現在、作戦開始時刻の十一時半。
真夏の暑い日差しが照りつける中、一夏の白式と箒の紅椿……そして、牙狼の牙と狼牙の覇鬼がその準備を終え、ビーチに鎮座している。
ただ、不動兄弟のISは装備が変わっており……千冬は、以前第二世代と第三世代の中間的存在であると聞いていたため、これも理解していた。
しかし、その姿は異様
牙狼の牙は、元々金色の全身装甲にさらに……背にあるのは、大型の翼。
見た目は、翼が生えた人のようだ。
名を「翼人(つばさひと)」という高機動パッケージ
反対に狼牙の覇鬼は、頭部から背と腹部にかけすっぽりとアーマーに覆われ本来の姿はない。
しかも、その両手はすでに人の形をしておらず、巨大なハサミを装備し……背部に大型スラスターを二門備え、頭部はモノアイが一つあるだけだ。
名を「ハーミットクラブ」という高速戦闘パッケージ
牙は高機動戦闘、覇鬼は高速戦闘のためらしい
先ほどまであった紅椿の驚きを食うように、その異様な二機は周囲の人間を圧倒している。
と、4人は作戦開始前の最終確認を行っているが……やはり、先程の決意の中でもどこか浮ついた雰囲気の箒がいた。
『4人とも、聞こえているな』
と、千冬より通信が入る。
「はい」
「聞こえます」
「「問題ありません」」
それぞれが答え、自身のISの最終チェックを終わらせたようだ。
『よし。今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間で決着をつけるように心がけろ』
「はい」
「織斑先生。私は状況に応じてサポートを行えばいいのでしょうか?」
『そうだな。だが、無理をするな。お前は専用機を持っての実戦経験は皆無だ。何が起こるか分からん。注意しろ』
「分かりました」
聞いていると一見すれば冷静に言っているように見えるが……どうも声に弾みがある。
不動兄弟は、ちらっと箒を見ながら互いに「シンクロ」により会話を始めた。
(狼牙)
(わかってるさ……箒、ちょっち浮かれ過ぎだ)
(……もらったばっかりの俺らもああだったな)
(あの時だな、それで互いに大怪我したっけ?)
(そういうことだ……全力で、サポートするぞ)
(了解)
と、その中プライベートチャンネルで二人に通信が入る。
それを互いに入れ……千冬からだった。
『牙狼、狼牙』
「「はい」」
『……お前たちは、やるべきことを理解しているな?』
「もちろんです」
「弟さんと箒は、俺と狼牙がサポートします……俺らは、ISをもらったばかりのころに大失敗しましたから」
『……頼むぞ』
そうして通信が終わる。
不動兄弟は会話を終えた直後、一夏の方でも同じことがあった。
千冬からである。
『―――織斑』
「は、はい!」
こちらもプライベートチャンネルで通信を入れられて、一夏はとっさに切り替えた。
『どうも篠ノ之は浮かれているな。あの状態では何かを仕損じるかもしれん。その時はお前がサポートに回ってやれ』
「分かりました」
『不動兄弟も一緒だが、あいつらの方が冷静だ……いざという時は、存分に頼ればいい。ああ見えて、意外に頼れるはずだ』
「わかってるよ……言ってくれたんだ、友達だろって……一緒に、戦うんだ」
その言葉に、千冬は無言でうなずいている。
そうして、作戦が始まった。
牙狼は箒の背に乗る一夏と同じように、狼牙の上にうつぶせに乗る。
そうして翼をたたみ、目の前の突起部分をつかみ……すでに用意していた紅椿と共に、覇鬼も火を吹かせ一気に加速をしていった。
「なんて加速ですの……」
「紅椿も覇鬼も、すごすぎだよね」
セシリアやシャルなど、残った面々がすでに見えなくなった四機に対しそういう。
千冬は……いや、真耶も。
後は任せるしかない、そのことに不安を覚えつつ待つしかなかった。
そうして、瞬時加速をはるかに凌駕するスピードを出している者たちはというと
(っ……慣れないなこの感覚)
(しかし速過ぎだぜあっちは!)
牙狼や狼牙は、適性訓練であらゆる状況でのIS行動を一度やらされていたのが少しでも幸いした。
体にかかる負担が半端ではない。
初めての経験だったら、ろくに今の紅椿についていけないだろう。
かろうじてその後ろ姿が見える。
展開装甲、そのすべてが本来の力を発揮した時一体どれだけの出力が出るのだろうと……
「見えたぞ! 一夏、牙狼、狼牙!」
「「「!?」」」
箒の言葉に、ハイパーセンサーの視覚情報から流れる感覚。
目標が映し出されていた。
その姿は、覇鬼の銀とは全く違う……美しささえ感じられる。
何より目を引くのは、あの翼だった。
「接触は十秒後だ」
そのまま、紅椿は一夏とともに福音へ。
突撃した二人は、当初すぐに一撃を加えようとしていた。
しかし……福音の思わぬ行動のため、白式の零落白夜はかわされたのだ。
機体を、高速移動の中に体を一回転させて
そのため一夏の一撃はかわされてしまう。
データでは暴走とあったが、驚くべきことだった。
「箒、援護を頼む!」
「任せろ!」
一夏と箒が福音と戦闘を開始するなか……牙狼と狼牙は、別れていた。
牙は翼を広げ二人の元へ向かい、続き覇鬼は……そのハサミを構え上へ。
その間、攻撃を加えている二人の顔に焦りが見える。
福音の機動力と……翼から撃ちだされるエネルギー。
その連射力の速度によって、ろくにダメージを与えれそうにないのだ。
「右へよけろ!」
と、突如後方から箒へ声がかかり……慌てて右へよけた瞬間ビームがはしる。
攻撃は、牙の剣から発せられるビームだった。
福音は箒の姿で見えなかったビームを、急旋回しながら回避。
だがそれは、かなり無理な体勢だった。
(狼牙!)
「もらった!」
さらに、上空から突撃してきたのは……両手に巨大なハサミを構えた覇鬼。
そのハサミ二つを大きく広げ、回避直前に福音の右翼へ食い込ませたのだ。
「捕まえたぜ」
二機は高速でもつれ合いながら、福音がハサミを引きちぎろうとしている。
だが、このシチュエーションは……事前の作戦通り。
(一夏は決め手の一撃、そのため狼牙が捕まえる……俺と箒がそこまで誘導する)
提案したのは牙狼だった。
そのスペックを考慮し、最初の二機に注意を惹かせ……追い打ちで牙狼による攻撃。
そして、回避運動に対し狼牙が直上から高速で捕獲。
すぐさま箒と牙狼が行動能力を封じ、一夏による一撃にて決着。
これが作戦内容だった。
福音のエネルギー弾が狼牙を襲い、あまり長く捕まえられそうにない。
「はああああ!」
そのチャンスを、仲間とともに得た最大のチャンスの為に……一夏はかけようとした。
箒と牙狼も、すでに向かっている。
狼牙が苦しげな声をあげるが、まだ捕まえその動きを封じてくれていた。
しかし……福音の砲門数は、36。
全方位に向けて、突如ばらまき始めたのだ。
「ぐあっ!?」
それを間近で浴びている狼牙は、もう持ちそうにない。
箒と牙狼は一夏への道を作り……一夏は、突如進路を変える。
「「!?」」
瞬時加速、そして零落白夜で、ひとつの光弾を打ち消した。
何をしていると思っていた牙狼は……さらに向かうエネルギー弾を、同じように体で受けた。
「「ぐっ」」
「二人とも何をしている! せっかくのチャンスに」
「「船がいるんだっ!」」
一夏と牙狼の言葉通り、そこに船が。
海上は封鎖したはずだったが……おそらく、密漁船なのだろう。
それに向かった光弾を防ぐため、一夏と牙狼は身を盾にしていた。
だが、白式の刃から……光が消えた
それが何を意味するか。
全員は理解し、同時に……チャンスすら、失った。
「馬鹿者! 犯罪者などを庇いおって」
「俺は! 「もう」人殺しになりたくない!」
「なっ!?」
牙狼は、叫ぶ。
必死に福音を押さえている……弟のこともあるが、あいつは怒らないだろうとわかっていた。
「箒!」
「!?」
「箒、そんな……寂しいこと言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱い奴のことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。らしくない、全然らしくないぜ」
「わ、私、は」
箒は……牙狼と一夏の言葉を受け、手を顔で覆う。
だが、その瞬間……箒の刃が堕ちていき、消えた。
それが意味するのは
((リミットダウン!?))
エネルギー切れ。
そして今いるこの場所で……そんなことが起きたら
「箒ぃぃ!」
「!」
一夏はすぐさま箒のもとへ。
牙狼は……福音により、右ハサミのアーム部分を破壊され落とされた狼牙を背から支えた。
「ぐっ……この、馬鹿兄貴が」
「すまん、すまん!」
「けっ……わかって、る」
狼牙は、息も絶え絶えにつぶやく。
「過ちは、繰り返すなってな……」
こちらは重装甲のおかげで無事のようだった。
しかし……一夏は、その身を呈してエネルギー切れを起こしている箒の盾になっていたのだ。
その身は焼かれ、二人は抱き合うように海面へ向かう。
「ぐっ」
狼牙はなんとかスラスターを吹かせ、その二人を残ったハサミで抱きかかえた。
それでも、箒はともかく一夏の容体はまずい。
「牙狼! このままじゃ二人とも」
「狼牙、行け。今すぐ」
剣をしまい、大型の翼を展開させた牙。
牙狼は狼牙に、今ここから逃げろと伝えたのだ。
「なっ」
「わかるな?……行け、行くんだ! 後ろを振り向くな!」
牙狼は福音へ向かう。
慌てて向かおうとしたが、持っている二人の方が持たない……狼牙は、歯を食いしばりその場から離脱する。
(死ぬな……死なないで、兄さん!)
去り際に、牙狼の心へそう伝える。
返事はなく、ただ……
「みんなに、よろしくな」
それだけが、聞こえていた。
牙狼は単身で福音へ向かうが、圧倒的に機動力に差があった。
こちらも高機動なのだが、変則的な動きに翻弄されている。
「……そうかよ、もう、我慢できねえよな」
と、牙狼は一人で何かつぶやく。
その目は……まっすぐに福音へむけられ
「モード反転……「ザ・ビースト」」
かつての狼牙と同じことを、口にした。
その瞬間、牙の目が翠から赤に染まる。
ハイパーセンサーも赤く染まっていき、砂嵐の中……小さく表示された。
「99.9」
これが、今の消耗した牙狼に残された時間だと言うことだ。
すでに秒が減り始め、牙の口が……解放される。
各部から、あり余った熱が放出されるように……炎を纏ったような姿になる。
大気を震わせる咆哮、瞬時加速。
間合いを詰めその拳を、爪をふるう。
あちらが鳥のようならば、こちらは狼。
互いに高速移動のまま、近づいて火花を散らす。
牙の動く後には、金色の光が粒子となる
福音が動く後には、銀色の光が粒子となる
光弾が牙に当たるが、牙狼は痛みを感じていないのか突進する。
その福音の腹部に抱きつくように接近し、その翼をもぎ取ろうと咬みついた。
「グゥゥゥ!」
獣のような声。
牙の顔が激しいエネルギーの逆流によって焼かれるが、決して離さない。
と、じれったく感じているのか、福音が初めてその脚部を動かす。
鋭い膝が牙狼の腹部に入り、口を離してしまった。
「ゴフッ!?」
そうして、福音は……その砲門を、向ける。
「La……♪」
甲高い、マシンボイス。
全方位にばらまかれるが……無防備な牙は、その身に宿す鎧をはがされていく。
そして……
「……ははっ」
刻まれていた時間が、0を示す。
牙を無くし、鎧を無くした騎士は……いや、獣は。
その身を……海へ、落とすのだった
旅館で待っていたメンバーは知る。
「が、牙狼君の……反応、消失……」
真耶が、死んだような声で。
そして一同が、示されている表示に目を見開き。
それを知らず、こちらに戻り救急の用意をと急かす狼牙の接近に。
IS学園の……完全な、敗北だった。
さらば主人公。
……こんなことになってしまい、今後どうなるか。