騎士と獣と二つのコア   作:kouma

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第十四話

夏休み。

学生ならば、誰でも嬉しい響きに思われる。

それはIS学園でも同じで、皆それぞれで楽しい夏を過ごそうと考えていた。

 

「くっ!」

 

しかし、そんな浮かれ気分の生徒を横目に……アリーナで汗をかく生徒が一人。

狼牙だった。

先日の暴走事件、その後彼に起こったのは他でもない。

 

力を求め、ただ訓練をする

 

兄である牙狼の行方はいまだ不明。

そのため、所属する政府の方ではかなり大騒動になっていた。

データを渡したはいいが、その時のことについて言及はされない。

しかし、その水面下では狼牙の今後についてもかなり揉めていたようである。

 

「はあっ、はあっ」

 

汗をかきながらも、その拳を……地面に打ち付けた。

狼牙は……夢を見るのだ。

 

 

 

業火に焼かれ悲鳴を上げる髑髏……それが、牙狼の顔になるのを

 

 

 

その夢を見るたび、狼牙は叫び声をあげていた。

それは日中の授業中にも見られるほどで……千冬と真耶は、そんな狼牙を一度カウンセラーに連れて行ったこともある。

一夏たちもそんな狼牙を心配をしている。

現に今も、彼のそばによって声をかけているのだから。

 

「狼牙、もういい……今日は終わろう」

 

「いや、もう少し」

 

「だめっ! あんたの方がもたないわ!」

 

一夏の言葉に続き、鈴音が真っ先に否定する。

そのまま狼牙は……理解したのか、のそっと動き出していた。

痛々しく、衰弱するばかり。

 

たったひとりの肉親を失ったこと、一夏は……自身が同じになったらああなるのだろうかと。

 

だからこそ、同じ男としても。

狼牙を放っておけず、女性メンバーらにもできる限りフォローを頼んでいた。

彼女らも、牙狼が最後どんな気持ちで戦っていたかと……あの時、身を捨てて助けてくれたことを感謝していた。

そして、学園でできた友達としても……狼牙のそばにいた。

 

「狼牙」

 

「あっ……こんにちは、織斑先生」

 

「また、一人でか?」

 

「……ええ」

 

一人で部屋に戻ろうとしていると、千冬に呼び止められる。

千冬の後ろには真耶もおり、彼女は狼牙に微笑んでいた。

 

「聞いたぞ、お前のことを……オーバーワークだ、少しは寝ろ」

 

「あはは、寝れれば楽になれますかね……」

 

「……お前の本来の性格は、とても優しいとわかった。牙狼のこともな」

 

ピクッと狼牙の眉が動く。

どうやらこの間、つい素でしゃべってしまったことを言われてるのだろう。

 

 

 

「先生……生きるって、どういうことなんですかね?」

 

 

 

狼牙は突然そう言う。

千冬がそれを聞き、目をつぶる。

 

「難しいな……意味は色々とれるが、はっきりとしたものがない」

 

「そうでしょうね……生きるって、色々ですから」

 

「お前には、あるのか?」

 

その問いは誰でも考えるだろう。

しかし、狼牙は即答だった。

 

 

 

「夢はありますが一番は……自由になるため、でしょうか?」

 

「……そうか」

 

 

 

それだけいい、狼牙は部屋へ戻っていく。

千冬は……真耶に、目で何かを訴えていた。

すぐに理解したのか、真耶は普段見せないような決意した顔になっていた。

そうして部屋に戻った……と思いきや

 

「狼牙君」

 

声をかけてきたのは、真耶である。

あの後追いかけてきたようだ。

 

「山田先生?」

 

「今日は貴方に、ある提案を持ってきました!」

 

見ると確かに、何か紙束を持っている。

 

「……あの、よければ部屋の方でどうでしょうか?」

 

「えっ!? あ、その……わ、私とあなたは生徒と教師であってこれは」

 

「何を言ってるんですか」

 

狼牙は慌てふためく真耶を見ながらドアを開ける。

入るか入らないか……しばし真耶は止まっていたが、先程の千冬の目を思い出し意を決してなかに入った。

 

(わ、わ、わ……私、一人でいる男の子の部屋に入っちゃった……)

 

「先生、少しだけ失礼」

 

何やらずいぶん緊張してる様子の真耶を横目に、狼牙はジャージの上を脱ぐ。

それを見て、真耶は急に眼をそらすが……それだけで、タンクトップ姿になった狼牙はベッドに腰掛ける。

 

「それで……何のご用でしょうか? あ、よければそちらに座ってください」

 

近くの椅子をすすめる。

真耶は、しばし迷いながら……腰かけた。

 

「あの、実は狼牙君に提案がありまして」

 

「提案ですか?」

 

「は、はい! 実は」

 

 

 

バサバサとベッド上に広げられたのは……部活動の入部届けなど

 

 

 

「……これは?」

 

「まだ狼牙君、部活動とかにも入ってないじゃないですか。それならぜひって」

 

「あの……山田先生、俺は男ですよ?……女子にまぎれてやるんですか?」

 

「そ、それは承知してますからっ! ただ気分転換に」

 

狼牙は目を閉じ……真耶に頭を下げる。

突然のことに真耶は目を点にすると

 

「ありがとうございます……心配、かけてましたよね?」

 

「い、いえそんな」

 

「やってみます……今日も、あいつらに心配させちゃったし」

 

その時真耶は、狼牙のはにかんだ笑顔を見た。

必死に涙をこらえているようにも見えるその顔は……可愛いと。

 

(はうっ、なんか……一夏君とは違って)

 

「山田先生?」

 

「は、はい!?」

 

「……明日、午後からお暇でしょうか?」

 

「ふえっ!? い、いえその……お、お誘いというのはまだ」

 

「そうでしたか……部活動を見て回りたかったのですが」

 

と、その言葉に自身がなんか勘違いをしていることに気づく真耶。

慌てて明日は大丈夫ですとフォローをし……一緒に回ると言うことになったようだ。

 

「で、ではこれで失礼しますね!……おやすみなさい」

 

「はい……おやすみなさい、山田先生」

 

狼牙の部屋から出た真耶は、落ち着かせるように大きく息を吐く。

 

「ふふふ、山田君は大丈夫か?」

 

「!? えほっ……お、織斑先生」

 

突然声をかけられたせいか、むせてしまったようだ。

そんな彼女を見ながら……千冬は、礼を言う。

 

「やはり、あいつはかなり無理していたか……すまないな」

 

「いえ、そんな。これも教師の務めですから!」

 

「……そうだな、明日は私の部にも寄ってくれ」

 

そう言い、千冬は踵を返し寮から出ていく。

真耶は、明日はどこからまわろうかと考えながら……その後について行った。

 

そして翌日、昨日と比べかなり元気な様子の狼牙

 

一夏達が慌てて詰め寄ると、もう大丈夫だと。

笑顔で狼牙はそう言ったのだ。

一同はそれを見て微笑み、今日は部活動を見ていくからと話していた。

このメンバーの中でも一夏は所属していないが、他の女子らは大抵所属している。

 

が、今回ある程度限った場所だけを見るとのことで……それでも、楽しみにしてる狼牙がいた

 

放課後、狼牙は真耶と一緒に各部活動へ見ていた。

ソフトボール、バレーボール、バスケットボール、卓球、ラクロス、テニス。

あげればきりがないほどだが……色々見て、そこの女子らと話しながら回っていく。

鈴音やセシリアなど、皆が汗を流し楽しんでいる光景もあったから、狼牙も楽しい気持ちになってきたようだ。

と、今度はインドア系の部活動を見ていくことになり

 

「むっ、来たか」

 

茶道部の茶室をのぞくと、着物姿の千冬がいたのだ。

どうやら、ここは彼女が顧問らしい。

 

「織斑先生……」

 

「来ないのではと心配はしていたがな……入れ」

 

真耶を見ると、頷いていたので狼牙はそっと中に入る。

必要な形式などは何も知らないので、中に入る時も普通にしていたが……正座だけをすることにした。

 

「ほう、狼牙は正座をすすんでするのか」

 

「ここは場所も場所ですし、慣れてます」

 

「慣れている?」

 

「ええまあ……あまり、いい思い出ではないです」

 

暗い顔。

それは確かにいいことではないのだろう。

しかし、真耶が隣に正座したことで改めてスッと背筋を正す。

そうして千冬は茶を点てる。

狼牙はそういった教養はまるでないのだが、頂いた茶は……不思議と、落ちつける。

 

「結構なお手前で」

 

「……」

 

静かに飲み、その椀を置く。

だが……ぽつりと、狼牙は話し始めた。

 

「織斑先生も、山田先生も……俺と牙狼の過去、知りたいんですよね?」

 

「「!?」」

 

突然そう言いだした狼牙。

だがそれは

 

「もうわかってますよ……お二人が俺の過去を」

 

「……そうだ」

 

「いえ、いいんです。それに元気づけてくれようとしてくれたのは本当でしたし……」

 

狼牙は正座を崩す。

もう、いいだろうと思ったのだろうか。

 

「……でも、聞けば俺らを軽蔑しますよ?」

 

「するものか、お前たちのことをそんなことでな……」

 

「黙っていたことは、ごめんなさい……でも、私も」

 

二人の眼を、狼牙は探るように視る。

その眼をしばし視て……狼牙は、口を開いた。

 

「俺らが孤児になったのは……いえ、親の元から離れたのは10歳の頃でした」

 

当時、生まれたばかりの二人は幸せだったらしい。

両親はきちんと育ててくれて、いつも家庭に笑顔が絶えなかったと。

 

「しかし、時代が変わった……両親は、俺達が男として生まれたことを理由に……虐待を始めた」

 

「「!?」」

 

「まあ……父は会社での地位を落とされ、母は男の俺らに出世もできない奴らと考えるようになっていったんです」

 

女尊男卑。

それは、二人もよく知る……あの事件から始まったこと。

 

「ストレスがたまっていたんでしょうね……幸せって、簡単に壊れるんだなと……二人が当たるようになったのは、俺と牙狼」

 

千冬と真耶は黙って聞いていた。

いくら時代がそうなったとはいえ、子供に親がと……

 

「そうしてある日……牙狼は、両親が寝ている間に」

 

 

 

「持っていた包丁で、両親を刺した」

 

 

 

その狼牙の言葉に、完全に空気が凍りつく。

千冬は眼を見開き……真耶は、口元を押さえた。

 

「あっさりでしたね……運よく、気付かれなかったから」

 

狼牙の口には笑みが浮かんでいる。

普段、視たこともないような……笑みを。

 

「そうして死んだかどうかも確認せず……牙狼は俺を連れ、財布の金とかを盗みまくって家を出ました」

 

もっとも、山の中にある家だったために兄弟は迷ったと。

 

「俺と牙狼は、山を駆け巡って……気が付けば、見知らぬ施設にたどり着いた。そこで俺たちは……引き取られた」

 

「……その、施設とは?」

 

「わかりません……もう今では何もない。何故か両親のことは何も聞かれず……そして、俺らに適性があると知ったのは」

 

狼牙は一度息を吐く。

そして

 

 

 

「もっと前……公式に発表されるより、五年前のことでした」

 

 

 

それが示すことは、一夏より先に見つかった男性操縦者ということになる。

千冬は、動揺を隠しながら続けさせる。

 

「どういうことだ?」

 

「あの施設では、二つのコアが保管されていたんですよ」

 

「コア、だと?……お前たちのISのか?」

 

「ええ……ふと触れた時、そのコアが俺たちを選んだんです」

 

コアが選ぶ。

それは、確かに有り得ることではあったが

 

「……その施設にいたのは誰だ?」

 

「わかりません。実は記憶がかなりあいまいで……そこを閉鎖することになってから、俺たちの身柄は政府に渡されました」

 

狼牙は自身の、左手の中指にある指輪を見る。

そのISは……どういうものなのか。

 

「政府は言いました、ISを使いデータを収集するのであれば……俺らの、過去の経歴を全て抹消し作り変えると」

 

「……そ、それって」

 

「牙狼の犯したことも、全て無くすってことですよ……山田先生」

 

「なんということだ……」

 

すでに公正な取引でも何でもない。

犯罪を犯したこと、それを利用されているだけだった。

 

「でも……牙狼は、本当はそんなことしたくなかったんです」

 

「……狼牙」

 

「兄さんがどれだけ……僕を守ろうとしてくれていたか、それだけ罪を負わせてしまったことを」

 

「もういい」

 

狼牙の嗚咽交じりの声。

10歳の頃の記憶。

それは鮮明に残り、そして今……大切な兄を失った悲しみ。

 

 

 

フワッと……温かなぬくもり、真耶によって狼牙は抱きしめられていた

 

 

 

「!?」

 

「狼牙君は……逃げずに、戦ってきたんですよね?」

 

「ち、がう。僕、僕は逃げて」

 

「でも……貴方は、あの暴走事件の時だって必死に一夏君達を守ろうとしてました」

 

真耶は、そんな狼牙の頭を優しく撫でる。

服に狼牙の涙がしみ込んでいくが……不快にはならない。

 

「それでも、僕は兄さんを見殺しに」

 

「違います。牙狼君だって……きっと、そうしたに違いないですよ」

 

「……そうだな、牙狼と立場がもし逆であれば狼牙。お前はどうしてた?」

 

千冬にそう言われ……あの状況で、もし逆の立場だったら

 

「一夏たちを、守ります」

 

「だから、お前も牙狼も……強いのだ。私にはそれが、わかる……牙狼も気持ちも、痛いぐらいに」

 

真耶に抱きしめられている狼牙の顔は見ないで、千冬は言う。

 

 

 

「過去など関係ない……お前は今を生きている。だから……その罪の分、最後まであがけ」

 

 

 

もう言うことはないのか、千冬はそれだけ残し茶室を出ていく。

残された狼牙は……真耶にすがりつき、泣いた。

牙狼を失った悲しみを振り払うために、そして……もっと、強くなるために。

真耶はそんな狼牙を抱きしめ続け、母のように優しく……ただ、黙って頭や背を撫でていた。

そうして、気付けば泣きやんでいた狼牙。

ゆっくりと真耶から離れ……とても綺麗な笑顔を見せていた。

代わりに、さっきまで何をしていたかを改めて思いだした真耶はと言えば……顔から湯気が吹き出るほどだったらしい。




自身の好きな作品の内容が、小説に影響されやすい。
好きなものがあるって、いいことですよね。
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