新学期が始まった。
牙狼のことで、周囲は長期入院と言うことで落ちついたが……いつまでも持たないと、あの事件にかかわったメンバーは考えていた。
しかし、今はこれで通すしかないのである。
だが、狼牙の元へは……また新たな厄介事が舞い込んでくる。
IS学園も高校……なので、あって当然のモノがある。
生徒会。
それを聞いて、最初に思うのはなんだろうか。
人により思うことは様々だろう、そしてその中でのトップは……もちろん生徒会長。
当然色々できなければ勤まらないと思われるし、一癖も二癖もある人物が多い。
しかし
何故、一夏はそういう人物……くわえて、女性に縁があるのだろうかと
狼牙は最近よく考えるようになっていた。
イケメン属性か、トラブルメーカーか……両方な気がすると。
その噂の一夏はというと、今は何故か生徒会長に付きまとわれている。
これだけ聞けば何やら色々な理由がありそうなものだが……あの会長はというと、どうも楽しんでいる節が見える。
正直に言えば、あまり関わりになりたくないタイプであった
だが、その願い虚しく……あちらから接触をしてきた。
放課後、部屋で自主トレを行うために戻ろうとしていた時に呼びとめられたのである。
しかも……その内容はかなりめんどいものであった。
初対面だったため自己紹介から始まり、彼女はすぐさま話を始めて来た。
「少しお時間を取らせてしまうけど、構わないかしら?」
「大丈夫ですよ、先輩」
「そう、ありがとう……実は、不動狼牙君はまだ部活に入ってないのよね?」
「はい……しかし更識先輩は何故俺などに?」
「君は有名だから……普段は織斑君の方で隠れているけど、ね。今までも色々見させてもらってたわ」
水色の髪をした扇子を持った2年生の生徒。
彼女こそ、IS学園最強と言われる生徒会長の更識楯無だ。
「そして君のISについても、色々興味がそそられるわね……あの「ザ・ビースト」だったかしら? まさに貴方の名前に合うものだった」
狼牙はこの時、この会長に対しあまりいい感触が無かった。
自身の直感……ではあるため、信用は出来ないかもしれないが。
「経験が上の上級生、まあ同級生なんだけどね……二対一で圧倒していたのは驚きよ?」
「そんなことありません、代わりに俺は崩れ落ちそうなほどでしたから……あの先輩方は、強かった」
「……ふ~ん、システムのおかげだと思っているのね?」
「もちろんです。あのお二人を相手にして……システムなしで勝てるなんて思えなかったので」
これは本音だった。
それほどまでに、経験の差というものは大きい。
ISの性能の違いが、戦力の決定的差にはならない。
例外は多少あるかもしれないが、狼牙はそこまで慢心していなかった。
「なるほど……貴方はまっすぐなのね、どこまでも」
「そんなことないですよ? あの時だって我を忘れ怒りで戦ってしまいましたから」
「……そこは人間だもの、そういう時もあると思うわ。貴方のお兄さんについても、ね」
やはり聞いてきた。
自身は申し訳なさそうな顔をして……
「その話はしません」
「ええ、一応事情だけは知っているのよ……まあ、今日の用件は別なんだけど」
スッと彼女はある白い何かを渡す。
といっても、便箋のようで……差出人の名はない。
「これを君に渡したかった子たちがいたの、お話しはそのついでかしらね」
「仮にも生徒会長に頼むなんて……剃刀入りとか、不幸の手紙じゃないですよね?」
「真っ先にそこへたどり着くのはちょっとどうかと思うわよ? あと、もう少し周囲に気を配った方がいいわね」
少々困った顔の会長だったが、話はこれで終わりらしい。
どうも以前から狼牙を見ては、渡したそうだった女子を会長が見つけたのだとか……こういう話題が好きそうなので、納得である。
そのままおやすみなさいと言い、自身は戻っていった。
受け取った便箋を見ながら……狼牙は、カバンに仕舞い部屋へ戻っていった。
だが、そのまま存在を忘れてしまったことを後に後悔する
翌日……事件は起こる。
授業を聞きながらノートを取りつつ、一限目が終わった時のこと。
「ん? なにかしら?」
と、狼牙の隣に座る女子が何かを拾った。
それは……狼牙が昨日もらった白い便箋。
宛名を見……眼を見開く。
「こ、これは……もしや狼牙君へのラブレター!?」
「……あ!?」
この一言が、狼牙の心労をさらに悪化させていた。
驚きのあまり大声で言ってしまったため……クラス中の視線や詰めかけが狼牙に殺到する。
それはもう、物凄い騒ぎである。
一夏や箒、セシリアにシャルに……あまりよくわかっていないラウラ。
メインのメンバーに加え、他の女子たちが一斉にくるのだ。
かなり怖い
狼牙は、いつもは見せないひくついた笑顔でその便箋を奪い取る。
隣の女子はしまったという顔をしていたが……狼牙はため息。
「ね、ね! 狼牙君は読んだの?」
「いや……読んでないけど」
そう言った瞬間、周囲からえーというブーイング。
やはり年頃の乙女も多いため、かなり気になるようだ。
「ろ、狼牙……それマジか?」
「わからんよ、最初は不幸の手紙かと思ったけど違うって言われたし」
「それはそれで怖いが……読まないとまずくないか?」
一夏よ、それをここで言うのかと言う顔になる狼牙。
その言葉を引き金に、周囲が一斉に読めコール。
ラウラだけがあまりわかっていないようだが……シャルが隣で説明をしている、やめてほしかった。
「わかった! わかったから……」
もう引き下がれないようで、狼牙は便箋を開け中の手紙を読む。
周囲は……さすがに内容までは見ようとしないのだが
「で、どうなの!? どうなの狼牙君!」
「………………昼に屋上へ来てください、待っています……だって」
「「「きゃ~!」」」
一斉に上がる黄色い声。
狼牙には正直どうでもいいのだが、こうでも言っておかないと後で追及されるだけだ。
そのため内容を話したのだが……相手の名前もないのは少し不気味だった。
「いやその、みんなそこまで」
「お前ら……始業ベルはとうに鳴っているのだぞ?」
と、地獄の底から聞こえるような冷たい声。
その声を聞いた瞬間、全てが止まる。
一瞬で全員が振り向けば……織斑千冬が青筋を立てていた。
「何を騒いでいるのだ? ん?」
笑顔でこちらに歩み寄ってくる千冬に、一同はズサッと道を開ける。
その先には……狼牙。
「それはなんだ?」
シパッと手紙を取りあげる千冬。
狼牙は……手の動きが見えなかったらしい。
そうして読み始めていくと……眼を細めた。
「狼牙」
「は、はい!?」
「そういうことは程々にしておけ……」
それだけいい、千冬は手紙を狼牙に返す。
受け取ると、千冬は何も言わず後ろの席に着いた。
「授業が始まるぞ、全員いつまでそこにいる?」
千冬の言葉に、全員が即座に席へ。
素晴らしい動きだった。
その後やっと授業が始まったが……何故千冬が何もしなかったのか、狼牙にはわからなかった。
真耶がそんな狼牙のことをしばし見ていたが……結局、千冬の言葉のため誰の視界にも入らなかったようだ。
そうして時間は進み、昼休みに入る。
狼牙は手紙の通り屋上へ向かい……後ろに気配を感じながらも、屋上へのドアを開けた。
キョロキョロと周囲を見ながら、誰もいないようでしばし待つことにしたらしい。
今日も快晴で、雲ひとつない。
秋の訪れを感じさせない暑さは変わらずだが……狼牙は、空を見ている。
いや……その先を見ていた。
「……宇宙に行きたいなあ」
「それが君の夢なんだね」
突如声をかけられ、狼牙は振り返り……眼を見開く。
そこにいたのは、以前不動兄弟を敵視していたあの上級生らだった。
どうやら彼女らは……二年生のようだ。
「お久しぶりね、不動狼牙君」
「……こんにちは、先輩」
「突然ごめんなさいね、呼び出したりして」
と、狼牙はそこで違和感を感じた。
以前のような敵意がまるでないことに。
「今日は、牙狼君はいないの?」
「あ、はい……兄はちょっと」
「そう……じゃあ、君に」
そう言うと、上級生らは狼牙に対し
「「ごめんなさい」」
頭を下げたのだ。
突然のことで、狼牙はびっくりしているようが
「貴方達のこと……何も知らなかったわ」
「男だからという理由で、私達……酷いことを言ったりしちゃって」
そう言い、申し訳なさそうな声。
本当に謝っているようだ。
「い、いえ……謝るほどのことでは」
「違うわ、私達の方が調子に乗ってたのよね」
「ええ……実際、負けちゃったでしょ? あれだけほざいてた私達が馬鹿みたいじゃない」
二人は自嘲的な笑み。
どうやら、恥と感じているようだ。
口調も……ずいぶん優しい感じになっていることにも、狼牙は気付く。
以前の高圧的な、見下し感がなくなっていたのだ。
「そして、人の夢を笑うことこそ……一番、悪かったと思うわ」
「貴方達は、それだけ言いつつ……努力もしてたもの」
実はこの二人。
あの後もちょくちょく不動兄弟に話そうとしてはいたが……中々タイミングがつかめずにいた。
その間に二人が毎朝早起きして、夜も密かにトレーニングを積んでいることを知ったのだ。
噂も聞いて行けば、二人がどれだけ真剣に夢に向かい走っているのかが……よくわかっていた。
そんな彼らを笑い、できもしないと決めつけていた自分ら……さらには負けた自分らが、どれだけ器が小さいかと。
「最初は認められなかったわ、でも貴方達を見て変わったの」
「本当に、ごめんなさい」
「……いいんですよ、俺たちは自分の言ったことの意味をわかっています。先輩方が悪いってことはないですから」
実際狼牙は……彼女らに怒ってなどいない。
この時代であのような発言は必ず反感を買うことは承知していた。
ただ、夢を笑われることだけは我慢できなかったが……冷静になれば、当然のことだとも。
だからこそ、それを笑われないために……強くなるしかないのだ。
「だから、先輩……気にしないでください」
「「……ありがとう」」
そうして、狼牙は二人の上級生らとしばし話していた。
二人ともかなりの美人で……IS学園はなぜこうもレベルが高いのだろうかと。
背まである長い黒髪の女性が水無瀬桔梗(みなせききょう)
逆に、黒髪を前の方へゆるく流している女性が久野瑠璃(くのるり)
話してみると、とてもいい女性らだったようで……優しいなと、狼牙は感じていた。
「あ、もしよかったらメアドとか交換しない?」
「それは……いいんですか?」
「もちろんよ、ここは三人しか男子がいないから男子のアドレス持ってないし! 今度牙狼君にも交換してもらわないと!」
瑠璃が狼牙にいい、三人はすぐに携帯を取り出し、赤外線でプロフィールや番号を交換する。
登録を済ませ、桔梗と瑠璃は笑顔になっていた。
「ねえ、狼牙君」
「なんでしょうか、水無瀬先輩」
「あ~……そうね、私達も名前で呼んでもらおうかな?」
「え、いや先輩に対してそれは」
「私も構わないよ?」
結局二人の同意があったので、狼牙は二人のことを名前で呼ぶことにしたようだ。
と
「もしよければ、君のことも他の友達に紹介しておくね……何かあった時、助けになれるかもしれないし」
「そうね……何かあったら、私達が力になるよ。一年ではまだないけど、学年が上になると整備科とかもあるから」
「……ありがとうございます、瑠璃先輩」
「いいのいいの、可愛い後輩なんだから先輩に任せて!」
「でも……今度勝負する時は、負けないから!」
桔梗が指で、狼牙を撃つ仕草をする。
それを見て狼牙は……拳を見せる。
「俺も、負けません……よろしくお願いします」
「うん! じゃあ、私達もお昼に行きましょう」
「今日は何食べようかな~桔梗ちゃん! 狼牙君はどう?」
「肉が食いたいです」
「「……男の子ってやっぱり肉が好きなのかな?」」
そんな会話をしながら、三人は屋上から出ていく。
途中、何やら面白そうなことを見つけたような顔の千冬がおり……その隣で真耶が無言でこっちを見ていたようだ。
前回のこともあり、千冬らは心配で付いてきていたようだが、無用だったと気付き隠れていたらしい。
だが、同じく盗み聞きに来ていた一夏達は……千冬らによって追い出されていたようである。
狼牙は、牙狼を失った代わりに学園で新たな一歩を踏み出していた。
しかし……もうすぐ始まる学園祭。
闇が、動き出そうとしていた。
登場人物が一年生ばかり、ではないのが学園物。
会長登場、山田先生の様子が……そして、七話に登場した彼女らに再登場してもらいました。