胸元も、治療の後と思われる包帯が見え、現在同じく怪我を負った母と妹も治療を受けているという…。

 

 

 知り合いの家族も災難に見舞われた事を知った真美は、胸が痛くなる。それと同時に、裕達を襲った怪獣はギマイラだと確信する。

 

 「そっか…怖かったよね。 でも、裕君も家族も無事で良かったわ。」

 

 そう言いながら裕の頭にそっと手を当てる真美。しかし…。

 

 「正月に続いて…どうして僕の所にばかり不幸が来るんだろう…?」

 

 悲しそうにそうぼやく裕を見て、真美は一時かける言葉を失ってしまう…。

 

 

 更に。

 

 

 「ねぇ、人は死んだら、何処に行くんだろう…? 天国って、本当にあるのかな…?」

 

 

 「えっ…。」

 

 

 その発言を聞いた瞬間、真美は悟った…。

 

 裕も、重なる不幸に加え、人々と同じく絶望的な状況下に置かれてしまった事により、望みを失いかけているという事を…。

 

 

 裕の可哀想さに対する胸の痛さに涙目になりかけた真美は、裕をそっと抱き寄せる。

 

 「そうだよね…怖いよね…私もだよ…。」

 

 今の真美に出来る事は、こうやって寄り添う事ぐらいであった…。

 

 

 

 宏隆とひかる、愛紗は、意気消沈している寿美江に寄り添っていた。

 

 「ほら、食うか?」 宏隆はそう言いながら、持っていたチョコレートを差し出すが、寿美江は受け取るどころか、振り向く様子すらない…。

 

 「駄目だ…完全にショックでやられてしまっている…。」

 

 「無理も無いわ。大切な仲間が、怪獣にされてしまったんだもん…。」

 

 「それに、強大な敵にウルトラマンもやられてしまってこの状況…一体どうすればいいんだろう…。」

 

 ひかると愛紗も、どうしたらいいか分からない状況に途方に暮れそうになっていた…。

 

 

 「とりあえず、寿美江は俺に任せて、二人はウルトラマン達の様子を見て来てくれ。」

 

 「分かりました。行こ、愛紗ちゃん。」 「えぇ。そうね。」

 

 寿美江を宏隆に任せて行こうとするひかると愛紗。

 

 

 その時、愛紗のスマホの着信音が鳴る。

 

 「あ、ちょっとごめん。ママからだわ。」

 

 電話に出る愛紗。

 

 

 「もしもし、ママ? どうしたの?」

 

 

 しばらく黙る愛紗。母の話を聞いているのであろう。

 

 

 「…ぇ…? ぅ…嘘でしょ…?」

 

 どうしたのか、何やら動揺を始める愛紗。表情も段々と暗くなっていく…。

 

 

 「…そんな…。」

 

 やがてそう呟くと、力が抜けた手からスマホがすり抜けて地面に落ちてしまう…!

 

 

 「お、おい、どうした?」 「どうしたの?愛紗ちゃん。」

 

 宏隆とひかるも、心配そうに声を掛ける。 愛紗は暗い表情のまま俯き、やがて涙目になり始める…。

 

 

 

 廃工場から少し離れた、とある使われていない倉庫にて、治療を受けたウルトラ戦士四人は話し合っていた。

 

 「またしても強大な敵が現れたな。しかも半端じゃない位の…。」

 

 「以前ハイパーゼットンと戦った事あるが、恐らく今回のはその数倍も強い…。」

 

 「それに、同じくらい強いEXゼットンまで…ゼットン星随一のゼットン使いってのは、案外伊達じゃないかもな。」

 

 ヒカルとショウは改めてゼボスのハイパーゼットン達の強さを実感する。

 

 

 「僕も、以前ゼロやダイナと共にハイパーゼットンと戦った事があるのだが、君たちの言う通り、今回の個体は歴代最強かもしれない。」

 

 ムサシも、今回のハイパーゼットンの格の違いを感じていた。

 

 「それに、あのゼボスって奴は、命を受けてやっているマイナスエネルギーを集める他に、個人的な目的があると思うんだ。」

 

 「それはどういう事ですか?」

 

 ムサシの発言に疑問を投げかけるヒカル。そこにジュリが口を挟む。

 

 「本当にマイナスエネルギーを集めるだけが目的ならば、ギマイラだけで間に合うはずだ…。 だが奴は、強化されたゼットンを二体も引き連れている…。」

 

 それを聞いたショウ、そしてヒカルは察した。

 

 「そうか…奴はマイナスエネルギーを集めた後、それによって完全になったハイパーゼットンと共に主を殺して…!」

 

 「自分が、侵略者の座に就こうとしているという事か!」

 

 ムサシとジュリは話を続ける。

 

 「そういう事だ。どちらにしろ、この世界の人々を危機に陥れる事に変わりは無い。」

 

 「宇宙の秩序、そして正義のために、必ず奴を倒さねば…。コスモス、また一緒に戦ってくれないか。」

 

 「そうしたい所だが…。」

 

 そう言いながら『コスモプラック』を取り出すムサシ。それを見たジュリ、そしてヒカルとショウは驚愕する。

 

 先程敗れた際のダメージがあまりにも大きかったのか、コスモプラックは石化していた…。

 

 「でも、僕は諦めない。僕達を必要としている人たちがいる限り…。」

 

 そう言いながらムサシは、怯える廃工場の人々を見つめる。

 

 

 「私も、受けたダメージが大きい…まだ時間がかかりそうだ。」

 

 ジュリもそう呟きながら『ジャストランサー』を取り出す。

 

 

 「俺達もダメージが大きい。次いつ変身できるか分からない。」

 

 「だが、あのように苦しんでいる人達のためにも、俺達は諦めない。」

 

 「だな、ショウ。」

 

 同じく諦めない姿勢を崩さないヒカルとショウは、互いの腕をクロスさせる。

 

 

 (あと、あの怪獣(ラブラス)をどうやったら元の人間に戻せるか…。)

 

 ムサシはラブラス(真)をどうすれば救出出来るかも諦めず考えていた…。

 

 

 その時、そんな彼らのやり取りを聞いていた海羽は、何やら申し分なさそうに声を掛け始める。

 

 「ぁ…あの…。」

 

 「どうした?海羽。」ヒカルもそれに気づいて声を掛け、他の三人も海羽の方を振り向く。

 

 

 「ごめんなさい!」

 

 

 …突然謝り出す海羽に若干困惑気味の4人。

 

 「何故、謝るのだ?」ジュリが問いかける。

 

 

 「私…あの時怖くて…何も出来ませんでした…!」

 

 海羽は、涙ながらにワケを話し出す。

 

 

 先程、ウルトラ戦士達4人がゼボス率いる怪獣軍団に苦戦して敗退していた時、彼女も変身して加勢し、ラブラスも助けようとした。

 

 しかし、ハイパーゼットン、EXゼットン、そしてギマイラの圧倒的な強さを目の当たりにした時、ふと先日の恐怖が蘇ってしまったのである…。

 

 

 赤いアイツと白猿に痛めつけられた時を…!(第31話「赤と白のアイツら」参照)

 

 

 あの時が軽くトラウマになっている海羽は、変身して戦うのに躊躇いが出てしまい、結果ウルトラ戦士達は敗北し、現在のような絶望的な状況になってしまったため、自分にも責任を感じていたのである。

 

 

 「私は完全に逃げてしまった…。私達ウルトラ戦士を、必要としてくれてる人たちが…いるというのに…。 バカだよね…私…。」

 

 涙声で自責を始めてしまっている海羽。そこに、ヒカルが歩み寄り、海羽の頭に手を当てる。

 

 「泣くことはねーよ。」

 

 ヒカルの思わぬ言葉に顔を上げる海羽。

 

 「実際、敵は強大だったんだ。だからその判断は間違ってなかったと思うぜ。だって、お陰でお前は、無傷で済んだんだから…。」

 

 「ヒカルさん…。」

 

 ショウ達も海羽に声を掛ける。

 

 「誰だって怖い時はある。大切なのは、その恐怖をどう越えて行くかだ。」

 

 「それに、君は一人じゃない。我々ウルトラ戦士もついている。」

 

 「今は変身できないけど…それでも僕達はウルトラマンだ。今でも出来る事があるはずだ。」

 

 

 ウルトラ戦士達からの励ましの言葉を聞いた海羽は、少しながら元気を取り戻しているようであった。

 

 「皆さん…。」

 

 

 「俺達が諦めない限り、ウルトラの光も消えない。だから諦めず頑張ろうぜ。」

 

 ヒカルが前向きにそう言ったその時…!

 

 

 「バッカみたい!!」

 

 

 突然響いた叫び声に4人と海羽はふと驚き、振り向く。

 

 そこには、涙目になって立ち尽くす愛紗の姿があった…。

 

 

 「愛紗…ちゃん? どうしたの?」

 

 海羽の心配も他所に、愛紗は続けて言い放つ。

 

 

 「何よ!ウルトラマンがそんなにめでたい存在なの!? ウルトラマンがそんなに簡単に消えない存在って言うんだったら、今すぐ全部の怪獣をやっつけちゃってよ!!」

 

 

 突然の愛紗の悲痛の叫びを浴びた一同。さっきまで希望を取り戻しつつあった表情は再び曇り始め、掛ける声を失ってしまう…。

 

 愛紗は顔を覆って泣き出してしまう…。

 

 「怪獣も…ウルトラマンも…大嫌い…!!」

 

 

 そこに、深刻そうな表情のひかるがヒカル達の元に歩み寄り、ワケを話す。

 

 「突然ごめんなさい。 実は…愛紗ちゃんのおじいちゃんの住む長野にもあの怪獣(ギマイラ)が現れて…おじいちゃんの家が壊されたみたいなの…。」

 

 

 「…そんな…。」

 

その時、ヒカル達の頭に思い浮かぶ。愛紗のおじいちゃんの家が無残にもギマイラに踏み潰され、瓦礫になって行く光景が…。

 

 ひかるから残酷な事実を聞かされたヒカル達は、ショックで胸に衝撃が走り、憐れむような表情で、壁にもたれ掛かってうずくまる愛紗を見つめる。

 

 今、彼らは、彼女にどう声を掛けてやったらいいのか分からなかった…。

 

 

 「小さい時から大好きだった畳の部屋も、庭の柿木も…全部なくなっちゃった…。」

 

 涙声でそう呟く愛紗。涙脆い海羽も、顔を覆ってしゃがんで泣き始める。

 

 

 その様子を宏隆と寿美江も見つめており、宏隆もやるせない思いでいた…。

 

 

 その時、寿美江は自身の腕を掴んでいた宏隆の腕を振り払い、何処かへと走り始める!

 

 見た感じだと、ギマイラの方へと走って行くようであった!

 

 

 「お、おい!寿美江! 何やってんだ!」

 

 宏隆は慌てて寿美江を追いかけ、何とか捕まえて引き留める。

 

 「何考えてんだ! 死ぬ気かよ!」

 

 

 「もぅ…嫌なんです…。」

 

 「…ぇ?」

 

 何やら小声で気になる事をぼやいた寿美江。すると彼女は何の感情か分からない表情で言い放つ。

 

 

 「もう何もかも嫌なんです! 大切な人は怪獣にされるし! 友達は酷い目に遭うし! もう限界!!」

 

 

 寿美江も、度重なる不幸に遂に自暴自棄になってしまっていた…。

 

 

 「寿美江…。」

 

 彼女の悲痛な叫びを聞いた宏隆は、ヒカル達と同じく掛ける言葉を失ってしまう…。

 

 

 

 その時、さっきまで一休みをしていたギマイラは起き上る!

 

 そしてあくびをするように咆哮を上げた後、近くのビルを剛腕や尻尾で破壊しながら暴れ始める!

 

 

 避難している人々はもはや途方に暮れており、怯えながらそれを見つめるしかなかった…。

 

 夕焼けに染まる街の色も、今では住人たちの絶望に拍車をかけているようであった…。

 

 

 「ギンガは? …ウルトラマンは…?」そう呟く少女。

 

 「やられちまったよ…敵の勢力は強大…あの巨人が4人いても、まるで歯が立たないなんて…もう、どうにもならねぇ…。」

 

 「よしてください!子供相手に何言ってるんですか!?」

 

 絶望に拍車をかけるような無神経な発言をする男性を非難する少女の母親。

 

 更に、追い打ちをかけるように、その母親の抱いている赤子が泣き叫び始め、母は懸命にその子をあやし始める…。

 

 

 「ウルトラマンは、どこに行ったの…?」少女はただ、そう呟くしかなかった…。

 

 

 大きな夕日をバックに咆哮を上げるギマイラ。一方その様子を、ゼボスは宇宙空間から彼特有の千里眼で見つめていた。

 

 「フッフッフ…いいぞ、その調子だ。それに、あの街(潮風町)には特殊な電磁網を張っておいた。他の場所にいるウルトラ戦士どもは気づいて駆け付けられないし、あの場にいるウルトラ戦士どもも、他のウルトラ戦士に助けを求める事が出来ない…!」

 

 そう言いながらゼボスは、人々の方へを視線を向ける。

 

 「ゼットンの食事は貴様らの絶望と恐怖心。 これからも存分に怖がりたまえ。我がゼットンのために! フハハハハハ…!」

 

 

 

 果たして、このかつてない絶望的な状況を人々は、そしてウルトラ戦士達は、越える事が出来るのだろうか!?

 

 

 (ED:キボウノカケラ)

 

 

 〈エピローグ〉

 

 真美達が大変な目に遭った同じ日の昼間にて、櫂は久々に一人のプライベートを楽しんでいた。

 

 …まぁ最も、ゼロが一緒だから厳密には一人ではないのだが…。

 

 

 櫂は映画館を出る。どうやら映画を鑑賞していたみたいだ。

 

 「ふぅ…流石は人気の話題作だけあって、面白かったな~。」

 

 (櫂の奴…久々に素直な楽しそうな顔してるんじゃないのか…?)

 

 ゼロは、久々に見る櫂の素直な笑顔にひとまず安心しているようであった。

 

 

 櫂はふと空を見上げる。

 

 「真美と海羽も、今頃は楽しくやってんだろうな…。 しかし、あいつらなら現地で撮った写真とかをLINEで送って来るはずなのに…一向に来ねーな…ま、それほど夢中に楽しんでるって事だろ。」

 

 そう楽観的に言いながら、櫂は歩き出す。

 

 「さてと、バッティングセンターでも行くか。久々にかっ飛ばすぞ~!」

 

 

 …この時、ゼボスの潮風町に張った電磁網の影響もあり、櫂もゼロも知るはずが無かった…。

 

 

 愛する二人が今、大変な事になっているという事を…!

 

 

 To Be Continued…




 読んでいただきありがとうございます!いかがでしたか?


 自分が書いたながら、今回は恐らく本作で一、二を争うんじゃないかという程の絶望的な状況になってしまったんじゃないかと思ったりしています(笑)

 果たしてこの大ピンチをどう切り抜けていくのか…次回にご期待ください!


 ギンガストリウムとビクトリーナイトのコンビは一度書いてみたかったので、そこが個人的に良かった点でもあります(笑)

 因みに今回の新キャラの一人・八橋ひかるの怪力設定は、最近YouTubeでも配信されている“ある仮面ライダー”の登場人物を元にしました。

 もしかしたら愛紗や寿美江も、隠された抜きんだ特徴があるかもしれませんね。


 感想・指摘・アドバイス等をお待ちしています!


 今回隠れたサブタイトルは『可能性のかたまり』(ウルトラマンX第2話)でした。


 因みに余談ですが、今年の春、劇場版ウルトラマンR/Bを舞台挨拶付きで鑑賞しました。

映画は、成長したリク(ジード)の頼もしさ、グリージョの可愛さ、そして、トレギアとグルーブの大迫力のCGバトル等と、全体的にとても見応えがあって面白かったですね。

そして映画鑑賞後、本物の湊兄弟とハイタッチをしましたが、その際私はカツミのジャケットを着ていたので、本物のカツミから「お揃い」と言って貰えました!

ウルトラマンの俳優さんに会ったのはこの時が初めてだったので、とても思い出深い1日になりましたね。


そして、今年の新作ウルトラマン『ウルトラマンタイガ』の放送が楽しみですね!

 タロウ教官の息子だけにとてもカッコいい!

 更に、ジョーニアスの故郷・U40出身の『ウルトラマンタイタス』や、オーブやロッソ・ブル起源となったO50出身の『ウルトラマンフーマ』もとてもカッコいいので、三人『トライスクワッド』の活躍が早く見たいです!(ワクワク)

劇場版R/Bに続いてトレギアも登場するみたいなので彼の活躍にも期待ですね。


 では、次回もお楽しみに!

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